BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第20話

第20話

 

 

 

「………ラグナ、これ、どうすればいいと思う?」

 

 

 

イオは少しだけ困った様な表情を浮かべながらラグナにそう言った。理由は簡単だ。ミツヨシの目的が自分の父、シュウイチロウ=アヤツキを連れ戻す事だと知ったセリカが、ミツヨシに着いて行く、と言い出したのだ。勿論ミツヨシはそれに反対している。イオとしては、ミツヨシの言い分は正しいと思っているが、それと同時に、セリカを連れて行った方がミツヨシ的にも楽ではないか、と思ったし、セリカの熱意を無視するのはどうかと思ったため、ラグナに聞いたのだ。ラグナはそれを察したのか、一つ溜め息をつくと、

 

 

 

「いいじゃねぇか、連れていってやったら。」

 

 

 

と、そう言った。その言葉にミツヨシはただでさえ渋くさせていた顔を更にを渋くさせる。

 

 

 

「あのな、お前まで…………!」

 

 

 

「どの道邪魔してくんなら近くに置いておいた方が面倒も少ないし、セリカは治癒魔法の使い手だからな。旅の同行者としちゃ、申し分ない。」

 

 

 

「簡単に言うな!第一、危険だ!」

 

 

 

「だったら尚更だ。お目付け役として、俺とイオもついてってやるよ。俺一人じゃいざって時、セリカを抱えて逃げるくらいしか出来ねぇが、イオがいればまず大丈夫だろ。俺よりずっと強ぇからな。」

 

 

 

「へ?………あ、うん。そういう事で、いいですか?ミツヨシさん。」

 

 

 

イオは、突然「自分よりずっと強い」と言い出したラグナに少し驚きながらもミツヨシに確認する。それを聞いたミツヨシは、諦めた様な顔で額に手をやる。

 

 

 

「………まったく、お前達は…………俺は相当厄介な奴等を拾ったらしい。」

 

 

 

「それじゃあ…………」

 

 

 

「あぁ、分かった。連れていってやる。」

 

 

 

そう渋い表情のままミツヨシが言うと、セリカは顔を輝かせる。

 

 

 

「ありがとうございます!ミツヨシさん!ラグナにイオちゃんも!」

 

 

 

未だに渋い表情をしているミツヨシと、明るい表情を見せるセリカ。そんな二人を見ながら、ラグナ達は再び廃村を出発した。

 

 

 

そして数時間後、ラグナ達は無事、遭難すること無く港町に辿り着く事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

翌朝。港の隅に停泊していたこぢんまりとした船は時間通りに目的地――――日本に辿り着いた。

 

 

 

「ちょっと待っていてくれ。話をつけてくる。」

 

 

 

港に着いたミツヨシはそう言うと、近くにいた軍人に声を掛けて、どこかへ去っていく。しばらくして一人の男を連れて戻ってきたミツヨシは、徐行するトラックを指差すと、

 

 

 

「近くまで、こいつで送ってくれるらしい。」

 

 

 

と言った。事も無げに隣の男を港町の責任者だと言ったミツヨシを見て、セリカは、

 

 

 

「…………ミツヨシさんって、何者?」

 

 

 

と、思わず呟いた。ミツヨシは、それに、妙に格好つけた様な笑みを浮かべて、

 

 

 

「そいつぁ、教えられないな。」

 

 

 

と、そう答えたのだった。

 

 

数十分後、ラグナ達は、崩壊した都市の中を歩いていた。崩壊した都市はみる影もなく、ただ荒廃した大地にビルが突き刺さる様に生えているだけに見える。そこには軍の施設も政府の施設もなく、何処までも静かなだけの大地が広がっている。

 

 

 

「…………ここだ。」

 

 

 

ミツヨシはそう言いながら廃墟の外れの方で止まった。そこは、周りの建物と比べるといくらか広く、何かの研究施設であった事が分かる。

 

 

 

「私、小さい時に此処に来た筈なのに、全然知らない場所みたい。………父さん……。」

 

 

 

セリカは不安げな顔で悲しそうに呟く。言葉で聞くのと、実際に見るのとでは違う衝撃があるらしい。それを見たイオは何時もの様に笑顔を浮かべて、

 

 

 

「でも、それでも生きてるって信じてるから探しに来たんでしょ?それなら、他の誰よりも信じてあげないと。シュウイチロウさんは生きてるんだって。ね?セリカちゃん。」

 

 

 

そう言った。イオの顔は、こんな状態の建物を見ても尚、セリカの父が生きている、と信じて疑わない様なその笑顔に、セリカも釣られて笑顔を浮かべる。

 

 

 

「セリカ、ラグナ、イオ。一緒に来てくれ。シュウイチロウ=アヤツキの研究所を探したい。」

 

 

 

そう声を掛けてきたミツヨシに、セリカはミツヨシの方を振り向くと、

 

 

 

「うん!今行く!」

 

 

 

そう言って、ミツヨシを追い掛けていった。

 

 

 

 

 

 

「シュウイチロウさ〜ん。いらっしゃいますか〜?…………って、流石にこの中にはいないか。」

 

 

 

イオは通りがかった部屋の中を覗き込んでそう呟いた。部屋は完全に崩落していて、人一人立てるスペースさえない。こんなところに人がいたらある意味で奇跡だ。そう思ったイオは、首を引っ込めた。

 

 

 

「うーん、中々見つからないね。もしかしたら、此処にはいないかもね。」

 

 

 

イオはラグナ達と合流するとそう言った。此処に来るまでにあった部屋はあらかた探したし、その全てが人の住めるような場所ではなかった。それに、人の気配も生活の痕跡も無い。これは寧ろ、此処には元から人がいなかった、ということではないか。そう思ったイオは、それを口にしようとして、

 

 

 

「――――っ!………ラグナ!セリカちゃんを連れて逃げて!」

 

 

 

その言葉を途中で遮り、黒い剣を出現させながらラグナに指示を飛ばす。ラグナは怪訝そうな表情を浮かべながらイオの方を向いて、

 

 

 

「………何だ……あれ……!」

 

 

 

その視線がイオが睨んでいるそれに釘付けになった。それは、黒い霧だった。混じりけの無い、周りの暗ささえ明るく見えてしまうような黒い霧の塊。それは突然膨れ上がって、幾つもの巨大な影へと形を変える。

 

 

 

「あれって………もしかして……。」

 

 

 

セリカはその影を見て、怯えたように下がる。

 

 

 

「ラグナ!早く逃げて!」

 

 

 

「………ちっ!あぁ、分かった!」

 

 

 

ラグナはイオに頷くと、セリカを半ば抱えるようにして影と逆方向へと走り出した。

 

 

 

「へ?………待ってラグナ!あれ、多分だけど黒き獣だよ!イオちゃんが危ないよ!戻らなきゃ!」

 

 

 

「俺達が居ても邪魔にしかなんねぇだろ!それに、イオの心配なら要らねぇ。あれ、魔素の塊だろ?あいつは、あの手の相手は得意だからな。」

 

 

 

突然の事に呆然としていたセリカは、一瞬間を置いて何が起こったかを理解し、ラグナに抗議する。ラグナはそれに簡単に言い返し、セリカを下ろさずに走り続ける。下ろした途端にセリカがイオ逹の方に走り出すのは目に見えていたからだ。セリカはラグナの言葉に不思議そうな顔をする。

 

 

 

「ラグナ。イオちゃんが「あの手の相手は得意だ」って、何で知ってるの?私達と山を下りてる時にイオちゃんが魔素の塊を相手にしてるの何て見たこと無いし、初めに会った時は全然知らない風だったよね?」

 

 

 

「あ?………知らねぇよ。ただ、何となくそんな感じがしただけだ。」

 

 

 

「そうなんだ………ラグナ、危ない!」

 

 

 

話の途中でセリカがラグナに警告を発する。ラグナが咄嗟に飛び退くと、今までラグナのいた場所に黒い高波が叩き付けられた。

 

 

 

「大丈夫か、ラグナ!」

 

 

 

「ミツヨシか!あっちは?」

 

 

 

「イオが一人で戦ってる。俺は、イオに頼まれてこっちに来たんだ。」

 

 

 

遅れてラグナ逹を追いかけてきたらしいミツヨシがラグナの隣に立ち、刀を構えた。その刀の切っ先の向いた先にいたもの、それは、

 

 

 

先程よりも二回りほど大きい、影の塊だった。

 

 

 

 

 

 

「ミツヨシさん。一つお願いがあるんですけど。」

 

 

 

イオはラグナ逹が走って行くのを確認してから、ミツヨシに声を掛ける。

 

 

 

「………何だ。」

 

 

 

「ラグナとセリカちゃんを追いかけて、守ってくれませんか?此処は私が引き受けますから。」

 

 

 

「悪いが、それは出来ない相談だ。…………日本は俺の故郷だった。俺の同胞は皆、こいつに、黒き獣に挑んで殺された。俺は、その同胞の為にも、俺はこいつに背は向けられない。」

 

 

 

「…………それなら、尚更お願いします。」

 

 

 

イオの言葉にミツヨシは怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 

 

「…………どういう事だ?」

 

 

 

そう問いかけてくるミツヨシに、イオはミツヨシを見ずに答える。

 

 

 

「此処の魔素の濃さの割には此処にいる相手が小さいんです。多分、此処にいるのは残滓。なら、向こうに行ったラグナ逹が危ないかもしれないんです。お願いします。ミツヨシさん。」

 

 

 

「…………分かった。イオ、無理はするなよ。」

 

 

 

そう言い残してミツヨシは風の様な早さで壁を蹴ってラグナ逹を追いかけていく。イオはミツヨシを追いかけようとする黒き獣の残滓に黒い剣を降り下ろす。残滓はそれだけで断末魔の様な絶叫をあげて消えていった。

 

 

 

「残念。此処から先は通行止めになってるんだよね。随分団体さんみたいだけど………ほら、少し遊んであげるから、来なよ。」

 

 

 

その言葉を合図に、残滓は十数体獣の形をとって飛び掛かってくる。イオは、それらを最小限の動きで避けながら残滓を切り捨てていく。しばらくそれを続けていると、そのままでは勝てない、と学習したのか、残滓逹は集まりだし、巨大な高波となってイオに向かってきた。

 

 

 

「………残念。それじゃあ駄目だよ。」

 

 

 

イオはそう言って、剣を4本合わせ、通路の横幅程も幅のある剣を作り出し、それを射出する。それが触れた部分から残滓逹は消滅していき、最後には元の静かさだけが残った。

 

 

 

「終わりだね。皆の所に行かなきゃ。」

 

 

 

そう言ってイオは走り出す。そして、いくつかの角を曲がり、一つのそれなりに大きな部屋に辿り着いたイオが感じたのは、

 

 

 

「…………え?レイチェルさん?」

 

 

 

光に包まれる四人の人影と、鼻をくすぐる薔薇の香りだけだった。


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