インフィニット・ストラトス 遥かなる虹の輝き   作:雷狼輝刃

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第13話  代価

 

 ラウラが転入してきて一週間がたった。 肝心のラウラはクラスメイトの殆どから受け入れられていた。

 授業中の真剣な態度と普段の愛玩動物のような仕草のギャップが女子生徒達の心をわしづかみにしたのだ。

 それは既にクラスだけに留まらず学年、いや学校中に広まっていた。

 食堂にラウラが行けば、同じテーブルに座ろうと熾烈な戦いが繰り広げられる。

 

 そして今日も熾烈な戦いが行われラウラの周囲には多くの生徒が集まってラウラと食事を共にしている。 

 ちなみに今日のラウラはサンドイッチを食べており栗鼠のように食べる姿に涙する者、顔を赤らめる者、嬉しそうに微笑む者、写真を撮る者、様々だ。

 

 

 

 

 

 その一方、シュート達は頭を悩ませていた。

というのも学園側から6月に行われる学年別トーナメントのレギュレーションが通達されてきたからだ。

 レギュレーションの殆どが例年と何ら代わり無い物だったが、たった1項目がシュート達を悩ませていた。

 

 追加された項目は、シングルトーナメントではなくタッグトーナメントに変更すると言うものだった。

 しかも専用機持ち、代表候補生同士のタッグを禁止しない内容になっていた。

 

 

 「いくらなんでも、これじゃあ一般生徒から苦情が出るしモチベーションも下がるよ。」

 

 「実習経験がある程度ある2年生や3年生はともかく1年生には酷なルールですね。」

 

 シュートの意見に同意する虚。そして刀奈が生徒会に持ち込まれた難題は告げる。

 

 

 「そうならない為のアイデアを生徒会から出して欲しいみたいなの。」

 

 「でも、何だって急にタッグ形式に?」

 

 「先日のクラス対抗戦の一件を受けての対応策の1つなの。 何かあっても四人いれば時間稼ぎなるというアイデアみたい。」

 

 マドカの疑問に答える刀奈。

 

 「ねぇシュート、どうする?」

 

 シャルロットに聞かれるも中々アイデアが出てこない。

 

 

 「あ~、でも今面白い噂が流れてるよ~」

 

 突然、本音が口を挟む。

 

 

 「本音さん、その面白い噂って何なのですか?」

 

 本音の言葉にセシリアが聞き返す。

 

 

 「んとね、何でもトーナメントで優勝したら男性操縦者と付き合える、という噂だよ。」

 

 本音の話にその場にいた本音以外は絶句した。

いったいどこからそんな話が出てきたのか見当もつかず呆れる。

 

 

    バッ!! 【名案!!】

 

 

 突然、扇子を開く音と共に何やら閃いたらしく刀奈が笑みを浮かべていた。

 

 

 ( また何か突拍子もないことを思いついたな!)

 

 刀奈の笑みをみて、全員が同じ事を思った。

大抵、刀奈がこのような顔をするときは録でもない事を考えついたときだ。

 

 

 「トーナメントの優勝ペアに生徒会から特別賞品を贈呈すると書いたらどうかしら! 無論、賞品の内容は表彰式まで秘密にして。ちなみに実際にはデザートフリーパスなんだけど。」

 

 「そ、それって、下手すると噂に真実味を与えることになりませんか?」

 

 刀奈の案に不安を訴える虚。

 

 

 「だから面白い・・・もとい、モチベーションをあげられるんじゃないかしら? ということで決定!」

 

 もう誰も刀奈を止められる者はいなかった。

 

 

 「それはそうと、織斑はともかく俺のタッグパートナーを先に決めておかないと後々不味いな。 で、どうする?」

 

 シュートがそう言うと既にシャルロット、マドカ、簪、セシリア、本音がジャンケンをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の屋上、給水塔の影で箒が落ち込んでいた。

 

 

 「何故だ、何故こんなことに・・・・・・」

 

 一人呟く箒。  最近、一夏にナギ達がアプローチをかけているのに気づき焦った箒はある決心した。

そして昨夜、一夏の部屋に赴き 

 

『今度行われる学年別トーナメントで優勝したら私と付き合ってくれ』

 

 と言ったのだ。 そして箒は恥ずかしさのあまり、一夏の返事を聞かずにその場を去った。

 だが、箒はここでミスを犯してしまった。 告白するにあたり緊張の余り周りをよく確認しなかったこと。

 割りと大きい声で伝えたこと。 そしてよりによってライバルである清香にその瞬間を目撃されたこと。

 これを目撃した清香は神楽とナギと相談し、ある噂を流す事にした。

 

 『学年別トーナメントの優勝者には織斑一夏とデートできると。』

 

 ナギ達が、この噂を流した目的は箒の優勝の確率を極限まで下げることだ。 自分達の実力では優勝は無理なのはわかっている。だからこそ未だに織斑一夏に憧れを持つ代表候補生や専用機持ちに勝ってもらい箒の計画を台無しにするのだ。

 

 しかし、この噂は人から人へと伝わるうちに変化していき最終的には

 

 『学年別トーナメントの優勝者は男性パイロットと付き合える。』

 

 というものなっていた。これにより、シュートに憧れる生徒達がやる気になり、ナギ達の計画は図らずも叶う事になるだろう。

 

 

 そして箒は、そんな事とは露も知らず噂によりライバルが一気に増えた事で落ち込んでいる。

 もっとも大前提であるトーナメントでの優勝という目標が無謀なものなのだが、箒はその事を全く気づいていない。  そして翌日、彼女はもっと絶望する事実を知ることになるだろう。 トーナメントがタッグマッチ方式になるという事を

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 朝のSHR、教壇には千冬の姿はなくスコールと真耶がたっていた。

 

 

 「みなさんおはようございます。 今日は織斑先生は所用で外出されておりますので私と山田先生が全ての授業を担当します。それでは先ずは連絡事項があります。」

 

 スコールがそう言うと真耶が生徒達にプリントを配る。

 

 

 「今、山田先生が配ったプリントには来月行われる学年別トーナメントの開催期間とレギュレーション等が書かれています。 最大の特徴としては今回はタッグマッチ方式を導入したことです。」

 

 クラスにざわめきがうまれる

 

 

 「タッグパートナーの受付は今日の昼休みから開始する。閉め切りは一週間後、なおパートナーが決まらなかった場合は受付終了後に、くじ引きでパートナーが決められて翌日には発表されるます。 それから、今渡したプリントの中にはトーナメントで使用する機体に関する書類があります。 使用する機体、武装を記入して提出してください。 それから機体は多少のカスタマイズが認められていますので、カスタマイズする場合は別に書類を書いてもらいます。」

 

 スコールはそこまで言うと、シュートと一夏に視線をやり

 

 

 「それから男性操縦者にパートナー申請が集中することが予想される。 そこで、アルカンシェル君と織斑君は可能ならこの場でパートナーにしたい人物を指名して欲しいのだけれども可能かしら?」

 

 スコールの発言にシュートは立ち上がり

 

 

 「私は妹のマドカと組みたいと思います。」

 

 前日のジャンケンの勝者であるマドカを指名する。マドカが嬉しそうに

 

 

 「はい、喜んで!」

 

 こうして決まった事で落胆の声が聴こえてきた。

次に一夏に視線が集中する。 特に四人からの射るような視線は一夏の判断を鈍らせていた。

 

 

 「まぁ、いきなり決めることなんて出来ないわよね。そこで先生からの提案です、織斑君とタッグを組みたい人は職員室前に特別に設置するボックスにクラス氏名を書いて投入してください。 その中から織斑君に選んでもらいます。 締め切りは本日4時までです。 この事は他のクラスにも通知しておきます。 よろしいですね。」

 

 「それからもう1つお知らせがあります。来週から学年別トーナメントまでの間、時間割と授業時間の変更がされます。 授業は5時限目で終了、授業時間も50分に短縮されます。その分アリーナの使用時間に充てられます。 アリーナの使用は1つのペアにたいしてトータル6時間。 使用できる日時に関しては学園側が決定して掲示板に貼り出しますのでちゃんと確認してくださいね。」

 

 スコールの話の後に真耶が話をする。

連絡事項が終わりSHRは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    イスルギ重工

豪華な装飾の施された応接室のソファーに一人座る千冬。

 テーブルにあるお茶に口もつけず腕を組み目を閉じ静かに座っている。

 

 

      ガチャ

 

 

 扉が開き光子が入室してきた。 

 

 

  「お待たせして申し訳ありません織斑先生、会議が長引きまして。」

 

 先日と同じ真っ赤なノースリーブのチャイナドレスを纏った光子は一礼して反対側のソファーに座る。

 

 

 「かまわない、先日は此方が待たせてしまったしな。」

 

 「それはありがとうございます。それで本日来られたということは?」

 

 千冬は足元に置いていたアタッシュケースをテーブルに置きロックを解除し開ける。

 そこから厳重に封のされたA4サイズの茶封筒を取りだし光子に渡す。

 光子は封を解き、中から数枚の紙とUSBメモリを取り出す。 紙に書かれている内容にさっと目を通し、タブレットを取りだしメモリを接続して内容を確認する。

 

 

 「確かに確認させていただきました。 ご足労をおかけしました、織斑先生。」

 

 紙とUSBメモリを封筒に再びしまう光子

 

 

 「それでは一夏の専用機を頼むぞ。 それから篠ノ之の件は来月のトーナメント終了後に本人に説明して発表でいいのだな?」

 

 「それで、かまいませんわ。」

 

 「わかった、それでは失礼する。」

 

 「おや? もう帰られるのですか? もう少しごゆっくりされたらいかがですか?」

 

 光子の誘いに千冬は

 

 

 「いや遠慮させてもらう。 それでは。」

 

 まるで、もう側に居たくないというような態度で部屋を退室する千冬。

  部屋に一人残った光子は笑みを浮かべて封筒を手にソファーから立ち上がり、背後の壁に向かい歩き壁に手を触れると、壁がスライドして隠し部屋が現れて、光子はその中に入っていく。

 

 光子が室内が入ると扉が閉まり、室内が漆黒に包まれる。

 しかし、直ぐに光子の前に四角いディスプレイの光りがあらわれ【Sound only】と表示された。

 

 

 『久しぶりですねMerchant、先日の五芒星会議にも出席せずに、どうしました?』

 

 ディスプレイから流れてくる声はPriestessのものだった。

 

 

 「表の商売が忙しく、ちょうど会議の最中は政府関係者との会食で出ることが出来なかったのですわ。」

 

 『まったく貴女という人は。ほどほどになさいな、私やDoctorはともかく、後の二人はかなりのご立腹でしたよ。』

 

 光子・・・Merchantの答えに呆れながらも決して責めないPriestess

 

 

 「まあ、あの二人も今回の私の手柄で納得してくださいますわ。  篠ノ之束の設計図を織斑千冬から手に入れる事に成功しましたわ。」

 

 『!! そうですか、遂に手に入れる事が出来たのですね。 それでは直ぐにDoctorとProfessorに送ってください。あの二人が喜びます。』

 

 「わかりましたわ、直ぐにそちらに送りますわ。それにしても、うふふふふっ愚かなブリュンヒルデ。 この設計図の真価を全く理解してないなんて。」

 

 封筒から再び紙を取り出すMerchantディスプレイの明かりがそれを照らし出す。

 

 

 『仕方ありませんわMerchant、これを見ただけでは単なる第3世代ISの設計図にしか見えないのですから。』

 

 「そうですね。 あぁ、それからコアを1つ此方に送ってくださいね。 この設計図と引き換えに織斑一夏の専用機を作るのに必要になりましたので。」

 

 『それなら仕方ありませんわね、本来なら忌むべき存在ですが、織斑一夏にはまだ織斑千冬を操る為のエサとして利用する必要があります。直ぐに送りますので大切に使ってくださいね。 何しろ組織が秘蔵する50個のコアの内の1つなんですから。それから、この事はあの三人には内密にしてくださいね。後々面倒な事になりますので。』

 

 「わかってますわ。それではまた。」

 

 そう言って通信が終わる。 ディスプレイの明かりが照らし出す紙には

 

 

 【特殊機能装置対応型IS ヴァルシオン】

 

  

 と書かれていた

 

 

 

 

 




 今回、正体が判明したグローリー・キングダムの幹部の紹介です。


 石動光子   イスルギ重工社長
グローリー・キングダム『五芒星』の一人、別名【Merchant 】


 5年前に父親の石動錬治の急死に伴いイスルギ重工の社長に就任した。
 経営が低迷していたイスルギ重工を建て直し、名だたる自動車メーカーやIS部品メーカーに肩を並べる存在になる。 その後、IS専用の武器製造を初め汎用性の高い武器を世に送り出す。
そして1年前に様々な理由から資金難に陥っていた倉持技研に打鉄に関する全ての権利を買取り、ISの開発に乗り出す。 ただし、これはイスルギ重工の表の顔であり裏ではブラックマーケットと繋がり、武器とIS部品の密造・密売・密輸をしており死の商人としての顔を持つ。
 グローリー・キングダムに何時から参加しているのかは不明だか、活動資金や物資、組織が使用しているISの武器部品を納めている。 その功績から幹部である『五芒星』に選ばれる。 ただし、本人は女尊男卑の思想は無く、グローリー・キングダムにいるのはあくまでも金儲けの為で、その事はPriestess 以外は知らない。
 
 

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