海。それはある意味では実験場でもある。
(シールドバリア限定展開による耐圧実験………意外と進まねえな)
あんまり良い状況ではないな。やはりそこは元々も宇宙用という事もあって、と言ったところか。
「何やってんのよ、アンタ」
「ああ。特殊コアを使用した実験だ。素材は打鉄対貫通性スライド・レイヤー装甲を使っている。一応、学園の研究費から全区汎用戦艦を作るための実験なんだが―――」
「待って。今戦艦って言った?」
凰が聞いてきたので答えてやると、驚愕する。あ、そうか。あんまり耐性ないんだっけ。
「勘違いするな。何も俺は戦争を仕掛けるために作っているんじゃない」
「じゃあ何のためよ!?」
「ロマンだが?」
「またそれか!!」
簪も布仏本音とどこかに行ったし、俺は一人で研究をしていた。
そもそも俺、友達は必要以上に作らないタイプだし、そもそもこの学校で友達はあまり作る気は起きない。
「あのなぁ、そもそも俺の基準からして10年もあって宇宙戦艦を1隻も作れていない時点でアウトなんだけど」
「いや、だからって作る? 周りから「戦争する気がある」って思われても何も言えないわよ」
「思いたいなら勝手に思って置けばいい。俺は俺で作るだけだ。………ただ、問題があってな」
「なによ」
「対浸水防御壁もそうだけど、何よりも―――ISサイズで作るか特機サイズで作るか、そこが問題だ」
「どうでもいいわ!! むしろ必要ないわ!!」
チッ。これだからロマンがない女は。
「全く。太ももはちょうど(性的に)食べられそうな形をしているくせに、もう少しロマンに関して寛容になれよ。そんなんだから………ストップ。あれを見ろ」
そう言って俺は織斑と織斑先生、そして織斑が連れてきた篠ノ之が対面していた。織斑と篠ノ之はどちらも言葉を失っていた。特に織斑はまるで一人の女性を見るような目で見ていたのだから事案だろう。
「………ナニアレ」
「おおい。落ち着け、凰。今ここでキレても意味ねぇぞ」
今にもISを展開しようとする凰を落ち着かせながら、俺は静かにシャッターを切った。
「これは良い情報だな」
「いや、何するつもりよ、アンタ」
「織斑がまさかの姉に対して女を感じるという証拠を残して、織斑姉弟近親相姦説を実説として世に知らせる」
「………アンタ、いつか刺されるわよ」
「殺られる前に殺るのが俺の信条だ」
とは言え、実際のところ人を殺した経験はないんだけどな。
今、俺はピンチに陥っていた。
考えてみれば、俺の感覚は麻痺している気がするが、だからと言ってこればかりは流石にヤバいと思う。
(高校生の背中を洗うとか、完全に事案だな)
織斑の背中を洗いたくないが洗うのはまだまだセーフだ。例えるならクロスプレーでキャッチャーからボールを落とさせるようにスライディングをするぐらいはセールだろう。だがそれが女子高生ならば言うまでもなく世間にバレたらアウト。楯無に知られたらそれこそデッドルート突入だ。
「………簪」
「………頑張る」
何より、本人が次に俺の背中を洗う気なのが完全に問題だろ。何で既に用意しているんだ。
「じゃあ、次は私……」
お尻は洗っていないからセーフ。お尻は触っていないからセーフ。
そもそも俺の警戒心が緩み過ぎた。織斑がいないからホモホモしい展開になって織斑を女子風呂に蹴り飛ばす必要はないと安心し切っていたのだ。
(でも、展開自体は悪くない………)
おそらくどのギャルゲーもエロゲーもやっても風呂場で洗いっこ。わざわざ温泉ですることはないだろう。
だが俺は、そんな常識すらも覆しているのだ。なんという反逆。心はまさに「愚民共、平伏せ」状態と言っても過言ではない。
お互いに身体を洗い終わり、俺は立ち上がって言った。
「じゃあ、俺は出るから」
「…………………?」
あの、笑顔で首を傾げるの、やめてください。雪の女王ならぬ氷の女王みたいな改造をしたくなる。
ちなみに、隣にいる女子たちは簪が男風呂にいることを知らない。完全防音バリアを舐めないでほしい。
俺たちはお互いに湯につかり、近くの岩場に背中を預ける。簪はいつも通りというか俺に引っ付いてくるが、もしかしたら俺たちが幼馴染だったら入学後すぐに俺に引っ付いてきたのかもしれない………と言うのはいくら何でも考えすぎか。
「って言うか簪、何で男風呂に来たんだよ。もし織斑が着たらどうするんだ」
「装備はばっちり」
「………こんなもの、いつ作った」
竹筒にゴーグルを出して装備する簪。それはまさに幼子が潜りに行くような格好だったが、今はどちらも裸ということもあって抱き着くのは自重する。
「………簪、率直に聞いていいか?」
「………何?」
「どうしてこんなことをするんだ。いくら何でもやり過ぎだ」
普通、もっと恥じらうと思うんだが。
「………だって……こうでもしないと透さんは私に発情してくれないし」
「むしろ逆に冷めているんだが」
「!?!?」
その可能性は考えていなかったみたいだな。
まぁ、冷めていると言っても嫌いになっているわけじゃないし。
「……………こういうのが、好きって聞いたけど……」
「まぁ、嫌いではないが……実はセクハラは警戒手段の一つだ。途中からは完全に趣味だがな」
だから手加減はされているが容赦はないわけで。
「ともかく、あまりこういう事はするな」
本音を言えば、今この場で頬にキスしたいし首を撫でまわしたいし秘部に手を伸ばして弄りたいけどな。弄りたいけどな!! だけどここは自重しておく。
「じゃあ、俺は出るから」
「……ま、待って! ………置いて……行かないで……」
…………あ、そっか。
考えてみれば、簪をここで放置すれば織斑とバッタリ会った場合はあの野郎に凹凸がないが故の美しい肢体を見られる可能性があるわけだ。
とりあえず簪も出してバスタオルを出して彼女の身体に巻く。
「それで水滴を拭いて着替えろ」
簪は首を縦に振って頷き、すぐに拭き始める。もちろん、彼女の身体は直視しない。
どうしようかと思っていると誰かが接近してくるのを察知した。
―――ガララララ…
「あ、透も来ていたの―――」
―――ドスッ
躊躇いなく織斑を蹴った俺は関節を鳴らしながら近づいて言った。
「俺は何度も言っているよな? 敬語を使えって」
もちろん、これは建前。いや、敬語で話せって言うのは本音でもあるが簪が何故か義務着用である浴衣を着る時間を稼いでいる。
「………いや、でも、今更だし……」
「そうか。織斑、言っておくがな―――俺は本来ならお前のような低能かつゴミみたいな輩には恐れ多い存在なんだ。平伏すのはもちろん、話すのは………ああ、あれがあったな」
「え? 何言って―――」
スプレーを吹きかけると、織斑はほとんどすぐにその場で寝た。
(………最初からこうすれば良かったな)
今まで使う機会なかったからなぁ。
この後、なんとか誰にもバレずに簪を連れ出すことはできた。まさしく不幸中の幸い―――いや、これは違うか。
どうせ部屋に戻っても実験以外することもないし、この際本性を見せて引かせるというのも手かもしれない。………でもなぁ、正直に言うと本性通りの事を毎日したいんだよなぁ。
とか考えていると、何故かボーデヴィッヒとデュノアが俺たちの方を見ていた。
「何だお前ら」
「あ、あの、織斑先生が更識さんを呼んで来いって」
「………嫌」
「そんなぁ………」
「諦めるの、早いな」
まぁ、今の簪を見ていると下手に逆らうと食い殺されるほどだしな。仕方ないと言えば仕方ない。
「………んで、どこにいるんだ?」
「透さん?」
「気にするな。つまらないならあの女の顔面を蹴って帰ればいい」
あの贔屓女のことだ。ここで出ておかないとまた虐められるだろう。そもそもあの女がきちんと掛け合っておけば簪が機体を開発するという事態にならなかったんだ。………いや、そうでもないか。そうでもないな。簪の事だから勝手にしそうだな。
それに、俺の予想通りなら男としての意見は必要だろうしな。ということで、
「邪魔するぞ」
「なっ!? 何故夜塚がここにいる?!」
「どうせコイバナだろうと乱入しに来ただけだ。気にするな」
おそらく全員は「だったら男は禁制なのでは」と思っているようだが、俺はため息を吐いた。
「じゃあ聞くけど、剣道しかしなかった奴とまともに恋をするような環境にいなかった2名としてそれで男性経験0の奴らと間違いなく今も処女のアラサーで一体何が解決する?」
「残念だな。私はまだ24だ」
「今年度で25なんだから諦めろ。ま、これは山田先生にも言えることだけどな」
「何故だ? 同じ女の中でも彼女はかなり魅力的な位置にいると思うが―――」
「無知すぎる。下手すれば妊娠して初めて放り出されるか、妊娠してもそれなりにボディバランスが整っているから飼われるのがオチだぞ」
あれがガチのロリだったら………ダメだ。女尊男卑の風潮のせいでただでさえ幼女誘拐・妊娠事件が相次いでいるというのに、あれでガチロリとか格好の獲物でしかない。
「ま、考えてみればIS学園に入学したこと自体が裏の世界に入るってことだしな。どっちにしても強姦からは避けられないかもしれない」
「………いや、アンタ……」
「考えてもみろ。専用機持ちは俺と織斑を除けばA⁻以上だし、それぞれが素体を狙っていると思った方が良いレベルだぞ。俺と恋愛なんかしてみろ」
「……どうなるんだ?」
篠ノ之が興味津々で聞いてくる。まぁ、お互い特殊な身だしな。
「俺の手によって世界が滅ぶ」
「………夜塚、いくら何でもそれはないだろ」
織斑先生は本気にしていないが、俺がただの改造をしているわけがない。
「まぁ、その話は置いといてだ。それでアンタは一体何の話をしたいんだ?」
「………まぁ、この際だな。夜塚、お前は一夏のことをどう思う?」
「性格としては問題ないんじゃないか? 顔は良いし熱血漢とも言えるべきだろう。今時珍しいく女を守ろうとするしな。だがそれはあくまでも
そう。織斑は同じ男としても好感を持てる奴なのは間違いない。だがそれでも俺たちの意見は滅多に合わない。それは何故か? 俺と織斑では見ている物に圧倒的な差があるからだ。
織斑はおそらく、今みたいな平和がいつまでも続くと本気で思っているのだろう。そしてそれはもう変わることはない。奴が地獄を見ない限りな。
しかし俺は常在戦場の心構えでいる。実はこの状況でも割と警戒しているぐらいだ。
「…………やはりそう思うか?」
「当然だ。以前、織斑がデュノアに教えてもらっている時にデュノアは白式の単一仕様能力が姉と同じことに「姉弟だから」と片付けた。ただでさえISは未知な部分が多すぎる。だというのにその発言はいくら何でも無警戒すぎるんじゃないのか?」
「…………そうだな」
「まぁ、そんな相手に恋愛している奴らもどうかと思うがな」
2名ほど図星を突かれてそれぞれ反応を示すが、俺は気にせずに言った。
「それが良いか悪いかで言えば、正直そろそろ危ないんじゃないかってことだな」
「だが、そう言う夜塚は準備をしているのか? 見たところあまりそう言う風に見えないが……」
かなり慣れてきたのか、ボーデヴィッヒが俺に尋ねる。………この際、良い機会か。
「そうだな。俺もいずれ指名手配されるんじゃないのか? なにせこういう風にできるんだからな」
―――ガシャンっ!
織斑先生、篠ノ之、オルコットの近くからそれぞれ音がしたが、同時に俺も専用機持ちたちの背部に移動する。
「何だこれは!?」
「お……重り……?」
「何故わたくしは拘束されていますの?!」
予想通りの反応をしてくれているので内心喜んだ。
「何だ今のは!?」
「なぁに。ただ量子変換技術をIS外で実践しただけだ」
鎖を回して笑う。まぁ、これで流石にあの激闘の5日間を乗り切ったわけじゃないけど。
「………そんな……まさか……」
「実際、量子変換技術は日常的に使えたら結構便利だしな。車をこの中に入れておけばどこでも出せるし」
ただし場所は限られるが。
鎖を消して篠ノ之とオルコットの拘束も解除した。
「ま、さしずめこんなものかな。つまり、俺は所謂ネタの宝庫というわけだ。特に量子変換技術は売れば絶対に金になるし、武器だっておそらくはデュノアの機体以上に詰め込んでいる。一時期脱走していたのだって何も授業が嫌とか環境が嫌ってわけじゃない。そもそももう俺は授業を受ける必要なんてほとんどないし、グダグダと素人に合わせて戦闘訓練なんてするだけ無駄だ。だから俺は戦闘技術を磨くために信頼できる奴と一緒にいたわけ―――それはともかく」
俺は唯一拘束を解いていない織斑先生の方を見る。
「ちょうど良い機会だから、アンタの恋愛経験をすべて吐いてもらおうか」
「………透さん。顔、怖い」
「だって気にならね? あっても女とぐらいしかない織斑先生にそういう相手がいたかどうか」
全員同じ気持ちらしいが、相手が相手だから臆しているようだ。
「甘いな。私だってそれなりに経験がある」
「女と?」
「男とだ!!」
「あ、言っておくけど小学生までの経験はノーカンだから」
そう言うと織斑先生は珍しく驚いた顔をする。そうか。なるほどな。
「これが人生の負け犬というものか」
もう少しで蹴り殺されそうになったが、俺はなんとか愚息に伸びる足を回避した。