インフィニット・ストラトス~ドイツの黒き皇帝~(凍結)   作:鈴木颯手

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第二十六話

「そんなことさせねぇ!」

 

連れていこうとシャルロット・デュノアの手を取ろうとしたとき織斑一夏が横から殴り付けてきた。ヴィルヘルム六世はあえてそれを受ける。それを受けてラウラが行動しようとしたが視線で止める。

 

「…これはドイツ帝国への挑戦と受け取っていいのかな?」

 

「んなこと関係無い!シャルロットに酷いことをするな!」

 

「一夏…」

 

織斑一夏のその言葉にシャルロット・デュノアは惚けている。

 

「…そうか。分かった」

 

ヴィルヘルム六世は殴られた時に口を切ったらしく口から垂れる血を手で拭いながら言う。

 

「なら次の学年別トーナメントで優勝することが出来たらシャルロット・デュノアの収容所送りは取り消すことにしよう」

 

「…分かった」

 

ヴィルヘルム六世の提案に織斑一夏は了承した。

 

「…皇帝陛下には俺から伝えておく。約束を違える事は出来ないぞ」

 

「優勝すればいいだけの話だ」

 

織斑一夏は自信満々に言うがヴィルヘルム六世は鼻を鳴らしてラウラを連れて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…宜しかったのですか?」

 

部屋に戻る道中ラウラはヴィルヘルム六世に尋ねた。

 

「何がだ?」

 

「優勝したら収容所送りは取り消すという話です」

 

二人とも学年別トーナメントには出場する予定であった。ラウラ自身自分の敬愛する皇帝ヴィルヘルム六世が負けるとは思っていないが万が一の確率で負けた場合を心配していた。

 

「問題はない。一学年の専用機は我々と織斑一夏の白式、セシリア・オルコットのブルー・ティアーズ、凰鈴音の甲龍、シャルロット・デュノアのラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ、そして未だ未完成の更識簪の打鉄・二式だ。まあ、クラーラとコルネリアのモーゲンタウもそうだがな」

 

現状この中でシャルロット・デュノアの専用機はラファール・リヴァイブと変わりはない。白式も癖が強く未だに扱いきれていなかった。セシリア・オルコットのブルー・ティアーズ、凰鈴音の甲龍も何かしらの欠点があった。

 

「トーナメントの時まで驕らず訓練を続ければ勝てない相手ではない」

 

「成程、理解しました」

 

ラウラはそう言って敬礼してくるがヴィルヘルム六世はその手を降ろさせる。

 

「とにかく今我々がやるべきことはトーナメントに向けての訓練だな」

 

ヴィルヘルム六世はそう言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの!ハインリヒさん!」

 

シャルロット・デュノアの収容所送りの件があった翌朝。今日もラウラと朝練を終えたヴィルヘルム六世は混みつつある食堂のカウンターで少し早めの朝食をとっている最中に声をかけられた。ちなみに二人が食べているのはヴィルヘルム六世がサラダにパン、ソーセージにスクランブルエッグの洋風朝食セット、ラウラはシリアルを食べていた。

 

「お隣、いいでしょうか?」

 

「…ん?君はあの時の」

 

目の前にいたのは転校初日にヴィルヘルム六世に頭を撫でられ気絶した生徒であった。尚余談だがこの生徒は仲良しの友人に引っ張られて放置されるような事は無かったという。

 

「あの時は本当に助かったよ」

 

「い、いえ!当然のことをしただけですよ!」

 

顔がほのかに赤い生徒はそう言って手を振る。ヴィルヘルム六世はこの時分かっていなかったが隣に座っていたラウラが頬を膨らませていた。

 

ヴィルヘルム六世の隣に座った生徒にヴィルヘルム六世は自己紹介をする。

 

「一応知っていると思うが俺はハインリヒ・フォン・ヴァレンシュタイン。こっちがラウラ・フォン・ボーデヴィッヒだ」

 

「…どうも」

 

ヴィルヘルム六世の紹介にラウラは渋々挨拶する。そして少女も挨拶をした。

 

「えっと、私は山口愛佳です。三組所属です」

 

「三組と言うことはクラーラと同じクラスか」

 

「はい、あまり喋ったことはないのですが…」

 

山口愛佳は苦笑して言う。ヴィルヘルム六世はそれに対して疑問を持つ。別にクラーラは孤高の存在と言うわけでもなく人付き合いが悪いわけではない。単純に二人が友人になっていないだけかもしれないが。

 

「何でだ?」

 

「ドイツ帝国から入学する人ってとても少ないので。まわりにはたくさん人がいるんです」

 

山口愛佳の言葉にヴィルヘルム六世は成る程、と納得する。IS学園に入学するドイツ人は少ない。理由としてはドイツ帝国ではIS関連は企業でもない限り軍人のみが扱っている。そのためISについて学ぶならIS学園よりも軍に入隊した方が手っ取り早いのだ。現在IS学園にいるのは三年に一人、二年に四人、一年にヴィルヘルム六世達をあわせて五人しかいなかった。そのうち一人は収容所行きが決まりつつあるが。

 

「だからどうしても数回しか話せなくて」

 

「そうなのか。確かに話しかけてくる女子は多かったな」

 

休み時間の度にダース単位で話しかけてくる女子に辟易していたが男が珍しいと言うよりドイツ人だから珍しいと言った具合だったのかとヴィルヘルム六世は思案した。

 

「そう言うわけで今になって話すことが出来たのです」

 

「そうか。まあ、最近は落ち着いてきたし時間があれば何か話すくらいなら出来ると思うぞ」

 

「ほ、本当ですか?ありがとうございます!」

 

「…先ずは敬語を直すところから始まりそうだな」

 

終始硬い山口愛佳にヴィルヘルム六世はそう思うのであった。

 


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