それは10年前のことだった。
俺は今後の勉強という事で新技術の発表会に連れて来られていたが、どれもこれもつまらなくてあくびをしていたところに飛び入り参加の少女が現れたのだ。ほとんど外部に漏れることはないはずのそれは今の世界では完全なオーバーテクノロジーであり、俺は心を惹かれた。飛躍して信じられない技術ばかりだったけれど、アニメとか前々からある宇宙の知識を知っていて、それが宇宙開拓に使われるということなら多少武装が強くてもそれは仕方ないと思う。何も宇宙は地球人だけがいるわけじゃない。非友好的な他の惑星の奴らだっている。そういう観点から見れば確かにその少女の発表は理に適っていた。
―――だけど、大人たちはそう思わなかったようだ
全員がその発表に嘲笑い、馬鹿にした。誰もが「所詮は机上の空論」だと良い、「女にしか動かせないとか無能だろう」と言った。だからこそ俺は思った。
―――こいつら、頭大丈夫か?
むしろ感謝するべきだろう。あの人はこちらに技術の結晶を見せてくれた。未来への可能性を示してくれた。だというのに何故罵倒しかしないのか? 俺は、全く大人の考えを理解できなかった。
人は、ある時ある場所で革新的な事をしてきた。後の世代はそれを理解し、吸収させてもらえる。その革新的なことをただ14歳の女の子がしただけの話だ。
大人たちの言葉に嫌気が射した俺は休憩がてら外に出る。すると奥の方で帰ったはずの女の子は泣いていた。
「ま、そんなわけで俺が説得して、白騎士事件が起こったわけだ」
「そうか。ということは姉さんとは繋がっていたのか?」
「………俺の親……というよりもあのクソジジイが「若いもんは体を鍛えんか」って時代遅れも甚だしいクソ思考でさ、当時は携帯電話もパソコンも使わせてくれなかったんだよ。その後はIS学園で一度会っただけかな。その時は俺も太ってたし、向こうはわかって………今もわかってないか。そんなことよりさっさとしろよ天才!」
「うるさいな! っていうか指図すんな!!」
「一応言っておくが、IS学園で篠ノ之の事を守ってほしいという依頼を受けてお前をほぼ強制的に練習に参加させたわけじゃない。単に俺がおっぱいが揺れるのを見たかったというのもあるけど、同情しただけだ」
周りが俺たちの会話を呆然としつつ聞いている。
「お前ら! さっさと作業しろ! これ以上織斑先生の作業を増やすな! ただでさえ戦闘以外はからっきしでここのところ美容に気を遣えてないんだから、これ以上無駄に肌が荒れたら可哀想だろ!」
全く。織斑先生の大ファンだと言うのならばそれくらいの融通くらいは利かせてやれば良いのに。まぁ、本当に肌に気を遣っているかはともかく、だ。
「そういう貴様もさっさとやれ!! ちゃんと装備はあるんだろうな!!」
「あるよ。宇宙開発用と国家滅殺用と、あと組織惨滅用」
「あと2つの違いを教えてもらおうか?」
「殺すか破壊するかの違いかな」
「どっちにしてもアウトだ! 以後そんなもの作るな!!」
何を言ってんだ、この女は。どれもこれも自分自身の身を守るための大切な兵装だと言うのに。
「わかったよ。国家滅殺用はまだ設計図段階だし」
「そうしろ」
あれ? 組織惨滅用は?
まぁいい。それよりも今は紅椿だ。
「いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」
「え、あ。はい」
ここで不用意に他人にISのデータを見せて良いのかとツッコミは入れない。だって織斑だからね。仕方ないネ。
「ん~…………不思議なフラグマップを構築しているね。なんだろ? 見たことないパターン。いっくんが男の子だからかな?」
「束さん、そのことなんだけど、どうして男の俺がISを使えるんですか?」
「ん? ん~……どうしてだろうね。私にもサッパリパリだよ。まぁ、もう1人を解体すれば良いかな?」
「仕方ない。こうなったら篠ノ之をISごと誘拐するしかなさそうだ」
「お前らは喧嘩をするな! 止めるのが面倒な上に余計な被害が出かねんからな!」
ま、確かにな。俺がこの女と同じってことはないだろうが、強すぎる力がぶつかれば崩壊が招かれる恐れもある。
「ところで、白式に後付装備ができないのは何でですか?」
「そりゃ、私がそう設定したからだよん」
「ええッ!? 白式って束さんが作ったんですか!?」
「うん、そーだよ。って言っても欠陥機としてポイされてたのをもらって動くように弄っただけだけどねー。でねー、なんかねー、元々そういう機体らしいよ? 日本が開発してたのは」
「馬鹿たれ! 機密事項をベラベラと話すな!」
グーで篠ノ之束を殴った織斑先生。大人2人がじゃれているのを余所に俺は少し考えていた。
(………じゃあ、あれか? 倉持が今でも白式に固執しているのはそういうのが理由か?)
元々白式が倉持で作られていたが、ある時を境に打鉄弐式の開発に切り替えた。だけど白式に篠ノ之束の技術が合わさったから興味を持って弐式を放置して調べている。
―――はっきり言って、コアの無駄遣いだ
頭が痛い。確かに奴らにとって篠ノ之束の技術は貴重かもしれないが、だからと言ってさっさと捨てれるような存在か? いずれ国防のための存在だと言うのに。
「…………」
とりあえず、そっちは天才さんに任せて俺はやるべきことをするか。
「せんせー、俺と更識は体調が悪いんで早退しまーす」
そう言って俺は簪をさり気なくお姫様抱っこして、その場から離脱した。その少し後で俺たち2人に召集がかかった。また、ろくでもないことが起こりそうだ。
「では、現状を説明する」
碌なことにならなさそうだ、とそこに来てまた思った。簪は今も俺の隣から離れないようで腕を組んでいる。
「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『
「………は?」
「疑問に思うのは無理もない。話を戻すが、その後衛星による追跡の結果、ゴスペルはここから2km先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」
………ちょっと待て。
いや、少し冷静になれ。え? まさか俺たちが? いやまぁ、当然だろうけど。だってここにいる教師って基本的に使えないし。
「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」
………全く、面倒だな。
俺は頭をかいてため息を吐いた。
「それでは作戦会議を始める。意見がある者は挙手するように」
それを聞いてオルコットが真っ先に手を挙げ、福音のスペックデータの公開を要求した。その許可を出したが、何故か俺にはマネするなと強く言われたのは解せない。
「広域せん滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」
「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかもスペック上ではアタシの甲龍を上回っているから、向こうの方が有利………」
「この特殊武装が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来ているけど、連続しての防御は難しい気がするよ」
「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん。偵察は行えないのですか?」
「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度は時速2450kmを超えるとある。アプローチは1回が限界だろう」
「…………それくらいなら接触は余裕だな」
そう言い、俺はあくびをした。
「何?」
「高がそれだけだろ。悪いが荒鋼は時速3000kmは軽い。飛行形態に変形すれば5000kmは行ける。絶対防御による操縦者保護機能も並のISとは比較にならない。制限を解除すれば、だがな」
普段は競技用に設定しているが、それはあくまで仮の姿。本来の荒鋼の性能は国の破壊をたった1日。おそらく前ISとの戦争ですら生き残れるほどのスペックが備わっている。
「………言っておくが、俺は篠ノ之束とは違うぞ。それなりの空気は読むし終われば当然制限だって元に戻すさ。IS学園にいれば各国の勘違いした奴らが俺に接触して、色々とできるからな」
例えば世界征服とか、女を篭絡させて情報を引き出して、もしその女が大臣の側近とかなら色々使い道はあるしな。ま、それはあくまでも副産物だ。
「………信じて良いのか?」
「当然だ。それにまだ、日本を潰していないしな。しばらくはIS学園にいるつもりだ」
織斑が何かを言いたそうにしているが、諦めているのかそれとも言っても無駄だと察しているのか黙った。
「だが、残念ながら俺は一撃必殺の決定打は持っていない。あくまでも情報を引き出すことだけだ」
本当は持っているが、それはあくまでも切り札だ。というか、リーチ的に《雪片弐型》よりも短いしな。
織斑千冬が顔を引き攣らせる。俺は少し上を向いておそらくいるであろう女の存在を探った。おそらくこれで良いんだろう。俺の推理通りならおそらくあの女が今回の騒動を引き起こしたのだろう。例え暴走云々は直接関与していないにしろ、横から掻っ攫ったか。
―――どちらにしろありがたい。合法的に本気を出せるんだから
まぁ、おそらくは紅椿の性能実験かさっきみたいに篠ノ之が専用機を持つことに不満を抱く奴らに実力を見せつけるためか。………まぁ、紅椿を確保するために軍用が出て来たら対処に困るから、今回のをリハーサルにでも使おうという魂胆か。どうでも良いな。
「―――ちょ、ちょっと待ってくれ!? お、俺が行くのか!?」
どうやら話が進んでいたようで、いつの間にか織斑が行く話になっていた。
「「「「当然」」」」
まぁ、素人を出すなって言うのはこの場で言うのは違うよな。黙っとこ。
「織斑、そして夜塚。これは訓練ではない。実戦だ。もし本当に覚悟がないなら、無理強いはしない」
「………昨日も言っただろ。俺はもう死ぬ気はねえし死線は彷徨いたくないねえよ。あれはマジで洒落にならねえしな」
「……だったら尚更、再考するべきだ。特にお前は今では織斑より重要となっているんだ。こんなところで生き残れるかわからない戦いに臨む必要はない」
ため息を吐き、俺は立ち上がって織斑千冬の額をデコピンで吹き飛ばした。流石は猛者というべきか、当てられても後ろに下がる程度で済んだ。
「少しはよく考えろよ。これは俺にとっても充分メリットがある戦いだ。だから安心しろ。これ以上ダダをこねるって言うんだったら今すぐ俺が操縦者諸共福音を文字通り沈めてきてやろうか?」
別に落とせないことはない。だが、より安全性を取るならやはり織斑が持つ零落白夜の方が効果的だ。あれはまだキチンと制限がかかっているからな。
「………わかった。そこまで言うなら出してやる」
「あまり舐めた口を利いていると、アンタの右腕を妊娠させるぞ? 誰の子どもかわからない状態で」
何故かその言葉で山田先生は顔を赤くして倒れた。何故だ。
「織斑、お前は?」
「やるぜ。俺が、福音を倒す」
「良い心がけだ。じゃあ負けたら俺が組んだ身体を顧みないメニューをこなせよ。あ、こなすまで食事も睡眠もなしだから」
「何でだよ!?」
さて、リラックスはそこまでにして。
「それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中、ただし荒鋼以外で最高速度が出せる機体はどれだ?」
「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーも付いています」
「……………………」
出て、来ないな。てっきりこのタイミングで出ると思った―――
「―――待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」
「このタイミングで出てくんのかよ!!」
俺は思わず突っ込んだ。作戦が決まりそうなところで乱入するかと思ったからな。
「………山田先生、室外への強制退去を。夜塚、お前も手伝ってやれ。奴の服を剥ぎってやっても構わん」
「OK、汚物は消毒って奴だな。アンタの服もついでに燃やしておく」
「そんなことより、もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティングゥッ!!」
「出ていけ。もしくはどこぞの男の物になって一生扱き使われておけ!!」
あ、本音が出た。
「聞いて聞いて! ここは断・然! 紅椿の出番なんだよっ!」
「じゃあ作戦の概要はこうだな。まず、俺がパッケージ未装着の素のブルー・ティアーズに乗ったオルコットを背中に乗せて、接敵寸前でオルコットをパージして単機で福音と交戦。オルコットがその映像を本部に送信して簪がここでデータを解析。そこから得られた戦闘解析データを篠ノ之とオルコットに送信してくれ。で、織斑と篠ノ之が接敵後に俺は後衛に回って2人の援護、もしくはこの機に乗じて妨害してくる奴らの排除、だ。オルコットはデータの仲介をメインとし、いざという時に負傷者を運んで撤退をしてくれ。援護はするな。場所がばれては面倒だ」
「ま、待ってください! わたくしだと不服だというのですか!?」
「理由は色々とあるが、まず1つとしてお前はビット操作を同時にすることはできないだろ? 悪いが俺はそれができる。そしてお前らみたいに単なる競技用と違って俺は回復をすることができる。継続性は全ISの中でも最上の位置にあると言える。確かに、篠ノ之は素人だしさっきも試乗程度でまともに動かしたわけではない事や、初めての軍用ではやる気持ちはわかるが、展開装甲を持つ紅椿なら最高速度は荒鋼を超える」
そう言うと篠ノ之束が俺の胸倉を掴んだ。
「ど、どういうことだよ!?」
「あ、悪い。実は使ってないだけで荒鋼にも展開装甲は搭載されているんだ。って言っても多分紅椿だから、アンタの技術力の高さは証明されている。安心しろ」
「そういう問題じゃない!!」
じゃあどういう問題だよ。
「………あー、1つ勘違いしているようで悪いが、俺は別にお前に成り代わろうとかしていないからな。アンタの妹の胸は1度揉んでみたいなぁって思っているが」
「おい!」
「俺はただ、生き残るために強くなっているだけに過ぎない。そして今回のこの騒動に乗るのは、あくまで「俺にとっての利益になる」からであり、アンタの邪魔をする気はない」
「………………」
篠ノ之束は俺を放し、少し離れる。どうやらわかってもらえたようだ。
「………えっと、展開装甲?」
「簡単に言えば、剣や盾、スラスターに切り替わる新武装だ。これまた便利なものだがちょっとした弱点があってな。詳細は後で話す。今は作戦に集中しろ」
そして織斑千冬の号令で俺たちは即座に取り掛かった。
そろそろ、タグをちゃんと編集しないといけないですね。