◇【 国際IS委員会 】◇
ニューヨークの国連本部の側にあるビルの一室にて国際IS委員会の緊急会議が開かれていた。
国際IS委員会・・・ISを所持する全ての国が参加しており、特に日本・アメリカ・中国・ロシア・イギリス・フランス・ドイツは主要委員として様々な権限が与えられている。
そして今、福音暴走事件に関する話し合いが行われている。
「・・・・・・以上が、アメリカとイスラエルが協同開発した軍用ISの暴走事件に関するIS学園側からの報告です。」
日本支部長の小野寺哲哉からの報告を聞きアメリカとイスラエルの支部長の女性はそれぞれ顔色は青ざめていた。それを一瞥し哲哉は話を続ける。
「そもそもアラスカ条約で禁じられている軍用ISの開発を行っていたことはおおいに問題が有ると思います。そこで両国に対しての制裁決議を提案します。」
哲哉の発言に会場内はどよめいた。 イスラエルは兎も角アメリカは主要委員の一員、その国に対しての制裁決議を提案するなど前代未聞の事態なのだから。 更に言えばアメリカの支部長の女性は女尊男卑主義者だから尚更だ。
「な、何を言い出すのよ男の癖に! わがアメリカに制裁決議ですって!! アメリカは世界の警察なのよ! 世界の平和を守るためには必要なことなのよ! そんな事もわからないの! これだからISに乗れない男は使えないのよ。」
アメリカ支部長は立ち上がり激昂する。 国際IS委員会のメンバーはその性質上3分の2は女性である。 更にその役半数が女尊男卑主義者だ。普段ならば彼女の発言や動議に賛同する者も多いのだが、今はタイミングが悪かった。揺るぎの無い事実がある以上、誰も彼女の発言に対して同意しない。同じ女尊男卑主義者ですら飛び火を警戒して賛同しない。
アメリカ支部長の発言の後、沈黙が訪れる。
「言い訳は終わりましたかアメリカ支部長?」
20代後半の紫色の髪の女性はそう言った。
「エーデル・ベルナル委員長・・・・」
その女性・・・エーデルに対してアメリカ支部長が呟く。
エーデル・ベルナル・・・オーストリア出身でありIS委員会が発足当時からのメンバー。 主要委員ではなかったものの、その清廉潔白な信条と人柄から多くの国から認められており、二年任期の委員長の座を既に3期勤めている。それ故に、アメリカの支部長も彼女の発言や意見を無視することは出来なかった。
「アメリカとイスラエルがアラスカ条約に違反したのは、紛れもない事実であり断罪されても仕方の無い行動です。 ですが、今回は今後の両国の行動に警鐘を促す意味を含めて注意勧告に留め、両国のIS関連企業や関係施設への査察を行うというところでいかがでしょうか? 賛成の方は挙手をお願いします。」
エーデルの提案に哲哉も、その辺りが落とし所と思い挙手する。当事国のアメリカとイスラエル以外の全ての国が挙手した。 アメリカとイスラエルの支部長は苦悶な表情をするが拒否することは出来なかった。
小野寺哲哉・・・国際IS委員会日本支部長。 議員時代に女尊男卑の女性議員達が作った[百合の党]が女性最優先優遇法案を提出した際に、その法案のデメリットを事細かく丁寧に説明し法案が如何に無用の長物かを証明し成立を阻止し、更に百合の党の様々な不正を暴き出し女尊男卑議員の一掃に一役買う。 その手腕を認められてIS委員会日本支部長に抜擢される。
◇【 温泉 】◇
「ふ~、良いお湯ね~。 やっぱり日本の温泉は最高ね~。」
露天風呂に自らの肢体を隠すことなく浸かっているエクセレン。
「おい、エクセレン。 わざわざ俺達を日本まで呼び出して温泉に連れて来たのは何が目的だ?」
同じく肢体を隠すことなく浸かっているのはロシアの国家代表のカチーナ・タラスク。 カチーナの隣に浴衣のような湯浴み着をイタリアの国家代表のグラキエース・ルイーナが嗜める。
「そんな事言わなくても良いのではカチーナ。 せっかくエクセレンが招待してくれたのよ楽しみましょう。」
「ラキは馴染みすぎだ。」
グラキエースに突っ込みを入れるのは水着を着た中国の国家代表のリン・マオだ。
「それにしても、よくこんな高級旅館を貸し切りに出来ましたわね? 」
そうエクセレンに尋ねるのは水着を着たフランスの国家代表のアクア・ケントルム。
「刀奈ちゃんに頼んだの♥」
「刀奈ちゃん・・・・・更識に頼んだのか!」
エクセレンの言葉に呆れるカチーナ。
「もしかしてここって・・・・・」
「そう更識家が経営している旅館の1つよ。しかも3つ星クラスの旅館よ。」
エクセレンの言葉から直ぐ様、この旅館の素性を理解するアクア。
「肝心の刀奈はいないけど?」
「そう言えばそうだな? IS学園も夏休みに入っている筈だからこれそうなものなんだが?」
グラキエースが刀奈が来ていない事を指摘し、リンもそれを捕捉する。その質問にエクセレンが答える
「刀奈は忙しいみたいよ。何せもう一人の男性操縦者が色々とやらかしたみたいで、その後始末が大変みたいなの。」
「もう一人の?」
「ブリュンヒルデの弟よ。」
誰の事か尋ねるカチーナにアクアが答える。
「色々と噂は聞いていたけど、そんなになのか?」
「学園に通っている後輩の代表候補生から色々と聞いたけど、まあ何と言うか・・・・良く言えば世間知らず、悪く言えば無知。」
カチーナの質問にリンが答える。グラキエースも同じような話をする。
「私の国の候補生からも同じような事を聞きましたわ。」
「何だか更識がかわいそうに思えるわ。 さて、話は変わるけどエクセレン。私達を日本に呼んだ本当の目的は何なの?」
アクアが刀奈に同情しながらエクセレンに最初から持っていた疑念をぶつける。 他のメンバーも同様の思いを持っていたので静かにエクセレンの回答を待つ。
「・・・・みんなも知っての通り、来年モンドグロッソが開催される予定なんだけど現状開催が危ぶまれているわ。 理由はみんなもわかっているわよね。」
「女性権利団体等によるテロ行為ね。」
エクセレンの問いに答えるグラキエース。 エクセレンはそれに同意する。
「そうよ、そしてそれだけにとどまりそうに無いわ。」
「戦争・・・・・」
「リン。」
「アクア、貴女も色々と情報を得ているでしょう。」
リンの言葉にアクアは顔を強ばらせる。 そしてグラキエースがアクアに追い討ちの言葉を放つ。 国家代表ともなれば色々と話を聞く事もある。 そうアクアの耳にも情報は届いていた。
「戦争か・・・・本来なら兵器として使われる事が無い筈のISが戦争の道具として使われる。 最強であるがゆえのジレンマだな。」
「私達は国家代表、それなりの義務も背負っているわ。 力を持たぬ者達の矛と盾になるという義務が。」
「アメリカとイスラエルが軍用ISの開発に踏み切ったのも、その辺りが関係しているのかもね。」
カチーナに続いてマオ、グラキエースがそれぞれの思いを告げる。
「そうね、私達が迷ってはいけないのよね。 代表候補生や候補生にすらなっていない学生を立たせない為にも。」
「そうよ、手を汚し傷つくのは私達だけでいいのよ。」
アクアの決意を後押しするように告げるエクセレン。
その場にいる全員に決意の意志が瞳に宿る。
「・・・・・・と、真面目なお話はここまでにして・・・・カチーナ、ラッセル君とは何処まで進んでいるのかな?」
「?! な、何でラッセルのことを!! てか、ラッセルとは何でもねえ!! ただの友達だ!」
先程までの雰囲気が一転、いきなりエクセレンが落とした爆弾にカチーナは顔を真っ赤になって慌てて否定するが、動揺しているのが丸わかりである。 更にエクセレンは次々に爆弾を落とす。
「リンはイルム君と何処まで進んでいるのかな? それにラキちゃんはジョシュア君だっけ? どんな感じなの? それにアクアちゃん、ヒューゴ君とはどんな感じ?」
「「「?!」」」
まわりにはあまり告げて無い事をエクセレンがいきなり言ってきたので3人は顔を真っ赤にして動揺する。
「イ、イルムだと?! な、何で私があんなナンパな奴と!」
「ジョ、ジョシュアとは、その~あの~友達でして~その~あの~恋人~関係になりたいなんて~」
「ヒュ、ヒューゴとはただの友人関係で、その恋人なんかじゃない。そ、それにヒューゴは年下だし、その、え~と・・」
それぞれ言い訳をするが呂律があやしく、顔を真っ赤にしており動揺しているのが丸わかりである。
「そ、そういうエクセレンはどうなんだ! あの鉄仮面野郎とはどうなんだよ!」
カチーナがエクセレンに反撃を試みる。 だがエクセレンは顔色1つ変えずに
「鉄仮面野郎ってキョウスケのこと? それなら心配御無用、来年のモンドグロッソが終了後に結婚することになっているわ。 キョウスケがプロポーズしてくれたの♥」
「「「「えっ?!」」」」
カチーナの攻撃はものの見事に防がれたあげく逆に反撃を喰らうのだった。 まさか既にプロポーズされており結婚が決まっているとは誰も予測していなかった。
「式は盛大にやるし、みんな招待するから来てね。 なんせ3代目ブリュンヒルデの称号を手土産に結婚するんだから。」
エクセレンの台詞を聞いた瞬間、その場の空気が凍りつく。
「・・・ほ~、エクセレン面白い冗談を言うな。花嫁がブリュンヒルデ、それはあり得ないな。あたしが友人代表としてブリュンヒルデの称号と共に挨拶してやるんだからよ。」
カチーナがそう言うと
「カチーナ、冗談はよせ。ブリュンヒルデの称号を持って挨拶するのはこの私だ。」
「あらあらリンさんも冗談がお好きなようで。 そもそも2代目の称号を私の先輩であるアーリィーさんが辞退している以上、今回のブリュンヒルデは2代目となります。 そして私がアーリィーさんに変わり今度の大会で2代目の称号を得るのですから。」
「ラキさん、3代目ではなく2代目の称号と言う点では私も賛成ですが、それは私が頂く称号ですのでお間違いなく。」
5人の間に火花が散る。 自らの力に自信を持つがゆえに譲る事の出来ない事実。
「なんなら前哨戦でもやる? 部屋で?」
そう言ってエクセレンが右手を口元に持っていき、何かを飲むような仕草をする。
要は飲み比べで前哨戦をしようと言っているのである。
「「「「臨むところ!!!!」」」」
こうして前代未聞の国家代表同士によるモンドグロッソ前哨戦という飲み比べが行われることになった。
余談だが翌朝、飲み比べが行われた部屋には酒ビンが部屋一杯に散らばり、5人の美女があられの無い姿で酔い潰れている光景が仲居によって目撃された。