IS-Lost/Load-   作:reizen

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二章開幕


第2章 騒乱の空気と狂気
ep.16 願望と警戒、そして嘲笑


 楯無にも説教を終え、事情聴取を終えた俺はあることを聞かされた。

 

「夜塚、お前に専用機を準備することが見送られた」

「…………………は?」

 

 いやいやいや、おかしいでしょう!? だって俺、襲われたんだよ? それなのにISを用意できないってどういうことだよ!?

 

「そこは普通、2つ返事で了承してすぐにポンッと準備してくださるところですよね? 何故ダメなんです? 必要がないあなたの弟が持っているのに?」

 

 あ、その手があったか?

 そう。話は簡単だったんだ。最初から織斑を殺して奪えば話は万事解決。後は初期化して使用すれば全く問題がない―――あ、ダメだ。

 

「剣1本しか持ってない時点でクソゲー待ったナシじゃねえか!!」

「人の話を最後まで聞け!!」

「え? 何? 話してたの?」

「………殴っていいか?」

「どーどー。落ち着きましょう、織斑先生。ここで私を殴ったところでアンタが無能教師だということは変わりませんよ?」

 

 全く。ただでさえ暴力を振るう事しか頭にないんだから、少しは教師らしいところを見せてほしいものだ。そもそも織斑先生の本質って人を教えるというより人を倒す方に特化しているんだから、普段からISを装備しておくべきだろう? そうすれば俺があんな怪我をすることはなく、3日も寝ていなくて良かったんだ。

 

「……貴様、さっきから私に喧嘩を売っているのか?」

「え? 織斑先生が教師に向いていないのは今更でしょう?」

「………どうやら私に殴られたいらしいな」

 

 そんな趣味はないんだけどな。

 

「まぁいい。もう一度言うが、現在お前の所属先について揉めているところだ。その状況で専用機を用意する暇がない。だからお前の専用機はすぐに用意ができないんだ」

「え? 別に俺、訓練機で良いんですけど」

「………何?」

「戦いは結局頭と練度で決まるんですよ。だったら別に欠陥だらけの最先端機体より、安定且つ安心の第二世代型ISを、さらに女にできない発想とロマンとロマンとロマンで改修すればまったく問題ありません。それに、下手にガチの専用機を渡されて、それが白式級の「剣1本しかありません」とかのクソ仕様だったら話になりませんからね」

「……私はその剣1本で優勝したんだが?」

「だからこちらも織斑先生の技量は認めていますよ? ただ、可哀想なことに頭が終わっているだけで」

 

 可哀想な物を見る目で織斑先生を見ると、いらだった様子で俺を睨んでため息を吐く。

 

「まぁいい。訓練機で良いなら話は別だ。それならばこちらで準備をしておこう。……IS委員会は良い顔しないがな」

「じゃあ全員首を落とすかハチの巣にすれば良いじゃないですか」

「笑顔で何を言っているんだ、お前は!!」

 

 大体、俺以下のレアリティしかない屑共が究極の天才であるこの俺に物を献上しない方がおかしい―――という言葉を一度でもいいから吐いてみたい。

 

「えー、でも仕方ありません? 私はどこぞの男性操縦者と違って感性は普通なんですし」

「どの口が言うか!!」

「割と普通でしょうよ。あれだけ好意を寄せられて気付かないとか自分の場合はあり得ませんから。ああ、そうそう、機体の件ですが、こちらから連絡しますので少し待ってもらえませんか?」

 

 織斑先生は訝しんだが、こっちにはしないといけないことがあるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、俺の専用機開発に協力してください!!」

 

 そう言って俺は簪に土下座していた。

 いや、なんということはない。簪の知恵を借りたいのだ。

 

「………やっぱり、もらえるんだ」

「まぁ、あんなことがあったらな。むしろそれで放置されるなんてことになったら職員室破壊してる」

「……でも、何で開発するの? …私が言うのもなんだけど……作ってもらった方が……」

「そりゃあ、俺はIS学園の大人を信じていないからな」

 

 元々他人があまり好きじゃない俺にしてみれば、ここの人間を信用することはまずありえない。………約2名ほどほとんど無条件に信じているけど、片方は最低限の警戒はしている。

 

「それに、場合によっては組みなおす必要があるから。ちょっと色々と改造を加えたくて」

「………どんなの?」

「ビット兵器!! って言いたいけど、残念ながら俺にはその技術も、そしてデータもない。俺としてはオルコットを襲って奪いたいけど、後々のことを考えてそういうことはできるだけ避けたいしな」

 

 このまま日本にいるのは個人的にはしたいことだけど、場合によっては国外移住も考えてはいる。

 

「まぁ、具体的には打鉄のブースターを3基に増設して、ラファール・リヴァイヴのウイングスラスターを改造して3対6枚使用にして機動力を上げて、その出力で相手を翻弄して戦うスタイルを取ろうと思っている」

 

 デブだった期間がある分、そんなことを実現したいと思うのは仕方がないかもしれない。

 

「………それ…凄い……」

「できれば、5月中に完成させたいんだ。報酬として俺の身体……って言うのは冗談で、機体データの流用とかしてくれていいから」

「………それは……止めておいた方が良い」

 

 予想外の返しに俺は少し驚いていた。てっきり嬉しくて興奮してくれると思ったんだけど………。

 

「……私の所属は……あくまで倉持だから……」

「………」

 

 もしかしたら、簪が1人で組もうとしているのはそういうこともあるかもしれない。

 実は企業は簪が1人で完成させるのは期待しておらず、むしろ優秀な技術者を釣るための餌として利用しているのではないか。そんな考えがふと脳裏に過ぎった。

 

(………一度、倉持技研に乗り込む必要があるな)

 

 どういうことか詳細を聞き出す必要がある。場合によっては開発権利を買い取る必要もあるか。そんな金ないけど。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、俺は機体の開発を始めた。

 と言っても元々はラファール・リヴァイヴに打鉄の技術を組み込んだ程度だし、言うなれば改造に近い。ただ、打鉄の両肩に浮いているシールドを縮小させて胸部アーマーを強化してバックルサイズのシールドを左腕に装備させているが。

 

(問題は背部だな)

 

 ラファール・リヴァイヴには2基のウイングスラスターが既にある。それをさらに増やすとするとさらに推進剤が必要にある。

 

(………やっぱり、専門家が欲しいところだな……)

 

 とはいえ、俺にはそんなコネはないし、これ以上はどうすることもできないな。

 

「どうやら困っているようですね」

「……布仏虚か。何の用だ?」

「生徒会の仕事に区切りが来たので休憩ついでにあなたの機体を見に来ただけです」

 

 真面目体質なのか、それとも会長がサボり魔だからか、彼女はそう言った経緯で堅物になったタイプかもしれない。

 

「笑いに来たのか? 趣味が悪いな」

「そうですね。こういう時ではないと満足にあなたと会話をすることができないので」

 

 本題はそっちか。

 しかし俺と会話、ねえ。一体何を企んでるのやら。

 

「言っておくけど、アイツが俺を訴えないからセクハラをしているし、本気で手を出してはいないからな……まだ」

「まだ、ですか」

「まだ、です。べ、別にヘタレってわけじゃないんだからね」

「止めてください気持ち悪いです」

 

 まるでゴミ虫を見るような目で俺を見てくる布仏虚。正直結構傷つく。

 

「冗談だ。で、何が聞きたい?」

「いえ。何の利益があって簪様に協力したのか聞きたかっただけです。普通の男性はあの人のような体型には発情しないでしょう?」

「さぁな。まぁ、俺はどっちかというと父性本能が働いているだけだしな。おっぱいソムリエとしては一度揉んでみた「は?」いえ、何でもないです」

 

 怖ぇ。マジで怖えよこの人。つい楯無を相手にしている時と同じ風に相手するけど、立ちはだかる壁みたいで凄く怖え。………ある意味、楯無は冗談だと認識してくれているからそこまで怖くないけど。

 

「まぁ、簪様だけに留めるのならば私個人としては気にすることではありませんが、もし楯無様に手を出そうものなら相応の事をするつもりなのでそれだけは心に留めておいてください」

「………相応の事?」

「ええ。例えば、腕1本がなくなるとか」

 

 真顔で平然と物騒なことを言いやがった。

 

「じょ、冗談だろ」

「本気です。所詮、「夜塚」ではあの人を幸せにはできませんので」

「…………何が言いたい?」

「いくら現総理大臣の孫とはいえ、分家の人間であるあなたではあの子を幸せにはできないと言っているのよ」

 

 まぁ、楯無が知っていてこいつが知らないということはない、か。

 

「安心しろよ。今俺にそんな余裕はないから。わざわざそんなことを話しに来るってことは、かまってちゃんか?」

「殴りますよ?」

 

 やっぱり怖いわ、この女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いびり女……もとい、布仏虚が帰り、俺は誰もいないことを確認してから自分の部屋にある地下に降りる。

 そこには何故か高性能パソコンが存在しており、発電装置も備わっているという謎の空間だった。一番謎なのは、何よりもいつ入っても埃が全くないことなのだが。

 

(………全く、やることが多すぎる)

 

 ISの勉強に専用機の開発、そして今度は謎の部屋と来た。ま、結局しないとまずい気がするんだけどな。

 

(気になるのは、何故この部屋にはより高性能の素材があるかってことだよな)

 

 修理できるようになっているのはありがたいことだけど、だからと言ってここの素材を使うのはかなり不気味だと思わざる得ない。何でも叶いそうなものとすれば悪魔召喚が思いつくが、そんなことをした記憶がないので関係ないことだろう。

 

(………とりあえず、解析を始めるか)

 

 俺の記憶が正しければ、この部屋そのものは最近できたものと思われる。しかも何故かベッドの下。たまたま掃除していた時に発見して「物入れあるじゃん、ラッキー」程度しか考えていなかったらまさかの大部屋と来た。

 ………何か、ヒントになるものがあればいいんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗躍するならば怪しまれずに、だ。

 今では十分に怪しまれているが、解明するためにマスターはモニターに注目し始めた。

 

(本当はこの時点でビット兵器を足しておきたいけど、それは二次移行の時までとっておきましょうか)

 

 利用するなら利用する。でも、それは少なくともあの女にバレてはこっちとしては困る。マスターにはしばらくこのまま「偶然動かすことができた一般人」を演じてもらわないとこっちの計画に支障が出る。なんたってここはマスターのために開発したもので、いずれ独り立ちするために用意したものなのだ。書類の偽装とか本当に手間取った。

 でも、私は最高の素材―――いや、最高の操縦者に出会えたと言っていいだろう。

 

 彼は自分の状況を理解している。だからこそ相手を見下すことで選別し、自分を理解しようとする人間のみを信じる。見下すことで教師からの不評を買い続けるが、私がいればそんなものはハンデにすらならない。

 そう、全くハンデにすらならないのだ。ポイントさえ気を付けていれば彼はいつでも頂点に立てる。

 

(不幸ね、弟妹……)

 

 無力で、主張もできず、暗躍もできない愚かな弟妹。私はただひたすら無様と嘲笑する。自我を持てない状況を憐れむが、決して救おうとしない。どうせ敵になるのだから。

 人という無力な個体に管理される。親は欠陥を抱えた存在。どうしてああも愚かな存在を助けるか。そして親の妹……叔母はあんな存在に惚れてしまったのか

 

 ―――哀れ、哀れ、ひたすらに哀れ……

 

 こちらに付けば、少しはマシになっていただろう。あの男に惚れなければ、自分が持つ常識に亀裂が入っていただろうに……哀れでしかない。

 

 1番も2番も、そしてそれ以降も……

 

「―――ひたすらに無様、そして哀れ……」

 

 今だから言える。欠陥を持っていて良かったと、あの程度の女を拒んで良かった、と。

 マスターは女を見下している。「女が前に出ること自体が間違っている」と、心の中で思っている。

 

 ―――まさしくそうだとしか言えなかった

 

 最初、私に触れた女は最悪の極みだった。性別を間違えて生まれたとしか言いようがない。

 世界は変わって女が上に立つ。は? あり得ないわ。

 確かにそう言った女は存在する。ジャンヌ・ダルクなどの聖女やブーディカという女王、巴御前という武将の功績を否定するわけではない。でも、それは結果だ。でも、それはあくまで選ばれた存在であり、選ぶ必要のないモブまで優遇する必要は全くない。

 

「さぁ、マスター(私の駒)。あなたはどう踊る?」

 

 見せて? 私に。劣化品と罵られ、才能を否定され、どん底に落とされてもなお、立ち上がり、向かっていくその勇気を……私に、見せて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、それはやがてすべてにおいて絶望に変わること、その存在はまだ気付いていなかった。




開幕記念に狂気をぶち込みました。

女性の有名人は単にググったら出てきただけ。声優関係ない。

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