オーストラリアの首相ケネス・ギャレットは苛立っていた。
(くそっ!! 今までずっと上手く立ち回ってきたのにこの期に及んで、まさか捜査の手が伸びて来るとは。)
ケネスはずっとグローリーキングダムの手先として様々な事を行ってきた。 男である彼が何故、女性主義団体のグローリーキングダムの手先となったのかは簡単だ。 彼は自らの保身と金銭の為にそのプライドを売り渡した。 そしてグローリーキングダム為に様々な事をした、時には彼女達が有利になるように働きかけたり、時には機密情報を渡したり、時には彼女達の犯罪を揉み消したりと。
しかし、それも限界に達していた。それ所か自身にも危機が迫っていた。
(このままでは不味い、地位を追われるだけでなく資産も没取されてしまう。 どうする? 金を持って逃げるか・・・)
一国の首相とも在ろう者が、我が身可愛さに国を捨て逃げる算段をつけていた。
PIーPIーPIーPIーPIーPIー
突如、机の上に置かれていたケネスのスマホが着信を知らせる。 ケネスは画面を見て、電話の相手を確認すると慌ててでる。
「モシモシあんたか、不味い事になった。」
『貴方の現状は存じております。 ですが何も心配することはありません。既に手は打ってあります。』
「そ、そうか! 大丈夫なんだな! それで、どうすればいい?」
『貴方は何もする必要はありません。もう貴方の役目は終わりました。』
「はっ?」
『本当に愚かな男。でも貴方のお掛けで私達は力を蓄え、ついには行動を起こすことが出来ます。今までありがとうケネス・ギャレット。それではサヨウナラ』
通話が切れる。 何を言われたのかわからないケネス、直ぐに我にかえると相手に問いかける。通話が切れているのも気付かずに。
「ま、待てどういう意味だ。エー?! くそっ!! もう一度、 なん? ウワァァァァァァーーー!!」
切れているのに気付いて慌てて相手にかけ直そうとした瞬間だった。突然、目映い光が窓から射し込んできた。 いや、窓からだけでなく天井を突き破りケネスのいる部屋にも光が溢れる。
光は凄まじいまでの熱量を有しており、ケネスが光に触れた瞬間に肉体は一瞬にして蒸発した。
この日オーストラリアの首都キャンベラは壊滅的被害を受けた。
同時刻 アメリカ
「それは本当ですか? エンフィールド支部長!」
「えぇ、間違いないわ。 信じられない事だけど、彼女はグローリーキングダムの最高幹部の一人よ!」
「まさかと思いたいですが・・・」
「小野寺支部長のお気持ちもわかりますが、これは揺るぎのない事実です。」
最高幹部のうち、新に判明した2人の情報を纏めていた哲哉とレフィーナの元に突然舞い込んできた情報に戸惑いを隠せなかった。
グローリーキングダムの6人の最高幹部。そのうちようやく3人までわかったところで、更にもう1人の幹部の正体が判明したのだから。
「ともかくこの事を事務総長に報告しないと!」
そう言って哲哉が立ち上がったところで、
ビーーー、ビーーー、ビビ、ビーーー、ビーーー
机の上にある電話が鳴り響く。普段とは違う独特の鳴り方、哲哉とレフィーナは知っていた。この鳴り方は緊急情報を知らせる物だと。哲哉は電話のスピーカーをONにして受話器を取る。
『・・・ました。 繰り返してお伝えします。先程オーストラリアの首都キャンベルが大気圏外からのレーザー攻撃を受けました。かなりの被害が出ている模様ですが、音信不通の為に確認がとれません。この事態を受けて緊急会合が開かれる事になりました。 繰り返して・・・』
哲哉とレフィーナは直ぐにこれがグローリーキングダムの仕業と確信した。
「小野寺支部長・・・どうやら私達は出遅れてしまったようですね。」
「これ以上被害が広がるのを食い止めねばなりません。事務総長のみならず全てのメンバーに現段階で判明している情報を知らせて準備させましょう。」
哲哉とレフィーナは直ぐに行動に移った。
日本 更識重工地下秘密ラボ
シュート達はファントムタスク上層部より送られてきた情報に驚きを隠せないでいた。
オーストラリアの壊滅的被害にグローリーキングダムの幹部の情報。
それらは余りにも衝撃的だった。 シュート達が見つめる画面には軌道衛星からのオーストラリアの映像並びに日本の複数のテレビ局の緊急特別番組とグローリーキングダムの最高幹部のプロフィールが映し出されていた。
オーストラリアの首都キャンベルの惨劇は目を覆うような有り様だった。 ビルの大半は熱で溶けて原型を留めておらず飴細工のごとく変形していた。
レーザー余波で起きた火災が彼方此方で起きているものの消火活動も儘ならないせいで被害は広がる一方だ。
おそらく生存者の救出活動も出来ていないようだ。
その場にいる全員が言葉を失う程の惨劇が映し出されていた。日本のテレビ局も、それらの映像を流しながら解説者や専門家が状況の説明に原因の仮説等を述べている。
それらの見ながらシュート達は正体が判明したグローリーキングダムの最高幹部の内の四人のプロフィールと顔写真を見ていた。
[アギラ・セトメ 通称Doctor 違法手術並びに人体実験、更に違法薬物の製造の罪により国際指命手配中 etc・・・]
[レジアーネ・ヨゼフィーヌ 通称Assassin オーストラリア国家代表。 第2回モンドグロッソ総合部門において織斑千冬と対戦し初戦敗退etc・・・]
[エルデ・ミッテ 通称Professor IS技師でナノマシン並びに人工頭脳開発の第一人者。ISの稼働実験で幾人もの装着者を死亡させる。etc・・・]
そして最後の一人・・・・
「まさかこの事を人が・・・・」
「獅子身中の虫とは言いますが・・・」
刀奈と虚は表情を歪め
「まあ、前からどうにも気に入らない人物だったんだよな。」
「先輩の勘が当たったんスね。」
どうやら以前から何かしら予感していたダリルとフォルテ
「先輩・・・」
「落ち着きなさいセシリア、私達が動揺しても何もなりません。」
此方も動揺を隠せないでいるセシリアとそれを諌めるサラ
「今ごろ各方面は混乱してるでしょうね。」
「仕方得るまい、それほどの衝撃的な事実だからな。」
リムとラウラはつとめて冷静であろうとする。
シュート達は無言のまま最後の一人のプロフィールを見つめる。
ザ、ザ、ザーーーーザ、ザーーー
突然、日本の報道特別番組を映し出している画面が全て乱れる。
「クーちゃん!!」
「はい!」
タバネが指示を出すとクロエがコンソールを操作して画面にあらゆる国のテレビ番組が映し出された。
その全てが画像が乱れ砂嵐状態となっていた。
「何者かが、大規模なハッキングを仕掛けている模様です。 今サーチしています。」
クロエの報告と同時に砂嵐状態は解除され全ての画面が同じ映像を映し出していた。
宮殿の謁見の間を想わせる雰囲気の部屋。壁には白百合と剣を手にした女神が描かれた旗が飾られており、その下に玉座のような椅子が中央に置かれ、左右に5人の女性が並び立つ。
シュート達は壁に張られた旗と先程までの見ていたプロフィールから女性達がグローリーキングダムの幹部だと確信した。
全てを見下すような目付きをした白髪の老婆 Doctor ・・・アギラ・セトメ
燃えるような紅い髪で鋭い目付きの凛々しい美女 Assassin ・・・レジアーネ・ヨゼフィーヌ
茶髪で左目元の黒子が特徴的な知的雰囲気を持つ美女 Professor ・・・エルデ・ミッテ
赤いノースリーブのチャイナ服を纏った妖艷な雰囲気を醸し出す美女、正体がこの瞬間までわからなかった幹部 Merchant ・・・石動光子
そして
『我々はグローリーキングダム。 女性による女性の為の女性だけの国を創る事を目指し活動してまいりました。 そしてその理想を現実のものにする為に、我々は全て国々に宣戦布告いたします。』
紫髪の慈愛の笑みを絶えず浮かべている美女、国際IS委員会の委員長を勤めるエーデル・ペルナル・・・Priestess が言い放つ。