グローリー・キングダムとの戦いから半月が過ぎた。
世界の混乱は未だに続いている。 良くも悪くも様々な形で変革が起きていた。
戦いの最中にレプリコアを手に入れた幾つかの国が、それを研究し始めた。後にレプリコアのデッドコピーのような物を作り上げることになる。しかしこれはISコアに遠く及ばない物であり、結局はEOSの性能を多少引き上げて様々な分野での利用を拡げることになる。
女性権利団体や女性主義者の団体はあの戦いを切っ掛けに、様々な形で捜査が行われ過激な思想を持つ殆どの団体は、今まで行ってきた違法行為が明るみとなり構成員の殆どが逮捕され解散を余儀なくされた。
世の中に蔓延していた女尊男卑の思想も、殆どの国で規制され女尊男卑でも男尊女卑でもない男女平等の思想を推進する国が増え始めた。
グローリー・キングダムの捜査は様々面で行われている。 Assassin ことレジアーネを始め多くの構成員が逮捕され取り調べが行われている。 ただ島で発見されたMerchant こと石動光子の死体が偽者であり本人の所在が不明なこと、更にアリーシャに撃墜された千冬の死が確認されていないことなど不安材料は幾つもあった。
太平洋 ミクロネシア連邦の外れにある小さな島。
名前すらない無い小さな島の砂浜に、一人の女性・・・石動光子がビーチチェアーに横たわっていた。 しかもサングラス以外は何も身につけていない状態で。
だが、ここにいるのは光子であって光子ではない。今ここにいるのはカナダ人投資家のイラドーヤ・クジューアなのだから。 光子はグローリー・キングダムが崩壊した時の事を考えて幾つかの保険を用意していた。
ひとつがカナダ人投資家イラドーヤ・クジューアという架空の人物の戸籍や資産である。 いくつもの迂回取引をへてイラドーヤ名義の資産をかなり蓄えた。
そして次にほとぼりが冷めるまでの隠れ家である。これもイラドーヤ名義で無人島を購入し、築いた。
そして、後は顔を整形するだけだった。これも既に手配はすんでおり、後は手術を待つばかりとなっていた。
(来週には私は石動光子ではなく、イラドーヤ・クジューアという新しい人生を送る事になるわ。そしてレプリコアとラズムナニウムこれで世界一の企業にするわ。TOサンプルはその内なにかに使えるだろうし)
光子は既にイラドーヤになってからの計画は立ててあった。 企業として死にかけているイスルギ重工を買収し、イラドーヤが辣腕経営者として腕を振るい再び一流企業に仕立てあげるという計画が。
既に下準備はすんでおり、1ヶ月後に開始する手筈になっている。 このことを知るのはイスルギ重工のはおらず、今、この島で光子の世話をする3名の側近だけだった。
寛ぐ光子の元に一人の少女が何も身につけていない姿で飲み物を持って近づく。
「光・・・・・失礼しました、イラドーヤ様。飲み物をお持ちしました。」
「ありがとうナギ。まだ馴れないかも知れないけど気をつけてね。石動光子はもういないの、ここにいるのはイラドーヤ・クジューアなのよ。」
光子はそう言って飲み物を持ってきた少女・・・鏡ナギに笑みを浮かべながら軽く注意する。そして持ってきた飲み物を優雅に飲む。
「ナギ、夕食のメニューは何かしら?」
「今日はスズキのカルパッチョとアボカドのサラダ、ジャガイモのビシソワーズにメインがポークソテーとなっております。」
「ありがとう。それから今夜の相手は貴女よ、楽しみにしてなさい。」
「畏まりましたイラドーヤ様。」
そう言ってナギはその場を後にする。
ナギが立ち去ってから暫くすると光子は眠りについた。
夕食までの数時間、午睡するのが光子の日課となっていた。 そして光子はこの地にいる側近に心を許していた。 だからこそ気づかなかった。立ち去る時にナギが笑みを浮かべていたことを。
「くしゅん!」
肌寒さを覚え、くしゃみをした光子は目を覚ました。
そこで違和感を抱いた。既に日が落ちて辺りは暗くなっていたからだ。 いくら南国とはいえ、日が落ちれば多少なりとも肌寒さを感じる。まして何も身につけていないなら。
(随分と寝てしまったわね、それにしてもこの時間になっても迎えに来ないなんて?)
いくら熟睡していたとはいえ、日が落ちても迎えに来ない側近達に違和感を抱いた。 光子はそのまま側にかけてあったバスタオルを巻き付けて隠れ家となっている屋敷に向かう。 屋敷に近づくにつれ違和感は強くなる日が落ちてもなお、屋敷には明かりひとつついていないのだ。 嫌な予感がし、屋敷に近づくのを止めて島の反対側にある潜水艦が停泊させてあるドッグに向かおうとした瞬間だった。
バチッ、バチッ バチッ バチッ!
急にサーチライトが点き光子の姿を照らす。
そして周囲を銃を構えた警察官らしき姿の集団が取り囲む。
「?!」
突然の事に呆然とする光子。
「此方はインターポールだ。国際指名手配犯、元イスルギ重工社長、石動光子。いやグローリー・キングダム最高幹部が一人Merchant 。貴女を逮捕する!」
指揮官らしき男性が進み出て、そう告げると背後から数人の女性警察官が表れて光子を拘束する。
突然の出来事に言葉を失う光子。そのまま拘束され連行されていく。その途中で漸く我に返り喚き抵抗しようとするも、拘束具をされて何もできなくなった。
明かりひとつついていない屋敷の中でその光景を見つめるナギ。今回の一件は全てナギの主導で行われた。後二人の側近は何も知らずにナギの手で眠らされており、今は捜査員に拘束されている。
ナギは光子に忠実な振りをしてずっと待っていたのだ、復讐する機会を。
ナギは両親の借金のかたとして姉のサクラと共にイスルギ重工・・・いや石動光子に引き取られた。 姉のサクラはIS適正が高かった事もありテストパイロットとして働かせられた。そしてその力に目をつけられたアギラによって実験体にされたのだった。 ナギには何も出来なかった。 その後、ナギは光子の寵愛を受ける事になり、色々な事をさせられ・・・光子の裏を色々と知ることになった。
そして事件の後に光子に連れられてこの島に来て、ずっとチャンスを窺っていた。秘かにインターポールと連絡を取り、機会を伺い実行に移した。
姉のサクラの死に追いやった復讐と、そして何より光子からの開放を願って・・・・体内に宿る新たな命と生きる為に。
その後、鏡ナギの所在を知る者は誰もいなかった。
事件から半年が過ぎた、春。
IS学園は入学式をむかえていた。 講堂には新入生が集まっている。その後中の3分の1は男性である。
今年からIS学園は共学となったのだ。 男性がISを動かせる事が出来るようになった訳ではない。今年からは操縦科とは別にIS技術科を設立した。操縦科は相変わらず女性のみだが、IS技術科は男女共学として生徒を募集したのだ。
新入生を前に生徒会の役員が壇上に上がり祝辞を述べる。
「新入生の諸君、入学おめでとうございます。私はこのIS学園の生徒会長を務めます操縦科2年生のシュート・アルカンシェルともうします。 本来なら操縦科3年生の更識刀奈さんが務めるはずだったのですが、今年開催される第3回モンドグロッソに集中したいとのことで私が会長職を引き継ぎました。どうぞよろしくお願いします。」
シュートの挨拶に会場からどよめき共に割れんばかりの拍手がおきる。
「さて、新入生の諸君。君たちにとってISはどんな存在ですか? 力、象徴、兵器、スポーツ競技と答える人が殆どでしょう。 ですが、忘れないでください。それが昨年悲しい事件を引き起こした事を。そして思い出してください、篠ノ之束博士が最初に言った事を。ISとは本来、宇宙へと羽ばたく為の翼であることを。未知なる宇宙へと進む為の道具であることを。私たちは歪められたISの本質を今こそ理解していく必要があるのです。 その事を弁えて勉学に励んでください。」
シュートの言葉に会場は静寂に包まれる。受かれた表情を浮かべていた新入生もシュートの言葉に顔つきが変わる。
「私たちはこの学園でISの本質を確りと学び、卒業後に世の中にそれを伝えていく役目があるのです。どうぞ、これから3年間その事を胸に携えて頑張ってください。」
そこまで言うとシュートは両手を拡げて
「この言葉を持って祝辞を終わらせていただきます。ようこそIS学園へ!!」
会場は再び割れんばかりの拍手が巻き起こる。
これにて本編は完結とさせていただきます。
なお、登場人物のその後に関しては別途投稿いたします。
また、幾つかの外伝というか本編では語られなかったストーリーやコラボ編を投稿予定となっております。
とりあえず、これまでおつきあいいただきありがとうございました。