インフィニット・ストラトス 遥かなる虹の輝き   作:雷狼輝刃

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第11話  銀の転校生

 GW明けの初日、教室は連休中を楽しく過ごした生徒達が土産話に花を咲かせていた。

 だが、一人だけ不機嫌そうな表情をする少女がいた。

 

 篠ノ之箒だ。 彼女は懲罰室での謹慎で外部との接触が遮断されていた。 しかも、懲罰室での謹慎期間中に一夏との同居が解消されており、益々拍車をかけて不機嫌になっていた。

 

 

 (一夏のやつ、何故に一度も面会に来なかったのだ! しかもいつの間にか同居が解消されているし! 私に一言相談があって然るべきではないのか!)

 

 

 箒の視線の先にはクラスメイトと楽しそうに談笑する一夏の姿があった。

 色々と問題を起こしている一夏だが、それでも【千冬の弟】【世界初は男性適性者】の肩書きの効果がまだあり、イケメンということもあり一年生のミーハーの間では根強い人気があった。

 しかし真にISを学びに来ている一年生や二年生・三年生の間では、既に興味の対象外とされていた。

 

 

 その一夏だが、気になることもあった。 箒との同居解消は寂しくもあったが、それはそれで他の女の子を気兼ねなくデートに誘えるようになったので良いことでもあった。  

 

 

 (・・・・・鈴のやつ、あれ以来なんかよそよそしいというか他人行儀というか・・・)

 

 鈴の一夏に対する態度がクラス対抗戦の後から変わったのだ。

 謹慎明けから鈴は一夏の前に来ることはなかった。 食堂や廊下であっても挨拶は交わすものの、会話はほとんど無い。 以前なら仔犬のように付きまとっていたのに、今ではその影も無い。

 一夏は知るよしもなかった。 鈴にとって織斑一夏という人間に対する認識が既に変わっていることを。

 鈴は一夏への初恋の想いはすでに無くなっており、一夏に対しては小・中学校の元クラスメイト、という認識まで下がっていた。

 

  そうとも露知らず一夏は、クラスメイトと談笑していた。 チャイムが鳴り、千冬と真耶が入ってきた。

 

 

 「おはようございます。 みなさんGWは楽しみましたか? 気持ちを切り替えて授業に励んでくださいね。」

 

 「さて、まず連絡事項がある。 織斑、白式を私に提出しろ。」

 

 千冬の言葉に疑問を抱きながらも言われた通りに腕から待機状態の白式を千冬に渡す。

 

 

 「ちふ、織斑先生。 どうして白式を?」

 

 一夏の質問に不機嫌そうな表情になり

 

 

 「織斑、お前の専用機[白式]は回収されコアを外された後に解体。コアは新しく作られる専用機に付けられてお前に与えられる。」

 

 千冬の口から告げられた白式の解体、それは一夏に衝撃をあたえた。

 

 

 「な、なんで白式が!! どういうことだよ千冬姉!   イダッ!!」

 

 「織斑先生だ。 お前はニュースを見ていないのか? お前の専用機を作っていた倉持技研の事件の影響だ。 それによって倉持技研は閉鎖されることになった。 それで倉持技研の所有していたコアは回収されて再分配されることになった。 それにはお前の白式のコアも含まれている。 これは決定事項で変更は不可能だ。」

 

 千冬の言葉に不満げな表情をしたまま席に戻る。

すると別の生徒が

 

 

 「先生、打鉄はどうなるんですか?」

 

 「打鉄は既に別の企業が機体の製造・修理、部品の製造を引き継いでいるから問題無い。」

 

 千冬の言葉にクラスに安心感が広がった。 

 

 

 「それから今日から本格的にISの実施訓練に入る。怪我等しないように細心の注意を払うように。 それからISスーツは届くまでは学校指定の物を使うが、無い者は学校指定の水着でもかまわない。それでも忘れた者は下着姿で受けてもらうから覚悟しておくように。」

 

 それに続いて真耶が

 

 

 「さてみなさん、今日は重大なお知らせがあります。 なんと、このクラスに転入生が来ます。」

 

 「「「「「えぇぇぇぇーーーー!!」」」」」

 

 教室に驚きの声が広がる。

 

 

 「ボーデヴィッヒ入れ。」

 

 千冬の呼びかけに応じて扉を開いて一人の少女が入ってきた。 教壇の横に立つと

 

 

 「 ドイツ代表候補生 ラウラ・ボーデヴィッヒです。 ドイツ軍IS配備特殊部隊に所属しています。 幼少の頃から軍に入っていたために世辞に疎いので、色々と教えてもらえると助かる。」

 

 そう言ってお辞儀のする。

 

 

 「ボーデヴィッヒ、お前の席は左後ろになる。」

 

 千冬の言葉に従い席に向かうラウラ。 途中、一夏の席のところで立ち止まり

 

 

 「お前が織斑一夏か?」

 

 「そうだけど、なんだ?」

 

 「・・・・・・・・・ふん、やはり報告通りの軟弱者だな。」

 

 ラウラは一夏を観察するように眺めて、切り捨てるように呟いて席に向かう。

 切り捨てられた一夏は何でそんな事を言われたのかわからないという表情でラウラを見送った。 

 

 

 「えーと、それから連絡事項がもうひとつあります。 今月末に学年別トーナメントが開催されます。 詳しくは後日、掲示板等に発表されると思いますので確認してくださいね。」

 

 そこまででSHR は終わり、実施訓練ということで第2グランドに移動することに、 一夏は荷物を持ってアリーナの更衣室に向かう為に廊下に出る。

 シュートは荷物を持つと窓に足をかけて飛び降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒達が集まったグランドの上空では、今まさにグリシーヌを纏った真耶とセシリア&鈴コンビの模擬戦が始まろうとしていた。

 

 授業開始直後に、いきなり千冬がセシリアと鈴を指名して模擬戦をすると宣言、さらに相手は真耶との変則マッチだという。 そしてシュートは千冬からグリシーヌの説明をするように求められた。

 

 

 「量産型第3世代IS[グリシーヌ]ですが、最大の特徴はラファールを上回る拡張領域と安定した操作性です。  また既に拡張領域内に高機動ユニット【ラプター】と砲戦ユニット【パワード】がインストールされており瞬時に換装することが出来ます。 また第3世代兵装【スラッシュリッパー】はAI 補助により思念誘導の負担が軽減されており、非常に扱いやすくなっています。  また全身装甲を採用することで絶対防御に依存せずに、あらゆる状況下でも装着者を保護する形式にしました。 そして」

 

 

 「そこまでだ、アルカンシェル兄。 どうやら終わったようだ。」

 

 

 千冬からの制止された時、上空の模擬戦は真耶の勝利で幕を閉じた。

 最初から最後まで試合のペースを真耶が握り続けていた。 接近戦を挑む鈴を近づけないように弾幕を張り続けて、さらに援護射撃を行おうとするセシリアにはフェイントを混ぜながら、常に動き続けて的を絞らせないようにし、さらに二人の移動先を誘導しぶつかるように仕向けたりしていた。 

 最後は二人が纏まったところにスプリットミサイルを撃ち込み終わらせた。

 

 

 「このように、IS学園の教師は代表候補生二人を相手にしても勝てる実力を有している。 今後は敬意を持って接するように。」

 

 

 「いえいえ、私なんて所詮は代表候補生の序列下位止まりだったので、そこまで敬意を払ってもらえるほどではありませんよ。」

 

 

 千冬の言葉に謙遜する真耶。 一方、セシリアと鈴は面白くないという感じの表情をしていた。 

 わかりきった結末の試合・・・・見世物のスケープゴートにされたのだから。 鈴はともかくセシリアは共に訓練しているシュート達と組んでいれば違った結末であったろう。 それなのに、まともに連携もとれないペアをわざわざ指名してやらせたのだから。

 

 

 「それでは、今からグループに別れて起動訓練を開始する。 専用機持ちがリーダーとなって指導にあたってくれ、ただし織斑は専用機が無いので今回は指導を受ける側に回ってもらう。 それから先程、伝え忘れていたが専用機が再度渡される間、学園側から訓練機の打鉄が優先的に貸し出される事になっているように覚えておくように。 それでは出席番号順に別れて訓練開始。」

 

 

 こうして始まった起動訓練は、滞りなく進んでいたが

 

 

 「馬鹿者! 何をしている!!」

 

 

 ラウラが指導しているグループからラウラの怒号がとんだ。 突然の怒号に全員の視線がそちらにむく。

 

 

 「え? 何をしているったって、ただ降りただけじゃないか。」

 

 

 ラウラに怒鳴られている一夏。 何故、自分が怒られているのか理解できていない。

 

 

 「最初に説明したはずだ、降りる時は次に乗る人の事を考えて膝をついてから降りろと。 それに前までやっていた他の生徒達の訓練の様子を見ていなかったのか? みんな降りる前にちゃんと膝をつき、次の人が搭乗しやすい姿勢にしてから降りていたぞ。」

 

 

  「話は聞いてなかったし、訓練も見てなかった。 アデッ?! 」

 

 

ラウラの問いかけに一夏が答えた瞬間、千冬の一撃が一夏の頭に炸裂した。

 

 

 「馬鹿者、指導役のラウラの説明を聞いていないとは何事だ! お前は授業を受ける気が本当にあるのか? 罰として使用した、班のISの片付けを一人でやれ。」

 

 

 「・・・・・・・・わかりました。」

 

 

 千冬の有無を言わさぬ言葉に一夏は不承不承ながらも返事をした。 こうして授業は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み シュートは相変わらず生徒会室で昼食をとっていた。 しかし、GW前からたまにではあるが食堂にも顔を出すようになっていた。 本当なら今日は食堂に行く予定だったのだが、急遽目を通さないといけない事案がでたので生徒会室での昼食となった。

 ちなみにその中には織斑一夏のGW中の不純異性交遊の事案もあった。 本来なら退学ものなのだが、IS委員会からの通達によりおとがめなしとなった。また世にも珍しい男性装着者の秘密を探るべく多くの遺伝子を残す為に一夫多妻を導入するべき、という意見も委員会の中で出始めている。

 IS委員会のメンバーの約6割は女性で更にその半数近くが女尊男卑の思想を持っているために実現には時間がかかりそうだが、それでも少しずつだが賛同は得られはじめている。

 

 室内には同じく書類と格闘している刀奈と虚がいる。

 

 

    コン、コン、コン、コン

 

 

  扉がノックされる。 虚が扉にむかい少しだけ開き、外を伺う。

 

 

 「はい、どなたでしょうか?」 

 

 

 「1年1組 ラウラ・ボーデヴィッヒと言います。 此方にシュート・アルカンシェルがいると伺い訪れました。 よろしいでしょうか?」

 

 

 虚が此方に顔をむけてきたので、無言で頷く。

 

 

 「どうぞ、こちらへ。」

 

 

 そう言って入室を促す。

 

 

 「失礼します。」

 

 

 ラウラが部屋に入ってくる。

 

 

 「どうしたんですかボーデヴィッヒさん。 私に何か用事があるのですか?」

 

 

  「フランスのISメーカー[アルカンシェル社]の社長代理を勤めるシュート・アルカンシェル殿に用があってきた。」

 

 

 そう言ってラウラは刀奈と虚に視線をやる。

 

 

 「彼女達ならご心配無く、彼女達もまたアルカンシェル社に関わりのある人達です。 この場の会話は一切外部に漏らすことはありません。 それで、御用件のほどは?」

 

 

 

「シュート・アルカンシェル殿に我が国の首相から内密に書状を預かってきた。 受け取ってほしい。」

 

  

  そう言ってラウラは厳重に封のされた封筒を差し出してきた。

 蜜蝋で封がされており、封筒もまた普通の素材とは違う厚手の物で出来ている。

 

 

 「爆発物や毒物の心配はいらない。 どうしても心配ならわたしが開けよう。」

 

 

 ラウラがそう言うのでペーパーナイフを渡し開封を頼む。 ラウラはペーパーナイフを受けとると封筒の端を切り、中から折り畳まれた書状を取りだして此方に渡す。

 シュートはそれを開いて読み始める。

 

 

 「紅茶です、どうぞ。」

 

 

 虚がラウラに紅茶を出す。 その紅茶を飲んでラウラが目を見開く。

 

 

 「美味しい! こんな美味しい紅茶を飲んだのは初めてだ。」

 

 

 虚の紅茶に感動するラウラ。 書状に目を通しながらシュートは

 

 

 「ボーデヴィッヒさんにお伺いしますが、この書状の内容は御存知ですか?」

 

 「いや知らない。」

 

 「ですが、書状の内容について見当はつけておられますね?」

 

 「何となくな。」

 

 「・・・・・・・・・虚さん、すいませんがテレビをつけてもらえますか? チャンネルはBS 501でお願いします。」

 

 BS 501は主にヨーロッパのニュースを扱う衛星放送だ。 虚がテレビをつけると、今まさにドイツの首相 リリー・ユンカースが記者会見をおこなっていた。

 

  リリー・ユンカース  ドイツの前首相マイヤー・V・ブランシュタインの愛弟子で20代半ばという若さながらも指導力とカリスマ性を発揮し国内をまとめあげていた。 また男女平等を掲げて女性権利団体からの不条理な要求を全て却下している。 

 

 

 『・・・・・・以上の理由から、我が国は欧州連合によるイグニッションプランから離脱し、フランスが提唱する

[フロンティア・プロジェクト]に参入することにしました。 これにより我が国はISの本来の姿である宇宙進出の為のパワードスーツの研究をはじめ、医療や土木工事現場への技術のフィードバックを推進していきます。』

 

 リリー首相よる記者会見が続く。   

 

 

 「ドイツはここ最近、IS委員会からの無理難題に悩まされていたんだ。 国内外の女性権利団体等からも無茶な要求が上がってくる。 イグニッションプランのデータもほとんどがIS委員会に吸収されて見返りが少ない。 そう悩んでいたところにフランスがフロンティア・プロジェクトを発表したんで、それならばと乗り換えを決めたそうだ。」

 

 そこでシュートは書状をラウラに見せて

 

 

 「そして、その一環としてアルカンシェル社から[グリシーヌ]の購入とそれをベースにした代表候補生の専用機の開発を依頼してきた。」

 

 「その代表候補生というのが私だな。 正直な話、私にとってこの話はありがたかった。 国の技術者達を酷評するつもりは無いのだが、レーゲンに搭載されているAIC は効果範囲の割には集中力の消耗が激しすぎる。」

 

 自分の専用機・・・しかも国から与えられた機体にも関わらず厳しい判断を下すラウラ。

 

 

  「わかりました、この話はお受けします。 後日、正式な書類をドイツ本国に送らせていただきます。 それからボーデヴィッヒ「ラウラだ。 ラウラと呼んでくれ。」 わかりました、ラウラさん。 貴女の専用機はご希望通りにグリシーヌをベースに作らせていただきます。 それまでは今使っている機体をお使いください。」

 

 「ありがとう感謝するアルカンシェル「シュートとお呼びください。」ありがとうシュート殿。 ・・・・ところで話は変わるが、シュート殿は織斑一夏についてどう思っている?」

 

  「どうして織斑一夏の事を?」

 

 「実は織斑一夏の姉の織斑千冬殿は、私の恩師になる。 織斑教官はドイツ軍で2年に渡り私をはじめ多くの人を指導してくださった。 その教官が常々、弟の織斑一夏の事を語っておられたので興味をもってな。」

 

 そこまで語ってラウラに落胆の表情が出た。

 

 

 「ドイツを襲った洪水の対応で学園への入学が遅れたが、それでも織斑一夏の事が知りたく学園にいるドイツの留学生達に報告を求めたのだが・・・・・余りの軟弱ぶりに呆れてしまったのだ。 専用機を貰ったのに自己鍛練等の自らを鍛える努力を一切せず怠惰な生活を送り、あまつさえ自己判断も碌に出来ず他者の足を引っ張る様は愚者と言わざるを得ん。」

 

 一夏を厳しく断じるラウラ。 

 そんなラウラに入学してからの出来事を語る。

 

 

 「・・・・・まさか、そこまでの愚か者だったとは・・・・軍人一筋の私が言うのも何だが、一般常識すらないのか?」

 

 シュートの後で刀奈と虚が顔を見合わせて苦笑する。

 

 

 「よし決めた。織斑教官には大変申し訳ないが、織斑一夏とはなるべく接触しないようにしよう。 日本の諺に触らぬ神に祟りなしともある。」

 

 ラウラはそう決意を話すのだが、3人の脳裏にはあることが浮かんだ。

 

 

 (((織斑先生がラウラに一夏の指導を依頼してくるんじゃないかな?)))

 

 

 




 グリシーヌ   量産型第3世代IS
 外見:ゲシュペンストMKーⅡ

武装
ショットガン×2: 翠華月に装備されている物と同じ

コールドメタルソード×2: シシオウブレードと同じ素材で作られた両刃剣。

スプリットミサイル×4: 背部バックパックに内蔵されているミサイル。

リニアガン×2: 翠華月に装備されている物と同じ

プラズマステーク×1: 左腕に装備されている格闘用放電端子。 相手に押し付けた瞬間に放電しダメージを与える。

スラッシュリッパー×2: 思念誘導により敵を切り裂く投擲誘導兵器。 AIの補助により装着者の負担は少ない。


パッケージ
高機動パッケージ:ラプター (外見 ビルトラプター FM モード)
バックパックに大型ウイングブースターが装着される。
また、AI制御によりこれ単体で単独支援機として使う事が出来る。

追加武装
ホーミングミサイル×30:自動追尾システムが内蔵されたミサイル

ビームランチャー×2:大型口径のビーム兵器。ウイングに装着されているが外して携帯することが可能




砲戦パッケージ:パワード  
 バックパックに2門の大型キャノンが装着される。

追加武装
ツインビームキャノン×1:大型ビームキャノン。 収束モードと散弾モードがある。





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