BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第60話

第60話

 

 

 

「失礼します。………カグラさん、突然呼び出して、話って何ですか?」

 

 

 

統制機構支部、カグラ=ムツキの部屋。カグラからの呼び出しを受けたイオはそこのドアをノックしてから入ると、部屋の脇にいたカグラにそう問いかけた。………呼ばれたのは良いが、何の用事があるのか、それを一切聞いて居ないのだ。

 

 

 

「お、よく来たな、イオちゃん。………って言いてぇ所だが、少し待っててくれ。まだ来てねぇ奴等が居てな。………お、噂をすればなんとやら、ってやつか。」

 

 

 

カグラはそう言うと、イオが入ってきた扉の方へと目を向ける。それと同時に扉が開き、ラグナとセリカが部屋の中に入ってきた。………どうやら、この二人が「まだ来てねぇ奴等」らしい。

 

 

 

「………んで、どうしてここに来るまでに二時間以上かかってんだ?ほとんど一本道で、十分もありゃ十分だろうに。」

 

 

 

「あははは………。」

 

 

 

疑うような声でラグナに問いかけたカグラの言葉を聞いて、唯一見ていなくとも何が起こってしまったのかを理解できてしまったイオは、苦笑しながらラグナの方を見る。………セリカの方向音痴に関しては、イオはこの中にいるメンバーの中の誰よりもよく理解している。今回もきっと、セリカの方向音痴スキルが盛大に発動したのだろう。

 

 

 

「俺に言うな、俺に。こいつが「こっちが近道」とか、「そっちは遠回り」とか言うからこんなことになったんだからよ。」

 

 

 

「いや~、あははは、この支部、広いんですね~。あ、エントランスにあった木、凄く綺麗ですね。私、感動しちゃいました。」

 

 

 

「俺はお前の方向音痴に感動したよ!」

 

 

 

誤魔化すように笑って話題を逸らそうとするセリカに、鋭い突っ込みでそれを許さないラグナ。どうやら、何だかんだで、良いコンビではあるらしい。

 

 

 

「うっせぇな、静かにしろっての。………それよりも、だ。ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。俺達に協力しろ。報酬は弾むぞ?」

 

 

 

カグラは、ラグナを誘うような口調でそんなことを言ってから、にやりと口元を歪めて見せる。………言ってることといい表情といい、どう見ても立派な悪役にしか見えない。

 

 

 

「てめぇの犬になれってか?ふざけんな。………って言いてぇ所だが、その為の爆弾だろ?やることがセコいんだよ。」

 

 

 

「………爆弾?」

 

 

 

吐き捨てるように言ったラグナの言葉を、イオは首を傾げながら聞き返す。………イオからしてみれば、そんなのは初耳だ。どうやらカグラも同じようで、驚いたような表情をしている。心当たりがないかと言われれば、そうでもないが。

 

 

 

「………あの、ココノエさん。もしかして爆弾って、ラグナの左腕に付いてる腕輪みたいなやつの事ですか?」

 

 

 

「あぁ、その通りだ。………いわゆる首輪、というやつだな。」

 

 

 

イオの問いかけに、ちょうど部屋の中に入ってきたココノエは当然のようにさらりと答える。その後少しだけ聞いた所によると、周りには被害を出さず、ラグナのみを木っ端微塵にする、という高性能爆弾らしい。

 

 

 

「………首輪にしては物騒すぎんだよ。」

 

 

 

「あはは、だよねぇ。」

 

 

 

ラグナのぼやくような言葉に、笑いながらセリカが同意する。………確かに、ラグナに付いている『爆弾』は、人に言うことを聞かせるための首輪としては少々――――かなり物騒なものだ。

 

 

 

「ま、んなら話は早いか。………とりあえず、ラグナ。お前しばらく『蒼の魔導書(ブレイブルー)』の使用禁止な。」

 

 

 

「はぁ?ふざけんな、どういうことだ!」

 

 

 

カグラの言葉に、ラグナは噛みつくようにしてそう返す。………まぁ確かに、自分が使える最大の武器を使うな、と言われてしまったのだから、そう言いたくなる気持ちも分からないでもない。

 

 

 

「まぁ、最後まで話を聞けって。………俺たちは今、あることをやろうとしている。それには、お前の『蒼の魔導書(ブレイブルー)』が邪魔なんだよ。色々と勘違いもしちまうしな。」

 

 

 

「………勘違い?」

 

 

 

カグラの言葉を聞き返したラグナに、カグラは一つ目の理由を説明する。それによると、どうやらハザマ――――ユウキ=テルミの位置を掴むために放っている、『碧の魔導書(ブレイブルー)』を感知するセンサーに、ラグナの『蒼の魔導書(ブレイブルー)』が引っ掛かって誤作動を起こしてしまうから、ということらしい。

 

 

 

「………もちろん、ただ何もするな、って訳じゃねぇ。時が来たら働いてもらう。お前の『蒼の魔導書(ブレイブルー)』の力も必要になるからな。その前に、不安要素――――アズラエルをどうにかしようって事だ。」

 

 

 

「アズラエル、だと?あの狂犬が、イカルガに来てるってのか!?」

 

 

 

カグラの言葉に、ラグナが驚愕の声を上げる。………当然だろう。アズラエル、と言えば、戦場においては敵味方の区別も無しに全てを破壊し尽くすだけの傍迷惑な化物だ。もちろん、化物の名に相応しく、その戦闘能力もずば抜けて高い。

 

 

 

「あぁ、来てる。私とお前の『蒼の魔導書』を狙ってな。これが二つ目の理由だ。………ラグナ、お前の戦闘能力はよく分かっているが、はっきり言ってアズラエルの戦闘能力は化物じみている。もしお前達が出会い、戦闘になったとして、その時、お前は全力で戦わなければならなくなるだろう。………もちろん、『蒼の魔導書』を使う、という選択肢を取ってな。だが、お前自身がよく分かっていると思うが、『蒼の魔導書』はそんなに簡単に使うものではない。」

 

 

 

断言するように、諭すように言ったココノエの言葉に、ラグナは何も言い返すことが出来ない。………確かに、ココノエの言っていたことは全てが事実だ。もしラグナがアズラエルと戦ったら、確実に『蒼の魔導書』を使うことになり『蒼の魔導書』もそんなに何度でも使えるようなものでもない。

 

 

 

「………理由は分かった。んで?俺は何をやればいい?」

 

 

 

「簡単に言えば、お前には餌になってもらう。」

 

 

 

「餌?」

 

 

 

聞き返したラグナに、カグラの傍に控えていたカグラの側近、ヒビキ=コハクが説明を始める。カグラがラグナを捕まえた、という情報が、既にイカルガ中を飛び回っている、ということ。それを踏まえて、明日、イカルガの闘技場で闘技大会を行う、ということ。そこに、ラグナが自分の賞金を懸けて出場する、ということ。そして、それら全てが、アズラエルを呼び出すための餌だ、ということ。

 

 

 

「成る程な、で、俺はどうすればいい?アズラエルとやりあえばいいのか?」

 

 

 

「いや、お前はアズラエルが出てくるまで負けるな。アズラエルが出てきたら俺がやる。お前には無理だろ。」

 

 

 

「あぁ?それはどういうことだ?」

 

 

 

カグラの呟くように言った言葉に、ラグナは噛みつくようにして返す。恐らくラグナには、カグラからお前は弱い、と言われているように聞こえたのだろう。

 

 

 

「いや、俺は別にお前を過小評価してる訳じゃない。お前は強い。けどな、俺やアズラエルは『蒼の魔導書』何て持ってなくても、お前より強いぞ?」

 

 

 

「………だったら、何だよ。」

 

 

 

カグラの言葉に、ラグナはそう聞き返す。カグラの言っている言葉の意味が、よく分からなかったのだろう。

 

 

 

「お前からはなんの力も感じねぇ。お前はただ、力を振り回してるだけだ。それじゃあアズラエルと同じで、だからこそ奴には勝てねぇよ。………お前はまだ若い。だからもうちょっと自分の力ってやつを冷静に見てみろ。『何のために戦い、何のために力を使うのか』。それを見つけるのが、力を持ったやつの義務ってものだ。それを見つければ、お前はきっと強くなれる。この俺よりもな。」

 

 

 

カグラの言葉に、ラグナは何も言うことが出来ずに黙り込む。………しかしどうやら納得しきったわけではないようだ。

 

 

 

「はぁ………仕方ねぇ、お前に一番身近な例を見せてやる。………イオちゃん。イオちゃんは何のために戦って、何のために力を使ってる?」

 

 

 

「私のなんて、参考になるとも思いませんけど………ノエルちゃんやセリカちゃん、それにラグナ。他にも、私が大切に思ってる人達に、ずっと笑顔でいてもらうためです。」

 

 

 

カグラの質問に、イオはいつもの、見る人を安心させるような笑顔で、一切の迷いも無しにそう答えて見せる。………そう、確かに、イオが迷っている所など、一番付き合いの長いラグナでさえ一度も見たことがない。

 

 

 

「それじゃあ、それを統制機構や世界、もしくは自分が邪魔をしている、なんて事になったら?どうする。」

 

 

 

「関係ありません。統制機構でも、世界でも、私自身でも。私の大切な人を傷付けるなら排除するだけです。」

 

 

 

続くカグラの質問にも、イオの答えに迷いなどない。笑顔であり続けるその顔が、余計にイオの言葉が本気であることを裏付けている。

 

 

 

「………だが、そりゃあお前の独善だ。そんなことをしても、ほとんどの奴等からは感謝されない。恨まれるだけだ。下手をすりゃあ笑顔にしたい、と思った奴からも感謝されない。それでもいいのか?」

 

 

 

「はい。だって、私が護りたいのは世界じゃないんです。統制機構じゃないんです。世界中の人じゃないんです。私の手が届くくらいの、少しの人ですから。他の誰が私を恨んでも構いません。………それに、私が見たいのは大切な人達の笑顔ですから。最後にそれが見れるなら、ずっと笑顔で居てくれるなら。私がいくら恨まれても、気にしませんよ。」

 

 

 

にっこりと花の咲くような笑顔を浮かべて、迷いなんて欠片も無いままで。淡々とそう告げたイオに、その場にいた全員が一瞬沈黙する。………これが、この言葉こそが、イオ、という存在の歪みで、強さの根本にあるものなのだ、ということを理解してしまったからだ。

 

 

 

「………さすがに、此処までだとは思ってなかったが………そういうことだ。ま、報酬も弾んでやるからよ、死ぬ気で働け。」

 

 

 

と、そこで、イオを除いた中で、一番早く沈黙を解いたカグラが、場を和ませるような口調でそんなことを口にする。………その言葉はそれなりに効果があったようで、すぐに緊張していた空気は元に戻っていった。

 

 

 

「報酬?要らねぇよ、んなもん。」

 

 

 

カグラの言葉に、ラグナは興味なさそうにそう返す。………実際にラグナからしてみれば、統制機構から渡される賞金なんてものには、少しも興味が持てないのだろう。それでも、それを聞いたカグラは意地の悪そうな笑みを浮かべて見せると、

 

 

 

「………それが、『櫛灘の楔』だ、って言ってもか?」

 

 

 

と、今、ラグナが一番に欲している物の名前を、口にしてみせた。


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