BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第56話投稿。



CP編スタートです。………なんか少しぐだぐだになったような気がします。


第56話

第56話

 

 

 

――――森は何処までも静かで、まるで時間が止まっているかの様に、昔と何も変わらない。………時間は夕暮れを少し過ぎた辺り。暗闇の中で微かな灯火のように輝いている星の光が、昔の記憶と変わらない、時が止まってしまっているような森を、一層幻想的に映し出している。

 

 

 

――――本当に、変わらないな。

 

 

 

黒いコートを纏った、長い黒髪に蒼い目をした少女――――イオは、そんなことを思いながらふと空を見上げる。そこには、光の消えた空に開いた大きな穴のように、綺麗な円を描く月がある。………そういえば、昔もこの辺りで、こんな風に月を見上げていたな、とイオは思い出して苦笑する。本当に、あの時と何も変わっていないのだ。この森も空に浮かぶ月も、瞬く星も、

 

 

 

「………ここ、何処なんだろうな~。」

 

 

 

自分が、この森の中で迷ってしまっている現状も。

 

 

 

「………いや、ほらね。ここに来るの、本当に久しぶりで、道も覚えて無かったし、最初にあの教会に行った時も、こんな風に道に迷ってたから、それを再現しようとしてたんだよ?きっと。」

 

 

 

イオは、誰が聞いても苦しいと思う、というよりもイオ自身でさえも無理がありすぎる、と思ってしまうような言い訳を、誰に言うわけでもなく呟いてみる。………もちろん、そんな言い訳を聞いている人間はここにはいないし、客観的に見てしまえば、ただの痛い人だ。本人もその事には気付いているらしく、一つ溜め息を吐いてから、「………これじゃあまるでラグナだよね。」等と、本人がいたら殴りかかられそうな事を平然と呟いている。そのまま、もう一度溜め息を吐いてから顔を前方に向けたイオの視界に、一つの光景が飛び込んできた。

 

 

 

「………あれ?森の出口だ。それにあれ、教会だよね?………っていうことは、もしかして私、迷ってなかった?」

 

 

 

視界に映り込んだ光景――――森の出口と、その先にある崩れ落ちた教会、という光景を目にして、イオはそんなことを呟く。………少なくとも、道が分からなくなってしまっている時点で、迷ってしまっている事は確定なのだが、現状、見える範囲にイオしかいないこの場に、そんな突っ込みを入れてくれる者は存在していなかった。

 

 

 

「あはは。うん、結果オーライだね。………うん、さっきまでの予定より早く教会に着けたし、これは最初の予定よりも早くイカルガに着けるかな?」

 

 

 

イオはそう言いながら笑うと、先程森の中を歩いていた時よりもずっと軽い足取りで歩き始める。そのまま少し歩いて、崩れ落ちた教会の近くまで来た所で、

 

 

 

「………あれ、誰かいる。」

 

 

 

そう首を傾げて呟いた。………シスターの墓の前に、四つの人影がある。レイチェルにラグナ、そして何故かファントムに帝。どの顔も、最近イオが一度は見た顔だ。

 

 

 

「………はぁ、あの人達、一体何をしてるんだろ。此処がどういう場所なのか、本当にわかってるのかな?」

 

 

 

イオはそう呟くと、手に黒い剣を二本出現させ、それを人影のうちの二つ、地面に伏して動けなくなっているレイチェルと、明らかに何かの魔法でダメージを受けているラグナに向かって投合する。二人に向かって真っ直ぐに飛んでいった黒い剣は二人に当たる直前で黒い膜へと形を変え、ほんの数秒だけ二人を包み込んだ後、姿を消した。………それで、魔法は解けたらしく、レイチェルは立ち上がり、それと同時にラグナは崩れ落ちる。

 

 

 

「はいはい、ストップですよ、皆さん。レイチェルさんも魔法が解けたからって戦闘体勢にならないでください。帝さんもです。ここは暴れるような場所じゃないんですから、ファントムさんを抑えていて下さい。………それにラグナ。ラグナなら、此処は暴れる場所じゃない事くらい分かるよね?」

 

 

 

イオは溜め息を吐きながらそんなことを言う。帝はその言葉に、イオを冷めたような目で見つめ、そのままくるり、と後ろを振り向いた。

 

 

 

「………興ざめだ。行くぞ、ファントム。」

 

 

 

つまらなそうにそう言った後、帝は思い出したように膝を付いているラグナに目を向ける。

 

 

 

「………そうだな、先程の事だが、心変わりをしたら余の元へ来るといい。余は寛大だ、何時でも待っておるぞ、『兄様』。」

 

 

 

「あぁ………何時でも行ってやるよ………てめぇをぶっ殺しになぁ………!」

 

 

 

少しだけ愉しげに言った帝の言葉に、満身創痍のラグナは弱々しく、しかし、殺気の十分に籠った声でそう言い返す。

 

 

 

「ふふっ、楽しみにしているぞ?『兄様』。」

 

 

 

帝はそう言って本当に楽しそうに笑うと、ファントムと共に転移魔法で姿を消した。

 

 

 

「………それで、大丈夫ですか。レイチェルさん。ラグナは………大丈夫じゃないよね、どう見ても。」

 

 

 

帝の姿が完全に消えたのを確認してから、くるりとレイチェルとラグナの方を振り向いたイオはそんなことを確認する。ラグナはそれに、満身創痍のまま答えようとして、

 

 

 

「白い人白い人~~!」

 

 

 

「ぐほぁっ!!」

 

 

 

突然、後ろから突っ込んできたタオカカの勢いを抑えきることが出来ず、前方へと吹き飛ばされる。満身創痍のラグナはそのまま、受け身も取れずにすぐ近くにあった一本の木に顔から激突して、うつ伏せに倒れた。

 

 

 

「………ニャ?どうして白い人はそんなにボロボロのぐちゃぐちゃニャスか?顔からもいっぱい血が出てるニャスよ?」

 

 

 

「………顔のはてめぇのせいだけどな………突然飛び掛かってくるな………タオ。」

 

 

 

不思議そうな顔をしたタオカカにラグナは最後の力を振り絞ってそう答えると、そのままがくり、と力を失って気絶する。………どうやら、先程までのファントムの魔法でかなり限界が近かった所に飛びかかってきたタオカカが、止めを刺したようだ。

 

 

 

「あははは………久しぶりだね。タオちゃん。」

 

 

 

「ん?おお、久しぶりニャス、いい人!それにウサギの人も!」

 

 

 

ラグナの様子に苦笑しながら、タオカカに挨拶をしたイオに、ようやく気付いた、というような顔でタオカカは挨拶を返す。そんな様子が何処までもタオカカらしくて、イオはあはは、と笑ってみせる。

 

 

 

「ところで、いい人、ウサギの人。さっき、こっちで嫌~な気配がしたニャスけど、なにか知らないニャスか?」

 

 

 

「嫌な気配、って、どんな?」

 

 

 

タオカカの質問に、イオはそう聞き返す。………このタイミングで此方からした嫌な気配、と言ってしまえば、恐らくさっきまで此処に居た帝以外には無いとは思うが、もしかしたら別の何かである可能性も無いとは言えない。なので、一応聞いてみたのだ。

 

 

 

「こう、ぞぞぉぉぉ、っとして、ばばぁぁぁ、っとして、ぐにゃぐにゃ~、っとした、嫌な感じニャス。」

 

 

 

「………あははは……。」

 

 

 

タオカカの、もうあまりにもタオカカらしすぎる擬音のみで構成された説明に、イオは笑って返すことしか出来ない。………まぁ、ほとんどよく分からないが、それでも何となくは、タオカカが言っている『嫌な気配』が、帝の事を指しているのだろう、ということは理解できた。レイチェルもそう理解したらしく、ぶつぶつと何かを考え込んでいる。

 

 

 

 

「お~い、タオ~!」

 

 

 

と、そこで遠くからタオカカを呼ぶ声が聞こえてくる。………イオも、昔聞いたことのある声だ。

 

 

 

「あ、そういえば、忘れてたニャス。お~い、トラ姉~!こっちニャス!」

 

 

 

タオカカがそう呼ぶのとほとんど同時に、タオカカの色違いのような服を着た、カカ族が現れる。………タオカカが『トラ姉』と呼んで慕っている、トラカカだ。

 

 

 

「お久しぶりです、トラカカさん。」

 

 

 

「まったく、トラでいいと言ってるのに………相変わらずだな、イオ。」

 

 

 

トラカカは挨拶をしたイオにそう返すと、次に挨拶をしたレイチェルの使い魔――――ナゴと話を始める。その途中でもう一体の使い魔で、先程のファントムの魔法にやられて今は気絶しているギィへと話が移り、

 

 

 

「………そう言えば、もう一人ボロボロになってるやつがいるニャスな。」

 

 

 

そう言って、うつ伏せに倒れたままで気絶しているラグナへと目を向けた。

 

 

 

「………そうね。そういえば、此処はあなた達の村の近くよね?」

 

 

 

「元、村ニャスけど。」

 

 

 

思い出したように確認するレイチェルに、トラカカはそう答える。イオはその言葉に、暗黒大戦時代に一度だけ行ったことのあるカカ族の村を思い出した。………そういえば、確かにこの辺りだったような気がする。

 

 

 

「この馬鹿でノロマで愚図な男を、あなた達の元村の温泉まで連れていって、起きないようなら無理やりにでも温泉の中に叩き込んでくれないかしら?」

 

 

 

「あははは、まぁ、ラグナならそれくらいやっても平気ですよね、きっと。………じゃあ、トラカカさん、よろしくお願いします。」

 

 

 

レイチェルのかなり辛辣な言葉を、イオは否定せず、止める事もせず、むしろ肯定してしまう。………どうやら、今のラグナに味方は居ないらしい。

 

 

 

「分かったニャス!行くニャスよ、トラ姉!」

 

 

 

レイチェルの言葉にタオカカは頷くと、ひょいとラグナを肩に担いで走り出す。トラカカもそれを慌てたように追いかけて行き、すぐに二人は姿を消した。

 

 

 

「………そろそろ、私も戻ろうかしら。」

 

 

 

二人が姿を完全に消したのを見送ってから、レイチェルはそう言ってくるりと後ろを向く。イオはそんなレイチェルの方を向くと、

 

 

 

「………ラグナは、イカルガで何を捜すって言ってました?」

 

 

 

と、そんな事を聞いてみる。………ラグナがイカルガで何かを捜そうとしている、ということは何となくは聞いていたが、その詳細はよく知らなかったのだ。

 

 

 

「………あなたにとっては、懐かしいものよ。『櫛灘の楔』、と言えばあなたにも分かるでしょう?」

 

 

 

「………確かに、すごく懐かしい名前ですね。………ラグナが捜している理由は、きっと帝を、サヤの体を消滅させる事、ですよね?」

 

 

 

イオの言葉に、レイチェルは軽く頷いて答えてみせる。………確かに、イオや、帝達が来るまでレイチェルがラグナとしていた会話では、ラグナはそう言っていた。

 

 

 

「………本当に、ラグナはサヤの体を消滅させたい、って思っていると思いますか?」

 

 

 

「………どういう事かしら?」

 

 

 

突然投げ掛けられたイオの質問に、レイチェルは怪訝そうな顔をして聞き返す。

 

 

 

「あはは。参考までに、って言うやつですよ。本当にラグナはそうしたいのか、サヤの体を消滅させて後悔しないのか。………答えは本人しか知らないと思いますけど、参考までにレイチェルさんの意見を聞いてみたいなぁ、って思っただけです。」

 

 

 

「………それはこの私にも分からないわ。………でも、きっと………。」

 

 

 

イオの質問に、レイチェルは答えようとして、途中で言葉を止める。それでも何を言いたかったのかはイオに伝わったらしく、イオはあはは、と笑ってくるりとシスターの墓に背を向けると、そのまま歩き始める。

 

 

 

「あら、お墓参りに来たのでしょう?何か言っていかなくていいのかしら?」

 

 

 

レイチェルがイオの背にそんな疑問を投げ掛けてくる。それにイオは足を止めると、

 

 

 

「そのつもりだったんですけど、此処に来たら何となく、もうすぐセリカちゃんに会えるような気がしたんです。………だから、お墓参りは次の機会までに、セリカちゃんに会えなかったらすることにします。」

 

 

 

そんな事を言ってから再び歩き出し、レイチェルの視界から姿を消した。


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