BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第55話投稿。



これでCSは終了です。次回からは、多分CP編に入ると思います。


第55話

第55話

 

 

 

「………ん……。」

 

 

 

記憶の整理が終わり、イオの意識はゆっくりと浮上する。そのまま、意識の浮上と同じようにゆっくりと目を開く。その視界に映ったのは、カグツチの地下の空洞のようになっている部屋の天井と、イオの頭を膝に乗せて、横の方を見ているノエルだ。どうやら、意識を失ってからそこまで時間は経っていないらしい。

 

 

 

イオはそれを確認すると、目だけを動かして周りを確認する。ノエルの視線の先に立って、ノエルと同じ方向を見ているハクメンとレイチェル、これまた同じ方向を睨み付けているラグナとジン。そして、視線の先にいるハザマ。………さっぱり状況が理解出来ない。

 

 

 

「………えっと、ラグナ〜。状況の説明をお願いします。」

 

 

 

このまま一人で考えていても意味がない、と思ったイオは、ラグナに聞こえるくらいの声でそんな事を言ってみる。ラグナはそれに呆れたような顔をして振り返る。

 

 

 

「………あぁ、ようやく起きたか。寝過ぎだ、イオ。」

 

 

 

「あはは。これでも一応早く起きたつもりなんだけ……わぷっ!」

 

 

 

ラグナの呆れたような声に答えようとした言葉は、イオの事をぐいっと引っ張って抱き寄せたノエルによって中断される。………そう、ラグナに聞こえていたのなら、もっと近くにいたノエルに聞こえていない訳が無いのだ。

 

 

 

「………お姉ちゃん?本当にお姉ちゃん、だよね?」

 

 

 

ノエルは少しだけ不安そうに、確認するようにそんな事を聞いてくる。それは、まるでイオがイオじゃない、という答えを口にする、と思っているかの様で、イオはそんなノエルに首を傾げる。

 

 

 

「へ?どういう事?私は私だよ、ノエルちゃん。」

 

 

 

不思議そうな顔を作りながらそう返すと、ノエルは安心したような表情になる。………ますます訳が分からない。

 

 

 

「あぁ、あれだ。お前が寝てる間、さっきまでサヤの意識が少し出てたんだよ。んで、ノエルはそれがイオじゃないから、今まで心配してたって事だ。」

 

 

 

イオの心を読んだように、唯一正確に状況を理解出来ているラグナがそう説明してくる。イオはそれに、納得がいった、というような顔をしてから、ぽん、とノエルの頭に手を乗せる。

 

 

 

「………ごめんね?『サヤ』が出てくるのは私にも少し予想外だったけど、それでもいらない心配、かけちゃったよね。」

 

 

 

「………ううん。お姉ちゃんが無事なら、全然大丈夫。」

 

 

 

イオの言葉に、嬉しそうに笑ってそう返したノエルに、イオは笑い返すと、ノエルの頭に乗せていた手をゆっくりと滑らせる。ノエルはそれに、気持ち良さそうにゆっくりと目を細めて――――

 

 

 

「あの〜、そういうのは後にしてくれませんか?」

 

 

 

と、そこでハザマが声を掛けてくる。それにイオは一つ溜め息を吐くと、頭を滑らせていた手を止めて、ハザマを見上げる。

 

 

 

「駄目です。今やるのが大切なんです。というか少し空気を読んでください、ハザマさん。今のはテルミさんレベルですよ。」

 

 

 

「一応根本は同じなので、どう返していいのか判断に困るんですが………これでも、空気を読んだつもりなんですよ?それでも、あなたたちに任せてたら私が話す機会がゼロになってしまいそうだったので声を掛けてみたんですが。」

 

 

 

イオの言葉に、ハザマは呆れたような顔をしながらそんな事を言ってくる。それにイオはあはは、と笑うと、

 

 

 

「ハザマさんがなにをしたとか、これからなにをするとか、そんな事、ノエルちゃんと比べたらポイですよ?」

 

 

 

そんな事を大真面目に言い放つ。それにハザマは一瞬だけぽかんとしたような顔をすると、すぐに呆れたような、疲れたような顔になり、

 

 

 

「………前々から思っていたんですが。イオさん、あなたシスコンですよね?」

 

 

 

そんな事を言ってくる。

 

 

 

「あはは。今更気付いちゃったんですか?気付くのが遅いですよ?………まぁ、今は私が譲ってあげます。何を話していたんですか?」

 

 

 

「………はぁ……、あなたが居ると、いつもこっちのペースが乱されますね。………まぁいいです。とりあえず、タカマガハラを無力化した、という所までは話しましたね?」

 

 

 

そう言って、多少げんなりとしながらハザマは話を始める。タカマガハラシステムが、イオとミューが会ったとき、イオを観測出来るのではないか、と考え、一瞬だけ余所見をしたこと。その間に、ハザマがタカマガハラシステムを無力化させたこと。そして、『彼女』を目覚めさせたこと。

 

 

 

「全ての事象はここ!今あるここに収束したのです!」

 

 

 

ハザマが先程とは打って変わって、機嫌よくそう告げるのと同時に、イオとレイチェルは微かに空気が動くのを感じる。イオが両手に剣を出現させて振り返ると、そこにいたのは一人の少女だった。イオやノエルと同じ顔に、紫髪の少女は、その光の無い赤い目でその場にいる全員を見る。

 

 

 

「おっとぉ、これはこれは。こんな薄汚い場所までご足労いただき申し訳ありません、帝。」

 

 

 

「よい。これから始まる狂宴の観客達だ。余も一度は見ておこうと思ったまで。」

 

 

 

大袈裟に引き下がり、恭しく頭を下げたハザマを見ずに、少女――――帝はそう答える。その言葉に驚愕の声を上げたのは、ジン。

 

 

 

「奴が帝だと!?なぜ奴が統制機構の………」

 

 

 

「地に這いつくばる蟲どもよ………タカマガハラは既に余の掌中。全ての事象は確立され、『確率事象』は『確立事象』へとシフトした。永遠は終焉へ、世界はあるべき姿へと帰る。よく観測(み)ておくがよいぞ。新たな幕開けを………」

 

 

 

帝は叫ぶジンには目もくれず、朗々と、滑らかな抑揚で語る。そして、語り終えると満足したのか、その場にいた誰かが口を開く前に、ハザマと共に姿を消した。

 

 

 

その場にいた誰もが、たった今姿を消した、帝と名乗った少女の存在感に圧倒され、或いは不気味さを覚え、言葉を失っている。そんな中で、唯一その雰囲気に飲まれることの無いイオだけが、遠くを見つめるように視線を上に向け、

 

 

 

「………そっか。そういう事、なんだ。」

 

 

 

誰にも聞こえないように、そんな事を感情の無い声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

ノエルが元に戻り、帝が姿を現した日から数日。ノエルはマコトと、第七機関、という組織に所属している赤い肌の大男、テイガーと共に、魔操船乗り場へと来ていた。

 

 

 

「のえるん、急いで!」

 

 

 

「ごめんマコト!後ちょっとだけ待って!」

 

 

 

後五分だけだよ!という声を背に聞きながら、ノエルはくるりと向き直る。ノエルの視線の先にいたのは、獣兵衛とイオだ。

 

 

 

「獣兵衛さん、それにお姉ちゃんも、本当にありがとうございました。」

 

 

 

ノエルはそう言いながら頭を下げる。二人には、現状、ほとんど完全に統制機構の裏切り者となったノエルの、両親を安全な場所に匿ってもらっていたのだ。

 

 

 

「構わんさ、好きでやっていることだ。」

 

 

 

「そうそう、師匠の言う通りだよ。私も好きでやってるだけだから、ノエルちゃんは気にしなくていいの。」

 

 

 

ノエルの言葉に二人はそれぞれそう返す。………確かに、二人は師弟なのだ、ということがよく分かる程に態度がそっくりで、ついノエルはくすり、と笑ってしまう。

 

 

 

「二人とも………元気でしたか?」

 

 

 

少しだけ不安そうにそう聞いてきたノエルに、イオと獣兵衛は一度顔を見合わせると、笑い出す。

 

 

 

「あははは、ノエルちゃんにそっくりだったよ?………そうそう、伝言で、「統制機構をぶっ飛ばして来い」だって。」

 

 

 

「私はそんなに乱暴じゃないよ!」

 

 

 

イオの言葉に、ノエルは拗ねたようにそう返す。それでも、ノエルはイオがからかっている、というのが分かっているようで、怒っているようなその顔からも笑いが抜けていない。

 

 

 

「………とりあえず頑張れ、ノエル。これから先、苦難の道かも知れんが、乗り越えて見せろ、ご両親の為にもな。」

 

 

 

「あ、でも無茶はしちゃ駄目だよ?自分じゃ力が足りない、って思ったら、私とか、マコトさんとか、最悪ラグナでもいいから、遠慮無く周りを頼って。ノエルちゃんは、一人じゃないから。」

 

 

 

「………うぐ、あい、頑張ります。」

 

 

 

獣兵衛とイオの言葉に、ノエルは言葉を詰まらせながらそう返す。………どうやら、少しだけ図星だった部分があるらしい。

 

 

 

「ノエル〜、時間だよ〜!」

 

 

 

「あ、はーい!………獣兵衛さん、お姉ちゃん、最後に、ツバキと少佐は?」

 

 

 

「すまんな、あの二人の行方は俺にも分からん。」

 

 

 

「ごめんね、私もなんだ。」

 

 

 

獣兵衛とイオはそれぞれそう答える。しかし、その答えはどちらも、半分は嘘だ。獣兵衛はジンの居場所は知っているし、イオも大まかにならツバキの居場所を特定出来る。………しかし、ノエルにそれを言う訳にはいかない。ジンはともかくとして、ツバキの現状を話したら、ノエルが暴走しだすのは火を見るよりも明らかだからだ。

 

 

 

「そうですか、でも、あの二人なら平気ですよね!では、獣兵衛さん、お姉ちゃん、お元気で!」

 

 

 

ノエルは一瞬だけ残念そうにした後、すぐに立ち直るとそう言って走って魔操船に乗り込む。それを見送ってしばらくしてから、イオは獣兵衛に向き直る。

 

 

 

「それじゃあ、私も行きますね。」

 

 

 

「ああ。………ところで、イオ。どうしてノエル達の魔操船に一緒に乗って行かなかったんだ?目的地は一緒だろう?」

 

 

 

獣兵衛はそんな事をイオに問いかける。確かに、ノエル達と同じ魔操船に乗って、目的地――――イカルガ連邦に行った方が、安全で確実だとは思う。何より、道に迷う心配が無いので、イオにとってはかなり魅力的な提案だった。しかし、それでも乗らなかった理由は、

 

 

 

「………久しぶりに、少しだけ教会に行ってみようかな、って。セリカちゃんのお墓参りもしたいと思いますから。」

 

 

 

あはは、と笑いながらイオはそう答える。悲しい、という表情は作らない。作れない、ということはないが、悲しい、という感情はイオには分からないし、今は表情だけを作る意味も無い。

 

 

 

「………そうか。そうだな。行ってやるといい。そっちの方が、シスターも喜ぶだろう。」

 

 

 

イオの言葉に少しだけ目を伏せた獣兵衛はすぐに目を上げてイオ見てから少しだけ笑って、そんな事を言ってくる。それにイオは笑い返すと、くるりと獣兵衛に背を向けて、

 

 

 

「………さて、と。とりあえず、お墓参りをしに教会に行ってから、イカルガだね。………迷わないで行けるかな?」

 

 

 

そんな、イオを知ってる者が聞いたらかなり不安になるような事を呟きながら、歩き始めた。


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