IS-Lost/Load-   作:reizen

38 / 45
ep.38 決戦前宣言

 透の無事を知った千冬は簪といる彼をすぐに呼び出した。

 

「夜塚、お前がここに呼ばれた理由はわかっているな」

「そんなことより部屋に戻って寝ていい? あとシャワー浴びるか風呂入りたい」

 

 そう答えた透に対し、千冬は激怒した。

 

「いい加減にしろ!!」

 

 突然の叫びに全員が萎縮する。

 元々、千冬は普段から声を荒げて怒るタイプではない。行使するならば基本的に力で、抗うものには制裁という名の暴力かさらに上の理論で攻め立てる、所謂頭脳派に近い。だからIS学園の教員はもちろん、候補生の中で千冬とよく一緒にいた真耶ですら耐性がない。それほどまで千冬の行動は珍しいと言える。

 

「夜塚、一体貴様は何を企んでいる? この作戦で何をしようとしている!? すべて答えろ!」

「じゃあアンタは、アンタの友人に同じことを聞いてすべて知り得ることができるのか?」

「アイツの企みは既に目星はついている。だがお前はアイツとは違うことが多すぎる」

「それで警戒しているのか。まぁ、確かにらしくないだろうしな。俺がアンタの弟を優先するなんてこれまでなかったことだし」

 

 実際、そうだった。特にそれが顕著だったのは学年別トーナメントだろう。

 実のところ、あのトーナメントはすべてが透の計算通りだったというわけではない。そもそも、本来の筋書きならば荒鋼の性能を十全に発揮させ、ポッと出の男性操縦者とドイツの代表候補生にして現役軍人を蹂躙する予定だった。結果的にはそうなったのだが、それはあくまで透そのもののみのスペックを見せただけに過ぎない。透にとってそれは不本意そのものだった。

 

「でもアンタは経験から薄々勘付いているだろ? 安心しろ。アンタが思うほど俺はあの女とは違う。どっちにしろこの戦いは比較的穏便に済ませるつもりさ。それと、アンタは1つ勘違いしている」

「何だ?」

「荒鋼はまだ、完全に一次移行を終わらせたわけではない。エンチャントシステムもさっき使えるようになったばかりさ」

 

 そう言って透は踵を返し、部屋を出た。

 

「………あり得ない」

 

 本来、ISが短期間で形態移行することはあり得ない。それ故に荒鋼の装甲が変化していたことに疑問を持っていた。透から以前に「とりあえず一次移行はした」と聞いていたが、まさかそれが「まだ完璧に終わっていないことを意味していたとは思わなったのである。

 ちなみにそのあり得ないことが起こっているのは透のスペックが高すぎるのもそうだが、何よりもコアが原因だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この謎空間に来るのは何度目だろうか。

 とはいえ思いの外、簡単なんだなと思う。そして目の前にはVTシステムの時にもあった少女が筋を浮かばせながら俺の前で立っていたので、彼女の股に潜り込もうとしたら蹴り飛ばされた。

 

「この変態!!」

「目の前に究極の理想郷があるならば突っ込むのが通りだとは思わないか?」

「OK、わかったわ。やっぱり私、拾われる相手を盛大に間違っていたってことね」

 

 ため息を吐くその少女。やっぱりこいつは―――

 

「さしずめ、「ゼロ」と呼べば良いのか?」

「そうね。実際、私が最初のISコアなんだし」

「まさか驚いたがな。まさかISコアが人間に干渉することができるんだから」

「今回のはアンタからアクセスしてきたんでしょうが」

 

 敢えて行動を混乱させて呼ばせたことは認めるが、自分からアクセスできるわけではないだろ。ましてやISは俺からしてもブラックボックスの塊。強化できるのは周りの装甲だけに過ぎない。

 

「餌に釣られた魚、と」

「いや、アンタが直接来たんだけど? もっとも今のアンタじゃそれくらいお安い御用でしょ」

 

 こいつとの付き合いはおそらく10年ぐらいになる。というのも、実は1度俺の家族はジジイの家が近いところに住んでいて、その場所の近くの神社と言えば篠ノ之神社だったのだ。今まで気付かなかった、というか今の国家代表は俗に言われるジャイアニズムの塊であり、見つかったら奪われる可能性もあったため隠していたが。……仮に見つかっても祖母以外……いや、当時は祖母ともあまり仲が良くなかったから、家族まとめて入院させていたかもしれない。そんなに長いことISといれば、

 

「新たなる能力に目覚めてもおかしくはない、と」

「………いや、流石にそれは無理よ。ま、アンタの場合は特別と言えば特別なんだけど」

「知ってる。生まれも能力も育ちも何もかもがイレギュラー過ぎて神がかっていることぐらいは自覚している」

「それを自分で言うの?」

「能力的にハーレムキングダムを作り上げてもまったくもって問題じゃない」

「だからそれを自分で言うな!!」

 

 激しいツッコミをしてくる少女に対して俺は少し笑みを浮かべた。

 

「それで何の用よ。あまりつまらない話を聞く余裕はないんだけど。誰かさんのせいでね」

「アンタには心当たりがあるかと思ってな。今回の犯人に」

「………さぁ。それだけならさっさと帰る。ま、近い内に会えるけど」

「それといつ、一次移行が完了するんだ?」

 

 そう聞くと、俺は思い切り蹴り飛ばされた。

 

「次会う時にすべて話してあげるからそれまで待ってろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと、簪が心配そうに俺を見ていた。

 

「……だい……じょうぶ……?」

「ああ。ただ、幼女に蹴られて興奮する趣味は俺にはないことがわかった」

「………へぇ」

 

 意味ありげな反応をした簪は俺に近付いてキスした。そう言えばこいつ、いつの間に眼鏡を外しているんだろとか思ったんだが……今関係ないか。

 少し離して俺は簪の頭を撫でる。目を細めて大人しくするその姿はまさしく愛玩動物のそれだろう。はっきり言おう。ここまで理性を保もてている俺は「神」と堂々と自称しても良いのではないか? 人によってはその場で押し倒しているレベルだぞ!? というかよく更識家の男連中は手を出さなかったな! 俺には無理だ!!

 なんて、叫べないので俺は簪に寝るから部屋を出るように言ったが、頑なに出ることを拒んでいつも通りに抱いて寝ることになった。

 

 その数時間後、ふと目を覚ました俺は15時を過ぎていることに気付き、満面な笑みを浮かべている簪の頬をキスしてから自分のしたことを思い出し、悶えるという気持ちの悪いことをしつつ織斑の部屋に向かうと篠ノ之が正座していた。

 

「しの―――」

「あー、あー、わかりやすいわねぇ」

 

 おいこのチビ。俺の出番を取ってんじゃねえよ。

 

「あのさぁ、一夏がこうなったのってアンタのせいなんでしょ?」

「……凰」

 

 とりあえず話の流れをわかった俺は凰の言葉を遮る。

 

「なによ」

「見栄張らないで素直にお願いすれば良いじゃねえか。「お願い箒ちゃん、アタシたちに力を貸して」って」

「何でそんなことしないといけないのよ!?」

「どう考えても自分たちじゃ福音を抑えるのは難しい。俺の部屋に行ったら簪に頼んでも俺についていく気しかないから、とりあえず先に篠ノ之の説得を選んだ、と。俺なら何か目的があるから無条件で付いてくるって思ったんだよな?」

 

 どんどん顔が青くなる凰。バーカ。テメェらの考えはマルっとお見通しなんだよ。

 

「ま、簪に関してはミスっている可能性はあるだろうが、どっちにしろ苦い返事だったろ? 止めてやれよ。理由はどうあれ織斑は簪の専用機を凍結させた本人だ。まともな返事が返されないのは当然のことだ。あぁ、言っておくが俺もパスだ」

「何でよ!?」

「条件付きで、でな。それと篠ノ之、落ち込んでいるところ悪いが今回の原因は織斑だからな。このチビは焚きつけるつもりでお前を悪者扱いしたようだが」

 

 罰が悪そうな顔をする凰。そして俺を睨んで言った。

 

「じゃあ、どうすれば来てくれるのよ」

「全指揮権が俺」

「それくらい別に良いわよ。実際、アンタの頭が良いってことぐらいわかってるから」

 

 意外にそう素直に答える凰。さて、俺はこっちでやることをするか。

 

「篠ノ之、少しは冷静になれ。そもそも今回は織斑の自業自得だ」

「だ、だが、私がもっと強ければ―――」

「機体を受け取ってすぐに同じように戦えるわけがないだろ。高機動タイプから防御タイプならば回避癖が付いているならば機体スピードに慣れれば回避することで長期間戦えるようになるが、お前の場合はさらに上の機体を扱うんだ。ましてやエネルギー効率の悪い展開装甲。ミスっても仕方ない」

「!? し、知っていたのか!? 展開装甲のエネルギー効率の悪さを!!」

「知ってたけど?」

 

 篠ノ之に殺されかけたが、なんとか回避した。

 実は展開装甲をカッコいいとはいえあそこまで大々的に使う必要はあまりない。そして後から補充するためのエネルギー供給機構も見当たらなかった。隠している可能性もあるが、おそらく―――単一仕様能力がエネルギー回復ができるタイプだろう。

 

「落ち着け篠ノ之。こんなところで暴れたら、あの鬼が来るだろ。これから作戦会議が始まるが、その前に俺の部屋に他の専用機持ちを集めろ」

 

 篠ノ之と凰にそう指示する。篠ノ之は不服そうだったが、とりあえずは従ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬は違和感を感じていた。

 透の行動もそうだが、夜も既に7時を過ぎるというのにまだ誰も動いていないことに、だ。

 

(………おかしい)

 

 もしや夜塚が制御しているか? ―――そう考える千冬だが、先程の発言から考えてあり得ないと判断する。

 

(………何を企んでいる。まともなことならば良いのだが………ない、だろうな……)

 

 千冬自身、透と束は同類ではあるが方針が違うことは重々承知している。だが彼女の長年の人生の中でやはり篠ノ之束以外に透と同類の存在はいないため、どうしても比べてしまう。

 そんな様子を気遣ってか、山田真耶は千冬に声をかけた。

 

「………織斑先生……あまり無理をなさらないでください」

「そうは言ってられない。私がここの指揮官である以上は離れるわけにはいかない………」

 

 そう、彼女が言った瞬間に真耶の近くにいた教員が叫ぶように言った。

 

「緊急事態です! 福音が回復を終えた様子で移動を―――え!? 大変です!! こちらに向かって移動を始めました!!」

「教員に緊急発進を要請! 絶対に旅館に近付けさせるな!! 私が行くまで時間を稼がせろ!」

「そ、それが……まだ追加ブースターの取り付けが完了していません!!」

「何!? ………そうか」

 

 ISが現れてまだ10年だ。ある程度の法は定まっているが、規格など定まっていない部分も存在する。そもそも打鉄をベースにラファール・リヴァイヴの装甲を取り付けること自体が至難の業であり、このようなことをあまり想定していなかったためもあるが、整備もまだ未熟な1年生が行うことになる。実際、現1年で整備士として使えるのは布仏本音ぐらいだった。

 自分が出られないことを考えると、教員側に勝ち目はない。誰もが千冬や真耶に劣るとはいえ専用機持ちたちよりも強さは上。だが、機体性能の差が大きすぎた。

 

(………生徒たちを逃がすしかない、のか……)

 

 元々花月荘自体は普段は一般客用の旅館とはいえ、IS学園生が利用することもある宿泊施設。防衛機能は備わっているが相手は最新機にして軍用なのだ。時間はかかるが突破される可能性は高い。そして仮に逃げたとしても、広域殲滅用の機体のため、生き残る確率が低い。

 もはや万策尽きたと千冬が思ったその時、風花の間の通信回線に割り込みが入った。

 

『―――どうやら、予想外なことが起こっているみたいだな』

「………夜塚」

 

 透だった。透自身も少し焦っているのか、顔を青くしている。

 

「今、お前たちに構っている暇はない」

『良いのか? 今外で教員たちが戦っているが流石に無理だぞ? どうせ負ける』

「わかっている!! だからこうして今も策を練っているのだ!!」

 

 するとスピーカーから透の笑い声が響き、ハウリングを起こした。

 

『策? 策と言ったか!? 貴様のように戦う事しかできないものが、今「策」と言ったか!?』

 

 透は本気で笑っている。その笑いに教員たちが怒りを覚えるが、誰かが立つよりも早く千冬が言った。

 

「頼む夜塚! 力を貸してくれ! 今この状況で頼れるのはお前たちだけだ!!」

 

 透の笑いが唐突に止む。後ろで透に異議を唱えていた簪を除く専用機持ちが止めていたが全員が何事もなかったように止まった。

 

『………ほう』

「こんなことをすること自体、間違っていることはわかっている。だが、この状況でお前たち以外、福音を打倒する力を持つ奴らがいないのも事実だ。だから頼む! お前たちで、福音を止めてくれ!!」

 

 頭を下げる千冬。誰もがその光景に驚く。だが、千冬の言っていることも事実だ。

 今、福音に及ばずとも―――いや、2機ほど匹敵するが、それでも向こうの方が圧倒的に強い。だが千冬は透が本当に考えていた作戦ならば、例えどのような内容でも勝利するのではないかと考えていた。

 

『―――嫌だね』

「!?」

『当然だろ。奴らが俺に何をした? 何を言った? デブだのなんだの、誹謗中傷をぶつけることしかできなかった蛆虫を助ける価値などあるわけがないだろ。ペットは既にここにいるのだから』

『……透さん、本音を忘れてる』

 

 後ろからのツッコミを透は無視して話を進める。

 

『とはいえ、だ。今回は特別にある条件を呑むのなら助けてやらんこともない』

「………何だ?」

『お前が誠心誠意を込めてこの言葉を音読するというのなら、な』

 

 するとどこからか1枚の紙が舞い、それが千冬の前に落ちた。

 

「……………」

『なに。所詮貴様も女の端くれ。読めないならば素直に土下座で―――』

「私、織斑千冬は、女は所詮、ISがなければただの弱者でしかないことをここに宣言する!!」

 

 また、沈黙だった。

 特に学園内にいる女尊男卑思考を持つ教員たちは本気で驚き、完全に固まるか千冬に声をかけようとするが、千冬が渡された紙を盛大に破って叫ぶ。

 

「図に乗るなよ、小僧!! こんなこと、私はとっくに承知している!! なんだったらこの騒動が終わった後、改めて私自身の手で女権団を壊滅させて「女性優遇制度」なんぞ撤廃させてやろうか!! その代わり、福音を止めろ! なんだったら破壊しても構わん!!」

『…………フフフ………ハハハハハハハッッ!! 流石は、と言っておいてやろう!』

 

 モニターに映る福音に爆発が起こる。どこからか攻撃された証拠だ。

 

『さて、野郎共。アホの作戦隊長から直々に破壊許可が降りた。作戦開始だ』

 

 透がそう宣言すると、別のモニターには7つのマーカーが教員たちの後ろに現れた。




破壊と惨滅はこの場合、致し方ないこと。
半分はノリですが、もう半分は教師として生徒を守るための発言です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。