シュートが学園長室に入室すると、部屋には理事長の轡木十蔵の他に千冬、スコール、シャルロット、セシリア、マドカ、簪、虚、鈴音、一夏、箒、がいた。
「よく集まっていただきました。 初めて顔を合わせる方もいますので自己紹介させていただきます。 私は轡木十蔵ともうしましてIS学園の理事長を務めさせていただいております。 それでは事情聴取をはじめます。」
「それでは一連の流れからいきます。 1組クラス代表織斑一夏と2組クラス代表凰鈴音の試合の最中、突如としてアリーナ天井部分を破壊して所属、ならびに形式不明のISが3機、侵入してきました。 それと同時にアリーナ全体のシステムがハッキングを受けてロックがかかりました。」
千冬がそこまで説明すると、その後を引き継いでスコールが
「その後、パニックを起こして出入り口に生徒達が押し掛けましたが、隔壁が降りており避難することが出来ない状態になっておりました。 また、侵入してきたISに対処すべく教師防衛隊の出動を要請しましたが、格納庫の扉もロックされており、出動に時間がかかるとのことでした。 そこにアルカンシェル君からISでの隔壁破壊の提案があり、特別に許可を出しました。」
「なるほど、わかりました。 さてアルカンシェル君、許可が出た直後の事を報告してもらえますか?」
十蔵に求められシュートが話しはじめる。
「ミューゼル先生から許可をもらい、私は1年に在籍する他の専用機持ちに連絡して手分けして隔壁を破壊して生徒達を避難誘導しました。 」
「では、凰さん織斑君、アリーナでの事を報告してください。」
「一、織斑君は最初のほうは気絶していたので私が報告します。 試合中に突然、アリーナ天井を破って3機の正体不明のISが侵入してきました。 そして気絶していた織斑君に対して攻撃しようとしていたので、やむを得ず攻撃しましたが、たいしてダメージを与える事が出来ませんでした。 その後、意識を取り戻した織斑君に避難するように進言しましたが拒否されました。」
鈴音の報告を聞いて千冬が渋い顔をした。
「織斑君、どうして凰さんの進言にしたがって避難しなかったのですか?」
十蔵の問いに
「それは鈴を一人置いて避難するなんて出来なかったからです。一人より二人のほうが何とかなると思ったからです。」
「君のISはほぼSEがつきかけていたのに引き換え凰さんのは無傷でした。 そうなると凰さんは君を護りながら敵と戦うことになります。 防御シールドを破る程の攻撃力を有している敵と戦うのに、SEがほぼ残っていない君の存在が足手まといになると考えなかったのですか?」
「織斑君は避難を進言した際に女を置いて逃げられない、女に護られたくないと言って避難することを拒みました。」
十蔵からの一夏への質問にたいして鈴音が報告を添えた。
「それは本当ですか織斑君?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
十蔵の問いに何も言えない一夏。
「・・・・それではアルカンシェル君、君がアリーナに行ってからの事を報告してください。」
「はい、避難活動がある程度進んだところでアリーナを見ると織斑君と凰さんが苦戦しているのがわかりました。管制室に教師防衛隊の出動がまだか尋ねたところ、まだ準備がかかるとの答えが帰ってきて、ミューゼル先生が私に到着までの時間稼ぎを依頼してきたので了承しアリーナに向かいました。」
「格納庫のロック解除が手間取っており、このままではアリーナ内部の二人が危険だと思い依頼しました。」
スコールがシュートの報告を補足する。
「アリーナに入りますと二人がビームで攻撃されそうだったのでビームから二人を護り、避難を拒む織斑君を強制的に避難させました。 そして凰さんが避難したのを確認して敵ISと交戦を開始しました。 しかしその途中、アリーナのスピーカーから篠ノ之さんの大音量の声が聞こえてきました。避難させた織斑君に起き上がって戦えという内容でした。」
シュートがそう報告すると全員の視線が箒に集まる。
「そして敵ISはそれにより放送室に向けてビームを放ったので私が間に入り防ぎました。 その際に放送室の中を見たところ、篠ノ之さん以外にも数名の生徒が倒れているのを確認し、マドカ達に救助を要請しました。」
シュートの報告を受けてマドカが代表して
「兄からの連絡を受けてシャルとセシリアを連れて放送室に向かったところ篠ノ之さん以外に放送委員二人と生徒会役員が一人倒れていました。 幸い軽症でしたが、話を聞いたところ篠ノ之さんが放送室に乱入した際に静止しようとして竹刀で叩かれたとのことでした。」
「違っ「篠ノ之さん、後で聞きますから今は黙っていてください。」・・・・・はい。」
マドカの報告を否定しようとした箒だったが、十蔵に止められる。
「そして、その後残る一機に対して攻撃を加えて撃破しました。 その後、管制室より教師防衛隊の出動準備が出来たとの連絡を受けて下がりました。」
「みなさん報告ご苦労様です。 さて織斑君、君が避難しなかった理由は凰さんが、言った内容であってますか?」
十蔵からの再度の問いかけに一夏は
「・・・・・・・間違いないです。」
「そうですか。 それでは次に篠ノ之さん、あなたはどうして避難せずに放送室に乱入し中にいた生徒に暴行を加えて、更に大声を上げて妨害行為を行ったのですか?」
「私は妨害行為など「篠ノ之さん!」・・・・・私はただ一夏に激を飛ばそうと・・・」
妨害行為をしてないと言おうとしていた箒だったが、十蔵によりその言葉は封殺された。
「一夏が侵入してきたISに立ち向かおうとしていたのに、そこの男が邪魔をしてあまつさえ一夏を邪魔者扱いし排除したので、立ち上がって敵に立ち向かえるように激を入れたのだ。 放送室にいた連中はそんな私の正当な行動を邪魔したから排除したまでだ。」
余りに身勝手で独善的な考えに言葉を失う。
「・・・・・篠ノ之さん、織斑君のISはSEがほぼ残っていない状態というのは先程の説明だけでなく試合を見ていればわかっていましたよね。 織斑君にも言いましたが、そんな状態で戦えるとでも?」
「気合いさえあれば「気合いでSEは回復しませんよ、現実を見なさい。」 くっ!」
箒の非現実的な意見を否定し十蔵は全体を見回して
「さて、それではここまでの報告を受けて公正に判断し、織斑君と篠ノ之さんには処罰を与えなければなりませんね。」
十蔵の発言に一夏、箒、千冬は驚愕の表情を浮かべた。
「まず、織斑君。君は自分勝手な理由で避難することを拒み敵ISに対応していた凰さんとアルカンシェル君に多大な迷惑を与えたことは明白、よって明日から3日間の自室謹慎処分と反省文30枚を申し付けます。」
思ったよりも重い処分に千冬は思わず抗議しようとしたが、口を開く前に十蔵の視線により黙らされた。
「次に篠ノ之さん、あなたは身勝手な判断により放送室にいた生徒達に暴行を加え、敵ISに対処していたアルカンシェル君の行動を妨害し、更に自分の命のみならず放送室にいた3人の生徒の命を危険にさらした行為は決して容認できるものではありません。 よってあなたには本日より14日間の懲罰室での謹慎と反省文400枚に加え、1ヶ月間の外出禁止とします。」
14日間・・・すなわちGW明けまでという、かなり厳しい処分に千冬が
「待ってください理事長。 余りに厳しい処分は束やIS委員会から「その心配はありませんよ織斑先生。」 えっ?!」
十蔵に再考を求めようとしたが、それを十蔵が遮り。
「日本政府、IS委員会そして当学園に対して先程、篠ノ之束本人からの同じ内容のメールが届きました。 そこには信賞必罰、悪いことや間違った行為をした場合、私の名前を出しても決して構うことなく罰を与えてほしい。それから今後一切、篠ノ之箒が篠ノ之束の名前を使って要求したことは全て却下してもよい。と書かれてました。 」
束からのメールの内容に驚く千冬達。
「それではみなさんご苦労様でした。もう退室しても構いませんよ。 今回の一件は箝口令をひかせていただきます。決して学園外に漏らさぬように徹底してください。 それから織斑先生とミューゼル先生はそれぞれ織斑君と篠ノ之さんを連れていった後、山田先生の解析の手伝いに向かってください。」
こうして解散となり、学園長室を後にした。
IS学園地下、そこに運びこまれた3機の無人機の解析が真耶の手により解析が行われていた。
そこに千冬とスコールがやって来た。
「どうだ山田君、解析は進んでいるか?」
千冬の問いかけに真耶は
「はい、まずこの3機は無人機です。それぞれの機体からコアを取り出して機体その物の解析も進んでいます。 まずコアですが、これはISコアではありません。」
真耶の言葉に驚く千冬とスコール
「3機に搭載されていたのは、コアによく似た機能を持つ、言わば疑似ISコアという物です。 能力も限定的なもので、これを使ってISを起動させることは出来ますが、量子変換機能が無く絶対防御も通常の半分程度しか働きません。」
「疑似ISコアか・・・・・(ということは束は今回の一件には無関係か)・・他には。」
千冬の問いかけに真耶の顔色が変わり少し青ざめた。
「・・・・・・・・それから、この3機の無人機のうち一機の内部からこれが発見されました。」
そういって真耶が示した機体はシュートが指摘していた指揮官機だった。
そしてモニターに映し出されたのは緑色の液体に満たされたカプセルに収められ数本のコードで接続された人の脳と脊椎だった。
それを見た千冬とスコールは表情を歪める。
「・・・・・そして、この脳からサンプリングしたDNAですが、学園のデータベースに一致するものがありました。 この生徒の物です。」
そういって真耶がモニターに出したのは一人の女子学生のデータだった。
「この生徒は今年の3月に素行不良を理由に退学させられています。その後母国であるオーストラリアに帰国しています。」
「この生徒、家族・・・父親からの捜索願いが出ているわ。それから母親も行方不明よ。」
真耶の説明を引き継ぐ形でスコールが話す
「どういうことですかミューゼル先生。 何故、先生がその事を?」
スコールの話に疑問を持った千冬が問う。
「先週末に父親とオーストラリアの警察から学園に問合せがあったの。たまたまその電話を受けて理事長に報告したのが私なの。 ともかく、その生徒は3月に帰国して一週間後に母親と共に姿を消したそうよ。 最初は母親が娘と暮らす為に日本に行ったと思っていたけど、口座の預金が引き出された形跡が無く不審に思い学園に問合せてきたの。父親は娘が退学になったことを問合せするまで知らず、母親も娘も出国した形跡が無いことで捜索願いを警察に出したそうよ。」
スコールの話を聞き千冬が
「その生徒が素行不良による退学させられたと言っていたが、成績ではなく素行不良ということは私生活に問題があったのか?」
スコールはこの生徒が退学になった理由を知っていたが、言うわけにはいかなかった。理由が理由だけに関係者以外には漏らさぬように箝口令がしかれていた。
「理事長から詳しく聞いて無いからそこまではわからないわ。 ともかく、その生徒がどういう形でこんな姿になったのかは警察の方に報告して調べてもらうしか無いわね。理事長に報告してくるわ。」
スコールがそう言って部屋を出ようとしたのが、千冬が
「待ってくれミューゼル先生。 ミューゼル先生は理事長の織斑と篠ノ之に対する処分はどう思う。」
「そうね、織斑君は妥当な処分だと思うわ。 自分のプライドを優先して無謀な行いをした事を自問自答する機会になるんじゃないかしら。 篠ノ之さんについてはもう少し厳しくてもいいと思ったわ。 彼女は自分勝手な理由で他人を傷つけ、自分の命だけでなく他人の命も危険にさらしたのだから。 もし、あれで彼女だけでなく3人の生徒の命が失われていたら理事長のみならず、全教員の責任問題、更に日本政府やIS委員会の対応にも議論が行くことになったでしょうね。」
そこまで言ってスコールは部屋を後にした。
スコールの言ったことは正論であり千冬が反論する余地はなかった。 それでも感情論として納得出来ない部分があった。
その日の夜、シュート達は秘匿通信を使いスコールから無人機の報告を受けていた。
脳の持ち主の生徒の件になったとき、ダリルの顔色が変わった。
『?! なんで、なんであいつが! クッソー!!』
「ダリルさん、この生徒の事を知っているんですか? 」
シュートはダリルに聞く。 手元のタブレットには生徒の情報が表示されていた。
【ジジ・ルー 16歳 オーストラリア出身
2年3組 整備科所属 3月に素行不良により退学処分】
「彼女は3月に退学処分になってますが、その理由は?」
シュートの問いかけにダリルが答える。
『そいつはな、3月に行われた織斑一夏の実技試験の前日に格納庫に侵入し、織斑一夏が使用予定だった打鉄に細工しようとしてしていたんだ。 事前に情報を掴んでいたあたしがマークしていて現場を取り押さえたんだ。 そしてそれが退学理由だ。』
そう話すダリルの表情はどこかつらそうだった。
『あいつの母親はオーストラリアでも悪名高い女性権力団体の幹部なんだ。 もっとも、母親がその団体に所属したのはジジがIS学園に入学してからなんだが、だから最初の頃は普通の生徒だったんだが、月日が経つ毎にその思想に染まっていったんだ。 そして事件を起こした。』
ダリルの話を聞き沈黙が流れる。
「スコール、彼女が退学してからの足取りは?」
シュートの問いかけにスコールは首を振り
『残念だけど、帰国して一週間後に母親と共に姿を消してからの足取りは掴めていないわ。 ただ、その女性権力団体なんだけど、今はもう存在してないわ。 でもその団体はある組織の下部組織だというのは掴んだわ。』
「その組織って、まさか!」
シュートの問いかけにスコールは頷き
『えぇ、シュートの思っている通りよ。 第1級危険指定組織 女性至上主義団体[グローリー・キングダム]よ。』
真っ白い部屋の中には白い円卓がある。 その円卓を囲むように5つの椅子があり、そのうち4つに4人の女性が座っていた。
「さて、Doctor とProfessorが共同で進めていた無人機計画の方はどうなりましたか?」
紫色の髪を持つ20代後半らしき美女がそう言うと、白髪の老婆が
「Professorが開発した疑似ISコアを搭載した、試作型無人機[レストレイル]のtypeーMB とtypeーAIの試験運用と実戦テストを行った。 どちらもデータ上とほぼ同じ能力を示してくれた。 まあ結果は残念な物となったが、今後の課題がわかったのでよかろう。」
すると茶髪で左の目元に黒子のある30歳位の美女が
「ですがDoctor、まだ量産を始めたばかりで数の揃っていない疑似ISコアを試験運用の度に使い潰されては困ります。 せめてコアだけでも回収する手筈を整えてください。 今後のコアのバージョンアップや疑似ISコア専用の有人型IS[ゼカリア]に[エゼキエル]、無人型IS[レストレイル]の量産にも支障をきたします。」
その言葉に燃えるような紅い髪の鋭い目付きをした美女が
「それにしてもDoctorもProfessorもいくらデータをとるためとはいえ、適性レベルBの女性を生体パーツに使用するとは、どうせならDoctorのGAMEーSYSTEMの被験体にすればよかったんじゃない?」
その発言に白髪の老婆・・・Doctorは
「適性レベルの有無による性能レベルの高低を調べるためには必要な事だったんじゃよ。 それにAssassin 、お主も知っておったろう。あの娘にはもうそれしか利用価値が無いことを。 あの娘、確かにISの適性レベルBと平均より高いが所詮それだけ。 適性が高くても成績その物が低ければ何の意味も無い。」
Doctorの言葉に紅い髪の美女・・・Assassinは頷く
「私もデータは見たわ。射撃に格闘、身体能力、学力、整備技術、全てが平均以下。 確かにそれしか使い道はなかったわね。 それにAssassin 、DoctorのGAME ーSYSTEMも被験体の本来の能力があってこそ本領を発揮するのよ。」
茶髪の美女・・・Professorの話を静かに聞いていたAssassin が紫色の髪の美女に向かって
「ところでPriestess 、IS学園にいる大罪人はどうするつもり? 3月の時点で学園のセキュリティレベルが一気に上がり情報入手が困難になったわ。 どうするの?」
「それなら問題ありません、すでに種は蒔いてあります。 あとは芽を出すのを待つだけです。 今はXーDay の準備を急ぎましょう。」