インフィニット・ストラトス 遥かなる虹の輝き   作:雷狼輝刃

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第26話  誘い

 

 

 千冬の突然の失踪は、関係者に衝撃をもたらした。 だが、直ぐ様IS委員会により情報統制がひかれ、その事が一般に広まることはなかった。 

 それでもIS学園の職員達には動揺が広がる。夏休みも残り5日となっており、事態を重く見た学園側は急遽、校舎の設備のトラブルによる1週間の夏休みの延長を生徒達に通達し、職員達の心のケアと体制の立て直しをはかることになった。

 

 一方シュート達はと言うと、校舎は設備トラブルの調査修復という名目により生徒の立ち入りが禁じられているために生徒会室を使う事が出来ないのでメンバー全員で外出届けを出し、更識重工の地下秘密ラボに集結していた。

 

 

 「警察のネットワークにアクセスし情報を入手しましたが、依然として篠ノ之箒さんの行方については不明のままで、その後の捜査の進展は見られていません。 そして織斑先生の行方についても依然として不明のままです。此方の方は失踪直前に病院に正体不明の女性が面会に来ていました。」

 

 虚はそう言って、空間ディスプレイに紺色のビジネススーツを着た黒髪の女性の姿を映し出す。

 

 

 「病院に設置してある防犯カメラに写っていたものです。 ですが不思議なことに周辺の防犯カメラ並びに監視カメラの映像にはこの女性の姿は写っていません。 変装等の可能性も視野に入れ顔認証システムで映像を解析しましたが発見できませんでした。 警察もこの女性が織斑先生の失踪に何らか関与したものと考えているようで行方や正体を突き止めようとしていますが、成果は上がっていないようです。」 

 

 更に端末を操作して幾つもの病院周辺の地図と監視カメラと防犯カメラの位置とそれぞれのカメラが撮影した映像が表示された。

 

 

 「ご覧の通り、病院に入る直前と出た直後の映像には女性の姿が何処にも写っていません。」

 

 「ということは、カメラの死角を熟知して移動したのか、それとも車に乗り込んで写らないように身を隠したのか? どちらにせよこの女性はただ者じゃ無いわね。」

 

 虚の報告に刀奈が意見をのべる。

 

 

 「織斑千冬、篠ノ之箒、そしてこの女性に関してはファントムタスクの諜報部と警察に任せる事になった。俺達には別の指令が届いた。」

 

 シュートはそう言って全員を見る。

 

 

 「その前に新しく加入するメンバーを紹介する、ラウラ。」

 

 そう言ってメンバーの後ろに控えていたラウラが前に出る。

 

 

 「今回、ドイツのブロウニング支部長からの要請によりドイツ代表候補生序列第1位のラウラ・ボーデウィッヒ少佐をメンバーに加える事になった。」

 

 「ドイツ代表候補生兼ドイツ軍IS配備特殊部隊の隊長を勤めるラウラ・ボーデウィッヒ少佐です。よろしくお願いします。」

 

 そう言ってラウラは敬礼をして挨拶をし、再び席に戻る。

 

 

 「さて、指令だがみんなも知っての通り[グローリーキングダム]の活動が活発化している。ルヴェール事務総長を始め上層部では大掛かりな作戦が始まる前兆ではないかとよそくしているようだ。」

 

 シュートの言葉に全員に緊張がはしる。 既に全員が認識していた 【大掛かりな作戦=戦争】 という事を。

 

 

 「それでシュート、上層部はそれをいつ頃と予測しているの?」

 

 「早ければ1ヶ月以内。」

 

 刀奈の疑問にシュートが答えると、全員があまりの短さに驚く。

 

 

 「そして俺達に与えられた指令は、有事の際において敵本拠地へ突入し首謀者達の捕縛又は排除だ。」

 

 「おいおい、始まらない内からそんなことを決めていいのか?それに、こう言っちゃ何だが、普通そういう任務は国家代表とかがやるんじゃないか?」

 

 「ダリルの疑問はもっともだ。 この事は俺達以外には直前までは秘密にされる。そして国家代表には囮の役目を引き受けて貰う事になっている。 そうすることで敵の目を欺く事になるからな。」

 

 シュートの説明に頷く面々。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太平洋上を静かに飛行する小型ジェット機。徐々に高度を落としていき海へと着水しようとする。だが、どう見てもジェット機には海上に着水出来るような装備は見当たらない。 このままでは沈没してしまう。

 だが着水する寸前で何も無かったはずの海上に突然滑走路が出現する。 ジェット機は車輪を出して、滑走路に着陸する。 そして滑走路をある程度進んだところでジェット機は突然、姿を消す。ジェット機だけでなく滑走路も消えた。 もとから何もなかったのごとく

 姿を消したジェット機はというと、滑走路の先にあった格納庫らしき場所に進んでいた。

 どうやらここは何らかの方法で外からはわからないようにカモフラージュされているようだ。

 停止したジェット機のドアが開き、中から一人の女性・・・エキドナにつれられて千冬が姿を表す。

 

 

 「ここがお前達の本拠地なのか?」

 

 「そうです、ここが私達の国であり聖地でもある【グローリーキングダム】です。」

 

 千冬の疑問にエキドナが答える。そして先導して進んでいく。

 暫く進んだところにあった扉をエキドナが開き、その先に進んで行くと千冬の目に信じられない光景が映った。

 

 

 「ば、馬鹿な?! ここは海の上で何もなかったはず。」

 

 そこには色とりどりの花が咲き乱れ、頭上からは太陽の光が降り注いでいた。背後を振り返れば、そこは仰ぎ見る程切り立った断崖絶壁。

 いや、背後だけでなく見渡せる範囲が切り立った崖に囲まれている。 足下を少し蹴ると草花の下から土が露になる。 

 

 

 「島などなかったはず、どういう事だ?」

 

 「ここは地図には載ってない島。そしてその島を特殊なフィールドで覆うことで外からは一切感知できないようになっております。 それでは此方へ。」

 

 エキドナは再び先頭にたち千冬を案内する。草花が咲き乱れる場所を横切り暫く進んだところで崖の下にたどり着く。 その一ヶ所にエキドナが手を触れると扉が出現し開く。 そしてそのまま中へと進む。薄暗くじめじめとした洞窟の中をひたすら進んで行くと再び扉が出現しエキドナが開く。

 そこには先程と同じく周囲を切り立った崖に覆われた軍事基地があった。 只の軍事基地ではなく、その中心に城を思わせる建物が建っていたのだ。

 

 

 「まさか、こんな基地を1権利団体が有しているなんて・・・」

 

 「さぁ、此方へどうぞ。Empress 達が貴女をお待ちです。」

 

 そう言ってエキドナは黒塗りの高級車に千冬を乗せて出発する。

 クルマは基地の中を走り抜けて城に向かう。 更に城の門を潜り抜けて、そのまま城内に向かう。

 城の扉を通り抜け、ホールの階段前でクルマは停まる。

 

 

 「着きました。どうぞお降りになってください。」

 

 エキドナは運転席から降りて千冬が座る席のドアを開き促す。千冬は言われるがまま降りる。 エキドナは階段の方向に手を伸ばし

 

 

 「どうぞ、このまま階段を上がってください。そこにEmpress 達がお待ちになっております。」

 

 千冬はエキドナに言われるまま階段を上がっていく。

1段、また1段と足を進めながら、ここに来るまでの事を思い返していた。

 

 

 

 

 

 ◇◇回想◇◇

 

 

 

 「?! 何故お前がここに?」

 

 面会室に入った千冬を待っていたのはIS学園の職員ではなく、以前デモの中止交渉の時に出会った女性主義団体【野薔薇の会】の主催者の女性だった。

 

 

 「【野薔薇の会】の代表の蛇尾エマだったな。もう一度聞く、何故お前がここにいる?」

 

 「野薔薇の会代表、蛇尾エマとは仮の姿です。私の本当の名はエキドナ・イーサッキ、【グローリーキングダム】の盟主Empress から貴女を御迎えに上がるように申し使って参りました。」

 

 そう言ってエキドナは一礼する。 

 

 

 「何? グローリーキングダムだと!」

 

 千冬は驚く。グローリーキングダムの名はIS学園の職員達にも多少の情報は伝わっていたからである。

 

 

 「何を言い出すかと思えばふざけた事を。私は女尊男卑等知ったことか。さっさと帰れ!!」

 

 「私達の組織には優秀な科学者と医者がおります。 私達の組織の力を持ってすれば弟さんを助ける事が出来ます。」

 

 「なに?!」

 

 エキドナの言葉は千冬の心を揺れ動かした。 病院の医者から、一夏は一命はとりとめたもののこれ以上の回復は期待できないと言われていた。 

 

 

 「勿論、私の言葉だけでは信じる事はできないでしょう。ですので実際にご自分の目で確かめて見ませんか? 私達の本拠地に来られて?」

 

 エキドナの誘いの後、千冬は長い時間悩んだように感じた。一時間いや半日・・・それほどの時間悩んだように思えた・・・実際にはものの10分程だったが、

 

 

 「よかろう案内しろ。だが嘘とわかれば容赦せぬ!」

 

 「それでは参りましょう。」

 

 

 

 それから千冬はどう歩き、どう移動したのか覚えていなかった。 気がつけばジェット機に乗り込んでいたのだった。

 最後の1段を上りきった千冬。目の前には巨大な。扉があった、しかし千冬が上がりきったのと同時に閉ざされていた扉が少しずつ開きはじめた。

 扉が完全に開ききった先に見えたのは絢爛豪華な広間と6人の女性だった。

 その女性達に向かって足を進める千冬。

 

 

 

   この24時間後、グローリーキングダムの攻撃がオーストラリアを襲った。

 

 

 

 


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