俺は他の生徒との衝突を避けるために、様々なことを要求した。
まず1つ、俺の部屋をIS学園専用の寮ではなく、外に大きめの家を作ってもらうことだ。素材はもちろんIS学園の寮と同じ素材を使用してもらっている。聞けばIS学園の施設は複合素材を使ってテロなどが起こった時にそう簡単に崩れないように設計されているとか。敢えて別個に作ってもらうことにより、俺の欲情とあらぬ疑いをかけられることを回避するためだ。そして敢えて大きめに作ってもらったのは、今後のことを考えてだ。
一般的には1LDKかな。そこに俺でも足を伸ばせる風呂や広めのキッチンをお願いした。後、隣には車とバイク、そしてISを整備できるほどの大きいガレージだ。地下にはシェルターが用意されていて、いざという時はすべて移動させることができる。当然人用のシェルターも準備されている。当然だがインターネット回線はIS学園専用回線を使用されていて無料だ。
そんな隣の寮並みに頑丈で高機能な家が建つのに3週間もかからないこともあったが、予め男が住むと知ってか沢山の郵便物がある。……はたまた、壁などに落書きされているか。だとしたらIS学園の生徒の思考は不良程度と言わせてもらう他ない。
(………ま、流石にそれはないか)
郵便物が来てないか確認するまでもなく空。手紙がぽつんと置かれている可能性もあると思ったけどなかった。
門を通ってドアを開ける。カードキーじゃなくて普通の鍵だけど、この鍵は特殊で認証されていない鍵だと開けれないものだ。主に老人たちのような変化に追いて行けない人たちのために作られたものらしい。
「―――おかえりなさい。ごはんにする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」
「……………」
クールになろう、夜塚透。
帰ってきたら裸エプロンの女性……いや、たぶんIS学園の生徒かもしれない。そんな女の子が裸エプロンでお出迎え。なにそれ、ここは天国か? ―――なんて考えると思ったか馬鹿め! そんな思考はバーチャルのみ存在するのだ! 確かに目の前の女は美少女と言えるレベルだろう! しかし! だがしかし! ここは現実! リアルなのだ! そして女尊男卑の巣窟で裸エプロン―――それつまり、俺を嵌める罠でしかない! 流石に予想外だったのでレコーダーは起動させていないから言質を取ることはできないが、今度からはちゃんと起動させてから入ることにしよう。
俺は一度ドアを閉めて目をこする。そしてレコーダーを起動させて罠を仕掛けてオープン・ザ・ドア。
「おかえりなさい。私にする? 私にする? それとも、わ・た・し? ……って、それは何かしら?」
「現地の女子高生、2人目に身体を売りつける。見出しはこんな感じかな? まさか来て早々ハニートラップを実行する人がいるとは思わなかった。ああ、気にするな。君の醜態は君の経歴を調べ上げてからじっくりと公開する」
「ど、どうかしら? それで私のことを調べられる人はいるのか―――」
俺が電話を出すとその女の反応は早かった。肥えているってわけじゃないけど胸のせいもあって大柄にも見える人の動きじゃないのはわかる。電話機を守りつつ、左手を女の胸に伸ばした。女なら良い反応をしてくれるはず。そう願った。
「甘いわね」
左手を回避し、俺から素早く電話を奪い取る女。だけど時すでに遅しだ。
『急にどうした。まだ交換してからそんなに経ってないぞ』
「すみません。水色の髪をした不審者です」
『………そうか。それはちょうど良かった。布仏、お前の探し人が見つかったぞ』
『そのようですね。ところで、その電話はどちらから?』
『夜塚からだ』
『早速電話番号を交換したんですか。手が早いですね』
『向こうから「いざという時のために必要だ」と言われたからな』
元国家代表なら役に立つだろうと思っただけです。女としては微塵も興味はありません。
『わかりました。夜塚さん、でよろしいでしょうか?』
「……えっと、どちら様ですか?」
『まだ名乗っていませんでしたね。私は布仏虚。そこにいたであろう生徒の保護者です』
今も冷や汗を流して顔を青くしながらいるのですが……。
『そうですね。もし見かけたら今回のことは不問にするので、女に慣れるために襲ってはどうでしょうか?』
「ちょ、虚ちゃん!? それはいくら何でも酷くないかしら?! 流石に裏切りを疑わざる得ないんだけど!?」
『……まだそこにいるのですか』
まぁ、逃げられるわけがないよね。今も俺以外いないって言っても裸エプロンだし。
『ところで会長、16代目にそろそろ学園でのあなたの生活について偽るのが心苦しいのですが……』
「わかったわ! 戻る! 戻りますからちょっとだけ待って!」
『………いえ。空気を読んで1時間後に行きます。わざわざ襲われに行くなんて優しい生徒会ちょ―――』
電話を急に切って俺の方に投げ渡した生徒会長は、矢の如く家に戻った。
俺も荷物を持ってあらかじめ送られているであろう荷物を開封しに戻ると、なんと居間で着替えていた。
「ちょっ、なっ!?」
「あ、お構いなく」
どうやらさっきまで本当に裸エプロンだったようだ。パンツ履いてなかったし。
俺は構わず荷解きをしようとすると、何か刃物を突きつけられる。
「何してるのかしら?」
「え? 荷解き」
「年頃の乙女が着替えているのに居座るとかおかしいでしょ!?」
「その年頃の乙女が裸エプロンで玄関先に突っ立っていたことがおかしいと思うんだが?」
「そ、それはあなたのハニトラ対策の訓練であって……」
「本音は「男って初体験だからなんとか喜んでもらえるように頑張ってみた」か」
「しばくわよ」
自分からしておいてその言い草はおかしい。
―――ピンポーン
チャイムが鳴る。そのせいで更識と呼ばれていた女は急いで着替え始めた。
意外に早いなと思いながら、俺はドアを開けようと移動すると腕を掴まれた。
「待って。お願い。本当に待って」
「こっちはすぐにでもお前を排除したいんだ。悪いがその願いは聞くつもりはない」
「せめて制服だけ着させて! 後でなんでも……はしないけど、些細なお願いぐらいだったらお礼はするから」
「じゃあおっぱい揉ませて」
「それはちょっと嫌かなぁ」
視線を逸らして断る更識。ま、流石におっぱい揉ませろは冗談だけど、そうやって拒否反応されるのは個人的にイラつく。そしてなにさりげなく胸ポケットに入れているレコーダーを奪おうとしているんだ、お前は。
それを防いで手首を掴んだ瞬間、ドアが開いた。
―――ガチャッ
「全く、何をしているんですか………えっと、これは一体………ええっと……」
さっきと声が同じだから、たぶん電話に出た布仏というのはこの人のことだろう。
俺たちの現状を見て慌てているのは確かだけど、今回は俺が悪いことは1つもないので責められる謂れはない。
「あーこれはあれだ。すべてこいつに非がある」
「………どう見ても裸ワイシャツを強要しているようにしか見えないのですが……」
「してねえよ!」
レコーダーか? レコーダーが悪いのか?
ともかく俺はレコーダーを引っ張って証拠を突きつけようとするが、意外なことに裸エプロンから裸ワイシャツと変化した女の力が強くて回収できない。
「………ともかく、一度話をしましょうか」
仕切り直しのつもりか、布仏はそう言って俺たちをテーブルに着かせた。
これまであったことを俺はかみ砕いて説明すると、更識に説教を始めた。
「本当に申し訳ございませんでした。ほら、会長からも」
「乙女の裸は高くつくわよ!」
思いっきり殴られた生徒会長に俺は笑いそうになった。
「痛いわよ、虚ちゃん」
「……会長?」
「悪ふざけしてごめんなさい。でも正直安心したわ。あなたがハーレムとか考えている人じゃなくて」
………はい?
出た言葉が信じられず、俺はマジマジと生徒会長を見た。
「改めて紹介させてもらうわね。私は更識楯無。IS学園の生徒会長をしているわ。それでこっちが―――」
「布仏虚です。生徒会で会計をさせていただいています」
……つまり、日頃から面倒を押し付けられていると思ったらいいのだろうか。
思わず同情的な視線を向けてしまった。
「……ところで、何でアンタはわざわざ俺に会いに来た? もし俺が見境なく女を襲う奴だったらどうするつもりだったんだ」
「その心配はないわ。私はあなたより強いから」
なんか、流石に正面からそう言われると困るというか……イラつくな。
「あなたのことを調べさせてもらったわ。とある人間と繋がりがあると言ってもISに関しては素人。野球の経験があるけど、それ以後は運動せずに肥満体質まっしぐら」
「……思ったんだけどさ、アンタのそれも肥満レベルだよな」
「……何が言いたいのかしら?」
「乳がデカいってのは確かに魅力的だろう。だけど脂肪率に換算すればその胸は脂肪そのものではないだろうかと俺は常日頃から思っている。幸いなのかはわからないが、俺の周りにはそういうのがいない。で、どうなんだ? 実際の脂肪率は―――」
「……くだらない話はそこまででお願いします」
ピシャリと締められて俺は大人しくした。
「お嬢様も無駄に脱線しないでください」
「む、無駄って言わないでよ、無駄って!」
「……無駄でしょう?」
容赦ない言葉に更識はクラッと来たらしくふらついた。
「で、俺を馬鹿にするだけならさっさと帰ってくれないか。俺はこれから勉強したいんだけど」
「………熱心ね。事実上の留年に不貞腐れていると思ったわ」
「実際、嫌になるけどな。何で卒業したばかりに再入学かっての」
この気持ちはこいつらにはわかるまい。
「ところでさ、ISの貸し出し申請ってどこでできるんだ?」
「もしかして、もうISの操縦?」
「俺の場合、ISに関して言えばロスしかないからな。本当は最新機を寄越せって声を大にして叫びたいが量産機を改造したいって気持ちもあるわけで、できれば専用機として訓練機を1機借りれたらなって思う」
ま、生徒会長にどれだけの権力があるかわからないが、泣きついてみるのも1つの手ではあるだろう。
「………残念ながら、それは難しいわね」
「何故だ?」
「あなたの態度から見て私たちは多少改めたけど、まだまだあなたに関して良くない感情を抱いている教師は大勢いるわ。見た目もそうだけど、何よりも適性が問題なの」
「……適性?」
「ISの適性ランク。織斑君は「B」だけどあなたは「D⁻」。本来なら護身用として1機貸し出したかったけど、「貸し出して他の生徒に手を出されたら困る」という意見が多くてね」
……なるほど。俺のために少しは動いてくれているのか。
内心感謝しつつもあくまでも平静を装って話を進める。
「だから明日、あなたのISの訓練をしようと思ってたのよ。あなたがその気で助かったわ」
「……学校が始まる前って言ってももうそろそろ帰ってくる頃だろ。この時期なら予約は取れないって聞いていたが?」
「生徒会長に不可能なことは大体ないのよ」
まさかこの女が頼れる女だとは思わなかった。変態女かと思ったらそうでもないな。似た声から特徴を付けるなら、良妻賢母の妖術狐?
「ちなみにどれくらいのことは可能なんだ?」
「あなたと同居……同棲するくらいは大丈夫よ」
「………それは嬉しいな」
俺だって人並みの感性はあるつもりだ。正直なところ、さっきの裸エプロンは個人的にありがたかった。もし幼馴染だったら普通に襲っていたかもしれないくらいには良いものだったと言っておこう。
「言っておきますが、同居はさせませんから」
「それが最適だな。お互いが良い関係を築いていく意味でも、ある程度の線引きはしておく必要がある」
「…………」
怪しんでくるんだけど、今のは本音です。
「……疑うのは自由だが、俺にその気はない。……そんなことよりも、明日ISに乗れるのは本当か?」
「ええ。それは問題ないわ。1日中―――」
「昼から、です。会長、まさか仕事がまだ残っていることを忘れてはいませんよね?」
それを聞いた俺はキッパリと見逃すことにした。
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夜7時過ぎ頃。楯無と虚は生徒会室に移動している。周りには誰もいないことを確認した楯無はずっと思っていたことを尋ねた。
「虚ちゃん、あなたは夜塚君のことをどう思ってるの?」
幼馴染であり、お姉さん的な立場にいた部下にそう声をかける楯無。虚はハッキリと言った。
「……正直、あまり好きになれませんね」
「……それって容姿?」
「それもあります」
バッサリと切るように言った虚に楯無は苦い顔をした。
楯無も気持ちはわからなくもないことはある。デリカシーがないのもそうだが、人を舐めた態度を取ったりとかも含まれるが………。
「私は正直、安心したかな」
「……そうですか?」
「年上だし、何せあの高校でしょ? いきなり襲って来るって思ったもの(………無反応だったけど)」
本音を隠しながら話す楯無。彼女はまだ、気付いていなかった。
「………これ、どうしよ」
水着のパンツ部分を部屋に忘れているということを。
実際、楯無の仕事ってオーバーワークなんて言葉が軽く聞こえるほどのことをやっている気があるから、弄るということで発散しているのかもしれませんね。