BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第24話

第24話

 

 

 

「………あそこよ。」

 

 

 

目的地まで一切の迷いなしに歩を進めていたナインは立ち止まると、そう言いながら第一区画、と呼ばれる場所の、クレーターの一部を指差す。そこには小型の飛行機程度なら入り込めそうな巨大な金属の扉が地中へ向けて取り残されていた。

 

 

 

「………あれ?おかしいですね〜。」

 

 

 

「どうしたの?トリニティさん。」

 

 

 

短い言葉を唱えて防護魔法を展開させた後、首を傾げたトリニティにセリカは問いかける。トリニティは首を傾げたまま、

 

 

 

「イオさんにだけ〜、防護魔法がかからないんです〜。」

 

 

 

と、そう答えた。イオはそれに一瞬不思議そうな顔をするが、すぐに納得したような顔になる。

 

 

 

「あははは。トリニティさんすみません。言い忘れてました。私の着てるコート、ある程度以下の強さの魔法、全部無効化しちゃうんです。」

 

 

 

「え?でも〜、それじゃあ、イオさんは先に進めませんよ〜?」

 

 

 

「それも大丈夫です。これ、そういう体に悪いものも消してくれますから。」

 

 

 

「………それ、便利過ぎんだろ。」

 

 

 

イオの話を聞いたラグナは、イオの着ているコートの便利さを聞いてつい、思った事を口にする。どうやらそれはイオも思っていた事らしく、笑いながら頷いていた。

 

 

 

「まぁ、さっきみたいに援護魔法みたいなのまで消しちゃうから、そこは不便ではあるんだけど、やっぱり便利だよ。これ。」

 

 

 

「………そんなこと、今はいいわ。行きましょう。」

 

 

 

話が可笑しな方向に進みそうになった所で、ナインが声を掛けて先に進むように促す。ナインとしては、こんな所から一刻も速くセリカを連れ出したいのだろう。それをナインから感じ取ったイオ達は、話を止めてナインの言う通り扉の方へ行くと、巨大な扉の脇にあった並みの規模の扉をこじ開け、中に入った。

 

 

 

「………すごい深さ……。」

 

 

 

入口から少し進んだところにある網目のフェンスを覗き込んだセリカはそう呟く。そこにあるのは、巨大な穴だ。フェンスがなければ、目眩で身を投じてしまいそうになるほどの、巨大な穴。その穴を囲む様に、廊下がいくつも見えている。

 

 

「それにしても、驚くわ。この施設、科学技術だけじゃなくて、錬金術も使われてる。魔法と科学の融合ってやつね。こんなことができるなら、もっと別の分野に生かせば良いのに。」

 

 

 

ナインは興味深そうに廊下の壁に刻まれている奇妙な紋様を撫でる。トリニティがラグナとイオに教えた所によると、ナインは科学と魔法の融合についての研究もしているらしい。それを聞いたラグナは、興味無さそうに辺りを眺める。

 

 

 

「魔法と科学、ねぇ。俺にはいちいち二つを区切って考える理由がよくわかんねぇんだがな。」

 

 

 

「あははは、私も。」

 

 

 

ラグナの言葉に、イオも同意する。イオにとってもラグナにとっても、魔法と科学は殆ど変わらないものなのだ。それに、ナインは足を止めて振り返る。

 

 

 

「そこの馬鹿はともかく、イオまで………まぁ、世界中のお偉い方々が、あんたたちみたいにおめでたい頭をしていたら良かったんだけど。」

 

 

 

「テメェ………。」

 

 

 

「そこは勘弁してください。さっきの剣も、科学と魔法の融合みたいなものなんです。私は、そっちに触れる時間の方が長かったんですよ。」

 

 

 

ナインの言葉に、ラグナとイオはそれぞれに返答を返す。ナインは、イオの言葉に疑問を覚え、それを問おうとするが、

 

 

 

「へ?セリカちゃん、ストップ、ストップ!」

 

 

 

そう言ったイオにつられて後ろを振り向く。セリカは、突然どこかへと走り出していた。こんな所で迷子になられでもしたら、見つけ出すのは不可能だ。そう判断したナインは質問を諦めてすぐにセリカを追いかける。

 

 

 

「ねぇ、これまだ動くみたい!」

 

 

 

しかしセリカは、ナインの予想に反して数メートル進んだところで止まると、大きく手招きをしながらそう言った。そこにあるのは、一機のエレベーターだった。多少傷んではいるようだったが、確かにまだ動くようだ。

 

 

 

「………そうね。ちまちま下りるより、これで一気に降りた方が速いかもしれないわ。」

 

 

 

ナインはそう言ってエレベーターに乗り込む。他の誰もそれに異論は無かったため、何も言わずにナインの後を追って乗り込んだ。

 

 

 

「父さん、いるかな?」

 

 

 

「………それを確かめに来たんだろ?」

 

 

 

不安そうに言ったセリカにラグナはそう返す。それに頷いたセリカだったが、それでも不安そうな表情は消えない。ラグナは、そんなセリカを励まそうと思ったのか、ゆっくりとセリカの方へと手を伸ばし、

 

 

 

「…………な!」

 

 

 

次の瞬間、突然大きな揺れを伴って止まったエレベーターに、伸ばそうとしていた手を止めて辺りを見回した。

 

 

 

「な、なによいきなり!?」

 

 

 

ナインの叫びをかき消すように、エレベーターが再び揺れる。その感覚を、イオは知っていた。というよりも、ここに来る前、カグツチで同じ感覚を体験したことがある。

 

 

 

「――――外に出ましょう!このままじゃあ、落ちます!」

 

 

 

そう言いながらイオは剣を出現させ、エレベーターの扉を切りつける。そのまま扉を蹴ると、扉は巨大な縦穴へと落ちていった。その衝撃でぎしりと軋んだエレベーターは、長くはもたないだろう。しかし、幸運な事にエレベーターの天井から三分の一位の場所に、床が見えていた。

 

 

 

「あそこに上がれ!」

 

 

 

ラグナがそう叫ぶのと同時に、ナインは跳び上がり、隙間に体を滑り込ませると、向こうから手を出す。ラグナとイオはその手にトリニティとセリカを抱えさせ、引き上げさせた。

 

 

 

「………あ。」

 

 

 

しかし、そこが限界だったらしく、バキリ、という音と共にエレベーターが落下を始める。

 

 

 

「………ラグナ!」

 

 

 

「あ?イオ、お前、何して………うおぁ!」

 

 

 

イオはラグナの手を掴むと、勢いをつけて投げ飛ばす。ラグナは叫び声を上げながら、セリカ達のいる床のすぐ下に剣を突き刺す。それを確認したイオはエレベーターの床を蹴ろうとして、

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

突然くるん、と九十度回転したエレベーターに足を取られ、体制を崩す。更に、エレベーターの入り口が下を向くように回転してしまったため、脱出しようにも脱出できない。

 

 

 

(ああ、しまったなぁ。)

 

 

 

イオはそんなことを思いながら、遠くから聞こえてくる自分を呼ぶ声をぼんやりと聞きつつ、ゆっくりと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

「………いたたた。ちょっとぶつけちゃった。」

 

 

 

エレベーターと共に最下層まで落下したイオは、自分の頭を軽く撫でながらぼやく様にそう言った。イオは地面に落ちる前に、自らの周りに黒い膜を展開していた。カグツチの昇降装置が落ちる時にも使ったものだ。それにより、怪我事態はなかったが、落下の衝撃で頭を黒い膜にぶつけていたのだ。

 

 

 

「やっぱり、カグツチの昇降装置の衝撃の無さは、防護の術式が………ん?」

 

 

 

カグツチの時との違いを考えていたイオは、ふと上を向く。何か、声が聞こえたような気がしたのだ。少しの間上を向いていても、何も見えてこない。

 

 

 

「はぁ、勘違いかな?まぁ、上から声なんて聞こえてくるはずが………きゃあっ!!」

 

 

 

勘違いだと思って視線を下ろしたイオは、それなりの質量を持つ何かによって押し潰される。一瞬飛びかけた意識を繋ぎ止めたイオは自分の上に落ちてきたそれに意識を向けようとして、イオの額をかすって地面に突き刺さった剣によって、何が落ちてきたのか理解する。

 

 

 

「っち………とんだ貧乏くじだ。」

 

 

 

「………ラグナで貧乏くじなら、それに押し潰されてる私は何になるんだろ?」

 

 

 

「は?………ってそんな所にいたのか!?」

 

 

 

「うん、居たよ。………それより、そろそろ退いてラグナ。結構重い。」

 

 

 

イオがそう言うと、ラグナは素直に避ける。イオは立ち上がってパンパンとコートについた埃や砂を手で叩いて落とした。ラグナはあちこちに視線をさ迷わせていたが、ある一角で視線を止める。

 

 

 

「っ、う……あ………ぐ、うぁ、あ、あぁぁぁ!!」

 

 

 

「ラグナ!?」

 

 

 

突然叫び声を上げるラグナに、イオは声をかけるが、ラグナの視線の先を見て納得する。そこにあったのは、「窯」だ。それを見たラグナは絶叫を上げ始めた。それはつまり、

 

 

 

「………記憶は戻った?ラグナ。」

 

 

 

そう言う事だ。忘れていた記憶が頭の中に一気に戻って来たのだ。絶叫の止まったラグナは、イオの問い掛けに頷いた。

 

 

 

そして次の瞬間、急激に空気が凍り付いた。イオはその感覚が、誰が放っているものなのかを知っている。それならば、ラグナに会わせるわけには行かない。そう判断して、近くの物陰にラグナを隠す。そのまま、入ってきた人物の方を向くと、

 

 

 

「また会いましたね、ハクメンさん。」

 

 

 

白い鬼人、ハクメンに向かって笑いかけた。


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