第1アリーナに突然響いた爆音と衝撃、そして天井の一部が消失した。
突然の事にアリーナの観客席にいる生徒達に動揺が拡がる。 そしてそこから型式は様々だが純白にカラーリングされたISが9機侵入してきた。
『シュート、マドカよく聞いて。9機のISは何れも所属不明よ。ギリギリまで展開せずにダイブしてきて、レーダーに引っ掛からなかったみたい。さっきの爆音と衝撃は所属不明機から放たれたミサイルが第1アリーナに命中したものよ。』
珍しく千冬ではなくスコールから連絡が入る。
「それでどう動けばいいんですか?」
『今、教員部隊の出動準備に入ったけど、あと5分ほどかかるから万が一攻撃してきたら、応戦して時間を稼いでほしいわ。』
「わかりました、それでは安全を考慮して観客と織斑を避難させてください。」
『わかったわ、気をつけてね。』
シュートとスコールの会話が終わりマドカが
「ねぇ兄さん、クラス対抗戦に続いて2回目よね。 このIS学園のイベントは祟られているの?」
「さあね、どちらにしろ無粋な連中にはご退場願わないとな。」
侵入してきた所属不明機はリーダーらしき機体を中心に1列に並び、両端のラファールが真紅の薔薇の描かれた旗を掲げる。 そしてリーダー機であろう深紅のラファールカスタムが
「私達は女性権利団体【ローズガーデン】です。 聖母【篠ノ之束】が女性の為にだけにもたらしたISを汚す大罪人、織斑一夏とシュート・アルカンシェル並びにそれに与する反逆者達に神罰を下しに参上した。」
そう言ってリーダーの女性はシュートにライフルを向けた。
「ですが、私達にも慈悲があります。 身に纏っているISを此方に引き渡せば命だけは助けてさしあげましょう。」
そう言ってきたリーダーの顔にシュートとマドカは何処かで見た覚えがあった。 派手に染められたショッキングピンクの髪、きつめの化粧で年齢を隠しているが30代前半のようだ。シュートは記憶の中を探り思い出した。
「思い出した、4年前に引退した元フランス代表候補生アタッド・シャムラン。」
シュートの指摘に顔を歪めるアタッド。
アタッド・シャムラン・・・元フランス代表候補生。最終序列第20位。
フランス代表候補生として第2回モンドグロッゾを目指していたものの、国内選考会の前に行われた候補予備生との入れ替え戦で完敗し引退させられる。
代表候補生を引退したら普通は軍や警察の教官、ISメーカーのテストパイロット等、就職には困る事はないのだが彼女の場合、重度の女尊男卑思想と当時のフランスが既に男女平等の風潮が定着していた事が災いし、いかなる企業も公共機関も雇う事はなかった。
その後、彼女は姿を消すのだがシュート達はその直前に彼女と顔を合わせた事があった。
彼女は姿を消す前にフランスの女性権利団体が起こしたデュノア社を陥れる計画に参加したのだ。
だが、その計画は起業したばかりのアルカンシェル社・・・シュートとタバネにより防がれ、女性権利団体は壊滅し主な幹部は逮捕されたのだ。
ただ、彼女は間一髪の難を逃れて海外逃亡したのだ。
「ふん、覚えていたみたいね。 お前達アルカンシェル社のせいで私の未来は閉ざされたのよ。 あの時の屈辱忘れて無いわ!」
「何が屈辱よ、悪どい手段を使い違法行為で告発されて逮捕状が出たじゃないの、自業自得よ。 だいたいあなたはいまだに国際指名手配されているのよ。」
そうマドカが言うとアタッドはヒステリックに叫ぶ。
「あんなの無効よ。私達、女性は何をしても許される存在なのよ! ISという聖なる力を使える女性は男と違って、いかなる行為も許されるのよ!!」
「まるで女王か神様にでもなったつもりかい? 私から見れば欲にまみれた俗人にしか見えないぜ。オ・バ・サ・ン❤」
マドカが最後にもたらしたNGワード。 その瞬間、アタッドの顔が歪み般若のような表情となり
「この尻の青い小娘が、言いたい放題言いやがってからに、かまわないやっておしまい!!」
声を荒げて他のメンバーに命令を下す。
襲撃が起きる5分前のこと、千冬は学園に通じる幹線道路で女性権利団体の女性達と相対していた。
ことの発端は、学年別トーナメント初日に女性権利団体が学園に向けて男性装着者の排斥を訴えてデモ行進をすると伝えてきたのだ。
学年別トーナメントには学園関係者以外にもISメーカーの重鎮に各国の政府関係者などVIPが多数訪れる。 そんな最中に学園にデモ隊が行進してくのは対外的にも余り良くない。
そこでデモを主催する女性権利団体に中止を検討するように話し合いを申し込んだところ、織斑千冬となら交渉に応じると返答があり、学園側は千冬を交渉役に派遣することにしたのだ。
千冬としては一夏の試合を管制室から観戦したかったのだが学園命令には従うしかなく、やむ得ずに交渉役になった。
そして今、千冬の前で主催者の女性がデモをする理由をくどくどと述べているが、要約すれば自分達ですらなかなか触ることすら出来ないISを男の分際で纏うなんて言語道断である、研究所にでも送って人体実験に使え、と言っているわけだ。
「・・・・・と以上の理由からデモを予定しておりましたが、かのブリュンヒルデ織斑千冬様からの願いとあっては無下に断るわけにもいきませんので、ここは千冬様のお顔をたててデモを中止させていただきます。」
「こちらの要請を聞き届けていただき感謝する。」
「いえいえ、織斑千冬様の頼みとあっては聞かないわけにはまいりません。 こうしてお逢いする機会を設けていただき光栄ですわ。」
「いいえ、私はそれほど大層な人間ではありません。 申し訳ありませんが、そろそろ学園に戻らなくてはなりませんので失礼します。」
「あらそれは残念ですわ。 その代わりと言ってはなんですが、是非とも一緒に写真をお願いしたいのですが?」
「申し訳ありませんが、規約により無許可での撮影は許されておりません。御容赦ください。」
「かたいことおっしゃらずにお願いします。」
「規則は規則ですので。」
暫くのあいだ、押し問答が始まる。 しばらくすると千冬のスマホが鳴る。 千冬は断りをいれて権利団体の女性たちから少し離れる。
「失礼、もしもし織斑だ。 どうした?」
『織斑先生、たいへんです。第1アリーナに所属不明のISが9機侵入してきました。』
「何?! それは本当か山田先生?」
『はい、現在アリーナにはアルカンシェル兄妹と織斑君が・・・・・待ってください、侵入者が名乗りました。女性権利団体[ローズガーデン]だそうです。目的は・・』
「イヤ、言わなくてもわかる。 すぐに戻る。」
そう言って千冬は通話をきる。権利団体の女性たちのもとに向かい。
「すいませんが急遽、学園の方に戻らなくてはならなくなりましたので、ここで失礼させていただきます。」
そう言って千冬は道路脇に停められていた超小型モビリティに乗り学園に向かう。
千冬が見えなくなるまで見送った女性は笑みを浮かべ、スマホをとりだし何処かに連絡を入れる。
「作戦通りに織斑千冬の足止めをしました。 続いて予定通りにダミーとして使用した[野薔薇の会]の痕跡を消します。 更に[ローズガーデン]の方に残っている我々との関与を示すものを処分します。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「はい、わかりした。 それでは実行します。」
そう言って女性は通話を終えてスマホをポケットに入れる。 そして、女性達はその場を離れた。
「そ、そんな、ば、バカな?!」
アタッドの目の前には信じられない光景が広がっていた。 共にアリーナに侵入してきた8人の同士はアリーナの地面に横たわっている。 全員、気絶しているようで身動きひとつしない。
わずか3分にも満たない時間であった。
その間にある者はブレードで斬られ、ある者はミサイルの直撃を受け、ある者はビームの直撃を受けて倒れた。
それはアタッドにとって予想外の光景であり信じられなかった。 だが、既に自分以外のメンバーが動かない。
「さて、残りはあんただけだよオバサン。 観念して投降しなさい。」
マドカがガナリーカーバーの銃口をアタッドに向けて勧告する。
アタッドは悟ってしまった。なまじ代表候補生の経験があったばかりにシュート達と自分との実力の差に。
だが、それでも後戻りは出来なかった。投降すれば自分の未来は無いのだ。だからこそアタッドは
「誰が投降なぞするものか! 私にはまだブリュンヒルデの加護があるのだ。 【さあ今こそ我が身に降臨せよ偉大なる戦女神よ!!】」
禁断の呪文を口にした。