インフィニット・ストラトス~ドイツの黒き皇帝~(凍結)   作:鈴木颯手

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第二十二話

「全く、ひどい目にあったよ」

 

「大丈夫ですか?」

 

初日から遅れて織斑千冬の一撃を食らったヴィルヘルム六世はおどけながら頭をさすりそれを見てラウラは心配そうに見ていた。

 

現在上空では中国代表候補生の凰鈴音とイギリス代表候補生のセシリア・オルコットがペアを組んで副担任の山田真耶と戦っていた。

 

「イギリスのブルーティアーズに中国の甲龍か…。対する山田教諭はラファール・リヴァイブか」

 

「スペック的にはリヴァイブが劣りますが操縦者の腕次第では…」

 

ラウラがそこまで言うと二つの専用機が絡まりあいながら落ちてきた。それを見てやっぱりな、とヴィルヘルム六世は呟いた。

 

「スペックがいくらすごくてもそれを扱う人間が無能ではその性能は格段に落ちる。今回は専用機も能力は高かったが山田教諭の能力がそれより上だったな」

 

そう分析していると山田真耶は元代表候補生でかなりの技術を有していたようであった。

 

「それでは専用機持ちをリーダーにして各自訓練を始めるように」

 

織斑千冬がそう言うと織斑一夏とヴィルヘルム六世に一気に集まってくる。

 

「織斑君!教えて!」

 

「ハインリヒ君の専用機が見てみたい!」

 

「ねえねえ、彼女っているの?」

 

「…このバカ者どもが!出席番号順に散れ!」

 

織斑千冬の一喝によって生徒たちはきれいに分かれている。

 

「さて、俺も展開するか」

 

そう言ってヴィルヘルム六世は一瞬で機体を纏う。これはシュヴァルツェア・カイザーではなくそれのスペックを少し落とした機体である。

 

「これがハインリヒ君の専用機…」

 

「黒くてかっこいい」

 

それを見た生徒たちはみんな見惚れている。

 

「さて、最初は誰だ?」

 

「は、はい!私です!」

 

そう言って一人の女性が手を上げる。こんな時に備えてある程度は教えられるようにしていた。そのおかげか特に問題もなく一人目を終えたがその瞬間に問題は起きた。

 

「…む、立ったままにしてしまったか」

 

そこには直立したままの訓練機があった。これでは乗ることが出来ず次に移ることが出来なかった。

 

「ああ、これでは乗れないのでヴァレンシュタイン君が乗せてあげてください」

 

様子を見ていたのであろう。山田真耶がそう提案してくる。ヴィルヘルム六世は「分かった」と言うとISを解いて次の子を担いだ。所謂俵担ぎというものである。

 

「それじゃ、一気に行くぞ」

 

「え?ちょ、ひぃやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

俵担ぎにした状態で一気に登っていく。担がれている女子は下を向いていたためちょっとしたジェットコースターに乗っている気分であった。

 

「ほら、さっさと済ませようぜ」

 

それに対してヴィルヘルム六世は気にした様子もなく次を始めてしまう。その様子から決して立ったまま下りないようにしようと願い周りにしないでと願うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハインリヒだっけ?朝はごめんな」

 

「別に問題ないよ」

 

昼休み、昼食を食べようとラウラと食堂に行こうとしたら織斑一夏が食事に誘ってきた。後ろには不服そうな三人の女性がいたがあえて無視しよう。織斑一夏にもお断りの返事をしたがこいつはかなりしつこく誘ってくるので仕方なく一緒に屋上に行くことにした。こういう時のためにパン料理を少し持ってきておいたが正解だったようだ。

 

「それで、俺はやはりお邪魔だったかな?」

 

「そんなわけないだろ。大勢で食った方がうまいじゃん。それに数少ない男子同士仲良くしたいしさ」

 

「そうか…」

 

ヴィルヘルム六世としては織斑一夏の顔を見ると織斑千冬の顔が浮かんであまり見たくはないがこう言う好意を無下にしずらかった。

 

「ん?おお!酢豚じゃないか!」

 

その時凰鈴音の弁当にある酢豚を見て織斑一夏は歓声を上げた。ヴィルヘルム六世も中身を見れば見るからに美味しそうな酢豚が作ってあった。それを見てラウラは目を輝かせてよだれを垂らしている。

 

「じゅるり、…美味しそうだな」

 

「な、なによあんた」

 

あまりの様子に凰鈴音はたじろく。流石にこれは見ていられないのでラウラを止めに入る。

 

「こらこら、いい加減にしようぜ」

 

「む、申し訳ない大佐殿」

 

「…その大佐っていうのと敬礼をするなって言っているだろ」

 

いきなり立ち上がり敬礼しながら謝るラウラに呆れながらヴィルヘルム六世は言う。その様子を見てほかの者たちは茫然としていた。やがて代表してか凰鈴音が聞く。

 

「あんたたちってやっぱり軍人なのね」

 

「何だと思っていたんだ?俺はれっきとした軍人だよ」

 

実際ハインリヒ・フォン・ヴァレンシュタインは実在する。元はヴィルヘルム六世のお付きで顔が似ていることから偶に入れ替わっていたりしていたのだ。二人は多少顔が違うしヴィルヘルム六世は金髪、ハインリヒ・フォン・ヴァレンシュタインは黒髪ではあるが驚くほど似ていたのだ。

 

「いや、ごめんなさいね。ドイツ帝国の軍人なんて生で見るのはこれが初めてだし」

 

「私は本国で偶に演習で見たことがありましたわ」

 

「俺はそもそも軍人なんて初めて見たからなぁ」

 

「私もだ」

 

どうやら若い二人が軍人というのが信じられなかったようだ。

 


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