IS-Lost/Load-   作:reizen

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本日、2話投稿につき違和感がある人は1話前から読むことをお勧めします。

名前変更

影山瞬→影宮瞬

これでパンチ系地獄弟とは別人に



ep.27 甘く暗い蜜夜-開戦の狼煙-

 試合が終わり、楯無に「大衆の面前でなんてことをしでかしたのよ!」と怒られて数時間。帰路に着いた俺は色々と(精神的に)疲れたこともあって風呂に入った後にすぐに寝た………はずだったんだけど。

 

「………誰だ?」

 

 気が付けば、以前にも体験した謎空間にいた。

 

「…………フフフ………フフフ……」

 

 そう言えばこの笑い方、さっき聞いたなって思った俺はすぐに戦闘態勢を取る。

 

「テメェ……まさか簪を―――」

「違うよ! あれはあの子の本性! 彼女はヤンデレなの!?」

 

 だとしたら俺に発動するわけがないだろうに。

 それはともかく、この空間は何なんだ。

 

「ここは私の空間。あなたをリアルに放置していたらこっちの体力が持たないから少しの間こっちに来てもらったのよ」

 

 さりげなく凄いことを平然と言う少女に俺はツッコミを入れようと思ったが、大方の当たりが着いたのだ。

 

「機械の癖に体力が持たないとかないだろ、普通」

「疲れるわよ! コンピューターだって休息するわ! っていうかアンタのせいよ! どれも、これも、すべて!」

 

 そこまで言われる筋合いはねえよ!!

 

「―――って、これはまずいわね。ちょっとトラブル起きたから意識を体に戻すわ」

「いや、その前に詳しい話を―――」

「私は10年来の付き合いよ」

 

 そう言われた俺は何か落ちる感覚を味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼を覚ました俺は素早く上体を起こすと、何かが引っかかった感触を味わった。

 気になって辺りを見回すと何故か簪が床にいたが、たぶんこれは楯無に見られたら即殺案件だろうな。

 

 ―――下着姿って……マジかよ……

 

 幸い、暗いからあまり見えないが下着自体はかなりの高級品―――もしくは大人が着そうなタイプの物だ。何でこいつがそれを着用しているかわからないが、俺としてはかなり不味い。

 

「……起きた?」

「うん。起きました。でも寝ます」

「ダメ」

 

 そう言って簪は俺に抱き着いてベッドに押し倒す。普通、このシチュエーションはご褒美なんだろうけど今の立場に非常にマズい。それにしても、普通は逆だろうに。

 

「簪、落ち着け。どうしてこんなことになっているか―――」

 

 説明を求めようとしたら、どういうことか簪が俺にキスをした。咄嗟に躱したので頬になったが、そのせいか何かが落ちた。

 

「………飴玉?」

「………チッ」

「え? 今舌打ちした?」

「気のせい。大人しくそれを食べて」

「食べたらどうなる?」

「最終的に私があなた好みの体型になる」

 

 何それご褒美―――いや、ちょっと待て。流石にそれは問題だろうよ。

 

「あー、言っておくけど今回のあれは狙って揉んだわけではないんだが―――」

「それはどうでも良い」

「え? そうなの―――」

 

 パチッという音がしたかと思ったら、簪の胸部から何かが落ちた。たぶん、下着だな。ブラだな。

 そして流れるように俺の身体を中にすっぽり入る。………どうしろと?

 いや、ホント、この状況はどうすれば良いんだよ? というかたまに俺の頭って本当に良いのか疑問なんだよ。この状況の離脱方法がわかりません。大半が「胸を揉む」で占められています。

 

「………好きにして………良いから」

「………じゃあ」

 

 俺はブラを取って付け直し、服を探して着せる。

 

「………着衣派?」

「いや、普通に裸でも良いんだけど………」

 

 むしろこれが普通の年の差カップルだったら手を出しているな。相手が高校生で俺は大学生。アウトかもしれないけど、愛し合っているならセーフだろ。

 とはいえ、今の俺の立場でそれはまずい。そして何故か簪は俺としていいと言っているが、何よりも俺がヘタレすぎるから―――抱き枕にするだけで我慢してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は……透さんの事が好きだ。

 碌なことはしていない。他人に……特に胸が大きい人に対して人は選んでいるとしてもセクハラをする。そう考えると酷い人だと言うのは理解できる………けれど、それは結果的に誰かを助ける行動に繋がっているのは知っている。

 そして私に特別優しい……けれどそれは、姉に対する点数稼ぎだ。それでも私は彼の事が好きになってしまった。

 

 ―――私だけを見てほしい

 

 そう思ったのはつい最近で、彼は一見女にだらしないように見えてもちゃんと一線は置いている。

 でも私がたまに相談するから私だけは無条件に入れるようにしてくれた。

 

 もしこれで私が妊娠したら捨てられるかもしれない。それでも私は彼と一緒にいたい―――例え、死体になっても。

 

「…………」

 

 寝ている所にキスくらいは………許してくれるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。開店してからちらほらと人が入り始めた五反田食堂に珍しい客が来た。

 

「………こ、こんにちは……」

 

 兄と違って青みがかった黒い髪をした少女が来店する。少しラフな格好をしている少女は育ちが良いのか庶民的な場所に少し躊躇いを持っている。

 彼女は今日、友人ととあるISの試合を見るためにこうして訪れたのである。

 

「いらっしゃい。えっと、君は……」

 

 店の手伝いをしていた五反田弾が話しかけると、少女は少し緊張し、震え始める。

 弾はどうしようかと思っていると、彼の後ろから少女が現れた。

 

「ごめん、朱音。ちょっと手が離せないから適当に座ってて!」

「………うん」

 

 朱音と呼ばれた少女は空いているカウンター席に座ると、弾はそっとオレンジジュースを出した。

 

「悪いな。妹と何か約束していたみたいだけど……」

「………その……テレビを……」

「テレビ……? ………ああ、そういうことか」

 

 今日は学年別トーナメント最終日。そのことを思い出した弾は店のテレビを点けて番組表を出して目当てのものにチャンネルを合わせる。五反田食堂のテレビはつい最近までは古いものを使っていたが、1週間前に帰ってきた弾と蘭の父親が最新式の物を買ってきたのだ。だけど以外にも場所はあまり取らない投影拡大型であり、天井に設置するように繋がれている場所でも十分な大きさを確保できた。

 

「これだろ?」

 

 IS学園から特別に決勝戦限定で放映を許可された。別の場所では叱ると同時にその愚痴も聞かされた男の被害者がいるが、今世界中はテレビに釘付けだ。

 

「おーい、だーん!」

 

 今度は高校生の客。舞崎静流と影宮瞬、その後ろには桂木悠夜と幸那の兄妹がいる。幸那は朱音と蘭の友人でもある。

 

「静流に瞬、それに桂木先輩まで。どうしたんだよ」

「ここのテレビが最新式になったから今日の試合を見せてもらおうって思ってさ」

「ちゃんとご飯も食べていくよ。かなり早いけど幸那からごはんがおいしいって聞いてね」

「それは……ありがとうございます……」

 

 弾は悠夜が黒葉高校出身と聞いて少し警戒したが、女性顔負けの美人の笑みに少し警戒を解いた。

 ちなみに黒葉高校の出身者は大抵裏社会の人間になるので、その警戒は間違っていない。

 

「朱音ちゃん、良かったらこっちおいでよ」

「……でも……私は―――」

「ああ、食事代なら気にしないで。今度透に請求するから」

「………じゃあ」

 

 朱音は透の妹だ。そのため悠夜とも少し交流はあるので初対面ではないが、何せ兄がアレなので結構警戒している。………もっとも、透が兄だと知っているのはこの場で悠夜だけであり、蘭や幸那には黙っている。

 朱音が注文を終えると実況が流れてきた。

 

『さぁ、今年もこの時がやってきました。国家代表を夢見て戦う少女たち。IS学園で執り行われる学年別トーナメントですが、なんと今年度に初めて入学した男子がどちらも決勝に残ったそうです!』

『全く。他の人たちは何をやっているのかしら?』

『とはいえ、それも仕方ないでしょう? 確か、今年の学年別トーナメントは形式を変えてタッグマッチとなったと聞きましたが?』

『そうなんです。今回は創立7周年を記念して形式を変えてみたとか』

『結局、決勝に残ったのは相方のおかげってわけね。特に片方は相方に戦わせ続けた2人目は完全に実力じゃないでしょ』

 

 おそらく実況1人と解説2人だろう。実況者は男だが解説は女性2人であり、片方が辛辣にコメントを述べる。

 

『ま、まぁ、その実力はこの決勝戦で明らかになることを期待しましょうか。本日の実況は片倉小次郎が、解説はなんと日本の国家代表の戸高満選手に朝間希美選手のおふたりでお送りします!』

 

 そこでCMが入るが、それも1分ぐらいしてから終わる。今度は各選手の紹介に入った。

 

『まず最初はこの人、織斑一夏選手です。どうやらあの有名な元日本代表である織斑千冬選手の弟さんだそうです』

『聞けば武装も大体同じそうだね。彼自身も剣道をしていたから相性は良いのかな?』

『その相方はドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ選手。小柄な体型とは裏腹にかなり大型の機体を使うようですね。確か名前は―――』

『「シュヴァルツェア・レーゲン」……日本語では黒い雨ね。どうやらドイツ初の第三世代型ISで物理干渉が効くAICが搭載されているそうよ。テレビの前にいる人にもわかるように言うと、銃弾とかなら防げる障壁だと思ってくれればいいわ。今のISで攻略できるのはレーザー搭載機かしら』

『レーザー搭載機と言えばイギリスの第三世代型が挙げられますが、今回は機体調整の事情につき不参加のようですね。天敵がいない今では最強を誇るでしょう。次は日本の代表候補生である更識簪選手です』

 

 ―――じゅるり

 

 どうやらとある選手の限界が超えそうになっているようだ。実況者もかなり酷い選出をする。

 

『噂じゃあ、彼女の機体は凍結されたって聞いたけど、どうやら間に合ったみたいだね。機体には確かマルチロックオン・システムが搭載されている第三世代機だったっけ?』

『ええ。日本では知らない人が少ない第二世代型の打鉄の発展型である打鉄弐式に搭載されているわ。彼女の戦闘スタイルを考えて防御型ではなく機動型になっているのが特徴ね。そっちの方が実際に撃ちやすいっていう理由もあるわ』

『なるほど。私も1度見たことがありますがいかにも鎧武者って感じでしたが、あれから見た目も変わったのでしょうか?』

『盾を外してミサイルポッドとブースターがくっついた感じのが付いているわよ。ほら、ちょうど出てきたみたい』

 

 少しタイミングが遅く打鉄弐式が現れた映像に切り替わる。既に一夏やラウラも出ており、蘭は少し過剰に反応した。

 

『では、最後に夜塚選手ですが、なんとまぁふくよかな体型ですね』

『……あー……確かにね。これなら相方に頼っちゃうね。でも仕方ないじゃない? 彼も織斑君もここに入学するって予定はなかったんだし』

『はん! あれの場合は単なる不摂生でしょうよ。しっかり体調管理しないからこうなるのよ………』

 

 最後辺りに希美の言葉が弱くなっていく。そして五反田食堂では、

 

「え? 夜塚さんってあんな体型だったんですか!?」

「うん。意外でしょ?」

「………物凄い努力をしたんですね」

 

 透を知る3人が驚きつつも話をしていた。しかしそれはあくまで知っている人間の話。弾は顔を引き攣らせており、朱音は顔を覆い隠している。蘭はもちろん他の男性客にも不評のようだ。

 

『そして専用機は「荒鋼」ですか。これはなんと珍しい名前ですね』

『センスが中二病というか、もう少し大人になれって話よね』

『これ、ラファール・リヴァイヴと打鉄の合成機かな。凄いセンスだね』

『機体説明は……これは本人のでしょうか? なになに………「打鉄とラファール・リヴァイヴの特徴を併せ持ち、過去と現在、そして未来を手に入れた究極の機体。相手が何機いようと関係ない、敵機数を選ばない究極のオールラウンダーここに推参!」……これはどういうことでしょうか?』

『過去と現在、そして未来、ね。どういうことかわかる?』

『さぁ? でも碌な物ではないんじゃない? その機体を作った奴が異常だと思うわ』

 

 希美はそう吐き捨てるが、五反田食堂にいる男子3人はなんとなく予想が着いた。

 

『どうやら夜塚君が出てくるようです―――って、どうやら影武者のようですね』

 

 実況者は現実逃避をする。やはり過去の写真を見ると透はまるで別人のように見えるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之辺りで少し予定は狂いそうになったが、それでも調和は保たれているほうか。

 少し笑みを浮かべているし、これから始まる決勝戦に胸が躍っている。

 

「ふん。出てきたか、雑魚」

 

 ボーデヴィッヒが俺を見て馬鹿にするようにそう言ったが、やはりこいつの挑発は弱いな。

 

「窮鼠猫を噛むって言葉を知っているか、ボーデヴィッヒ」

「…いや? それがどうした?」

「猫に遊ばれるだけの鼠だけど、反撃すれば鼠でもネコは倒せる。簡単に言えばそういうのだが―――まぁ、そもそも俺は鼠どころか怪獣にして魔王だし、どっちかというと弄ぶ方だったわ」

「ハッ! 自ら魔王と称するというのか。どこまでも愚かな奴だ!」

「まぁ、男にとっちゃ王って憧れるよ。……性的な意味で」

「貴様の脳内はそれしかないのか?!」

 

 流石のボーデヴィッヒでも俺のそういうところはまだ受け入れにくいようだ。こうなったらけちょんけちょんに潰してどっちが格上かという事をちょうきょ……しこ……もとい、教え込む必要があるようだ。

 

「……透」

 

 今度は織斑の方か。全く、人気者は困るなぁ。

 

「覚悟しろ! 今日こそお前に引導……は無理だけど、完全に勝って俺と千冬姉が正しいって証明してやる!!」

「………なるほど。だがな織斑」

「何だ?」

「俺を殺す気で来い! ボーデヴィッヒもだ! 精々俺を楽しませろよ、雑種共!!」

 

 試合が開始すると同時にある者は後退してある者は前進した。


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