アニメ二期あたりまでを考えております。
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英雄の決意
「じゃあ何か。俺は今まで……必死こいて……人を殺して飛び回ってた……ってのか」
英雄の沈痛な声が、穏やかな陽光の差し込む病室にぽとりと落ちた。
「……確証はないと言ったろ」
人類の英雄の悲痛な思いになんとか言葉を返したのは、「巨人は人間である」という可能性を導き出したマッドサイエンティストだった。額に汗をにじませた彼女もまた、英雄と同じような痛みを味わっているのだろう。
そんな腹心の部下たちの心の機微にも、ベッドの上の彼は目配せひとつ寄越さない。ただ、その可能性に、夢見た真実の鍵を見出したのであろうか。わずかにその顔を綻ばせていた。
右腕を失くし、一週間も死の淵をさまよったにもかかわらず、その碧眼は意識を取り戻した瞬間から爛々と輝いている。
マッドサイエンティストたる分隊長が、坊主頭の新兵を引きつれて退出した後、残った英雄は、己の上司のその表情にようやく気づいたようだった。
「お前……何を……笑ってやがる」
「…………何でもないさ」
ベッドの上の彼はそうごまかしたが、英雄は凍りついた表情のまま、言葉を失っているようだった。きっと、彼のよき理解者である英雄のことだ。心のうちに隠していた碧眼の子供のような稚拙さと狂気、そして幼い夢は、英雄の理知的な観察眼によってしっかりと捉えられてしまったことだろう。
思えば、弱味を見せることをしないカッコつけの英雄は、このとき初めてその碧眼にすがったのではなかっただろうか。にもかかわらず碧眼は、その手が伸ばされたことにも気づかなかったのだから、本当に彼らは救いようがないくらいすれ違っている。わずかなすれ違いだが、信頼しあう二人だからこそ、そのズレははたから見ていて少しだけ愛おしい。
なんて人間らしく、どこまで不器用な彼らなのだろう。
「オイ、お前」
不意に英雄が振り返って己を見据えてきたので、その眼光の鋭さに背筋を正しながら返事をした。少しだけその眉が困惑に歪められているように見えたのは、ただの気のせいではない。
「お前は、こ」
「君は彼らと接触したんだろう?何か重要なことは聞かなかったか」
英雄が何か言おうと口を開いたとき、かぶせて問うてきたのはベッドの上の彼だった。いつの間にか、その碧眼はいつもの迷いのない先導者のものにすり替わっている。幼く狂った夢に心躍らせる少年の瞳は、そこにはもうなかった。
それを少しだけ残念に思いながら、そして彼とは対照的に困惑と悲痛さに胸を痛めているであろう英雄に同情を寄せながら、
「いえ。特にありません。ほとんど眠らされていましたので……。思い出したことがありましたら、すぐに報告いたします」
尊敬するその二人の上官に、二度目の嘘をついた。