インフィニット・ストラトス 遥かなる虹の輝き   作:雷狼輝刃

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第20話  作戦会議

 

 

 時間を遡り、10時間前のハワイ沖

 

 そこには一隻の空母の姿があった。 何時もなら甲板には戦闘機やヘリの姿が並んでいるが、今はその姿はなく代わりに白色の大きめのコンテナが鎮座している。

 そのコンテナを艦橋の窓から見下ろす一人の女性将官。

 

 

 (・・・・・ごめんね、私の力では貴女を護る事が出来なかった。)

 

 女性将官・・・ナターシャ・ファイルスはコンテナの中で様々な計器に繋がれているであろう自分のパートナーであるIS[シルバリオ・ゴスペル]を想い悲しむ。

 

  本来なら競技用であるパートナーが軍のプロジェクトによりアラスカ条約で禁止されている軍用ISへの改造を受け、更にイスラエル軍との協同研究による無人稼動実験が行われる事になったのだ。 

 ナターシャは必死になって中止を求めたが、1操縦者の意見は黙殺された。 すべてが機密扱いのために公に訴える事も出来ず、また仮に訴えたとしても事前に妨害されナターシャは機密漏洩の容疑で拘束されただろう。

 

 みずからの無力さを感じ軍を辞めようと思ったが、パートナーであるゴスペルの事が気になり、それも出来ずにいた。 

 ナターシャは暫くコンテナを見つめた後に、艦橋をあとにした。 この時、彼女は知るよしもなかった。 ナターシャがコンテナを見つめていた時に悪しき企みが行われていた事を。

 

 

コンテナ内

 

 黒いラバースーツに奇妙な形状のヘルメットを着けた人形が台に乗せられており、様々な計器から伸びるコードが取り付けられていた。 その人形にタブレットのコードを取り付けて作業する黒髪でおかっぱ頭の女性。

 もう一人、中央の台座に固定されたIS・・・シルバリオ・ゴスペルの内部に何やら取り付ける作業をする褐色の肌に銀髪で鋭い目付きの女性。

 

 

 「無人制御デバイスへのインストールは終わったわ。 ダミープログラムもちゃんと起動しているわ。そっちはどうシエンヌ?」

 

 ゴスペルの作業をする女性に声をかけるおかっぱ頭の女性。

 

 

 「此方も取り付けは終わったぜアギーハ。偽装も完璧だ。」

 

 シエンヌにアギーハと呼ばれたおかっぱ頭の女性は金属製の鞄にタブレットを仕舞い

 

 

 「それじゃあ撤収して消えるわよ。」

 

 「りょーかい。 で、あの女はどうすんだ?」

 

 「あの科学者なら今回の一件の首謀者として、この船で最後の時を向かえて貰うわ。船を道づれにしてね。」

 

 「私達の脱出方法は?」

 

 「暴走後に、船から転落して行方不明になる予定よ。」

 

 アギーハはシエンヌにそう告げると、二人で身を潜めながらコンテナから出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は戻り、日本。

 

 

 旅館の宴会場の一室に集められた専用機持ち達。 宴会場は臨時の司令室として誂えられ大型モニターやパソコン等が並べられている。

 大型モニターの横に千冬とスコールが立ち

 

 

 「よし全員注目、これより現状を報告する。 今から2時間前にハワイ沖にてアメリカとイスラエルが共同開発した第3世代型、軍用IS[銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)] 今後、福音と呼称する。 福音が無人稼動実験の最中に暴走、制御不能となったうえに監視区域より離脱したと連絡があった。」

 

 千冬の言葉に全員(一夏を除く)に緊張がはしる。

 

 

 「衛星による追跡と分析の結果、この旅館の2キロ先の沖合いを通過することがわかった。 更に進行方向から首都圏に到達する可能性があるとの事。」

 

 「到達時間は今から約1時間後よ。 アメリカとイスラエルは自分達での追跡・確保・撃墜が不可能な為、IS委員会を通じてIS学園への協力を要請したわ。 協議の結果、この旅館にいる専用機持ちで対処することが決まったわ。 」

 

  千冬とスコールの話に刀奈が

 

 「ちょっと待ってください、なぜIS学園に? まずは在日米軍や自衛隊が出るのが本筋では無いのですか?」

 

 「在日米軍、自衛隊には福音に対して対処可能なISが現在無いことで協力出来ないと連絡があったそうよ。 ただ海上封鎖に海上自衛隊や海上保安庁が協力してくれるとの事だ。」

 

 「在日米軍にしろ、自衛隊にしろ殆どが第2世代型の量産機よ。」

 

 千冬とスコールが刀奈の疑問に答える。

 

 

 「説明を続ける、指定区域を海上自衛隊と海上保安庁と訓練機に乗った教師陣が封鎖警戒する。 そして専用機持ちが対処する。」

 

 「先生、目標の具体的なスペックを教えてください。」

 

 セシリアが発言すると千冬が、全員を軽く睨み。

 

 

「いいだろう、ただし重要機密の為に外部に漏らす事は一切認めない。情報漏洩が判明した場合は身柄拘束の上に裁判を受ける事になると思え。」

 

 その言って千冬はパソコンを操作して大型モニターに表示する。 

 

 

 「広域殲滅を目的とした特殊射撃兵器・・・・私のブルーティアーズや簪さんの山嵐より厄介ですわね。」

 

 「しかもこの機動性、私の甲龍は勿論だけど並みの機体じゃとても追い付かないわ。」

 

 「それだけじゃ無いわ、格闘兵器のところが空欄になっているわ。 もしかしたら追加されている可能性もあるわ。」

 

 刀奈の言葉に簪が

 

 

 「でも、そんな事あるの? 嘘とは言わないけど、データの一部を隠して此方に提出するなんて・・・」

 

 「いや、更識生徒会長の言うことはあながち間違いとは言えんぞ。 軍が重要機密の全てをおいそれと正直に出して来るとは思えん。 どの国であれ軍とはそういうものだ。」

 

 「生徒会長やラウラが言うことが本当なら、このスペックデータの数値も実際には2割3割増しの可能性もあるわね。」

 

 シャルの言葉に全員(一夏を除く)が緊張する。 全員が対応策を考えようとした。 その一方で一夏と箒は

 

 

 (みんな何でそんなに騒いでいるんだ? 無人制御ってことはドローンみたいなヤツだろ。ただの的、落とすのなんて簡単じゃないか。)

 

 (これはチャンスだ! ここで私と一夏のコンビで落とせば!)

 

 一夏は的外れな事を考え、箒はチャンスと思い千冬の顔をみる。 すると千冬は箒の視線に気づいて軽く頷く。箒の考えをわかっているとばかりに。 そして

 

 

 「これより作戦を説明する。」

 

 全員が対応策を考えようとした瞬間に千冬から告げられ驚く。

 

 

 「対象が高機動である事を踏まえて、此方も高機動の機体で対応する。 高機動型のIS2機で電撃奇襲を行い、殲滅兵器の使用する間を与えず一気に畳み掛ける。 出撃するのは織斑と篠ノ之だ。 この二人の機体は高機動を売りにしており、尚且つ攻撃力も高い。 何より同型機であるためにコンビネーションにも問題無いという理由からだ。」

 

 「待ってください織斑先生、その作戦はいくらなんでも無理があります。」

 

 スコールが千冬の作戦を否定する。

 

 

 「第一、二人は新しい専用機を受け取ったばかりで機体に慣れていません。 更に篠ノ之さんは専用機持ちに任命されたばかりで、その責務を完全に理解しておりません。 第二に二人は実戦経験が皆無です。いきなり実戦に放り込むのは問題があります。 少なくともボーデウィッヒさんや更識さんのように治安維持等の行為に携わった経験のある人間が加わるべき事案です。第三に、作戦そのものが、機体の能力に依存しすぎており不確定要素が多すぎて、成功率があまりにも低いと思います。」

 

 スコールがそこまで言ったところで真耶が

 

  

 「学園のスーパーコンピューターとリンクして成功率を割り出します。現段階での福音のスペック、二人の成績と機体スペック等から作戦成功率ですが41.3%です。」

 

 成功率50%以下、あまりの成功率の低さに千冬は言葉を失う。 千冬からすれば、スコールからの反対意見が出るとは思っておらず、更に成功率がここまで低いとも予想外だった、少なくとも70%台はあると思っていた。

 

 

 「そんな数値だけの目安など当てにはなりません。気合いさえあれば、どんな作戦だろうと成功させてみせます。」

 

 「気合いだけでは数値の差を埋めることなんて出来ないわ。 何より実戦は貴女の力を試す場でもなければ力を披露するためのステージでも無いわ。そういうのは模擬戦とかでやってちょうだい。 失敗したら後が無いの、貴女には首都圏にいる全ての人達の命を背負う覚悟はあるの?」

 

 スコールは箒の考えを読み取り、切り捨てる。反論しようとするも千冬に目で制止される。 そして千冬がスコールに

 

 

 「では聞くがミューゼル先生には何か策があるのですか?」

 

 「えぇあります。簡単に言えば専用機持ち達全員による波状攻撃です。」

 

 そう言ってスコールは大型モニターに地図を表示して説明を始める。 そこには福音の予想進路と少し離れた所にXポイントが示されていた。

 

 

 「まずは専用機持ちを幾つかのグループに分けます。とりあえずAチームには、このXポイントで待機してもらいます。 次にBチームは、このXポイントの後方にて待機。そしてCチームは福音を追跡してXポイントに誘導してもらいます。 ちなみにこのXポイントは無人の小島がありますので目標にしてください。その後は全員による波状攻撃です。 Cチームは機動性を利用してヒット&アウェイを。Aチームは小まめにシフトチェンジしながら反撃させないようにしてください。 BチームはAチームとCチームの攻撃の合間を埋めるようにアタック。この繰返しです。 時間がかかりますが、現時点での最善策です。」

 

 そこで言葉をきり全員をみる。そして話を続ける。

 

 

 「チーム分けですが、Aチームは機動性を重視して織斑君、篠ノ之さん、オルコットさんの3名。 Bチームはアルカンシェル君、更識生徒会長、ボーデウィッヒさんの3名。Cチームには更識簪さん、アルカンシェルさんの2名。 そして鳳さんとデュノアさんは遊撃手として、いつでもどのチームに加われるようにBチームの後方で待機、そして消耗した人物とシフトチェンジして参加。 交替した人物は近くに補給船を準備するので、そこでエネルギーや弾薬の補給と簡易整備を受けて再出撃。 恐らく長期戦になると思います。」

 

 そこまで説明すると全員(一夏と箒を除く)が考える。 スコールの言ったように現時点での最善策だと思ったからだ。

 

 

 「作戦成功率は75.9% 幾つかの不安要素がありますが、スーパーコンピューターは作戦内容をもう少し詰めれば成功率は上がると示しています。学園側からもこの作戦ならOKとの連絡が。」

 

 「どうですか織斑先生。」

 

 「・・・・・・・わかったいいだろう。」

 

 「それじゃあ専用機持ち達は全員出撃の準備にかかって。 パッケージや装備のインストールが終わってないなら急いでね。 出撃は20分後よ。」

 

 「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」

 

 

 こうして福音に対する布陣が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (何が力を披露するステージではないだ!! 披露して何が悪い! 命を背負う覚悟だと? そんなもの必要ない! 結果が全てだ、結果さえ出せば如何なる文句も跳ね返せる)

 

 箒は準備をしながら憤慨していた。準備も殆どすることなく2、3分で終わり箒は考えていた。

 

 

 (第一、全員でやっては全く見せ場が無いではないか! ・・・・・・そうだ!)

 

 箒の脳裏にある考えが浮かんだ。 そしてその為の行動を開始するのだった。 一夏を巻き込んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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