BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第48話

第48話

 

 

 

「大丈夫ですか?傷、痛みませんか?」

 

 

 

穏やかに晴れた日の昼下がり。カカ族の村の出口………というよりも前に上層へ行く時に使った地下水路に近い、広いスペースで、ノエルは心配そうにラグナを覗き込む。

 

 

 

「だから、大丈夫だっての。腹の傷も塞がって、痛みも殆ど無い。起き上がれるんだから、体を動かしておかねぇと今度はなまって動けなくなっちまうだろうが。」

 

 

 

「それは………そうですけど、でも………。」

 

 

 

ラグナの言葉に、ノエルは言葉を詰まらせながら、それでも心配そうにラグナを見る。ラグナの言っている事の理屈は分かっているのだが、つい数日前まで意識不明の状態だったのだ、心配するな、という方が難しいだろう。

 

 

 

「あーはいはい、分かった分かった。無理なんざしねぇよ。ったく、口うるせぇな。」

 

 

 

「口うるさいって、私はラグナさんを心配してですねぇ!」

 

 

 

ラグナの呆れたような言葉に、ノエルは怒ったように反論する。心配している筈なのに、口うるさいとまで言われるのは流石に我慢出来ない。

 

 

 

「………えっと、何で怒ってるの?ノエルちゃん。」

 

 

「うおぁっ!?………何だよ、イオか。驚かすなよ。」

 

 

 

後ろから突然聞こえてきた声に過剰に反応したラグナは、後ろを振り向いて声の主を確認する。そのまま、安心するように一つ息を吐いてから、声の主――――イオを睨んで言葉を放った。

 

 

 

「あははは。や〜だよ!ラグナを驚かせるためにわざわざ気配まで消して近付いたんだからね。」

 

 

 

ラグナの言葉にイオは悪戯っぽく笑いながらそう答える。それを聞いたラグナの額には青筋が浮かび上がるが、イオは全く気にする様子がない。

 

 

 

「ほうほう、成る程な。なら、何で驚かせようと思った?」

 

 

 

ギリギリの所で怒りを抑えながら言ったラグナの言葉に、イオは当たり前だろう、と言わんばかりの顔になる。そしてそのまま、

 

 

 

「もちろん、そっちの方が面白そうだからだよ?」

 

 

 

何て言う、ふざけたことを当たり前のように言ってくる。………ラグナの頭の何処かで、何かが切れるような音がした。

 

 

 

「そうかそうか、面白そうだからか。………『デッドスパイク』!」

 

 

 

「へ?って、わわわっ!」

 

 

 

うんうんと頷いていたラグナは、突然腰に提げていた剣を振り上げる。それと同時に、剣が纏っていた黒い炎のような影は獣の顔を作り出し、イオに食らい付こうとする。イオはそれに一瞬だけ驚いたような表情をした後、一跳びで獣の口から逃れた。

 

 

 

「あははは………こんなにはやく怒るのは予想外だったなぁ。」

 

 

 

「ら、ラグナさん!危ないですよ!お姉ちゃんが怪我するかもしれなかったんですよ!?それにお姉ちゃんも!あんなこと言われたら誰でも怒るよ!」

 

 

 

笑いながらしまった、というように頬を掻いているイオと、多少ストレスが解消されたようで、半ば何か不満そうな表情をしているラグナ。ノエルはそんな二人に怒ったような口調で注意する。

 

 

 

「あいつにはあれくらいやんねぇとツッコミにもなんねぇんだよ。その証拠に、さっきのだって普通に避けてただろうが。」

 

 

 

「あはは。まぁ、私もちょっとやり過ぎたかな〜、何て思ってたんだ。………ごめんね、ラグナ。」

 

 

 

頭を掻きながら当たり前のように答えて見せるラグナの言葉を、イオは否定しないままラグナに向かって頭を下げる。ラグナはそれに「別に謝んなくてもいい。」とだけ言って許した。そもそも、あまりにふざけたことを言ったために苛ついてしまっただけで、あそこまでやる必要は無い、と思っていたのだ。この上謝られたら、居心地が悪くなる。

 

 

 

「………そう言えば、お姉ちゃん。今日の朝何か用事があるって言ってたよね?何やってたの?」

 

 

 

そこで、イオとラグナの顔を交互に見ていたノエルが、思い出したようにそんな事を聞いてくる。イオは朝に、少し用事がある、と言ってノエルと別れたのだ。当然ノエルはイオがやっていたことは知らず、何をやっていたのか気になったのだ。

 

 

 

「あ、そうそう、ちょっと情報収集をしててね。それで、ラグナとノエルちゃんにいくつか伝えなきゃいけない事があるんだ。………とりあえず、はい。ノエルちゃん。マコトさんからだよ。」

 

 

 

イオはそう言ってノエルに取り出したメモを渡す。ノエルがそれを開くと、そこにはノエルの親友、マコトからのメッセージが書かれていた。オリエントタウンでハザマらしき人物が目撃されており、合流場所を統制機構支部の裏手に変える、というものだ。

 

 

 

「そこに行くなら、早く行って悪いことは無いと思うよ?………もし遅れちゃったりしたら、テルミさん………じゃなくて今はハザマさんかな?ハザマさんに見つかっちゃうかもしれないから。ハザマさんの狙いはノエルちゃんだからね。絶対に見つからない方がいいよ。」

 

 

 

「おい………イオ。どういう事だ?あの野郎が、テルミがこいつ………ノエルを狙ってる?」

 

 

 

イオの言葉にラグナは訳が分からない、と言ったように聞き返す。テルミが何故ノエルを狙っているのか、心当たりが全く無い。

 

 

 

「ノエルちゃんが『蒼の継承者』だからだよ。」

 

 

 

「蒼………?」

 

 

 

「ウサギの奴も言ってたが、その『蒼の継承者』ってのは何だ?」

 

 

 

イオの簡潔な答えにラグナとノエルは疑問の声を上げる。イオの答えはあまりにも短く、二人には理解出来ないものだったからだ。流石に説明が無さすぎると思ったのか、イオは少しだけ考えるような表情をする。

 

 

 

「………こう言えば良いかな?ノエルちゃんは統制機構支部でラグナを助けたあの日に、少しだけ神様の力を手に入れたんだ。………全部ハザマさんの予定通りみたいだったけどね。だから、ハザマさんはノエルちゃんを狙ってるんだよ。」

 

 

 

「どうして………?私は、私………どうして私なんかを?」

 

 

 

イオの言葉に、ノエルは呆然としたように、信じられないように疑問を投げ掛けてくる。何故ハザマがノエルにその神の力とやらを持たせようとしたのかが分からない。

 

 

 

「………本当に、聞きたい?」

 

 

 

「………え?」

 

 

 

答えないと思っていた。そもそも、一人だと思って言った筈なのだ。なのに、イオから返ってきた言葉は予想外の一言、確認だった。そういえば、とノエルは思い出す。前にも確か、同じような言葉を聞いたような………。

 

 

 

「前の続きになるけど、現実は辛いし、逃げたとしても誰にも責める権利は無いんだよ?………でも、それでも聞きたいなら、その権利はノエルちゃんだけのものだから。」

 

 

 

………思い出した。これは、オリエントタウンでされたイオからの質問だ。ノエルがした、自分が何者なのか、という質問に対して返した、イオの質問。………つまり、先程のノエルの問いかけには、ノエルが何者なのか、という答えも入っている、という事だ。

 

 

 

「………うん、知りたい。お姉ちゃんがそこまで言うなら、辛い事なんだろうけど。………心の準備はまだ出来てないかもしれないけど。それでも、聞きたい。お姉ちゃん。私は………誰なの?」

 

 

 

その不安だらけの、しかし、決意の宿った瞳に、イオは少し笑って、やっぱり強いなぁ、何てことを思う。そう、彼女は強いのだ。少なくとも、逃げた自分とは比較出来ないほどに。

 

 

 

「うん、分かった。じゃあそうだなぁ………ノエルちゃん、私と顔が同じ理由、何だか分かる?」

 

 

 

「うーん、と、分からない、かな?」

 

 

 

イオの問いかけに、不思議そうに首を傾げながらノエルはそう返す。イオはそれに頷くと、

 

 

 

「そうだね。分からないのが当然だよ。それじゃあ、ヒント。私の正式名称は『次元境界接触用素体No.9、Ι(イオタ)』って言うんだ。まぁ、簡単な話がクローンだね。そこにいるラグナの妹、サヤって子をモデルに造られた、魔素で体の構成された人形――――って、研究者の人達とか、テルミさんとかは言ってたなぁ。」

 

 

 

なんてとんでもない事を軽い口調で告げる。まるで、少しでも気負わせないように、重く受け止めないように。

 

 

 

「え………あ、じゃあ、私、私も………?」

 

 

 

「うん、そうだね。ノエルちゃんも、クローンだよ。ラグナの妹がモデルのクローン。………ハザマさんがノエルちゃんを狙ってるのも、ハザマさんの都合よく造られた『次元境界接触用素体(わたしたち)』に神様の力が少しとはいえ宿る事で、ハザマさんのやりたい事が出来るようになるからだと思う。」

 

 

 

何かに気付いた様な顔のノエルに、イオはそう言葉を返す。

 

 

 

「私、私は、私………違う、そうじゃなくて………分からない、分からない分からない分からない分からない!ああ、あぁあああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

ノエルは呆然としたように要領を得ない言葉を呟いていく。最後にそれは叫び声へと変化して、何処かへと駆け出して行った。

 

 

 

「………やっぱり、少し厳しかったかな?」

 

 

 

イオは姿を消したノエルの走って行った方向を見ながらそう呟く。その顔からは表情が見てとれない。

 

 

 

「………追わねぇのか?」

 

 

 

ラグナがそんな事を聞く。イオならすぐに追いかけるだろう、と思っていたのだ。

 

 

 

「追いかけるよ。でも、一つだけ。ラグナ、テルミさんと戦う時は気を付けて。理論上は、ラグナが絶対に勝てない相手だから。」

 

 

 

「………つまり、テルミと戦うな、って事か?」

 

 

 

イオの言葉に、怒りを抑えながらラグナは返す。しかし、ラグナの言葉にイオは首を横に振った。

 

 

 

「ううん。真実を知る権利がノエルちゃんにあったみたいに、ラグナにはテルミさんと戦う自由があるんだよ?だから、注意したんだ。テルミさんと戦うなら気を付けて、『蒼の魔導書』を過信しないでね。………そろそろ私は行くよ。ノエルちゃん、追いかけなくちゃ。」

 

 

 

イオはそう言ってたんたんたんっ、と三歩ほど歩を進めた所で一気にスピードを上げる。そのまま、数える間もなく、ラグナの視界からその姿を消した。




第48話投稿



………何だかんだで遅れました。ちょっとだけ思いつかなかっただけなんです。本当に。

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