勝利しては簪を愛で、勝利しては簪を撫でて早数日。俺はCブロックの決勝戦を戦っていた。流石にここまでとなれば相応の手練れになり、流石に簪でも少し苦戦する。
「更識さん、1つ聞きたいわ」
「………何?」
「あなたは自ら望んで男と組んだと聞いた! どうしてそんなことをしたの!? あなたはその可愛さでも女たちの中で十分に戦えるのに!」
「…………は?」
何言ってんだ、こいつら…………まさか。
『簪、俺が行く』
『………お願い。…ちょっと、この人たち……怖い』
俺が前に出るとラファール・リヴァイヴのコンビは俺を見て罵倒した。
「な、何出てきてるのよ!? とっとと消えなさい、この豚!」
「安心して、ユイ。あんな男に汚れさせやしない」
「………マイ……」
…………なんか妙にカッコいいですね。
とはいえこれで確定した。こいつら、レズだ。
「あー………おふたりさん」
「な、何よ!?」
「1つ聞きたいんだけど、俺のクラスに織斑千冬の弟がいるんだが―――」
「手術したら話をしてあげるわ」
完全確定した瞬間である。しかもあの暴君の弟だろうと手術を要求するとは。
「そうか。じゃあ、お幸せにな」
「え―――?」
―――あの世で
俺はそのまま後方に瞬時加速して離脱しつつとあるボタンを押して爆発させた。
「……リア充は……爆発しろ!!」
「………八つ当たり……乙」
いいや、これは正当な裁きである。
とはいえ、流石に訓練機と言えどこの程度で倒れるわけではなく、ラファール・リヴァイヴの操縦者たちは立ち上がった。
「まさか、こんな攻撃もしてくるなんてね」
「いや、お前らを祝う心はあるぞ」
「…………前は……同性愛はクソって……言ってなかった……?」
「生産性がないのが1つ。何より―――自分自身がネタにされることと、身内が被害に遭うのが嫌なだけだ」
だから赤の他人や友人止まりならば相談に乗るくらいならわけがない。
「それに良いのか? これ以上勝ち進んだら―――愛し合える時間が少なくなるぞ」
「「え?」」
「考えてもみろ。この後は各ブロックから勝利した奴らと戦うから時間がかかる。場合によっては決勝戦まで試合がないし、その間機体の調整とかその他諸々しなければならない」
「………そうね。でも専用機持ちが跋扈する中で優勝するというのは名誉のことなのよ!」
「そうか。お前の覚悟、しかと受け取った」
そいつらの上からミサイルが降り注ぐが、流石はブロックの決勝まできた奴ら。素早く反応して離脱した―――だが、忍ぶ経験はうちの相棒よりも明らかに少ない。
ミサイルを発射した簪は同時に移動していて、片方のラファール・リヴァイヴの翼を文字通り荷電粒子砲で破壊した。確か、マイって奴じゃなかったか?
「くっ!?」
「マイ―――!?」
後頭部に銃を当てられたからか、ユイって奴は固まった。
「よし、良い子だ………惨たらしく絶命しろ」
「え!? ちょっ、ま―――」
まさかフルオートタイプを向けられたとは思うまい。
連続で後頭部に弾丸をぶつけ、シールドエネルギーを一気に消耗させる。
「ユイ!?」
「おっと、足元注意だ」
「え?」
ま、それはブラフだけどな。
上からのミサイルの反応を遅らせる。だが反射神経は良いようですぐに離脱したマイって奴はは荷電粒子砲の餌食になった。
『両者、シールドエネルギー0。勝者、夜塚透 更識簪ペア』
俺たちはハイタッチしてレズコンビに言ってやる。
「まぁ、人には好き嫌いはあるからとやかく言うつもりはないが………男は嫌いでもちゃんと接してやれよ。セクハラしてくる奴なら首の骨は折って良いから」
「………それは………犯罪………」
いやいや、嫌いな事をされる奴に対しては何をやっても合法だ。
色々あったがなんとか決勝トーナメントに勝ち進んだが、俺にしては予定調和。………とはいえ、俺には1つ疑問があった。
(………いつ、一次移行がされるんだ……)
いくら何でも遅すぎるだろ。もう1か月近くになるぞ。
一体何が原因か調べても全くわからない。今の時期に分解は流石に不味いしな。学年別トーナメントが終わるまで待つしかないか。
ちなみに今は各ブロックを勝ち上がった奴らが集まっている。Aブロックから織斑とボーデヴィッヒのペア。Bブロックからは篠ノ之と……たぶん1組の奴。そしてもちろんCブロックからは俺たちが勝ち上がった。
「ではこれより、学年別トーナメント1年の部の抽選を行う。知っての通り、3組の内1組のみがそのまま決勝に進出できる」
織斑先生がそう説明する。とはいえ、誰が来ようが問題ない。
「ではこれより、代表者3名。用意したボタンを選んで押してくれ」
早押しクイズとか使われているボタンが机の上に置かれているが、それが理由だったようだ。
「……ふん」
鼻を鳴らしてボーデヴィッヒは適当にボタンを取る。その後に俺に遠慮しながら篠ノ之が取った。
残った奴は俺が。時間差はあったが、一斉にボタンを押すとモニターが点いてトーナメント表が作成された。
「決まったな。自動的に決勝に進出したのは織斑・ボーデヴィッヒ組。後の2組のどちらか勝った方と戦うことになる」
ということで、俺は篠ノ之とか。
篠ノ之の相方が不安そうだが、付き合っている日数が違うため篠ノ之は俺の所に近付いてきた。
「………よろしくな」
「ああ。遠慮なく倒させてもらうぜ」
そう言って俺たちは握手をしたが、篠ノ之はどこか罰の悪そうな顔をしていた。
■■■
箒はあの日―――一夏が透をシャルルの事で殴った時から迷っていた。
透の言い分は正しい。だけどそれを肯定してしまったら一夏に嫌われてしまうのではないかと怯えている。だからあの場で一夏を選んだが、少しそのことを後悔していた。何故なら彼女にとって透は友人であり、兄のような存在だと思っているからだ。
箒の姉はかなり特殊な性格をしている。さらに頭が良く10代にしてISを完成させた天才だ。だが彼女がISコアを全て排出させた後、行方を眩ませたことで箒は日本政府の男性役員から厳しい尋問をされた。それに含めて彼女の独特な話し方が男子受けしなかったことで弄られることが多く、次第に男性に対して嫌悪感を持ち始めた。―――が、透は別だった。
箒ははじめ、透のことを軽蔑すらしていた。だが次第に面積は縮小していき、教え方も上手く、何より自分に対して分け隔てなく接してくれる。それだけでなく頭脳明晰で当てられた問題は難なく答える。ある意味、姉が常識を身に着けて手術をした感覚を味わっていた。
そんな透と自分の思い人である一夏がとある事情から喧嘩を始め、それ以後疎遠になっていることに箒は寂しさを感じていた。
(………私は……)
そんな思いを抱えたまま、箒は試合に臨んだ。
■■■
俺の中のイメージでは、抽選の後は仕切り直しを含めて後日に試合を行うイメージがあるが、ISはそうもいかないらしい。役人共に気を遣っているという理由なら「じゃあ帰らせろよあんなゴミ共」と言いたいくらいだ。
「………大丈夫?」
簪が俺を気遣って声をかけてくれる。俺は簪を引き寄せて頭を撫でた。
「………恥ずかしい」
「気にするな。俺は気にしない」
「……………続きは家で」
「しないからな?」
まぁあれだ。栄養補給だ。だって近付いただけで良い匂いするんだよ。仕方ないネ。
「さて、行くか」
荒鋼を展開して外に出ると、既に篠ノ之とその相方がいた。
「待たせたな」
「……………ああ」
……これはちょっと様子がおかしいな。
俺はすぐに簪に連絡し、作戦の変更を指示した。
試合が始まり、簪には相方の方の相手をしてもらう。そして俺は篠ノ之だ。
「夜塚……」
「篠ノ之………お前……」
どうやら今の篠ノ之には躊躇いがあるようだ。今の成長具合を見たかったが―――あ、そうだ。
―――モニュ
ふむ。こっちは良い成長をしているようだ。これが今年16になる女の乳とは思えない。
「………な………お……な……」
「甘いな。この俺に簡単に胸を揉まれるとは。いくら剣道の全国大会で優勝しているとは、まだまだだね」
胸を揉んで正気に戻す。俺の評価などとっくの昔に地に落ちているからこういうことは平然とできるわけだ。
「殺す! もう許すさんぞ貴様!!」
「おう、来い。俺は織斑じゃないんだ。テメェが剣道経験者だろうが武道の達人だろうが問題ねぇ。かかって来いよ」
手招きをしてやると、怒りを見せて篠ノ之が攻撃してくる。とはいえ、挑発に簡単に乗るのは―――
「お兄ちゃんは、少し悲しいよ。箒ちゃんの胸ばかり成長して肝心の頭は全く成長していないなんて!!」
「今すぐその口調を止めろ!!」
本気で嫌がる篠ノ之。……経験上、これ以上は止めておいた方がいいな。
とはいえ珍しく篠ノ之が悩んでいるのも確かだ。ここは1つ解消しておくか。……心辺りもあるしな。
「篠ノ之、お前が何を理由で悩んでいるか知らないが………どうせ下らないことだ」
「なっ!?」
やっぱりな。
少なくともそれは俺と織斑に関係すること。織斑にしてみれば俺のやったことはまさしく気に入らない事だろう。奴の性格上、姉の評価を上げるためか。それでも可能性は20%程度。まずないと思うが、本気でデュノアを助けようと思ったかだろうな。………織斑の性格上だとこっちの方が可能性が高いな。いや、マジで。
「く、下らないとは何だ!? 私はお前たちのことを―――」
「別に案じなくてもいいさ。仮に俺に彼女がいて、それがお前の親友で、一時期俺とお前が一緒にいて浮気していると勘違いして説明しても話を聞いてくれないならともかく、所詮俺と織斑は同性。俺はお前の胸に触った通り女に興味はあるからいずれ織斑と袂を分かつ時が来る。所詮、今の時代において同性愛をしていること自体が無駄な時間なんだからな」
少子高齢化なんだし、これまで女たちは好き勝手してきたんだからそろそろ働けと言う意味だ。傍から見れば美人同士ならば興奮するしな。興奮するしな!
「良いか篠ノ之。今の俺は改造に改造を重ねたんだから考えながら戦えるほど弱くねえ! 俺に遠慮しているんだったら同性ですら嫉妬するその豊満なおっぱいをもっと触らせろ! 話はそれからだ!」
「………そうだな。………確かに私は馬鹿だったようだ」
真剣になった篠ノ之。うん。これでまともに戦える。
「ところで夜塚、本当に良いのか?」
「もちろんだ。そしてお前のおっぱいを―――」
「政府の人間や各企業の代表者に変態という称号を与えられても」
…………ああ、そういうことか。
「気にするな。例えそう思われようが俺は気にしない」
「いや、気にした方が良いだろ!?」
「…………まぁ、確かにそうだな」
冷静に考えてみれば問題が1つ発生する。
「確かに篠ノ之相手におっぱいを連呼したら、俺がただの巨乳好きだと勘違いされる」
「…………違うのか?」
「馬鹿かお前は! 例え俺は好きな女の子がデカパイだろうがチッパイだろうが興奮できるし1日で孕ませる」
「その発言は控えろ!!」
「それはともかくだ、篠ノ之。俺の相方がそろそろやばい」
「何?」
瞬間、ミサイルと荷電粒子砲が放たれた。
俺はすぐに移動して篠ノ之を盾に使おうとするが、当たったのは荷電粒子砲と切ったミサイルの爆炎ぐらいだろう。何気に凄いな、篠ノ之。
「…………フフフ」
「……さらば篠ノ之。来世でまた一緒に馬鹿をやろう」
「ふざけるな! 何故私が殺されなければならない!?」
「えっと、お前が巨乳だから?」
「それこそふざけるな!!」
あー、でも簪は戦闘態勢に入っているし……しかも、篠ノ之の相方は体育座りで震えているし。
「………良かった……私……生きてる……生きてるんだ………良かった……」
あー、これはガチでヤバかったんだなー。
と、この時は同情していたが、まさかこの後にあんな珍事件に発展するとは俺は全く思っていなかった。
「もしアニメとかでタイトルが流れたら、「さらば箒! 剣術娘、大会に散る!」みたいな感じ―――!!」
ヤバい。場所はわからないが地味に俺も狙われている。おそらく楯無か。
「前門の虎に後門の狼か。今の武装で迎撃できるかどうか………」
「それは違うだろう!?」
「いや、間違っていない。俺はたぶん、この試合が終わったら誰かに殺される。………嫉妬とかで」
「ろくな死に方ではないのは確かだな」
とはいえ、ここは篠ノ之を売る方が賢明だろうな。
「ほーら簪ぃ~ここに君の獲物がいるよぉ~」
「…………」
―――(*^-^*)
静かな、笑みだった。
彼女は笑みを浮かべながらミサイルを―――俺に飛ばした。幸い、篠ノ之という盾を持っていたのでそれを守ったが………今日は悪夢を見そうだと思った。