インフィニット・ストラトス~ドイツの黒き皇帝~(凍結)   作:鈴木颯手

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第二十三話

「大体武装親衛隊自体よく分からないわ。近衛みたいなもんなの?」

 

凰鈴音の言葉にヴィルヘルム六世は苦笑する。ドイツ帝国と国境を結んでいない国の一般市民からすればこの反応が当たり前だろう。

 

「武装親衛隊は第二次世界大戦前に発足した私兵団だ。当時の首相アドルフ・ヒトラーを守る護衛のようなものだったがヒトラーが死んだあとその兵団をその時の皇帝が拾い皇帝直属の私兵団となったのだ。その後いろいろあり軍の中で優秀な人材が集まるようになったんだ。数は少ないがその分一人一人は強いぞ」

 

「へぇ、そんな違いがあるんだな」

 

織斑一夏がそう言ってくるがあまり興味があるようには見えない言い方だ。それを聞いたヴィルヘルム六世とラウラ以外はあきれている。

 

「あんたね、その言い方はないでしょ」

 

「?」

 

凰鈴音の言葉に織斑一夏は分かっていない様子であった。無自覚のようである。

 

「まあ、そんなことはいいからさっさと食べようぜ」

 

いい加減に我慢の限界が近いラウラがパンを手に持って食べようとするがみんなが食べないため口に運んでは離し、口に運んでは離しを繰り返している。その様子をヴィルヘルム六世は苦笑しながら言った。その言葉にみんなもそれぞれの弁当を食べる。

 

「い、一夏さん?きょ、今日はたまたま偶然早く起きまして、こんなものを用意してみました」

 

そう言うセシリア・オルコットの手にはサンドウィッチが入った籠を見せる。

 

「イギリスにも美味しいものがあることを知っていただけたらと」

 

「(陛下、イギリス料理はおいしくないのですか?)」

 

「(いや、調理のレパートリーが少ないだけだろ)」

 

ラウラが小声でヴィルヘルム六世に聞いてヴィルヘルム六世はそう答える。実際のところイギリス料理はレパートリーが少なく素材本来の味が分からなくなるまで茹でたり揚げたりするからである。それに加えてイギリスでは美食文化がなかったため生活者に合わせた美味しさと手軽さであるためむしろ合理的なのだ。

 

「(それに外国人は自国の料理じゃないと合わないということもあるからな)」

 

「(成程、そういう理由があったのですが)」

 

そう小声で二人で話しているとヴィルヘルム六世の隣に座る織斑一夏が顔を青くしていた。手にはセシリア・オルコットのサンドウィッチが。

 

「(美味しくないのかな?)」

 

「(恐らく)」

 

織斑一夏の様子に二人はそう考察する。実際セシリア・オルコットは見た目をよくするように作っているため味は二の次であった。

 

「一夏さんもっといかがですか?」

 

「い、いや。後からもらうよ。次は箒のだな」

 

「わ、私は…」

 

そう言って箒は弁当箱を開ける。中には唐揚げや玉子焼き等が入っていた。

 

「おお!美味しそうだな!」

 

織斑一夏は唐揚げを一つ取って食べる。

 

「ど、どうだ」

 

「…んん!めちゃくちゃ美味しいぞ!」

 

「そ、そうか!」

 

篠ノ之箒は嬉しそうに笑っている。ヴィルヘルム六世とラウラは持ってきたパンを我関せずに食べる。それを織斑一夏は二人を見てきた。

 

「ハインリヒは何を食べてるんだ?」

 

「パンに肉を挟んだだけのものだ。あげないぞ」

 

「なんでだよ。別にいいだろ」

 

「残りが少ないんだよ」

 

「そ、そうか」

 

織斑一夏は残念そうに俯くがすぐに他の人と喋り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、今日はひどい目にあったな」

 

「全くです」

 

今日の授業も終わり山田教諭に寮のカギを渡され二人は寮に入っていた。ちなみに二人とも同じ部屋である。

 

「寝るには早いけど特にやることもないし寝るとするか。ラウラはどうする?」

 

「私はもう少ししてから寝ます」

 

二人とも当たり障りのない会話をする。現在この部屋には日本政府が仕込んだと思われる盗聴器や隠しカメラが大量にあった。それを分かりつつ二人は決めていた設定で過ごす。日本政府としては貴重なドイツ帝国のスキャンダルや弱みを握りたいらしいがこの程度でそんなものは分かる訳ないが日本政府はそんなことも分からないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、えっと…。皆さんにお知らせがあります」

 

次の日のSHR。教卓に立った山田教諭は何故か言いずらそうにしていた。

 

「ま、またクラスにお友達が増えます」

 

「(また転校生か?)」

 

「(二日続けてなんて珍しいですね)」

 

「で、では入って来てください」

 

そう言って声をかけると金髪の男子が入ってきた。見た目は男装女子に見えなくないが中世っぽい顔立ちのためそういう顔だと言われれば納得してしまいそうであった。

 

「ドイツ帝国から来ました、シャルル・デュノアです。よろしくお願いします」

 

「お、男?」

 

「はい、こちらに僕と同じ境遇の男子が…」

 

瞬間女子から歓声が上がるがヴィルヘルム六世とラウラは驚きのあまり声が出ていなかった。

 

「(どういうことだ?そんな報告は聞いていないぞ?)」

 

「(いったい何者でしょうか?)」

 

ヴィルヘルム六世は自身に報告が来ていないことに驚いた。一応身分を偽っているが自分に何かしら報告が入るようになっていた。それなのに自分に報告がないことに驚く。ラウラは何者なのか疑問に思った。

 

「(名字からしてデュノア社の奴だと思う)」

 

「(ですがあそこでは男性用ISは開発されていませんよ?それに織斑一夏に続く二番目だとしてもニュースにならないのは可笑しいです)」

 

デュノア社はパリに本社を置くISの会社だが第二世代IS「ラファール・リヴァイヴ」を開発してからは大した業績を上げておらず最近デュノア社への予算をカットしたばかりだ。

 

そもそもドイツ帝国は世界一競争の激しいところだ。ドイツ帝国直属の研究者が五つおりその他にも十を超える企業がひしめいているのだ。デュノア社は周りが第三世代の開発に移ってからラファール・リヴァイヴを完成させたのだ。他国ではそれなりの発注があるがドイツ帝国では一機として使われてはいなかった。

 

「(…これは調べる必要があるな)」

 

ヴィルヘルム六世は心の中でそう思うのであった。

 


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