インフィニット・ストラトス~ドイツの黒き皇帝~(凍結)   作:鈴木颯手

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第三十六話

「…ごめんね。一夏。僕が頼りないばかりに」

 

「そんなわけないだろ。俺がちゃんとしなかったのがいけないんだ」

 

学年別タッグマッチトーナメント二日目の昼食時。ヴィルヘルム六世と賭けをした織斑一夏は目の前で暗い表情をしているシャルロット・デュノアを慰めていた。

 

「…でもごめんなシャルル。優勝すれば自由になれたのに」

 

「いいんだ一夏。これが僕の運命だったってだけだよ」

 

そう言うシャルロット・デュノアの表情は晴れない。それもそのはずである。賭けは織斑一夏の負け。よってシャルロット・デュノアは学年別タッグマッチトーナメントが終わり次第ドイツへと強制送還されることになっていたのだ。

 

既にドイツ帝国の高官によってそのことは伝えられておりその際に織斑一夏がひと悶着を起こしたのは完全なる余談である。

 

「しかし、酷いよなドイツ帝国って」

 

「…そんなこと、言っちゃだめだよ」

 

織斑一夏の言葉にシャルロット・デュノアはそう言うが織斑一夏はそれでも続ける。

 

「シャルルの境遇を分かっているはずなのに悪って決めつけて…。ああくそ!」

 

余程イライラしているのか織斑一夏は机をたたく。

 

「…IS学園は何処の国も不干渉だったんじゃなかったのかよ」

 

「ドイツ帝国は世界で最も影響力のある国だからね。IS学園の運営に使っている資金の七割がドイツ帝国が払ってくれているからね。ドイツ帝国が資金援助を絶った瞬間IS学園は立ち行かなくなるんだよ」

 

IS学園の上には国際IS委員会があるがそれを作ったのはドイツ帝国であるためドイツ帝国がいなければ存在すらできないのだ。

 

「ドイツ帝国がいたからISの運営が確立したんだよ」

 

「それもそうだが…」

 

「アラスカ条約はアメリカが始めたけどドイツ帝国が加盟してくれたおかげでいろいろな国が参加したんだし」

 

「…でも納得は出来ない」

 

シャルロット・デュノアの言葉に織斑一夏はそう答える。そんな織斑一夏にシャルロット・デュノアは笑う。

 

「ふふ、本当に一夏は優しいね」

 

「当たり前だろ?困っている人を助けるのは当然だ」

 

織斑一夏は自信満々に答えるがシャルロット・デュノアの笑顔は暗かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリア準備は良い?」

 

「ええ、問題ありませんわ」

 

昼食が過ぎて準決勝。勝ち残った凰鈴音とセシリア・オルコットはピットで最終確認を行っていた。

 

「相手は箒と静寐だけど油断はできないわ」

 

凰鈴音はそう言う。それに対してセシリア・オルコットも頷く。

 

「ええ、ここまで上がってきたということはその実力は本当でしょうから」

 

「そうね。…ねえ、聞いてもいい?」

 

凰鈴音はセシリア・オルコットにそう聞くが当の本人は何を聞かれるのか分かっていないようで首をかしげていた。

 

「…ハインリヒ・フォン・ヴァレンシュタイン…だっけ?そいつが如何様をしたって聞いたけど本当なの?」

 

内容は如何様についてだったようだ。これについてはセシリア・オルコットも知っていたのか眉を顰める。

 

「ええ、そう言う噂が飛び交っているのは知っていましたがそれはあり得ないと思って無視していました」

 

「あり得ない?」

 

凰鈴音の疑問にセシリア・オルコットはええ、と答える。

 

「ドイツ帝国はそう言う卑怯なことは好みません。たとえ相手に勝てなくても最後まで自分の力を出し切ります」

 

「でも中にはそういう人もいるんじゃないの?」

 

凰鈴音は中国でそういう輩を少なからず見てきたためそういう人ではないのかと問うがこれに対してセシリア・オルコットは首を横に振る。

 

「それはあり得ません。ドイツ帝国ではそういう人たちに敏感でそういう連中は直ぐにいなくなります」

 

「え?何、つまりドイツ帝国では賄賂とかないの?」

 

「それは分かりません。ただ、前に先輩のIS操縦者がドイツ帝国の高官に卑猥なことを要求されていたそうです。ですがその翌日にはその高官はいなくなっており別の人に代わっていたそうです」

 

「それは…怖いわね」

 

予想外の言葉に凰鈴音は苦笑いをする。

 

「さらに現在ドイツ帝国の皇帝陛下が見に来ています。そんな状態で如何様をするようなことはあり得ないと思うですが…」

 

「となると妬んだ教師が反則負けにしたのかもね」

 

そうだとしたら嫌な話ね、と凰鈴音は思う。例え優勝してもそうなれば取り消されることもあり得るからだ。

 

「それはあり得ますわ。ドイツ帝国を妬む国は多いので」

 

「その点セシリアはどうなの?」

 

「私ですか?…確かに昔はイギリス(祖国)と対立していましたが今はそんなことはありませんわ。私もドイツ帝国には敬意を持っています。特に男女平等を掲げた点は評価しておりますわ」

 

ドイツ帝国は女尊男卑が広がる中男女平等を掲げて女性が優遇されることを防いだのだ。そのおかげかイギリスを含むドイツ帝国の影響力のある国は男女平等を掲げたのだ。

 

「それに私が貴族でいられるのもドイツ帝国のおかげですわ」

 

セシリア・オルコットの父親はドイツ帝国の貴族の次男の出であった。セシリア・オルコットの両親が死んだ時に親族が財産を狙おうとしたときに父親の実家が後見人となりそういう輩から守ったのだ。そのおかげかセシリア・オルコットは人間不信にならずにすくすくと成長できたのだ。

 

「おじい様がいなければきっと私は侮られないように傲慢な態度を取っていたかもしれません」

 

「へぇ~。そんなことがあったんだ」

 

セシリア・オルコットの話に凰鈴音は感心したようで何度も頷いていた。更には「上層部の連中も見習ってほしい」とまで言い始めた。そこへ、入場してくださいとアナウンスが入る。

 

「さて!行くわよセシリア!」

 

「ええ!華麗に勝って見せますわ!」

 

二人は意気揚々とアリーナへと向かうのであった。

 


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