IS-Lost/Load-   作:reizen

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ep.10 対策はするべきもの

 授業が終わり、一夏が地面を植える作業を終えて引き揚げた頃に1人の少女がIS学園の校門に現れていた。

 日が落ち始め、街頭には電気が点いている。その中で歩いていたが少しして自力でたどり着けないことに気付いた彼女は人を探し始めるが、誰も捕まらない。特に今日は織斑一夏のためのクラス代表就任パーティが開かれるのでほとんどの生徒が食堂に向かっているのだ。

 

「本校舎一階総合事務受付って………どこなのよ」

 

 彼女が大雑把に入れていたためか、クシャクシャになった紙と睨むが場所がわからずポケットにねじ込む。

 しばらく歩いているが中々見つからない。そんな時だった。

 

「……ハー……ハー……」

 

 彼女は震えた。

 声。しかも本来あり得ない男の声。この学園に1人だけ男がいるが、それはあくまでも彼女にとってであり2人目のことは気にしてすらいなかったか。

 

(……落ち着くのよ、凰鈴音。もしここに不審者が入り込んだとしたら回し蹴りでぶっとばせばいいのよ)

 

 軍内での代表候補生育成プログラムで鍛えられた格闘術を思い出し、迫ってくる男に向かって飛び蹴りを放つ。

 すると男は呆気なく食らい、ふらついて倒れた。

 

「どうよ!」

「………おい」

 

 足を掴まれた鈴音は慌てて振り払おうとするが、予想以上に強い力で持ち上げられ、戸惑い慌て始めた。

 

「な、何すんのよ!?」

「こっちはトレーニングで疲れているってのに……テメェ何のつもりだ、ああッ?!」

 

 その男は大きかった。

 自分が知る男と比べて縦横共に大きいその男に睨まれ、怯え始める鈴音。

 

「ごめん。ちょっと待って! その、出来心っていうか、襲われるって思ったの!! 悪気があったわけじゃないの!!」

「………襲う時点で悪気もクソもねえだろうが。ぶっとばすぞ」

 

 そう凄まれた鈴音は涙目になるが、やる気がなくなったのかその男は上下逆さにしていた鈴音を戻して着地させる。

 

「…………どうしたの?」

「…疲れただけだ。で、一体ここに何の用だ? 乗り過ごしたのか?」

「転入してきたのよ」

「………まだ4月だろ。身長が低すぎるか胸が無さすぎるかで虐められたのか?」

「違うわよ!!」

 

 自分のコンプレックスを指摘されたことで鈴音は怒るが、その男は気にせずに言った。

 

「……で、どこ行きたいんだ?」

「え?」

「転入ってことは、書類の手続きがあるんだろ? その場所を教えろ」

 

 向こうから提案されるとは思わなかったらしい鈴音は驚いたが、今の状況はまさに渡りに船。言葉に甘えることにした。

 

「じゃあ、教えてくれる? 本校舎一回総合事務受付ってところなんだけど………」

「ああ、そこか」

 

 男は意外に親切だと鈴音は思った。

 既に彼女がいた中国にも情報はあったが、生憎彼女には好きな人がいてその人物以外は興味がなかったので名前以外はデブということしか覚えていない。

 

(……にしても大きいわね。アタシの軽く3倍あるんじゃないかしら?)

 

 そんなことを思いながら、そして確かめながら付いて行くと、大きな施設の中で唯一明かりが点いている場所に案内された。

 

「ありがと。ここからアタシだけで大丈夫よ」

「そうか。それと今日は見逃してやるが、明日からはちゃんと敬語使えよ」

 

 そう言って男は去って行く。少しして名前を聞いておけば良かったと思ったが、今となっては後の祭りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで織斑君、クラス代表決定おめでとう!」

「「「おめでとー!!」」」

 

 食堂に入ると中の一角が盛り上がりを見せている。………そう言えば、織斑のクラス代表就任パーティってのは今日だったな。

 

「いや、何で俺がクラス代表なんだよ!? 透の方がよっぽど適任だろ?!」

 

 いやいや。そこはやはり織斑が務めるべきだろう。何せアレは人気だし………クラス代表で俺の勉強の邪魔をされたくない。

 向こうで俺の名前を呼んでいるが無視し、おばちゃんにいつものメニューを頼んだ。

 

「はい。フレッシュだけど続くダイエットメニューね。それにしても頑張るね。今日もあのキツイメニューをしてきたのかい?」

「汗臭くてすみませんね。シャワー浴びてたら時間ないんで」

「いいよいいよ。汗は男の勲章って言うしね」

 

 そう言ってメニューをくれるおばちゃん。ちなみに白米と納豆、肉に野菜と味噌汁で構成されていて、どれも少なめだが好物だからこそ続けられる。………まぁ、俺の生活リズムに合わせてか、最近は結構手が加えられているけど。ちなみに、肉と野菜、そして味噌汁は日によって変わる。

 夕食を受け取って空いている席に座る。……気のせいか、あのパーティって1組以外にもいるような……明らかに人数がオーバーしているだろ。………まさか他のクラスからも参加しているのか? いや、それはありえないだろ。

 

(………おそらくは偵察か何か、だろうな)

 

 人当たりを知れば大体どんな人間かはわかるしな。見ておいて損はない。

 

「ねぇねぇ」

「……………………………あ、もしかして俺?」

「うん」

 

 コクコク、と頭を縦に振る。………誰かに似ている気がするが、誰だったか……。

 

「あのね、ずっと言いたかったんだけど………」

「女に対する過度な侮辱は止めろって? 精神攻撃も戦略の内だが?」

「そーじゃなくて、お礼を言いたかったの~」

 

 お礼? 俺、こいつに何かをした覚えはないんだが……?

 

「おかしを大量にくれたのって、やっつーだよね~?」

「その、最終進化でドラゴンのタイプが付きそうな名前は俺のことか?」

「そうだよ~」

 

 なんというか、独特な雰囲気な奴だな。……こういうのって凄く相手が面倒なのはわかり切っているが。

 

「別に。ただ必要ないと思ったから更識に処分を手伝ってもらっただけだ」

「でももうなくなったんだけどね~」

「俺でも1か月はかかる量なんだけど!?」

 

 コンビニとかの販売店に送って来られる大き目の段ボール2つ分はあったはずだが……?

 

「そこは気にしなーい」

「………そうだな。他人の胃袋事情を詮索するのは野暮だな」

 

 ましてや相手は女だし、下手なことを言えば即セクハラ扱いだからな。

 ちなみに俺と織斑を比較すると、織斑が言えば「やー、織斑君ったらだいたーん」か「それセクハラだよ~」とか言って腰振るだけで終わるが、俺の場合は絶対に「死ね」が語尾に付く。

 なんて考えていると、パーティをしている場所が少し騒がしくなった。どうやら2年生が織斑に質問しているようだが……

 

「じゃあまぁ、適当に捏造しておくからいいとして」

 

 そんな言葉が聞こえたのは気のせいだと思いたい。

 というか捏造ってそれで良いのか。記者としての魂はどうした。

 

(………碌な奴がいねぇな、この学校)

 

 心からそう思っていると、目の前の女が俺に言った。

 

「もしかして、混ざりたいの?」

「そう言うお前はギャグでも言っているのか? 笑えないがな」

 

 あんなきゃぴきゃぴしている場に、今の状況で飛び込むほどの勇気は俺にはない。

 オルコットが興奮しているのを見ていながら「また捏造する」とでも言ったのかと予想しているとその女は俺の方に来た。

 

「おー! 堂々セクハラ親父こと夜塚透君! 君にもインタビューしたいんだけど良いかな」

「堂々と捏造宣言しているエセ記者に話すことはない」

「そう言わずにさ。じゃあ、今度のクラス対抗戦に向けて織斑君に一言」

「1敗でもしたら屋上から飛び降りろ。ISを外してな」

 

 途端に周りは静寂で包まれた。見ると、織斑の顔は真っ青になっている。………まぁ、流石に今のは言い過ぎか。

 

「冗談だ。代わりに負けたら白式を初期化して俺に渡せってことで」

 

 ……………本来なら、立場的に俺の方が優先されるべきだろ、織斑は姉に守られているんだから別に専用機はいらないはずだ。……なんていうのが俺の持論だが、そんなこと言っちゃますますこじれるしな。……ま、剣1本しかない奴なんて俺の手に渡ったら即刻初期化待ったなしだろうけどさ。

 ちなみにこれも織斑のモチベーションを向上させるための発言だ。

 

「ごちそうさまでした、と」

 

 食事も終えたことだし、俺は食器を戻して家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、疲れた体に鞭を入れつつ(実際に入れていないが)教室が騒がしくなっていた。

 

「―――2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

 昨日のトレーニング上がりの時に聞いた声が聞こえてきた。まさかの今日からだったのか。

 

「鈴……? お前、鈴か?」

「そうよ。中国代表候補生、(ふぁん)鈴音(りんいん)。今日は宣戦布告に来たってわけ」

「そうか。ならばキリキリと機体情報について洗いざらい吐いてもらうとするか」

 

 肩に手を置いて凰鈴音とやらにそう言ってやると、凰は体全体を震わせる。

 

「………あ、アンタは………」

「しかし2組も専用機持ちか。しかも勝手に交代されるのはこちらとしても色々と苦情を入れるべきか? 全く、1年間変更がないとか言っておきながら他クラスは平然と変えれるとかやはりIS学園はアホの巣窟だな………で、2組の代表が専用機持ちになったと言っていたが、それはどういう了見で、だ?」

 

 一通り文句を言ってから機体の情報を手に入れようとすると、凰は俺にとんでもないことを言った。

 

「な、何でアンタが生徒としてここにいるのよ!?」

「………………ちょっと待て。お前、何が言いたい?」

「用務員じゃなかったの!?」

 

 その言葉を聞いて窓から捨てようと思ったのは不可抗力だと思う。

 

「おー、そうだよ。残念なことに18にもなって高校1年だよ。浪人とか大学1年とかならまだわかるぜ? それが高校? ざけんなクソが。生徒と教員を漏れなくサンドバッグにしたって文句言う方がおかしいし、本来なら来年の研究講義に向けて基礎の勉強だぞ。それがガキとお手て繋いで高校生活とかふざけんなよ。その気持ちわかる? わかるわけねえよな、ガキ」

「おい、鈴を離してやれよ。嫌がってるだろ」

 

 全く、何であのガキは敬語を使わねえんだ。3歳しか使わないとはいえ、こっちは年上だぞ。本来ならば2年だろうが3年だろうが俺に平伏すべきだ………ま、流石にそれは言い過ぎか。

 

「安心しろ。まだ初潮も来ていないガキに腹パンするほど鬼畜じゃねえよ、俺は」

「待ちなさい。アンタこそ、アタシのこと勘違いしてない?」

「……初潮はそろそろ、だろ?」

「とっくに来てるわよ!!」

 

 ………嘘、だろ………。まさか実在するというのか………。

 

「どう見ても小学生くらいにしか見えない奴が……高校生なわけがない!?」

「リアルで15だけど! 今年で16よ!」

「15で迷子かよ!?」

「ちょ、何でそのことをばらすのよ、アンタは!! っていうか大体の人はあんなに広くてわかりにくかったら迷うでしょうが!?」

「え? 迷うか普通。というか迷っても良いように地図ぐらい準備するのは当たり前だろ」

 

 俺だけ? 俺だけなの?

 いや、ガキの頃は誰だって大した知識はないから小さなところでも迷うのは当たり前だろうけど、成長すれば「ここは迷いそう」だとか思ったら対策するだろ。俺がISを所持させるように言ってるのもその辺りが原因だ。

 

「―――これは何の騒ぎだ?」

「…ち……千冬さん……」

「ちょうどいい。ちょっと聞きたいことがあるんだが―――」

「これは何の騒ぎだと聞いているんだが?」

「それくらい見たら察しろよ。まぁ、アンタのことだからどうせすべての責任を俺に押し付けて知らんぷりだろうけどな」

 

 凰が驚いて俺の方を見るが、こいつさっきから驚きすぎじゃね?

 

「くだらないことをしている暇があるならとっとと座れ。それと夜塚、お前の最近の態度は目に余る。少しは自重しろ」

「ハッ! どう考えてもISバトルに無理矢理出そうとしたどこかの馬鹿教師よりかは100倍マシだろうが。それよりもテメェは俺よりも弟の教育に専念しろよ。アレの馬鹿さ加減にそろそろ殺しそうだ」

 

 というか今でもぶん殴りたい。その気持ちは全く変わらないがな。

 

「じゃ、じゃあ、アタシ戻るから」

 

 そう言って凰は自分のクラスに戻る……いや、逃げたというのが正しいのかもしれない。

 俺もそれを見て自分の席に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴音は席に戻ると、持って来た(持たされた)資料を漁る。極秘事項だが、鈴音の席は転校生ということもあって端にされているため、ちゃんとバリケードさえ作れば見えない。それでも油断はできないが。

 

(………見つけた)

 

 その資料の上部には「夜塚 透」と記載されていて、顔写真は丸い。そのこともあって彼女は驚きを露わにした。

 

(………まだ入学して1か月も経ってないのよ!? 一体何をしたらああいう風になるのよ……)

 

 彼女は少しばかり戦慄した。情報が遅いわけではないだろうが、予想よりも早く痩せているのだ。……もっとも、彼女は知らないことだが、まだ脂肪が残っていることに透は嘆いているが。


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