BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第16話投稿。



次でCT編は終わると思います。…………終わるかな?


第16話

第16話

 

 

 

ノエルの前には、見たことも無い風景が広がっていた。無機質な分厚い金属の壁に、一度も見たことの無い、白衣を男達。そして、ノエル自身は何かの液体の中にいる。

 

 

 

――――さあ、実験を始めるぞ。『黒の魔導書』を用意しろ。

 

 

 

――――――――――。

 

 

 

男達の中の一人がそう言うと、別の一人が黒い菱形の宝石の様なものを持ってくる。ノエルは、それと同時に、自らの周りにあった液体が無くなるのを視界に捕らえる。更に、先程の男の台詞から、今、自分が見ている光景が何なのか、という推測をたてる。

 

 

 

…………『黒の魔導書』って言葉が出てたし、実験、って言ってた。つまり、これは、お姉ちゃんの、過去?

 

 

 

―――――――ん。

 

 

 

そう考えている間に、既に自分は手術台の様な所に乗せられていたらしい。男達は、ノエル、過去のイオの胸辺りに、黒い菱形の宝石を押し付ける。宝石は最初から何もなかったかの様に、イオの体に吸い込まれていき、そして、

 

 

 

――――あああぁぁぁぁあぁあ!!

 

 

 

…………お姉ちゃん!?

 

 

 

突然悲鳴を上げたイオに、ノエルは呼び掛ける。しかし、当然、イオにノエルの声は届いていないのだろう。悲鳴が止まることは無かった。ノエルは、その視界の端で、イオの金色の、ノエルと同じ色の髪が黒く染まっていくのと、黒いコートがイオの体に纏われるのを確認する。しばらくして、イオの悲鳴が止むと、男達は、

 

 

 

――――実験は成功だ。

 

 

 

――――まだだ。まだ、最後の実験が残っている。これが、本当に魔素を無効化出来るなら、窯の中に入れても平気な筈だ。

 

 

 

――――――ちゃん。

 

 

 

男達はそう言って、イオに次々と機械を取り付け始める。そのまま、『窯』と呼ばれた場所にイオを放り込む。イオは抵抗する力が無いのか、抵抗する意志が無いのか、身動き一つせずに炎の海ヘと落ちていく。ノエルの視界は、灼熱の炎と、濃すぎる魔素により、真っ赤になって、

 

 

 

――――ノエルちゃん!!

 

 

 

「お姉………ちゃん?」

 

 

 

「大丈夫?怪我とかない?」

 

 

 

聞き慣れた呼び声に反応して目を開く。そこには、ノエルのよく知っている、いつものイオが、ノエルの事を心配そうに覗き込んでいた。

 

 

 

「うん、大丈夫。…………ここは?」

 

 

 

ノエルは、見渡す限り黒しか色の無い空間を見て、イオに尋ねる。イオは、ちゃんとした反応を返したノエルに安堵の表情を浮かべると、

 

 

 

「ここは私が作った安全なスペースかな。ほら、私の剣を膜にして、周りに張ったんだ。まぁ、ノエルちゃんも目が覚めたみたいだから、そろそろ解くよ。良い?」

 

 

 

その問いにノエルが頷くと、イオは黒い膜を剣の形に戻す。次の瞬間、ノエルの目に飛び込んできたのは、夢で見たのと殆ど同じ光景。無機質な鉄の壁に、中央にある『窯』と呼ばれる巨大な何か。

 

 

 

「ここって、お姉ちゃんの居た研究施設…………?」

 

 

 

「うん、半分正解。正確には、「此処」じゃなくて、イウラにあった「此処」だけど。…………ノエルちゃん。下がって。「彼女」が出てくる。」

 

 

 

真剣な顔でそう言ったイオの言葉に従ってノエルが下がるのと同時に、『窯』の一部が開き、人影が現れる。銀色の髪をした少女だ。少女はふわりと音もなく地面に降り立つと、

 

 

 

「起動、起動、起動、起動。全機能の正常作動を確認。ムラクモ起動します。」

 

 

 

そう言って目をゆっくりと開いた。その目は、ゆっくりとイオに焦点を合わせると、

 

 

 

「対象、照合。…………エラー、対象の認識、不能。あなた、誰………?」

 

 

 

と質問を投げ掛けてくる。イオは、それに対して、

 

 

 

「初めまして。イオ、貴女に分かりやすく言えば、次元境界接触用素体No.9です。貴女は?」

 

 

 

そう答えた。それに少女は、機械的な口調で答える。

 

 

 

「存在説明…………次元境界接触用素体No.13、対三輝神コアユニット“ニュー”。対象の存在は不適切。早急な自壊を勧告する。」

 

 

 

「うーん、無理かな。私、これでもまだやりたいことがいっぱい在るからね。」

 

 

無機質な声で放たれた勧告に対し、イオはどこまでも軽い口調で返答する。それを聞いた少女――――ニューは、目を閉じる。そして、

 

 

 

「対応検索…………不正同一体との接触、対象、自壊を拒否。排除が適当。よって対象の殲滅を開始します。」

 

 

 

その言葉を合図にする様に落ちてきた巨大な剣が少女の背後に突き刺さり、即座に展開、数秒のうちに少女を戦闘兵器の様な姿に変えた。イオはそれを見て、

 

 

 

「やっぱり………本気、出すしか無いかな。」

 

 

 

そう言って即座に両手と背中に剣を展開し、軽く目を閉じて息を吐く。そして、目を開いた時には、イオの目から感情の色は消え去っており、少し後ろから見ていたノエルには、目には映っているのに、他の全ての感覚が、そこにイオがいる、ということを否定している様に感じられた。

 

 

 

イオは、ニューとの距離、およそ八メートルを二歩で詰め、剣を降り下ろす。ニューはその剣を翼の様に展開した八本の剣で受け止めると、地面から壁を作るように剣を出現させる。イオはそれを後ろに大きく跳んで避けると、追撃の様に地面から突き上がる剣を何度かバック転して距離を取った。

 

 

 

「無駄。」

 

 

 

距離を取ったイオに、ニューは翼の様に展開した剣を四方八方に散らす。その剣達は、イオの事を取り囲み、一斉に放たれた。

 

 

 

「…………甘いよ。」

 

 

 

イオはそれだけ呟くと、八方向から迫る剣のうち、腹と胸を狙った二本だけを叩き落とし、それ以外の剣を全て最小限の動きだけで避ける。そのまま、流れる様に手に持っていた二本の剣を合わせて、槍に形を変えると、それをニューに向かって投合し、イオ自身もニューとの距離を詰める。ニューは、投合された槍をギリギリで避け、魔方陣から剣を射出する。

 

 

 

「…………遅い。」

 

 

 

イオは速度を緩めずに、魔方陣から射出された剣に、自らの剣を軽く当てて剣を消し去り、ニューの元に辿り着いて剣を振り上げる。ニューはそれをギリギリ戻ってきた剣で防ぎ、後ろに大きく跳んで距離を取り、遠距離から反撃に出ようとする。

 

 

 

しかし、次の瞬間、ザクッ、という音がニューの膝辺りから響き、ニューは立っている事が出来ずに、倒れ込んでしまう。

 

 

 

「損傷、甚大。回復に専念します。」

 

 

 

ニューはそう言って、足に刺さった黒い剣、恐らく、最初に斬りかかってきた時にニューに気付かれない様に配置して、今のタイミングで射出されたもの、を引き抜く。今はまだ血が止まってはいないが、ここは『窯』の近くだ。十数秒もあれば、ニューはまた動ける様になる。しかし、十数秒、という傷を治すには余りにも速い時間は、

 

 

 

「…………これで終わり。」

 

 

 

イオには、長すぎる隙であった。数秒と経たないうちにニューとの距離をゼロにしたイオは、一瞬でニューの両手を押さえつけ、剣を振り上げて、

 

 

 

…………もう一度鳴り響いたザクッ、という音と共に、鮮血が飛び散った。


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