IS-Lost/Load-   作:reizen

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ep.23 それでも彼は静寂を貫く

 気が付いた俺は、どこか暗い場所にいた。

 最初は状況がわからないし、何故か織斑がいてボーデヴィッヒと息は合ってないが俺に攻撃してくる。しかし何故か俺にダメージも、そして衝撃もなかった。

 

「ここは、所謂あなたの精神世界」

 

 突然声が聞こえた。………初めて味わったが意外と怖いものだ。いや、そもそも突然声をかけられること自体に恐怖を持ってしまう。

 にしても、俺の精神世界か。

 

「認めたくないものだな。俺の世界がここまで黒いとは」

「と言っても、本当はあなたを媒介にして発動したVTシステムの中だからそうでも―――ないわね。あなたの思考って超が付くほどどす黒いし。純粋に見えて、どす黒いし」

「別にそれ言う必要なくね?」

 

 本当は気付いていたけどさ! だって織斑に殴られることは計算に入っていたし!

 

 ―――どうしてなんだよ!?

 

 また声だ。………いや、このまだ変声期が来ていない声はもしかして―――

 

 ―――何で女性優遇制度なんて取り入れたんだ!!

 

 はい、俺でした。まさか10年前のことを見せられるなんて思わなかったぞおい。

 まさかの事に少し驚きながら、この会話をある時の事だと思い出す。

 

 ―――お前が知ることではない。子どもが政治に口出しするな

 ―――その未来を予想できず、目先の事しか考えられない政治をするのが大人のすることかよ!!

 

 この時俺はある意味では自惚れていた。テストは勉強せずとも満点しか叩き出さず、昔は気付かなかったがよくよく振り返れば俺も大して未来を見据えていない。

 

 ―――いや、これは別か

 

 そもそもあの時、俺は明らかに未来を、そして歴史を見ていた。

 理解度が他の奴らとは一線を画していた俺は過去の日本の歴史を調べていた。そこで知ったのが過去の日本―――当時男女平等だった前は男尊女卑というものが存在していたことを。

 だがそれはある意味では当然………いや、合理的だと思った。それはもちろん、男女の個体の差と役割からだ。

 永久に家庭に入れと言う主義ではないけれど、とはいえ女性は妊娠してしまえば身体の自由が利かなくなる。敢えて悪い言い方をすると、子どもという「重り」を文字通り持つことになる。さらに調べたら出産時にはかなりの体力を消費させるし、出産後は体力回復に努めるのに時間がかかる。差別は良くないと言うが、そういう観点で確かに女性を雇うコストはかかり過ぎると言うのはある。

 そしてISは、女性しか乗れない。結婚すれば女性はISから離れる。空きができるし、ISが女性にしか動かせない以上、彼女らはその力と権力を行使して男を攻める可能性もあった。……実際そうなったけど。

 

「で、何で今更こんなものを見せられているんだ?」

「中々興味深いと思ってね。私が知る天才みたいで」

「……………………まぁ、なんとなく誰かわかっちまった」

 

 つまり、未だに姿を現さない奴は俺の反応を見ているという事か。

 

 ―――その程度か?

 

 まだあるのかよ!?

 とか思いながら見ると、どうやらあの騒動から3年後みたいだな。脳震盪を起こしているため高校生が倒れている。倒したのは小学生の俺だ。

 3年後、ISのコア数は劇的に増えた。この頃ではすでに300個はあったはずだ。この時はまだ本家にいたからそういう情報は手に入った。

 

 ―――テメェ、分家の分際で何してんだ!?

 ―――その分家の人間にやられるなんて、本家は生温いんだな

 

 やはり過去の俺を見るのはかなり恥ずかしいな。この時も既に中二病が入っているのか?

 

「あー、もう! 人の黒歴史を掘り返すな! というかそれよりもだ!」

「何かしら?」

「俺にデータを取らせろ」

 

 そう言って俺はこれが何かわからないまま、操作を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなり殴られた俺はそのまま倒れた。褒めるべきところはISをちゃんと解除したことだろう。というか、そろそろ殴ってもいい気がする。

 

「織斑君、一体どういうつもり?」

「どうもこうもねえ! 透、俺はお前を殴らないと気が済まねえ!」

「………………そんなことよりも、だ」

 

 織斑に殴られたことで俺は見逃しがたい穴を見つけてしまった。

 

「………あれは何だ?」

「何だって、穴だろ!?」

「………そうじゃないが、何でお前がここにいる? まさかと思うんだけどあそこの穴を開けたのって―――」

「俺だけど、それがどうしたんだよ! 良いから殴らせろ!!」

 

 近づいて来る織斑に対して俺は殴り飛ばそうと考えた。要はカウンターである。

 後数歩近付くのを待っていると、突然後ろから声が響いた。

 

「そこまでにしろ! 双方動くな!!」

 

 聞くだけでムカつく声。すると教員たちが俺と楯無を囲んだ。

 

「どういうつもりですか?」

「どうもこうも、ただ犯罪者を捕まえるだけよ」

「更識さん、今すぐ退いてください」

 

 俺のためか一度ISを解除していた楯無は再び展開する。

 

「お断りします」

「ですが彼が禁忌のシステムを発動させたのは明白。彼を捕らえるのは道理ですよ」

「だからと言ってISを向けるんですか」

 

 教員たちと激しい剣幕で会話をする楯無。周りを見て徐々に隔壁が閉まっているのを確認する。どうやら彼女らは俺たちと戦う気の様だ。

 

「―――更識、武装を解け」

「お断りします」

 

 織斑千冬が現れたが、むしろそれで楯無の警戒心が増した気がした。

 

「今、夜塚に違法システムの持ち込み容疑がかかっていると言っても、か」

「ならばそれよりも先にそこの2人を処罰するべきでしょう? お気持ちはわかりますが公私混同は避けてくれませんかね」

 

 平然と立っているが、俺は正直2人が別次元にいる気がした。それほどまで2人が放っている殺気が凄いです。

 

「いつ私が公私混同した、と?」

「これまでずっとしていましたよね? それとも自覚がないんですか? だとしたらまず精神科に行くことを勧めますが?」

「―――おい貴様」

 

 ボーデヴィッヒが戦闘態勢を取る。大型レールカノンが楯無に向けられたが、楯無は平然としていた。

 

「………あー、そろそろ良い―――」

 

 俺が口を開くとボーデヴィッヒが俺に狙いを付けた。

 

「ボーデヴィッヒ」

「教官、あの者を捕らえるのは私にお任せを。私も是非知りたいですので」

「下がれ。お前ではあの女には勝てん」

「ですが!」

「二度も言わせるな」

「……………わかりました」

 

 というか完全に俺を連れて行くこと決まっているみたいだな。こっちの意見も是非聞いてほしいんだけど。

 

『……あの、夜塚君』

 

 個人間秘匿通信か。作戦会議ってわけか。

 ついでにハイパーセンサーを起動させると、荒鋼は戦えない状態だった。

 

『私があなたがしたって証拠を見つける。だからお願い。少しの間だけど―――』

『今日中に終わらなければ1日ごとにキス1回。俺の退学が確定したら孕ませる。それでOK?』

『絶対に見つけるわ』

 

 さて、それなら俺は条件を受け入れるか。

 

「このままじゃ埒が明かないな。良いぜ。今回だけ少しの間だが言う事を聞いてやる―――が、2つほど条件がある」

「今の貴様はそんな場合ではない」

「相変わらず頭が固いな。そんなんだから男にモテないんだよ。なぁに。この状況じゃもう下準備は外側だけだ。少しの間だけISを装備している奴らをここに残してほしい」

 

 そう言いながら、同時に布仏本音にある確認をした。どうやら大丈夫の様だ。

 

「何を企んでいる?」

「何も? だが本当のことを言ったって今のアンタじゃ俺の頼みは何も聞かなさそうだしな。せっかく大人しく話を聞いてやるんだ。教師をしばらくここに待機させることぐらいしてくれたっていいじゃん」

「……………まぁ、良いだろう。ということだ。すまないがここで待機してくれ」

 

 訓練機を着けている奴らは頷き、俺たちはフィールド内から出た。

 

「簪」

『了解』

 

 悪いが今の俺じゃできないし、代わりに利用させてもらおっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全くもってふざけていた。

 会議の内容はほとんど夜塚透を否定するものだった。

 

(………やれやれ。まったくもって茶番だな)

 

 その会議に参加をしていた唯一の男である轡木十蔵は温かい目で見ていたが、内心すべてを見下していた。

 

「ですから、今すぐ夜塚透は退学させて研究所に送るべきです! あのような犯罪者をこの学園にのさばらせるわけにはいきません!!」

「犯罪者、ですか………」

 

 そして彼女の妻である轡木菊代もまた、夫と同様に頭を抱えていた。

 普通に考えて透が禁忌とされているVTシステムを自ら望んで使用したと考えにくい。だが、彼女らはそうだと決めつけている。いや、彼女らにとって「夜塚 透」という後ろ盾が存在しない男というものは都合が良いのだ。もし織斑一夏に同じような事をした場合、間違いなく織斑千冬が黙っていない。

 

「…………あのー」

「何?」

 

 生徒会の代表として出席している本音が机に突っ伏しつつ手をゆっくりと挙げる。

 

「しょうじき~時間の無駄なので~堂々巡りは止めませんか~」

 

 その発言が教師たちを刺激する。それは本音自身もわかっていること。敢えて言ったのである。

 

「どういうことよ~」

「私はずっと見てましたけど~どっちかというと~本人も起動したことに驚いていた様子でしたよ~。それに~私はずっと気になっていたんですけど~どうして織斑先生の処分の話が先に出ないんですか~?」

「「「…………は?」」」

 

 唐突の質問に全員が目を点にした。

 

「な、何で……? どうして織斑先生の処分の話が……」

「だって~おりむー……織斑君は教室で夜塚君を殴ってますし~騒動の渦中であるボーデヴィッヒさんは停戦の呼びかけに答えずに一方的に攻撃したんですから~家族や指導者だった彼女を処分するのは当然じゃないですかね~」

 

 一瞬にして場が凍り付いた。よりにもよって本音は千冬を敵に回したのだ。

 

「あ、あなた、何を言っているのよ………」

「別に間違ってませんよね~。ね? 織斑せんせ」

 

 本音にとって織斑千冬は憧れの的ではない。元々彼女は大主人である楯無がIS学園にいて、幼馴染であり担当の主である簪がIS学園に入学するというから来ただけだ。ISの知識はいず役立つだろうからと勉強しただけで元々興味はない。それに、1組に所属した彼女は織斑千冬にある意味幻滅していた。

 

 ―――もっとも、この行動はすべて時間稼ぎだが

 

 職員室のドアが開かれ、生徒会長である楯無と副会長と会計を担当する虚が入ってくる。

 

「遅れてすみません。ですが、ある証拠をつかみました」

「………証拠ですか?」

「はい。そしてこの証拠が、彼の無実を証明します」

 

 楯無と虚はすぐに小型端末にケーブルを接続してデータを送る。

 騒動が終わった後、彼女らは菊代にすぐに職員会議を開くようにお願いしてアリーナの復旧作業に紛れてデータを洗っていた。その作業は主にシステムの復旧作業に時間を取られており、作業時間は3時間に及んでいた。

 投影型ディスプレイにラウラと透の戦闘―――というのはあまりにも一方的で、透は防戦を強いられていた。だがある時反撃し、その所で虚は動画を一度止めてシュヴァルツェア・レーゲンの装甲を抉る荒鋼のクローを拡大し、スロー再生した。

 

「………これが何か?」

 

 虚はさっきまで騒いでいた教員の言葉を無視して、透が抉り取った何かを捨てるところまで再生し、クローから破片よりも大きい物が落ちたところで動画を止めて左下の隅に移動させ、今度は別の動画を再生した。

 

「これは?」

「これがおそらく、VTシステムの核です。ちゃんと調べる時間はありませんでしたが、この映像からわかるように夜塚君に向かって何かが飛んでいます」

 

 虚の説明に全員が黙る。そう、全員がわかった。わかってしまったのだ。

 

「これでわかりましたよね。織斑先生、もし私たちが離れている間に夜塚君に罰則をさせているならば今すぐ撤回して彼に謝罪してください」

 

 楯無は千冬に怯むことなくそう言った。

 

「わかった。今、夜塚は取り調べをさせている。今すぐ止めるように言おう」

 

 千冬は電話をして止めるように言ったが、楯無は受話器から聞こえてくる声から相手が誰か予測してすぐに取調室に移動する。無情にもその予想は当たった。

 透の身体は暮桜の中から出てきた時点でボロボロだった。元々一夏に殴られており、VTシステムは透の肉体に多大な負荷をかけてる。そして、開放された透の身体は所々腫れていた。

 

「夜塚君!?」

「………これは一体……」

 

 楯無はすぐに取調べをしていた教師に《蒼流旋》を向けるが、それを透が止めた。

 

「………止めろ」

「夜塚君……どうして……」

「ちょっとな」

 

 いつもと違って笑顔だが元気がない。透は楯無の肩を掴むが手を滑らせて廊下に倒れ、緊急入院を余儀なくされた。


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