BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第34話投稿。



イオは気配察知能力だけで言うなら、今のメンバーの誰よりも高いです。不意打ちはまず不可能ですね。


第34話

第34話

 

 

 

「………月、綺麗だな〜。師匠達と修行してた時も、ここまで綺麗な月は見たこと無かったのに。」

 

 

 

月が高く昇る頃。カカ族の村から離れた森の中の特に背の高い木。イオはその木の太い枝に腰掛けながら、空を見てそんなことを呟く。眠れない訳でも、悩む様な事があるわけでもない。ただ純粋に、こうして月を見上げるのを、ラグナ達との修行をしていた時から気に入っていたのだ。

 

 

 

「………そう言えば、ハクメンさんが向こうに行ったみたいだけど、何しに行ったのかな?」

 

 

 

イオは思い出した様に呟く。イオがこの木に登って少ししてから、ハクメンが森の奥へと進んでいったのが見えたのだ。さすがのハクメンも、木の枝、それもかなり高いところにイオが居たのには気付かなかったらしい。

 

 

 

「………ん?」

 

 

 

下の方からしてきた足音に、イオはその視線を下に向けた。そこに二つの人影が見える。それが誰なのか確認したイオは、思わず溜め息を吐いた。

 

 

 

「セリカちゃん………何で此処に居るのかな?」

 

 

 

イオの見つけた人影――――セリカはニルヴァーナを連れ、森の奥へと入っていく。セリカが進んでいるのは先程ハクメンが向かって行った方向で、かなり不安定な岩場、というよりも瓦礫の山があった筈だ。

 

 

 

「………うん、さすがに見逃せないかな。」

 

 

 

イオは少し考えた後、そう口にする。ハクメンの時は、万が一にも怪我なんてしないだろうと考え、無視していたが、セリカは例えニルヴァーナが付いていてもそうはいかない。そう考えたイオは座っていた枝からひょいと飛び降りると、周りの木の枝を足場にして落下速度を落とし、最後に木の幹を蹴ってセリカの前に着地した。

 

 

 

「ひゃ!………へ?イオちゃん。何で此処に?」

 

 

 

「それはこっちの台詞だよ。何処に行くのかな?セリカちゃん。そっちには岩場しかないよ?」

 

 

 

突然目の前に着地した黒い何かにセリカは目を丸くさせて驚くがそれがイオだと言うことに気付きほっとしたような顔になるが、すぐにその顔が怒った様な表情になっているのに気付き、気まずそうに目を逸らす。

 

 

 

「え、えっと、それは………」

 

 

 

「………あははは。なんてね。さ、行こっか。この先に行きたいんでしょ?」

 

 

 

「………へ?」

 

 

 

セリカの困ったような表情を見たイオは、怒ったような表情を一転させて笑顔に変えると、セリカにそう言う。セリカはしばらく固まっていたが、イオがからかっていた、と理解すると、安心したように顔を緩ませる。

 

 

 

「うん。行こ、イオちゃん、ニルヴァーナ。………ところで、何でイオちゃんは上から落ちてきたの?」

 

 

 

「ん?それはね、あの木のあそこの枝に座って月を見てたんだ。ラグナ達と修行してた時からの、趣味みたいなものかな?」

 

 

 

セリカの問いかけにイオはそう答えて進んでいく。セリカは、イオの後を付いていく様にして、森の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

「よい………しょっと。大丈夫?セリカちゃん。」

 

 

 

森の奥にある岩場の様にも見える瓦礫の山。イオは、その上にひょいと軽く飛び乗ると、下にいたセリカに手を伸ばし、引っ張りあげる。

 

 

 

「ありがとう、イオちゃん。私は大丈夫。………あ、でも、ハクメンさんが居るんじゃ………。」

 

 

 

「あははは。大丈夫だよ。私はともかく、セリカちゃんは此処に上がる前に居ることがばれてたから。ほら。」

 

 

 

引き上げられたセリカは、イオに礼を言うと、気が付いた事を聞く。それに笑いながら答えたイオの言葉に、セリカが顔を上げると、ハクメンがセリカ達の方を向いて立っているのが見えた。

 

 

 

「あ、あはは。見つかっちゃった。」

 

 

 

セリカは悪戯が見つかった子供の様な顔で笑う。

 

 

 

「………何か用か?」

 

 

 

「私は、セリカちゃんが森の奥に入っていくのが見えたから、一応怪我をさせないように、って付いてきたんです。何でセリカちゃんが此処に来たのかは分かりませんけど。セリカちゃん、どうして?」

 

 

 

「用って言うか………変な夢を見て目が覚めちゃって。眠れないからお散歩してたら、ハクメンさんを見かけて「私を見かけた、と。」………本当は、何となく。……居るような気がして。」

 

 

 

ハクメンの問いかけにセリカが咄嗟に思い付いたような答えを返すと、ハクメンが敢えて言葉を拾う。セリカは、それで嘘は効かない、と分かったのか、本当の事を告げる。ハクメンは、それに暫く考えた後、

 

 

 

「貴様が逢いたがって居る男は、本当にラグナ=ザ=ブラッドエッジなのか?」

 

 

そう尋ねた。それに、セリカは困ったような顔をすると、イオの方を向く。

 

 

 

「そう聞かれても………正直、分かんないよ。私、ラグナのちゃんとした名前、聞かなかったから。どうなの?イオちゃん。」

 

 

 

「あははは。ハクメンさんの言う通り、ラグナ=ザ=ブラッドエッジで間違いないよ。………ハクメンさんの言うラグナとは違う人だけどね。」

 

 

 

「………何で声、そんなに小さいの?」

 

 

 

イオの方を向いてセリカがした質問に、イオは笑いながら小さな声でそう答える。セリカは、イオの声が、セリカとハクメンにしか届かない程度の大きさしかないのに疑問を持ち、イオにそれを聞いた。

 

 

 

「だって、これは誰にも知られない方が良いでしょ?ラグナは、「未来」の人だからね。」

 

 

 

小さい声のままイオが言った言葉に、セリカは納得したような顔をする。ハクメンも理解しているらしく、疑問を返す事はなかった。

 

 

 

「それにしても、月、綺麗だね。………うん。今日は見に来た甲斐があったな。」

 

 

 

「そうだね。空気も何だか澄んでるし、気持ちいいなぁ。」

 

 

 

「そう………だな。」

 

 

 

セリカの何気ない言葉に、ハクメンは意識を鋭くさせる。セリカの言った通り、此処は空気が澄みすぎている。あり得ないほどに。ハクメンは、その原因を探ろうとして、辺りに視線を巡らせて、

 

 

 

「ふぇっくしっ!」

 

 

 

セリカのくしゃみに思考を遮られた。

 

 

 

「セリカちゃん。病み上がりなんだから、そろそろ帰ろ?風邪なんか引いたら、ナインさんに夜に外を歩いてたこと、ばれちゃうよ?」

 

 

 

「うん、分かったよ、イオちゃん。ハクメンさんは?」

 

 

 

多少無理をしているのに自覚があったのだろう、イオに帰る事を促されたセリカは素直に返事をすると、ハクメンに聞く。

 

 

 

「私はもう暫く此処に居る。」

 

 

 

「そっか、じゃあ、おやすみなさい。また明日ね。」

 

 

 

ハクメンの答えにセリカは素直に頷くと、イオと共に森の方へと戻って行き、すぐにその影は森の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

「………結局、セリカちゃんが居なくなるまで隠れてたね。テルミさん。」

 

 

 

「へ?テルミさん、居たの?何だ、言ってくれれば良かったのに。」

 

 

 

森の中をカカ族の村の方へと歩きながら、イオは独り言の様に呟く。その言葉を聞いたセリカは、驚いた後残念そうな表情でそう言った。どうやらテルミとも話がしたかったらしい。

 

 

 

「あははは。テルミさん、セリカちゃんが居なくなるまであそこに居るみたいだったからね。テルミさんはセリカちゃんに苦手意識があるんじゃないかな?」

 

 

 

イオが笑いながら答えると、セリカは思い当たる事があるのか納得したような表情になるが、すぐに不思議そうな表情になる。

 

 

 

「そう言えばテルミさん、私が近くに行こうとするとすぐに離れちゃうんだ。どうして何だろ?」

 

 

 

イオは、セリカの疑問に考える様な仕草をする。少しして、何か思い付く事があったのか、俯かせていた顔を上げた。

 

 

 

「………テルミさんの体のせい、かな?」

 

 

 

「体?」

 

 

 

イオの言葉に、セリカは不思議そうに聞き返す。どうしてテルミの体の話が出てきたのか、まるで分からなかった。

 

 

 

「うん。テルミさんの体は、普通の人と違うんだよ。肉体全部が魔素で出来てて、テルミさんの本体は別にあるからね。きっと、セリカちゃんの魔素の動きを抑制する力が、テルミさんには嫌なものなのかもしれないね。」

 

 

 

イオの答えは推測の域を出ないもので、イオ自身、それが全て本当の事だとは思っていない。しかし、全くの間違い、ということは無いだろうとイオは思っている。テルミの肉体が魔素で造られている以上、セリカの魔素の動きを抑制する力が働かない事は無い筈だからだ。

 

 

 

「そうなんだ。………あれ?どうしてイオちゃんはそんなことを知ってるの?」

 

 

 

イオの答えにセリカは一瞬だけ納得したような顔をする。しかし、すぐにそれは疑問に変わった。そんなこと、テルミ以外に知っている人は居ないだろう。それを何故イオが知っていたのか、分からなかったのだ。

 

 

 

「私も同じだから、かな。前に、私がクローンみたいなものだ、って言ったでしょ?私は魔素で造られたクローンみたいなものだからね。大体はテルミさんと同じ。だから、分かったんだ。」

 

 

 

イオは何の躊躇いも無しにそう答える。それは、その事を特に気にもしていない、ということだ。それを感じ取ったセリカは、出来るだけ先程と同じ口調を意識して話す。

 

 

 

「うん、そっか。………あれ?じゃあイオちゃんも私に近付かれると、嫌な感じがするの?」

 

 

 

セリカは頷いた後、純粋な疑問を投げ掛ける。イオの話が正しいなら、イオもそうなるだろう。しかし、イオはその問いに対し、首を横に振った。

 

 

 

「ううん。そんなことは無いよ。このコートのお陰だね。このコート、私の害になるものは全部弾いてくれるから。………本当は、もう一つ理由があるんだけど、そっちは言えないかな。」

 

 

 

「言えないって、どうして?」

 

 

 

「まだ、誰にも知られちゃいけない事だからね。何時かは話せるかもしれないけど、今は無理だよ。………っと、村に着いたみたいだね。じゃあ、質問タイムは終わりかな。」

 

 

 

質問に答えたイオは、カカ族の村に着いたことに気付くと、セリカとの会話を切り上げる。セリカも、もう聞きたいことは無いらしく、一つ頷くと歩いていくイオとは別の方向にある、自分とナインの寝室に、と借りた小屋に向かっていく。

 

 

 

「おやすみ、イオちゃん。」

 

 

 

「うん、おやすみ、セリカちゃん。」

 

 

 

最後にそう言葉を交わし、イオとセリカは別れていった。


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