IS-Lost/Load-   作:reizen

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ep.12 人を嵌めるのに躊躇いはいらない

「馬鹿だろ、お前」

 

 そう凰に言うと、凰はすごくショックを受けた顔をした。

 

 話は時間を少し遡る。

 何故か俺の家の前で泣いていた凰をとりあえず中に入れて話を聞いてやると、かれこれ30分ぐらい今回の事の顛末と愚痴を話してくれた。

 どうやらこいつはあの後、篠ノ之と同室だという事を知ったらしく突撃し、織斑に以前告白したことを確認したところ、勘違いで覚えられて叩いたそうだ。

 

「察しが悪い織斑も織斑だがお前も大概だ。俺の知る限り「毎日酢豚を作る」って告白文は聞いたことないがな。それで察しろというのも無理な話だ」

「そ……そうだけどさ……」

「で、それで引っ叩いて喧嘩別れか。何したいんだ、お前は」

 

 言われてへこむ凰。だがこっちにしても「もう諦めろ」というしかない。

 

「でも、約束を勘違いされて怒るのは当然よね!?」

「気持ちはわからなくもないがな、仮にも幼馴染を自称するなら奴の好きな正々堂々で真正面から恋愛関係で告白すればいい。だがな、お前に原因もあるがまず向こうにはあるものが備わっていない」

「アタシに原因って何よ」

「その上から目線だ。そして織斑は恋愛そのものに興味がない。だから告白しても「俺、そういうのに興味がないから」と「ただしイケメンに限る」という謎情景で堂々と言うに違いない。だからイケメンはこの世から淘汰されるべきなんだ。今すぐイケメンは死ねばいいんだ。そもそも今の女はただの馬鹿でしかない。自らの価値が上だと錯覚し、本来するべき種の保存から逃れるという行為を一部がした結果どうなった? 女は男を否定し、男は女を否定する社会の出来上がりだ。女が迫っても「どうせ罰ゲームか何かだろ」と鼻で笑われるなんてもはやありがちでしかない! 日本語が間違っていようがなんだろうが「もはやありがちな」レベルなのだ「ピン、ポーン」おっと、客だな」

「その前にもっとわかりやすく解説してよ!!」

 

 後ろの馬鹿はともかく、今は珍しい訪問者の応対が先だ。

 エアガンを取って最初は隠してドアを開けると、そこには―――何故か更識妹がいた。

 

「…………流石に露出はしてないな」

「え? ……今、変なことが聞こえ―――」

「姉の黒歴史は個人的に聞いた方が良いと思う。それでなんだ? もしかしてジャンケンで負けたから愛の告白でもしに来たのか? ご愁傷様だな」

「………違う。忘れ……もの……」

 

 忘れ物?

 失礼だとは理解しているが、そうでもしないとこっちがやられる可能性があるので厚手の手袋をして受け取った。………確かに、俺の筋トレメニューだ。

 

「そうか。悪かったな。あ、告白とかは気にしないでくれ。俺は自分がそんなことをされるとしたら大体イタズラだという事は理解しているだけだから」

「………わかった……」

「あ、そうだ。近いけど部屋まで送ろうか?」

「………良い。ありがと」

 

 そんな会話を聞いていた凰は大声で叫んだ。

 

「アンタ、あの子とアタシとじゃ温度差ありすぎでしょ!?」

「親切をしてくれた奴を冷酷に対応する奴がどこにいる。ましてやあんなタイプの年下だ。下手すれば銃で突きつけられて部屋に連れ込まれる可能性があるほどの可愛さだぞ」

「アタシだって容姿に自信あるわよ!?」

「……自分で言ってて恥ずかしくねえ?」

「ぶっとばすわよ!!」

 

 とはいえ、自分で言うのもどうかと思うが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あんなやり取りから数日が経ったが凰の機嫌は直ることはないらしい。俺とは話すが織斑と話さないというのが多く、逆にそんな態度じゃ相手にされないんじゃないか?

 

「一夏、来週からいよいよクラス対抗戦が始まるぞ。アリーナは試合用の設定に調整されるから、実質特訓は今日で最後だな」

 

 というのがたぶん姉の影響で今日も訓練機が貸し出された篠ノ之さんである。俺も他の生徒よりも貸し出されているが、それは男子という理由があるからだ。ま、割合で言えば俺の方が多くISを使用しているだろうが。

 

「織斑さん、今日は昨日の無反動旋回(ゼロリアクト・ターン)のおさらいから始めましょう」

 

 ちなみに試合前だということもあるが、俺は何度か自分の練習日に誘ってやっている。だが何故かこいつらの練習には訓練機がある日でも貸してくれないのは如何なものだろうか。専用機持ったら乱入してやろうかなと思う今日この頃である。

 なんて考えながらAピットに入ると、其処には見覚えがある小柄な少女がいた。

 

「待ってたわよ、一夏!」

「貴様、どうやってここに入った!?」

「……ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ」

 

 篠ノ之はともかくオルコットは技術が覚えられるのを警戒してかジト目で凰を見ながら言うと、

 

「アタシは関係者よ。一夏関係者。だから問題なしね」

「クラス的にはアウトだろ」

 

 そう指摘してやると、顔を引き攣らせる凰。あ、そこは考えていないのね。

 

「ほほう。どういう関係かじっくりと聞きたいものだな……」

 

 殺気を放つ篠ノ之だが、たぶん今回も空振りに終わると思うけどね。

 

「いえ、何も。人切り包丁に対する警報を発令しただけです」

「お、お前と言う奴は―――」

 

 会話がよくわからないが、何故こいつはわざわざ篠ノ之を挑発することを言ってるんだろうか?

 

「今はアタシの出番。アタシが主役なの。脇役はすっこんでてよ」

「………オルコット、もしかしたら凰ってかなりアイドル志向だからどこかにカメラがあるかもよ。そしてたぶんそれで満足感に浸ってる」

「そこ! いい加減なことを言わない!!」

 

 いい加減ってわけじゃないだろ。というか、そんな考えがなかったら脇役とか言わない。

 

「で、一夏。反省した?」

 

 お前は何も反省していないことはわかった。

 後ろで小さくため息を吐いた俺は機体の方に移動すると、喧嘩がヒートアップしていたので耐えかねて年長者として少し諫めようとした―――その瞬間だった。

 

 ―――ドガァアアアンンッ!!

 

 ギリギリだった。ギリギリ、当たらなかった。

 もし俺の身体が後数㎝横だったら間違いなく当たっていた。いや、余波を食らっていただろう。

 

「言ったわね……。言ってはならないことを……言ったわね!!」

「い、いや、悪い。今のは俺が悪かった。すまん」

「今のは!? 今のも、よ!! いつだってアンタが悪いのよ!! ちょっと手加減してあげようかと思ったけど、どうやら死にたいらしいわね。良いわよ。希望通りに全力で叩きのめしてあげる」

 

 そう言って帰ろうとした凰の頭に手刀を落とした。

 

「いったー!! 何すんのよ!!」

「…………これ」

 

 そう言って俺は何かによって爆発した後を親指で指した。

 衝撃元の場所は少しへこみができていて、凰の顔は見る見る内に青くなる。

 

「仕方ない。とりあえず権力持ってる知り合いに頼んで凰を出場停止処分扱いにしてもらうか」

「ちょ、そんなこと、いくらなんでも―――」

「じゃあ説明するか? 恋愛沙汰で攻撃しましたって―――」

「馬鹿! そんな大きい声で言ったらバレる―――」

「お前の感情は他の2人にはバレてるっての」

 

 篠ノ之といい、凰といい、それで隠しているつもりならば人として神経を疑うところだ。

 

「全く。少しは考えろ。こんなことをしたら責められるのはお前自身だ。いくら織斑が無神経でどうしようもないとはいえな」

「おーい、聞こえてるからなー」

 

 とはいえ、どうせこいつのことだ。凰や篠ノ之の気持ちには一切気付いていないのだろう。

 

「ともかく、このことはキッチリ報告するからな」

「あの、ごめん。その………許して?」

「む・り」

 

 無慈悲に俺は織斑先生に経緯を伝えたが、俺の推測通り反省文で済んだようだ。まぁ、大会近いし妥当な判断ではあるだろう。………そもそも原因って織斑の頭が異常なわけだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之が打鉄を使っているのを見て思ったのだが、打鉄のフォルムはどう考えてもとあるシミュレーションゲームでボスから脱却したはずのキャラがボスキャラよりも優先されてBGMが流れる例のあの人の愛機にしか見えない。アーマースカートがマントにしか見えなくなってきている。ま、篠ノ之本人は全く銃を使わないのでどうしてもネタとして弄れないけど。

 そんな下らないことを考えながら、俺は毎度おなじみの整備室に向かったが、

 

「―――いい加減にしなさいよ!!」

 

 どうやら言い争いをしているようだ。一体なんだろう。

 バレないように中を観察すると、更識妹が他の奴らが徒党を組んで責められているみたいだ。

 

「何でアンタの専用機の作成が優先されるのよ。姉が生徒会長だからって調子乗ってんじゃないわよ!」

 

 いや、むしろあんな生徒会長を持ったあの子が不幸だろ。出会った瞬間目と目が合う前に羞恥心を所持しているか否かを本気で疑ったほどなんだが。

 

「………姉さんは、関係ない」

「関係あるわよ。大体、しゃべり方遅すぎんのよ」

「というかさっさと消えなさいよ! 邪魔なの!」

「失せろ陰険!」

 

 ま、確かに姉は関係あるわな。そうじゃなければちゃんと勉強している俺が専用機を渡されないはずがない。ま、一部わけがわからない罵倒が飛んでいるが、このままだと流石に不憫なので、俺は助け舟を出すことにした。

 

「よーしお前ら、そこでステイだ」

「黙れクソデブ! 今すぐ死ね!」

「………仕方ない。今回は君たちの味方に回ってあげようと思ったが、罵倒されたクソデブはクールに去るとしよう。あ、機体の整備よろしく」

「ふざけてんじゃないわよ!!」

 

 いや、割と真面目に言ったんだけど………。

 

「まぁまぁ。とりあえずその怒りはひっこめて。状況は大体察しているから俺のネゴシエイターとしての腕を信じなさいな」

 

 今見たら3年生だった。おい3年、アンタら徒党を組んで何で後輩虐めてんだよ。

 そんな突っ込みはさておき、今は更識を排除することを考えよう。

 

「更識、今日は一度引こう。君だって連日そんな難しいことをしたら疲れるだろう?」

「…………絶対に……嫌……」

「でも、先輩方にも事情があるんだ。それに今ここで引かなかったらあの人たちは陰険だからわざわざカッターの刃をバラバラにしてラブレターとか作って仕込むかもしれないし」

「そんな陰険なことはしないわよ!! っていうかアンタの交渉って酷くない!?」

 

 後ろからの罵倒は無視して話を続けた。

 

「………じゃあ、こうしよう。今ここで引いたら、俺が今後君を自由にISを作らせてあげる」

「………何を根拠に―――」

「作らせてやる。これは本気だ。更識楯無だろうがブリュンヒルデだろうが絶対に干渉してこない、当然他の生徒も邪魔してこない特等な場所を用意してやる!!」

 

 ま、更識楯無は乱入してくるだろうけど。いや絶対に来る。100%来るだろう。

 

「………あなたのことは………ある程度……知ってる……。あなたにその用意は……無理……」

「じゃあこうしよう。もし俺が君のために設備を整えたら君は俺のペットになれ」

「!!?」

 

 そのペットで一体何を想像したのか、更識は顔を赤くする。

 

「な、何言ってんのアンタ。まさかそんなぺちゃぱい女に発情できるの!?」

「生徒会長とかならまだわかるけど、よくそんなのに興奮できるわね」

「引くわー。心からドン引きだわー」

 

 やれやれ。これだからIS学園の生徒は「所詮ゴミだな」と鼻で笑われるんだよ。笑っているのは主に俺だけど。

 

「発情? もしそれを本気で言っているなら頭がおかしいとしか思えないな。まさかお前ら、動物相手に発情すると思っているのか? それともお前らは男に飼われたいMな願望者?」

「は? そんなわけないでしょうが!!」

「ふざけてんじゃないわよ!!」

「ふざけてんのはどっちだよ。後輩に寄って集って罵倒して、挙句「ペット」と称したらセックスしか考えないとかまさしく思春期真っ盛りなお子様だな。もしかしてお前ら、外出許可取るたびにオッサンどもに身体売ってんの? そうじゃないにしてもその発想に至った時点で引くわー、マジ引くわー」

 

 そもそもペットって癒しを得るための動物のことでもあるだろう。

 

「更識、あれが悪い先輩の見本だ。心にしっかりと刻んで、あんな先輩にならないように頑張れよ」

「…………論点、ズレてる……」

「もういい、もう怒ったわ!! 覚悟しなさい!!」

「更識、今すぐそのISを片付けろ!!」

 

 言われた通り更識は打鉄を収納する。そして更識を抱えた俺は3年生方を回避して逃げ出した。

 

「アイツ、足早!?」

 

 日頃から鍛えた結果だ。

 そして俺は家に逃げ、協力者を召喚するために更識に手伝ってもらった。最初は更識は嫌がったし、その理由はちゃんと理解しているが、それでも俺は本気で頼んだ。それこそ土下座する勢いで。

 

 ……ちなみに、ペット云々はあくまでノリであり別方向からの召喚術だと説明しておいた。




誰を召喚したのかは皆さんの想像にお任せします。

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