IS-Lost/Load-   作:reizen

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ep.22 訪れる異変

 やはり盾にブレードは仕込んでおくべきだな、と思いながら帰ってきたシールドを受け止める。

 

「やはり出てきたか。予想よりも遅かったな」

「俺はどこかのアホと違って空気を読むことができるのだよ」

 

 そうじゃなかったら明確な負けの部分で出て来たりしない。

 2人の機体は既にボロボロ。ISだからこそ生きているが、普通ならとっくの昔に死んでいる。

 

「で、一体何が原因で―――」

 

 ―――ガンッ!!

 

 咄嗟にシールドでビーム手刀を防いだ。………って、削れてる削れてる。

 

「おいおい。俺は戦いに来たんじゃないんだ―――が!」

 

 少し力を緩めて思いっきり入れて吹き飛ばした。だが、ボーデヴィッヒは瞬時加速で俺の側面に入って砲弾を放つ。至近距離とか虐めである。するかしないかと聞かれれば俺もするけど。

 

「お前、本当に人間か?」

「!? ………だったら……何だ!!」

 

 妙な間があったが、気にせずに後ろを取られないように立ち回る。

 

「攻撃をしたらどうだ! この臆病者が!!」

 

 そう叫びながら、さっき俺が壊したもの以外のインコ……もとい、《ワイヤーブレード》が射出される。どうやら斬る、もしくは突くの動作はできるようだが、それだけらしい。ボーデヴィッヒ自身が操っているのかどうか気になるが、相手の練度が高いのでそうも言ってられない。

 

「悪いが、俺は、戦う気、ないんだっての!」

 

 攻撃を続けて回避するが、これをできるのは息抜きにアニメを見続けた結果だろう。予備知識は本当に大事だ。大事だが、やはり実戦では苦労するな。

 

「そうか。ならば、まずはそいつらから消してやろう」

 

 すぐさま俺は簪の前に移動する。咄嗟だったので砲弾をまともに食らったが、すぐに体勢を立て直した。

 

「ほう。随分と復帰が早いな」

「伊達に3年間も不良校にいたわけじゃねえんだよ」

 

 不良たちにとって勉強をする俺は目障りだったようで幾度も妨害にあった。そのたびに攻撃を加えられるなら立ち回り方法ぐらいは覚える。とはいえ……今ので庇った左腕の装甲は使い物にならなくなった。

 

「そのような弱者を守るとはな。ヒーロー気取りは織斑一夏だけかと思ったが、どうやら貴様もそのようだな」

「人として当然のことをしただけだがな。………で、どういう神経してんだよ、お前は」

 

 オルコットと凰のISは既に限界が来ていたからとっくに解除されている。簪にはその2人の救助をしてもらったが、こいつは躊躇いなく撃ったのだ。

 

「どうもこうも、貴様がとっとと仕掛けてこないからだろう?」

「……………そうか。そうかそうか。………OK、わかった」

 

 流石に今のは許せるものじゃない。とはいえこっちもダメージを受けているので派手に動けない。では織斑千冬に頼むか? どうせ適当に終わらせるのが目に見える。

 ならばどうするか? 簡単だ。向こうの手に乗ってやる。

 

「挑発に乗るのは俺の主義に反するが、仕方ない。相手をしてやるよ―――」

「最初からそう言え」

「―――とでも言うと思ったのか?」

 

 途端にボーデヴィッヒの目は点になった。

 

「……なん……だと……」

「何で技術者が戦場に立って戦わないといけないんだよ。ごめんこうむる。するなら俺とじゃなくて戦闘狂としてこい」

「貴様はなんとも思わないのか!? 仮にも仲間が傷つけられたのだぞ?!」

 

 やはり織斑関係者か。とんでもない馬鹿としか言いようがない。

 俺はため息を吐いて驚くボーデヴィッヒに言ってやった。

 

「…………………で?」

 

 ボーデヴィッヒもさぞ予想外だっただろう。友人を傷つけられたのにも関わらず無関心を貫く男が存在するなんて。

 

「悪いがな。俺はそう言った下らないことには興味がない。友人や家族が殺されたから連鎖的にそいつを殺すのか? お前はどこの猿だ?」

「…………ふ、ふざけるな!! それでも貴様は人間か!?」

 

 そんな愚問を俺に投げかけるなよ。

 

「ならば覚えておくんだな、ボーデヴィッヒ。世の中には俺のような人間も存在する。まぁ、ミジンコ脳のお前には理解できないことだろうがな」

「………この、クズ野郎が!!」

 

 瞬時加速で俺との距離を詰めるボーデヴィッヒ。俺はそれに合わせて機体を回転させて左手首に仕込んでいる爪を出して「シュヴァルツェア・レーゲン」の左脚部を攻撃した。スラスターを壊すまでには至らなかったようだ。

 

「死ね!!」

 

 ようやくボーデヴィッヒが多用している近接兵装の情報がこっちに来た。どうやら《プラズマ手刀》というらしいが、プラズマ粒子を展開してビームサーベルのような感じに鋼鉄を切るために作られたものだろう。切れ味はビームよりも良さそうである。

 

「言語繋がりだ。食らっとけ」

 

 ボーデヴィッヒの背後を取る感じで地面に出していたクレイモアを発射させるがAICによって停止された。ならば次のプランを実行するまで。瞬時加速で接近してくるボーデヴィッヒをやり過ごそうとするが、予想以上に速い接近で攻撃をまともに食らった。

 

(やばっ―――)

 

 ボーデヴィッヒと俺の実力は雲泥の差。この戦いは1つでもはまればそれで終わりだ。

 すぐさま《ワイヤーブレード》に捕まった俺は引き寄せられてタコ殴りにあって最後に蹴られた。股間が蹴られそうになったがなんとか足で受け止める。

 

(………んのガキ!)

 

 なんて恐ろしいことを平然としてくるんだ。少し、いやかなり驚いたぞおい。

 

「これで止めだ!!」

 

 装甲はまだほとんど残っている。ダメージレベルはAだしまだ簪の相手はできる。

 内心安心していると、ボーデヴィッヒは砲弾を俺に飛ばして俺の顔面にぶつけた。

 

(シールドエネルギーほとんど残っている。これならまだ―――)

 

 上空に黒い影を察知した俺は両腕を交差して攻撃を受け止めた瞬間、何かおぞましい感覚が俺の中を駆け巡った。

 

 ―――力が欲しいか

 

 突然の言葉、だがそれは低音ということもあってボーデヴィッヒからではないと直感でわかった。

 

「………どいつもこいつも………」

 

 ―――うるさい

 

 ボーデヴィッヒを吹き飛ばそうとするが、身体全てが動かない。AICだ。

 

「死ね!!」

 

 至近距離の砲弾を食らい、俺は意識を手放しかけた。

 それでもかなりのダメージはあったようで、身体が言う事を聞かずにそのまま倒れてしまう。

 

「………んの……アマ……」

「まだしゃべれるか、ゴミが」

 

 またレールカノンを俺に向けるボーデヴィッヒ。その瞬間、また男の声が俺の頭に響いた。

 

 ―――時は満ちた

 

 そして俺はあまりの激痛に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 透は思わず叫ぶ。その様子に誰もが驚きを隠せなかった。そしてそれはラウラも含まれている。彼女はレールカノンを透に向けはしてが、まだ撃ってないのだ。

 

(………一体何が起こっているというのだ……?)

 

 すべてのISには絶対防御というものが備わっている。ある意味では究極の欠陥品とも言える白式ですら搭載されており、透が駆る荒鋼にも間違いなくある。そうじゃなければラウラの猛攻でとっくにいくつかの部位が吹き飛んでいるだろう。

 その絶対防御のおかげで痛みが衝撃はあれど本来負うはずのものは軽減されており、少なくとも透が叫ぶような激痛が走ることはない。

 誰もが突然の叫びに呆然としていると、透が急に何かに覆われた。球体となったそれはまるで花弁が腐れ散るように落ちて行き、ISに興味を持った者ならば間違いなく1度は見る。

 

「嘘……あれって……」

「でもどうして……?」

 

 ―――暮桜

 

 かつて織斑千冬が日本代表だった時、様々な試合で使っていたISで、誰もが知る名機の1つ。そして千冬が乗る姿でそれが再現された。

 

「………なんだよ……それ……」

 

 観客席にいた一夏がそう呟く。箒は声をかけようとした瞬間、一夏は白式を展開して観客席を守るバリアを破壊してフィールドの中に入った。

 

「テメェエエエエエエッッッ!!」

 

 瞬時加速をすると同時に零落白夜を発動して暮桜となった透を斬ろうとする一夏。だが暮桜は下段から斬り上げて怯んだ一夏を上段から斬り倒す。それでもなお一夏は止まらずに突っ込んだ。

 

「………まさか、こんなところで気が合うとはな」

 

 そう呟いたラウラも一夏を援護はしないが参戦し、暮桜を攻撃し始めた。だが、今の透は完全に千冬の動きをトレースしており、2人の攻撃を容易く捌く。

 

「………許さねえ。どういうつもりだ、透!!」

 

 一夏の攻撃は回避され、続いて仕掛けるラウラの砲弾も回避し一夏を吹き飛ばす。その攻防が数分経ったところで数機のISがフィールド内に現れた。学園の鎮圧部隊である。もしこの状況を透が見ていたら意味の無い激怒をしているだろうが、生憎そんな状況ではなかった。そして一夏もラウラも気にせず攻撃を仕掛ける。

 

「そこの生徒、今すぐ離れなさい。この場は私たちが収めます」

「これは俺のやるべきことなんだ! 下がってくれ!」

「失せろ。邪魔だ」

 

 その言葉に苦い顔をする教員たち。するとまるで言葉を理解したかのように暮桜は動きを変えた。

 暮桜は一夏に接近し、ブレードを振り下ろす。

 

「これは………千冬姉の技じゃない!?」

「何? まさか―――」

 

 ラウラが言う前に暮桜は答えを出すかのように銃を出して一夏に撃つ。その行動に2人は驚きを隠せなかった。

 

「この―――」

 

 ラウラは動きを止めようとAICを発動するが、停止するよりも早くその場から移動した暮桜は一夏に接近して千冬の剣技を繰り出す。一夏は吹き飛ばされたがすぐに体勢を立て直して攻めようとした瞬間、文字通り横槍を入れられて吹き飛ばされた。

 

「―――そこまでよ」

「だ、誰だアンタは!?」

「退け!!」

 

 突然現れた第三者を避けてラウラは暮桜に接近するが、その第三者が飛ばした水圧が高い水によって違う方向に飛ばされた。

 

「貴様、さっきから何をする!?」

「2人共、今すぐ戻りなさい」

「待ってくれ! これは俺が―――」

 

 第三者―――もとい、更識楯無は《蒼流旋》を一夏に向ける。

 

「俺が、何?」

「こいつは俺が倒したいんだ! 邪魔しないでくれ!」

「………そう。それだけ?」

「……そうだ」

「じゃあ、とっとと戻りなさい。邪魔だから」

 

 そう言った楯無は迫る凶刃をいなして清き熱情(クリア・パッション)を使用して怯ませる。しかし暮桜が硬直したのはほんの数秒であり、瞬時加速で楯無に接近した。とはいえ楯無も国家代表である相応の実力を持っている。簡単に凶刃をいなして蛇腹剣《ラスティ・ネイル》で斬った。

 

(流石は織斑先生のコピー。一筋縄で行かないわね)

 

 とはいえ残っている生徒がいなくなれば、後は彼女と暮桜の一騎打ちになる―――はずだったが、

 

「そこをどけ!!」

 

 瞬時加速で接近して接近戦をしようとするラウラ。それはある意味無謀とも言えた。

 相手は中に透が入っているとはいえ千冬のコピー。近接での勝ち目はとても薄い。ラウラもそれは理解している。

 ラウラは迫る暮桜をAICで停止させて至近距離から砲弾を放つ。流石にそれは考え付かなかったのか暮桜はまともに食らった。

 

「まだだ!!」

 

 ガトリング砲を展開して連続で当てようとした瞬間、暮桜はまた爆発する。楯無の援護だ。

 

「余計なことを―――」

「危ない!!」

 

 ラウラが楯無の方に視線を向けた瞬間、暮桜はラウラに接近して凶刃を振り下ろそうとした―――が、突然まるで電源が急に切られたロボットのようにその場に停止したかと思えば両肩がその場に落下して右膝を着く。そして、背中から突然右手が勢いよく飛び出した。

 

「……な、何だ………」

「………まさか……」

 

 楯無はゆっくりと近付く。そして左手を出したそれは顔を勢いよく飛び出させた。

 

「ふー………やっと出れた。あれ? 楯無? まさかまたサボり?」

「違うわよ! 今回はちゃんと虚ちゃんから許可をもらってるわ!」

「へー………っていうかここ高いな」

 

 5mはある場所から地面を見下ろす透。遊びも程ほどにしようと思ったのか、暮桜だったものの背中を滑って着地した。

 

「…………ねぇ、夜塚君」

「何だ? 土産はねえぞ」

「それは良いんだけど……痩せた?」

 

 楯無の指摘通り、確かに透は痩せていた。……いや、元々脂肪は少なくなっていたが、どちらかというと俗に言う「ゴリマッチョ」タイプだったのであるが、今は完全な「ガリマッチョ」である。……マッチョかどうかは定かではないが、とにかく痩せていた。

 

「…………ふむふむ。つまりこれは……?」

「これは?」

「「お前はもうたくさん苦労したんだから、女を全員虜にして1000人は子どもを作れ」っていう神の啓示、か」

「まだ20に満たないのに何言ってるのよ!? というか桁! 桁がおかし過ぎるわよ!!」

 

 楯無の鋭いツッコミが炸裂する中、その横を通り過ぎた一夏は透に向けて拳を突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、とある家のパソコンがひとりでに起動してファイルをダウンロードし始める。

 そのファイルには「VTS」というタイトルが付けられ、パソコンはまたひとりでに終了した。




透が投げたシールドは円形の盾にチャクラムが付いたものと思ってくだされば。
まぁ、「壊した」というより「斬った」もしくは「遮断した」が正しいですけどね。

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