別に主人公が人間じゃなくても構わんのだろう? ま、こっちじゃ出す予定ないですけど。
「……本音」
「なーにー?」
「学年別トーナメントで優勝したら、織斑君と付き合えるって、本当?」
「え? かんちゃん、おりむーのことが好きなの?」
「は?」
「いえ、なんでもないです。でもそれねー、たぶん違うのー」
「違う?」
「うん。実はー、しののんがおりむーにそう言っているのを聞いてねー。それをみんなに伝えたんだけど……」
「学年別トーナメントで優勝したら、織斑君と付き合えるって話になった、と?」
「そうそう」
「………ヒトの恋路はしちゃだめ」
「そのつもりはなかったんだけどねー」
「……じゃあ、本音」
「なーにー?」
「次は、「学年別トーナメントで優勝したら、男子どちらかと付き合うことができる」に噂を変えて」
「えー。でもそれって、難しーよー」
「大丈夫。虚さんが疲れるだけだから」
「さりげなくお姉ちゃんを犠牲にしないで!!」
■■■
簪の機体を作る場所は、相変わらず俺の家の格納庫内だった。
そのため女の出入りは増えることになったがそこは簪のため。1日1ハグで手を打たせてもらっている。だって精神を安定させないと色々と疲れるんだっての!!
というのはともかく、だ。
「ちぃっ、まだ銃は当たらん!!」
「俺だから当たらねえんだ。安心しろ、テメェの精度は上がってきている」
「ならば1発でも当たれ!!」
それはできない相談だ。だって、こいつの整備は基本的に俺しかしていない。
《焔備》から放たれる銃弾を俺は軽く回避し、篠ノ之に接近戦で挑んだ。
「笑止!!」
篠ノ之はまだ銃型の武装収納い慣れていないのか、《焔備》を捨ててすぐに近接ブレード《葵》を二刀展開して俺に斬りかかった。
「流石チャンバラ女! 刀の展開は早いな!!」
「チャンバラ言うな!!」
「そいつは悪いな、デカパイ女!!」
刃を躱して懐に入って仕込み式の衝撃口で篠ノ之を吹き飛ばした。
実は男用と違って女用の胸部装甲はほとんどない。だから心臓をぶつけると絶対防御が発動して零落白夜ほどではないがかなり削れる。これの前に結構削っていたので今のが止めになったらしく、篠ノ之が装備するラファール・リヴァイヴはサブストップ状態となった。
「……また負けたのか……」
「でも大分成長したと思うけどな。前なんて「銃を使うなんて外道だ!!」ってオルコットの前で宣言していたのに」
あの時、オルコットは怒っていたけど俺がなんとか諫めた。たぶんあの時オルコットは「剣1本で勝てるほどISは甘くありませんわ!!」と叫ぶと思ったからだ。……いや、言わせた方が良かったのか?
「………あんな負け方をしたら、な。だ、だからと言って剣を捨てるわけではないのだからな!!」
「そこでツンデレも使ってもな。それに、別に良いんじゃね? 剣道は剣道、ISはISとスタイルを変えたら。責める奴なんていねえっての。IS操縦者である以上、勝つことがすべてなんだからな」
ちなみにあんな負け方というのは、俺がトラップとかガトリングとかありとあらゆる恐怖を植え付けたことだろう。
「ま、そういうところは恋にも似ていると言っても過言ではないが……」
「…………」
「ところで、布仏に聞いたんだけど織斑に「学年別トーナメントで優勝したら付き合ってもらう」って宣言したって本当か?」
「!!?」
驚いた顔をする篠ノ之だが、どうやら図星のようだな。
「そ、それがどうしたんだと言うんだ!!」
「いやぁ、無謀な戦いに挑むんだなぁと思ってな。専用機持ちをどうするかの算段は付いているのか?」
「…………考えて、なかった」
篠ノ之は顔を青くする。はぁ、やっぱりか。
「仕方ない、時間もあることだしもう少し特訓するか。幸い、俺も試したい武装もあるしな」
「い、良いのか!? お前も敵になるのだろう?」
「なに、篠ノ之の攻略法はとっくにあるし、たまには違う視点からも攻略の意見を聞きたいしな」
こうして俺は篠ノ之と2人だけで(ちゃんと距離を取って)考察したり攻めのパターンを考えたりしていた。
そう、それだけだった。
別に俺は篠ノ之をどうこうするつもりは全くなく、言うなれば手のかかる妹程度にしか見ていないのだが、
「―――ねぇ」
何故か殺気を放つ女性と、更衣室でバッタリ会った。
「えー……どちら様で?」
「それより、聞きたいんだけどさ。何で箒ちゃんに銃を使わせてるの?」
「………篠ノ之の知り合いか? それにアンタ、どっかで見たことがあるような……?」
「なんだ、この天才束さんの事も知らない蛆虫か」
「……なるほど。天才というのは頭がぶっ飛んでいる奴の事を言うんだな。まさかうさ耳を装着しているのにワンピースって……」
「もしかしてバニースーツの方が良かった?」
「……………年齢的にもセーフなのか? いや、むしろ妹の方に着せた方が需要が―――っと!?」
咄嗟にその場から跳んで回避して後ろを見ると壁が裂かれている。
「へー、やっぱり箒ちゃんを狙ってたんだ………」
「OK、アンタは盛大な勘違いをしている。俺は篠ノ之箒をそういう目で見ているわけではない!! 織斑を振り向かせるための案として言ってみただけだ!!」
篠ノ之は胸がデカいからおそらく映える。いや、絶対に似合う。……本人は乗り気じゃないかもしれないがな。
そもそも篠ノ之は体型の割には露出が少なすぎるんだ。見たいと言うわけではないが、もっと積極的に見せても良いだろうに。
「………こうなったら、バニーガール姿で夜這いをさせるしかないな」
「それ、願望混じってるんじゃない?」
「甘いな。俺の願望は犬耳もしくは猫耳カチューシャ装着はもちろん、首輪にリードとメイド服で、尻尾は外せん!!」
「………ん? じゃあ今私がここですれば―――」
「汚物にどんなトッピングをしても汚物だろう?」
しまった。考えてみれば目の前にいるのはあの有名な篠ノ之束じゃないか!? ここは媚びへつらって…………
「………媚びへつらっても……俺に何の得もない……!!」
「いや、あるよね!? 相手にしないけどあるよね?!」
「何を言うか!! じゃあアンタは俺が媚びへつらったところで来るのは罵倒とかじゃないか!!」
とまぁ、茶番はここまでにして本題に入るとしよう。
「ところで篠ノ之束、1つ聞きたいんだが……」
「なんだよ」
「何でアンタの妹は専用機を持ってないんだ?」
普通なら入学当初から持っていてもおかしくはない……いや、一時的に自分で匿ってISの訓練を付けることもできたはずだろう。
「べっつにー。家族だからって相手にしないといけないの?」
「…………単なる不仲からの放置か。てっきり今作っているものと思ったが………じゃあ、もう練習させる意味はないな」
「へ?」
「俺が篠ノ之に銃を撃たせているのはアンタがどんな武装を積ませるかわからないからだ。ラファール・リヴァイヴなのも、防御型の打鉄ばかりで使っていると用意されたのが高機動型だったら慣れにくいだろうしな。あと、剣道とISではそもそも戦い方が異なる」
剣道を否定するつもりはないが、剣道は所詮武器が剣1本で戦う競技に過ぎない。だがISは剣だけでなく銃はもちろんのこと、盾なども工夫して武器として使う時がある。確かに篠ノ之の技術は同学年の、しかも代表候補生じゃない生徒の中では頭1つ分は抜きんでていると言っても過言ではない。下手すれば代表候補生相手でも遅れは取らないだろう。だがそれはあくまでも、篠ノ之と代表候補生が剣1本で戦った時の話だ。ISはそれはまず無理だ。
確かに篠ノ之には「斬り払い」の技術が備わっているが、それがすべてできるわけではない。そう言った時のために篠ノ之には対策として銃を使わせている。
「悪いが俺は篠ノ之は護身的なことも含めてISを持つべきだと思う。生徒たちの不満は出るだろうが、そんなものは所詮何も知らないアホ共の理屈だろうし、そいつらを黙らせることは普通にできるしな」
「………意外だよ。まさかお前からそんなことを言われるなんて。やっぱり箒ちゃんのことが―――」
「すまないが篠ノ之以外にIS学園を辞めてでも手に入れたい奴はいる」
そう答えると、「ふーん」と答えた篠ノ之束はどこかに消えた。
とりあえず楯無に伝えておいたがどこで聞いたのかわからないが織斑先生に詰め寄られたので咄嗟に背負い投げをしてしまったが、割と顔が近かったので防衛手段としらを切った。え? 意味が違う?
時たま会っては他の奴らの攻略法を考えると言うのを繰り返していたら数日が経過した。
6月に入った最初の月曜日、そろそろ個人所有のISスーツを申し込めるという事もあって学園内……というか第1学年のエリア内が騒がしくなっている。まぁ、個人所有のISスーツなんざ俺には全く関係ないことだけどな。男用のモデルは今後男性操縦者が出てこない限り生産されるわけではないし。
なんて思いながら整備用の本を読んでいると、魔王…もとい、無能教師こと織斑千冬が現れた。
「夜塚、今私のことを侮辱しなかったか?」
「急にどうしたんですか?」
俺の思ったことをわかる時点で彼女は普通ではないだろう。
ISスーツのことやその他諸々の連絡事項が終わり、今度はさっきまで弄られていた山田先生のターン。あの人、親しみやすいけど少しは区切りを設けた方が良いと思う。
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも2名です!」
「え………ええええええッ!!?」
「おや珍しい」
普通、転校生って分けるものではないだろうか? 一体何が目的でって、言うまでもなく俺と織斑だろう。どうやら国家権力とか振りかざしてきたようだ。全く……面倒極まりねえなおい。
とか考えているとその話題の2人が入って来たが、金髪と銀髪ってどう見ても外国人である。……まぁ、外国人に限り日本語を話せることが入学条件だし、それに今更だし構えることはないだろう……ただし言語に限る。
(中性な顔立ちって、リアルで存在するとは思わなかった)
織斑は男とわかるイケメン。だけど入ってきた男子生徒を着た奴はそう言った顔立ちをしている。おそらく男の娘だろう。もしくは……女? いや、むしろ可能性的には女の方が高い。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
と、懇切丁寧な自己紹介をしたフランス人。雰囲気がなんというか高貴的だな。
「お、男……?」
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方々がいると聞いて本国より転入を―――」
第六感が働いたので咄嗟に耳を塞ぐ。織斑にはよく聞いているようだ。
しばらくすると教師陣が何かを言っていたので少し手をズラして問題ないことを確認する。よし、静かだ。
大体、男の娘が入って来たからって騒がないでほしいものだ。どうせ実らないのに。
「…………」
ところで、もう1人はいつ自己紹介を始めるのだろうか?
明らかに場に合っていないガチの黒い眼帯をしている、身長は凰や簪と大差ない少女。もはや相応の衣服を着させれば幼稚園児でも通るかもしれない。いや、マジで。
「………挨拶をしろ、ボーデヴィッヒ」
「はい、教官」
「……ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」
「了解しました」
……何のやり取りをしているんだろう、この人たち? え? 教官? マジで?
にしても凄く綺麗な敬礼である。もしかして彼女の中身はオッサンで、必殺技を出す時に神に祈っていたりするのだろうか? いや、アレは違うか。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
もし彼女が軍人じゃなかったら、この時点でメス豚……もとい、女子ネットワークから外されていただろう。
などと思っていると、ボーデヴィッヒは誰かと目が合ったらしくそっちの方に向かってビンタした。
全員が唖然とする。そりゃそうだろう。出会ったばかりの少女がみんな大好き(ただし一部除く)織斑君にビンタをかますなんて思わないのだから。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
誰の? あ、織斑先生か。
織斑は「いきなり何しやがる!」と怒るが、ボーデヴィッヒは無視して俺の隣に立った。しかし綺麗な立ち方である。
「何だ?」
「あ、悪い。姿勢が綺麗だなと思ってな」
「おいそこ、私語は慎め」
「あ、すんません」
それから2組との合同授業をすると発表され、俺は着替えるために出ようとして呼び止められた。
「おい織斑、夜塚。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」
「じゃあ、織斑が朝と夜と昼と夕方の担当で」
「いや透も関われよ!」
そんなことより授業だろと怒鳴るのをこらえた俺は、廊下に出た。………しかしそこは戦場だった。