BLAZBLUE 黒の少女の物語   作:リーグルー

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第10話投稿。



次回からCT編です。多分。余計な事を思い付かなければ。


第10話

第10話

 

 

 

「おい!!てめぇ、待ちやがれ!!」

 

 

 

銀髪に赤と緑のオッドアイを持つ青年―――――ラグナ=ザ=ブラッドエッジは走っていた。自分の前を走っている男を追って。ラグナは追いかけている男の名前を知らない。むしろ知ろうとさえ思わない。何故なら、目の前にいる男は、ラグナにとって只の軍資金………賞金首でしか無いのだから。

 

 

 

「あ〜、くっそ!ちょこまか逃げんじゃねぇ!!」

 

 

 

こういう時、咎追いとは便利だ、とラグナは思う。何せなるのに何の資格も要らないのだ。腕っぷしにさえ自信があるのなら、正式に咎追いでなくとも、咎追いの真似事が出来る。それこそ、自分の様な賞金首であったとしても。

 

 

 

と、そこで前の男は細い路地ヘと曲がって行く。ラグナは内心舌打ちをする。今追っている男は中々に逃げ足が速いのだ。その上、この場所を良く知っていて、こういう所に入られると厄介なのである。更に、ラグナは今、丁度金欠であり、これを逃すといつ金が手に入れられるか分からない。盗んでも良いのだが、そんな事で自分の罪を増やしたくは無かった。

 

 

 

「くっそ…………。」

 

 

 

ラグナがそう呟くと同時に、今男の曲がった所から「邪魔だ!!退け!」と言う声が聞こえ、続いてシャンッ、という刃物を抜くような音、最後にゴッ、という何かが叩き付けられる音と共に、「ぎゃっ」という男の声が聞こえる。

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

ラグナは何が起こったか分からず、一瞬思考が停止する。今の男の声は、どちらも自分から逃げていた男のものだった。何が起こったんだ?と不思議に思ったラグナは、角を曲がってみてすぐに納得する。何故ならそこには、ナイフを持ったまま仰向けになって気絶している男と、

 

 

 

「ん?あ、ラグナ。久しぶり〜。元気に窯を壊してる〜?」

 

 

 

なんて、アホみたいな挨拶をする、兄弟弟子がいたのだから………

 

 

 

 

 

 

賞金首を差し出し、賞金を手に入れたラグナは、黒い長髪に青い目をした少女、イオと歩いていた。

 

 

 

「まさかラグナが咎追い何てしているとは…………世界最高の賞金首なのに。いっそ自分の事差し出してみたら?一生お金には困らないかもよ?」

 

 

 

「お前は馬鹿か?イオ。」

 

 

 

「冗談、冗談だって。それにしてもラグナに馬鹿呼ばわりされるのは心外だなぁ。術式も授業もさっぱりなラグナくんに。」

 

 

 

イオの言葉を聞いてラグナはぐっ、と詰まる。反論したい気持ちは山々なのだが、それが本当であることは否定のしようが無い。その二つがさっぱりなのは自分でも分かっている事だからである。

 

 

 

「まぁ、それはいっか。それはそうとラグナ。ここの『窯』はいつ壊すつもりなの?」

 

 

 

イオの質問はその行動に対しての否定でも肯定でも無い。ただ純粋な疑問である。その疑問にラグナはすぐに答える。

 

 

 

「今日の深夜には忍び込んでぶっ壊す。」

 

 

 

「忍び込んで?派手に突っ込んでいって、の間違いじゃないの?」

 

 

 

笑いながらイオはラグナに返す。確かに、ラグナはいつも通りに正面から突っ込んでいって、衛士達を蹴散らして、窯を破壊するつもりだった。それは、イオの言った通り、忍び込む、ではなく派手に突っ込む、に分類されるだろう。

 

 

 

「あ、ラグナ。そろそろ上に行かないと、夜迄に統制機構に着けないよ?そろそろ行ったら?」

 

 

 

「ん?あぁ、そうだな。………んじゃ、行ってくるわ。じゃあな、イオ。」

 

 

 

「またね〜。ラグナ。」

 

 

 

そう言ってイオはラグナを見送る。ラグナが居なくなった所で、イオは自分の後ろに佇んでいる人物に声を掛ける。

 

 

 

「お久し振りです。レイチェルさん。」

 

 

 

「ごきげんよう。イオ。」

 

 

 

イオの後ろで佇んでいる、金色の髪を左右二つに束ねて、大きな赤い目をした少女――――レイチェルはイオに声を返す。そんなレイチェルにイオは質問をする。

 

 

 

「今日は何か用事ですか?レイチェルさん。」

 

 

 

「あら、用が無かったら来ては駄目なのかしら?イオ。」

 

 

 

「いや、そういう訳じゃ無いんですけど…………。何かレイチェルさんってイメージ的にあんまり無駄な事をしそうに無いかな、って。」

 

 

 

「確かにそうだわ。3日近く道に迷っていた貴女と違ってね。」

 

 

 

その言葉にイオは胸に何かが刺さった様な気がして、地面に膝を付いた。レイチェルが言った通りである。イオはこの階層都市に来る時も道に迷っていた。それも3日。少しだけ、自分の迷子は呪いか何かの類だと思ってしまう程である。まぁ、誰にも見られてないからいっか。等と考えて自分を安心させていたというのに、まさか、まさか一番見られたくない人(レイチェル)にバッチリ見られていたとは…………

 

 

 

「ええ。貴女の道に迷った時の反応はとても面白かったわ。暫く暇だったのだけれど、その暇を潰してくれたのよ。お手柄ね。イオ。」

 

 

 

「あ、あははは、もうその辺りで勘弁してくれませんか?そろそろ私、泣きそうなんですけど。」

 

 

 

いつもの様に笑う努力をしながらイオはレイチェルに頼む。割と切実に。自分の視界がぼやけてきたのも、あながち自分の勘違いでは無いような気がする。

 

 

 

「あら、そうなの?…………どうしようかしら。貴女、ラグナと違って弄る要素は少ないけど、弄ればラグナより面白いから………このまま続けようかしら。迷うわね。」

 

 

 

「………本気で泣きますよ?」

 

 

 

「あら………そう。なら、本題に入ろうかしら。」

 

 

 

「え?本題って、本当に何か用があったんですか?」

 

 

 

イオは驚いたようにレイチェルに向かって聞く。まさか本当に用事があるとは思っていなかったのだ。というかむしろ、自分を弄りに来た、というのが用事だと思っていたのだが、実際はそれとは別に用事があったらしい。

 

 

 

「………何かしら。まさかこの私が、何の目的も無くあなた逹の前に現れると思って?貴女も言った筈よ。私は無駄な事が嫌いだって。」

 

 

 

「いや……まぁ、てっきり私を弄って暇を潰しに来たんだと思ってました。」

 

 

 

レイチェルはその言葉にへぇ、と少しだけイオを見て、その後に口元に軽く笑みを浮かべる。

 

 

 

「あら、そんな気は無かったのだけれど。………少し考えてみるとそれも面白そうね。今からでもそちらに変えてみようかしら。」

 

 

 

「…………すみませんでした。謝りますから、元の用事の方でお願いします。」

 

 

即座にイオは謝った。自分が悪いのか、とか、何故謝る必要があるのか、とかは全く考える時間必要無く、ただ、自分の直感が告げていたのである。曰く、このまま謝らなければ、弄り倒される事になるぞ、と。そして、その直感は大体正しい事が証明された。他でもない、レイチェル自身の顔が、少しつまらなそうになった事によって。

 

 

 

「………まぁ、いいわ。本題というのは、そう。いつもこの位の時にラグナに教えている事なのだけれど、貴女にも教えてあげる。あなた逹の次の目的地について、よ。ここまで言えば、貴女にも分かるのではなくて?」

 

 

 

その言葉を聞いて、イオは考える。レイチェルが示す次の目的地、それはつまり、いつも決まっている、ということだ。そして自分なら分かる、ということは、それがあの「記録」の中にあるという事を示している。そして、今の時代。つまり、

 

 

 

「………もうすぐ新年になる、って事ですか?レイチェルさん。」

 

 

 

「その通りよ。イオ。だから、あなた逹の次の目的地は、あそこ。」

 

 

 

「第13階層都市、カグツチ。」

 

 

 

レイチェルの言った言葉の先を、イオは引き継ぐ。レイチェルはそれにふっと笑うと、

 

 

 

「貴女にはこれで十分みたいね、イオ。………さて、行きなさい。私は馬鹿な野良犬にこれを教えてあげなくてはならないから、あと少しだけここに居るわ。」

 

 

 

その言葉の中の、野良犬、というのが誰の事か分かり、イオは苦笑しながらレイチェルに別れを告げる。

 

 

 

「はい。ありがとうございました。また会いましょう。レイチェルさん。」

 

 

 

そう言って踵を返してイオは去っていく。

 

 

 

「また会いましょう、イオ。…………少し、期待してるわ。」

 

 

 

そんな言葉を背で受け止めながら。


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