エルデは地下にある特別な場所へと向かう専用エレベーターの中で焦っていた。その場所に向かうには3つゲートと2つのエレベーターを乗り継がなければ行けない。 その場所に行くことができるのはエーデル達、5人の最高幹部のみで、それ以外の者は立ち入り禁止となっている。 それ故にエルデは護衛もつける事なく向かっている。
チーン
到着を告げる鐘の音と共にドアがスライドし開く。 だが、次の瞬間
プシュ! プシュ!
「えっ?!」
何か空気が抜けるような音がした。 それは突然の事だった。エレベーターの扉がひらきエルデが降りようとした瞬間、その場にいた黒いライダースーツとフルフェイスのマスクを被った女性に額を銃で撃ち抜かれた。
エルデは音を聞くと同時に額が熱くなるのを感じ、そして意識が遠退き全身から力が抜けていく。 膝と腰が落ちそのまま仰向けに倒れる。 意識を失う前のエルデの瞳には黒いライダースーツと黒い仮面を身につけ右手に硝煙の立ち上る銃を持つ女性らしき人物を映していた。
エルデは自分が額を撃たれた事を理解する事はなかった。
「・・・・・・・」
エルデを撃った人物は拳銃をホルスターにしまうと、倒れたエルデに近づき、服の胸元の隙間に手を入れて内ポケットからUSBメモリーを取り出す。 そしてそれを自分の内ポケットに納めると、ウェストポーチからタバコの箱位の大きさの赤い突起の付いた黒いプラスチックケースを取りだし赤い突起を押し込み、それを倒れているエルデの胸元に置く。 そしてエレベーターのパネルを操作し、自身はエレベーターに乗らず扉を閉める。
エレベーターはそのまま上へと向かう。 それを見て
その場を立ち去る女性。
エレベーターが上の階に着いた瞬間に爆発がおきるのだった。
青いヴァルシオンと戦う刀奈とシャル、その戦いは一方的なものとなっていた。
「種あかしされた手品は見るに堪えないわ。そろそろ終わりにしましょうか。」
刀奈が相手をしているヴァルシオンの姿は見るも無惨な物となっていた。両手に持っていた剣とレーザーライフルは原形を留めておらず、ヴァルシオンの装甲もかなり破損していた。 それでもラズムナニウムの力で修復がはじまる。 だが、
「言ったでしょう!もう終わりにすると。いくわよ、篠突く雨!」
ヴァルシオンの頭上から豪雨の如く降り注ぐ水の弾丸、命中する度に連鎖的な爆発し装甲を抉りとっていく。それで終わりではなかった。
「鳳閃火」
今度はありとあらゆる角度から火球が降り注ぎ、命中する度に連鎖的に爆発する。 抉りとられたそれでもが更に深く抉りとられる。
表面の装甲は殆ど失い更に内部の部品や電子機器にまでダメージが及んでいた。 それでも修復が始まろうとするが、刀奈はその猶予を与えず
「リミッター解除、出力最大! コード入力、ファントム・フェニックス!」
右腕に弓を持ち左手にエネルギーの矢を生み出しつがえる。
「飛べ 幽炎の鳳凰!」
矢を放つとそれは炎の鳥・・・鳳凰の姿となりヴァルシオンに向かっていく。 鳳凰は羽ばたきながらヴァルシオンに命中する。 ヴァルシオンは炎に包まれる、自己修復能力と焼きつくそうとする炎がせめぎあうが、やがて炎の方が勝り融解し炭化していく。
跡形も無く焼きつくされたヴァルシオン。
「ソレイユ モードガンナー。」
シャルはソレイユをガンナーモードに換装すると肩の
3連ミサイルランチャーと右手に持つ6連ガトリングビームガンを一斉発射する。
「これが本命よ!」
背中に装着されているロングレンジプラズマカノンがヴァルシオンに向けて放たれる。 ミサイルとガトリングによる牽制により回避することも出来ずに直撃を受ける。 大ダメージを受けるヴァルシオン、だが此方もラズムナニウムの自己修復能力で修復が始まる。
「ソレイユ モードガンストライカー!」
ソレイユを右腕をクラッシュアームに換装した万能型のガンストライカーモードにしたシャルは
「ガンフェアリー パージ! フローティング・タンク・モード!」
背中のガンフェアリーが本体から外れ自立行動する浮遊戦車フローティング・タンクとなる。 そして背後からヴァルシオンに攻撃する。修復が完全でないヴァルシオンはダメージを受けていき更にソレイユの方に弾き飛ばされてくる。
「いけ、挟み撃ちよ!」
クラッシュアームで殴りヴァルシオンをガンフェアリーの方に弾き飛ばす。 そこに再び背後からガンフェアリーが砲撃を加えてソレイユの方に弾き飛ばす。
「これで止めだよ! ギガント・バスターッ・アァーームッ・クラァァァッシュ!!」
弾き飛ばされてきたヴァルシオンに向かい加速して突撃するソレイユ。 そして右腕のクラッシュアームを真っ直ぐ胸部に向けて突き立てる。 クラッシュアームは胸部装甲を破壊して内部を抉り貫通する。
クラッシュアームの爪にはISコアが、そして貫通した箇所には破壊されたレプリコアがあった。
そして箒と戦うシュート。 こちらの戦いもまた一方的なものとなってた。
特殊武装ユニット[AMボクサー]を装着したリュミエールはその巨大な拳に重力波を纏わせ接近し、ヴァルシオンを殴る。
左のストレート 右のフック そして
「喰らえ、ガイストナックル!」
左のアッパーカットを叩き込む。 そのコンビネーションを全てまともに喰らうヴァルシオン。
箒の纏うヴァルシオンはシュートのリュミエールの攻撃をまともに回避することも出来ずに受け続けている。
そもそも箒はIS適正値CとISをまともに可動できる最低ラインだ。
運動神経が良くても、武術の心得が在ろうとも適正が低ければISの性能を100%発揮することは出来ない。
それに加えて箒のヴァルシオン・クリムゾンは他の機体と違いGAMEーSYSTEM の設定レベルが低くされている。箒はGAMEーSYSTEM と同調するための調整を受けていないためだ。 使い捨てのパイロットなら兎も角、Empress ・・・象徴としての箒の価値は必要である。 只でさえ精神操作や記憶洗浄等の処置を施してあるのに、さらにGAMEーSYSTEM の同調処置で負担をかけては廃人になる可能性もあった。 いくらお飾りの象徴とはいえ廃人では何の役にも立たない。
無論、だからと言ってヴァルシオン・クリムゾンがヴァルシオンより弱いかと言えばそういう事はない。
それを補う為に装着者とシステムの差を埋める様々な方法を取り入れている。 ラズムナニウムは勿論のこと、レプリコアを複数搭載する事でパワーを補っている。また箒の適正値をカバーする為に特殊な制御システム【ブレインモジュール】・・・AIの変わりに人間の脳と脊髄を利用した制御装置・・・を3基搭載したのである。
これにより、理論上は並のISは勿論のこと他のヴァルシオンよりも優れた能力を発揮するはずだった。
「シーケンス、CK1!。ブースト!!」
リュミエールは空高く舞い上がる。そして
「ターゲット・ロック! 喰らえ、カタパルト・キィィィック!!」
高度からヴァルシオン目掛けて重力波を纏った右足のキックが放たれて腹部に命中し、貫く。