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九校戦が始まって以来、過去最大の会場動員数を記録したエミヤの試合。それは憧れや焦燥、嫉妬と様々な形で多くの人々の記憶に残される事となった。
群を治める者は安堵を覚えた。自身等が学舎を去っても母校の優勝候補の地位は安泰のままだろうと。またある兄妹は迷想した。彼の力が調整体であるが故のモノならば、その技術力は四葉以上のものだろうと。そして彼に好意を持つ少女は――。
○ ○ ○
目覚めの良い朝だったにも関わらず、北山雫は目の前の光景に少し嫌気が差していた。花の装飾がなされた皿の上で一人寂しく残っているウインナーにフォークの爪を沈み込ませる。
「じゃあまた今度ご飯でも!」
エミヤへの用が済んだのか、手をヒラヒラと振りながら名前も知らない上級生達は空いている席に向かっていく。昨日の
「朝から困ったものだ。……どうした雫? 」
「何も」
雫は小さく開いた口にウインナーを運ぶ。では何がと問われれば口先ではこう言うくせに、全く困っていなかったという事が気に入らない。それに妙に女慣れしている感じがして、自分もその掌の上で踊る一人に過ぎないのではないかと思ってしまうのだ。交際している訳でもないのに勝手な考えだとは思う。それでも誘いを断る素振りを少しも見せなかった事に悋気するぐらいは彼女にも許されるだろう。
「……何で断らなかったの?」
「断っても素直に引いてくれそうになかったのでな。 また誘われても都合がつかないとでも言っておくさ」
納得はできる。相手への心的被害を最小に抑える事のできる断り方だ。しかし真意を相手に悟られてしまえば、その優しさは時に人をも狂わす猛毒にもなりうる。
「……じゃあ私が誘っても同じように断る?」
故に少女は知りたかった。彼にとって
「……いいや雫の誘いは可能な限りは断らないよ。普段からの付き合いもあるからな」
「……そっか」
友人としては大事にされているようだ。その事が分かっただけでも今はそれで良い。雫はいつの間にか上がっていた口角を隠すように手を合わせ「御馳走様でした」と口にする。エミヤも雫に続くが二人に席を立つ気配はない。
「ほのか、ゆっくりで良いよ」
雫は珍しく自分より食事が遅い親友にそう言葉を掛けた。
○ ○ ○
朝食を終えた雫達は宿泊しているホテルからピラーズ・ブレイクの会場に向かっている。雫がどうしても早く行きたいと言うので、他の生徒たちよりも早めに会場へ向かっているので人通りは少ない。おかげで光井と雫は此方に向かって来るその人物に直ぐに気づく事ができた。
「……お父さん」
そう口にした雫の表情からは若干の羞恥が感じられる。一方で彼女の父親は愛娘に会えた事が余程嬉しいのか満面の笑みである。
「雫、ほのかちゃん、おはよう」
「おはようございます、小父様」
「……」
挨拶を返してくれない娘に苦い笑みを浮かべたまま、彼はエミヤへと顔を向ける。
「初めまして、衛宮士郎君だったかな? 私は北山潮だ」
「……お初にお目にかかります。既にご存じの様ですが改めまして、衛宮士郎です」
「昨日の試合は素晴らしかったよ。息子なんかはすっかり君のファンになっていてね」
「光栄に存じます」
相手は大実業家にして雫の父。対して今のエミヤは中身がどうであれ潮からすれば只の高校生だ。敬語を使わなければならないこの時ばかりは、エミヤも渡辺の普段の
「雫は学校の事を話してくれなくてね。友達がいるか心配だったんだが、その必要はないようだ」
潮は自分よりも身長が高いエミヤの顔を見ながら何か納得したように頷いている。そんな父に今まで黙りを決め込んでいた雫がようやく言葉を発した。
「来ないでって言ったのに」
雫は高校生にもなって親が応援に来る事が恥ずかしいのか、顔を明後日の方向に向けている。そして恐らく愛娘の晴れ舞台を見たかったのであろう潮の気持ちも理解できなくもない。
「昨日の午前中まで近くに仕事が入っていて、その序でに来たんだ」
潮は後頭部を押さえながら誤魔化すように笑っているが、雫達には嘘だとあっさり見抜かれていた。本当に仕事で来たのであれば息子なんか連れてない筈だし、九校戦の入場券も易々と手に入るわけが無い。どうやらビジネスでは凄腕であっても、プライベートでは子供に嘘をつくのが苦手な父親のようだ。
「……もう行くから」
溜め息と一緒に吐き出した雫は会場に向かって足を動かす。潮に向けて慌ててお辞儀をした光井も彼女の元へと走って行き、その場に残されたのはエミヤと潮の二人だけとなった。
「……少し話せるかい?」
潮は先程よりも落ち着きを感じさせる声でそう言うと、返事を聞かずに近くにあった木目のベンチへと腰を降ろす。エミヤは何も言わずに潮と少し間を空けて座る。
「初対面だというのに急に申し訳ない。ただ学校での娘の様子を知りたくてね」
「……私よりも光井さんの方が詳しいと思いますが?」
「ほのかちゃんは雫に口止めされているみたいなんだ。妻はそういう歳頃だと言うんだが、やはり心配でね」
潮はエミヤの顔も見ず、ただ娘との思い出を懐かしむように虚空を見つめている。
「四月にあったテロを覚えているかい?」
「えぇ」
「あの時、痛感したよ。大金があれば家族を必ず守れるなんて自惚れだってね」
潮は自嘲ぎみに笑う。
「勿論、お金で守れる時もある。ただテロのような脅威にはほとんど無意味だ」
小悪党は金の為に、テロリストは自身の信条の為に事件を起こすという事はエミヤも理解している。だが潮は何故こんな話をするのか。
「何の影響か娘は小さい頃、正義の味方に憧れていてね。曲がった事が嫌いで、当時はほのかちゃんを虐めていた子達を言葉責めにして泣かした事もあった」
「……」
「今も憧れているかは分からないけどね」
正義感が強く、感情をあまり面に出さない。そんな女性をエミヤは雫以外にも知っている。
「私はその正義感が雫の身を何時か危険に晒すのではないかと心配しているんだ。だからもし娘が無茶をしようとした時は止めてやってくれないか?」
「……分かりました」
「ありがとう」
エミヤの返答に潮は安堵した様子だ。本来なら高校生のエミヤ相手に頼む事では無い。だが学校が襲われたという前例がある以上、事前に可能な手は打っておきたいのだろう。
「では自分はこれで」
「時間をとらせて悪かったね」
上手く話を切り上げたエミヤは雫達を追うべく歩き始める。エミヤが去った後も潮は暫くベンチに座ったままだった。
○ ○ ○
結局エミヤが光井に追い付いた頃にはアイス・ピラーズ・ブレイクの会場の出入口が目と鼻の先になっていた。選手である雫とは入場口が違うので彼女がいないのは当然の事なのだが、他の選手が朝食を取っている時間から控え室に向かうのはやはり早すぎたのではないだろうか。
「光井、雫はもう控え室に行ったのか?」
「それが十五分後に士郎さんと来てくれって言い残して小走りで行っちゃって……」
エミヤと光井は関係者入場口に向けて歩き出す。競技前ともなれば人の行き来が多い入場口も今は光井とエミヤの二人だけ。光井と二人きりになるのはこれが初めてとエミヤが気づいたのも、それが原因かもしれない。
「小父様とは何を話していたんですか?」
「……雫についての話がほとんどだったな」
エミヤが横を歩く光井を見ると、またかと言いたそうな顔をしていた。ただ呆れているといった感じではない。
「小父様は雫を溺愛しているんです。だから雫は最近小父様を面倒くさがってて……」
「なるほど」
エミヤから見た潮は随分と娘思いの良い父親といった感じだったが、雫達にとって潮は親バカの部類に入るようだ。その話題も雫の控え室の前で足を止めると同時に終わり、光井がドアホンを鳴らす。
「雫、入っても大丈夫?」
「いいよ」
室内から開かれた扉に光井に続いてエミヤも部屋の中に入る。そして部屋に居た雫は一高の制服ではなく、日本の正装とも言える装いをしていた。落ち着いた赤をベースにした振袖を上手く着こなしている雫。駒縫が用いられた手鞠や黒の枝垂桜が雫の落ち着いた雰囲気を一層醸し出し、蘇芳色で染め上げられた裾色が大人らしさを感じさせる。
大人らしさばかりではなく、控えめに一輪だけ咲かせた乙女色の桜の髪飾りが可憐さを残していた。
「……良く似合ってるぞ」
「ありがと」
エミヤが思った事を素直に口にすると雫ははにかんで頬を朱に染める。振袖が似合っていた事が余程嬉しいのだろうか。
「ピラーズ・ブレイクにはその衣装で出場するのか?」
「出る時には襷を使う」
確かにそのままでは袂が邪魔になるだろう。そこまで分かっていて振袖を着るのにはファッションに対する美意識故のものかもしれない。
「そういえば何故こんなに早く来たんだ? 着付けに時間が掛かるといった訳ではなさそうだが」
「……士郎さんには最初に見てほしかったから。誰よりも先に」
雫の発言は光井が開いた口を手で隠すのを忘れる程には随分と攻めたものだった。余程の唐変木でもなければ雫の心意に気づくはずなのだが。
「そうか。何処も可笑しな所はないし、このままステージに出ても何も問題無いだろう」
彼の中の何かが邪魔をしているのか、エミヤは着付けの確認程度にしか思っていないようだ。これには雫も小さく頬を膨らませる。控え室には達也が来るまで気まずい空気が流れていた。
○ ○ ○
結果からみればアイス・ピラーズ・ブレイク女子予選において一高は素晴らしい成績であった。一高選手全員の本選出場が決まり、試合内容も雫が何故か少し八つ当たり気味だった事を除けば何も問題なかった。
そして日を跨ぎ大会六日目。新人戦三日目にあたる今日はアイス・ピラーズ・ブレイクの本選とバトル・ボードの本選があり深雪と光井の競技時間が被ってしまっている。ただ以前光井と交わした約束もあり、エンジニアである達也と選手の雫を除いた面々は光井の応援に来ている。
「それにしても変な光景よね~。全員がゴーグル掛けてるなんて」
「目眩ましの対策としては当然だろう。 まぁ対策したところで達也が他に策を講じていない筈もないだろうが」
エリカの言う通り予選で光井が目眩ましを使った事で、選手達はスポーツサングラスにも見える色の濃いゴーグルを着けていた。
「他の策って?」
「幹比古。君はサングラスを掛けた事があるか?」
「夏とか特に日差しが強い日は掛けるけど」
「そう、サングラスは本来紫外線や光源等から目を保護する為のものだ。では暗い場所で使うとどうなる?」
聞きに徹していたレオが幹比古よりも早く納得したような表情を浮かべる。
「つまり夜にサングラスを掛けた状況を再現するってことだろ? でもよ、どうやるつもりなんだ?」
「何、見ていれば分かる」
レースがスタートし光井が他の選手よりも少し遅れて加速していく。バトル・ボードはコーナーにおいてアウトインアウトが基本だ。しかし先頭を行く選手は第一コーナーで大きく弧を描いた。いや、そうせざるを得なかったという方が正しいかもしれない。それに影が先程よりも明らかに伸びている。
「どういう事ですか?」
「光井さんは光波振動系魔法でコースに影を落として、他の選手が内側を攻められないようにしているんだ。あんな分厚いゴーグルじゃ暗い所では何も見えないからね」
美月と幹比古がそんなやり取りをしていると、第二コーナーで影を嫌ったトップの選手を光井がカーブの内側から追い抜いていた。
「でもそれじゃ、ほのかも他の選手と同じじゃないの?」
幹比古達はコーナーから光井へと目を移す。光井も他の選手同様、聢とゴーグルを着けているが影の中でも不自由している様子はない。
「放課後は毎日達也と練習していたからな。身体が覚えているんだろう」
「……士郎くん、やっぱり知ってたんだ」
エリカが拗ねた様に半眼で流し目を送ったが、レースが終盤に差し掛かった事もあり長くは続かなかった。光井が独走状態のまま最終コーナーに入る。二位の選手も諦めずにスピードを上げていたが、最後まで光井との差が埋まる事は無かった。
○ ○ ○
時刻は正午を既に回っている。あと十五分もすれば再び競技が始まる。昼食を取りエリカ達と別れたエミヤはアイス・ピラーズ・ブレイクの会場に呼び出されていた。彼を呼んだのは雫。何やら電話が掛かってきたと思えば、雫はエミヤに用件を伝えると有無を言わさず直ぐ電話を切ってしまった。その用件もたった一言。
「今から控え室に来て」
その声音は何時もより固かった。雫の控え室の前に着いたエミヤはドアホンのボタンを優しく押す。
「雫」
声だけでエミヤだと分かったのか雫は無言で扉を開く。いつものポーカーフェイスには緊張が混ざっている。
「どうしたんだ?」
「……今から深雪との試合があるの」
「それで緊張しているのか」
コクリと首を縦に振った雫はエミヤの右手を小さなその両手で包み込む。
「だから少しだけ士郎さんに会いたくて」
例えるなら恋愛映画のワンシーン。一瞬だけそう思ったがエミヤは友人としての言葉だろうと受け流した。と言うのも雫の手が小刻みに震えているのだ。
「……策はあるんだろう?」
「うん。だけど、ちゃんとできるか……」
「心配するな」
エミヤは雫の緊張を解すような口調で言葉を続ける。
「いいか、雫。イメージするのは常に最強の自分だ。そこに外敵など要らん。君にとって戦う相手は、自身のイメージに他ならない」
「……その先にどんな結果が待っていようとも?」
「……そうだ」
雫はエミヤの目をじっと見つめているが、あと十分もすれば試合が始まる。そろそろ雫もステージに向かった方が良いだろう。彼女も気づいたのかエミヤの手をそっと放す。その顔つきは先程よりも決意を感じさせる。
「ありがとう」
「礼を言われる様な事はしてないさ」
いつも通りの素直ではない返しに雫は安心感を覚える。控え室を出た二人はお互いに背を向けて歩き出す。自身が居るべき場所に向かって。
「隣は空いているかね?」
観客席へと向かったエミヤは最前列で観戦している渡辺と真由美、そして達也を見つけた。偶々渡辺の横が空いていたのでこうして声を掛けたと言うわけだ。
「おっ、士郎くんじゃないか! 空いてるよ」
渡辺の横の席に腰を落ち着かせ、フィールドで相対している二人を見る。どちらも戦う意志を感じさせる目をしている。始まるカウントが会場に静けさをもたらす。フィールドの張り詰めた空気が伝わり、カウント間の静寂を長く感じさせる。そして最後の灯りが点ると二人は同時にCADを操作した。
両陣地に展開される二つの魔法式。深雪の陣地に展開されるのは『
雫が袖から二つ目のCADを取り出し新たな魔法式を展開する。そして深雪の氷柱一つに穴が開いた。
「フォノンメーザーっ!?」
真由美が声をあげる。『フォノンメーザー』は振動数を上げた超音波を量子化して熱線とする振動系魔法。エミヤはこの技を雫に授けたであろう男を横目で見るが、表情は変わらない。雫相手では自身の妹の勝利が揺るがないと思っているのだろうか。
全試合で初めて氷柱を壊された深雪の動揺も刹那のものだった。深雪も新たな魔法を繰り出す。深雪の陣地を中心に起こる白霧。その霧はセンターラインを越え雫の陣地にまで足を伸ばす。
「氷炎地獄の次はニブルヘイムだと……?」
渡辺の言う通り深雪が展開した魔法は『ニブルヘイム』。雫の陣地を通り過ぎた液体窒素の霧は雫の氷柱の根下に液体窒素の水溜まりを作っている。深雪は『ニブルヘイム』から再び氷炎地獄へと魔法を切り替える。達也も深雪も、他の観客もここで決着がつくと思っていた。エミヤと雫を除いて。――このタイミングで雫は
「どういうこと……?」
真由美と同じように他の観客にも戸惑が生まれる。達也は先程とは一変して驚きの表情を浮かべ、深雪の顔ははっきりと分かるくらい驚愕に染まっている。
無理もないだろう。溶けたのは雫の氷柱ではなく、深雪の氷柱なのだから。それも最前列の氷柱が全て。却って雫の氷柱に熱が伝わっている様子はない。
「……これを教えたのは士郎か?」
達也がエミヤに顔を向けると真由美達もエミヤに解説を求める。言葉から察するに達也は今の状況が理解できたのだろう。
「いいや、雫自身が気づいた事だろう」
「士郎くん、勿体ぶらず教えて」
真由美は腰を浮かべ身を乗り出すように達也の肩に手を置いているが、達也の側頭部に胸を押し付ける形になってしまっている。達也が注意すると一瞬恥じらった様子を見せて漸く腰を元の位置に落ち着かせた。
「それで何が起こっているの?」
「説明する前に氷炎地獄について知っている事をもう一度確認してみるといい」
「対象エリアの片方の空間内にある全ての物質のエネルギーを減速して、もう片方のエリアにその余剰なエネルギーを逃がし加熱させる。これが一般解だと思うが」
渡辺の回答は百点満点のモノだ。これがこの魔法のエントロピー逆転魔法と称される所以だ。
「そう。その結果、エネルギー収支の辻褄が合いエントロピーが逆転されるわけだ。だがそもそも熱というのは空気中の分子が振動するから伝導する。ではその二つのエリアの間に真空の壁があるとしたら?」
「熱は伝わらない……?」
エミヤが今まで見せた魔法には真空状態を作るモノがある。『疑似瞬間移動』、そして『
「でも何故深雪さんは氷炎地獄をキャンセルしたのに氷柱は崩れ続けているの?」
真由美が目の前の光景に疑問を呈する。深雪の中央列の二本が崩れ、彼女に残された氷柱は六本となる。
「氷炎地獄は結果として特定エリアのエントロピーを逆転させるだけであって、他のエリアの自然に存在するエントロピーが無くなる訳ではない」
エミヤの説明に聞き入っていた達也達は深雪と雫の表情に視線を注ぐ。深雪は先程では無いにしろ少し焦りが見える。雫も余裕のあるような表情ではなく干渉力で深雪に負けないようにと必死さが窺える。
「深雪さんだったら対応できそうだけど」
「恐らく雫が深雪の氷柱に情報強化を掛けているのでしょう。その所為でエネルギー収支の辻褄が合わなくなり、エイドスの復元力は中々戻らない深雪の氷柱に対して更に大きなエネルギーを加えているんです」
「それにエントロピーも働いているからな。いずれにせよ最初に雫の情報強化を無効化せねばならん」
だが深雪の氷柱は残り三本となっている。対して雫の氷柱は未だ一つも倒れていない。この悪循環を断ち切るにはもはや時間がない。この自然法則とエイドスの復元力という魔法師にとって切っても切り離せない壁を逆手にとった戦略は、深雪のような自然干渉力の強い魔法師にこそ有効だ。
深雪最後の氷柱が崩れ落ち、甲高い試合終了のブザーがなる。魔法師の中でも特に高度な魔法戦を見せた二人にスタンディングオベーションが起こった。
○ ○ ○
「雫、優勝おめでとう」
会場からホテルへと向かう途中、深雪が最初に口にした言葉がそれだった。試合で負けても相手を素直に称賛する辺り流石と言うべきか。
「深雪も良く頑張っていたな」
達也が深雪の頭を優しく撫でると深雪は気持ち良さそうに目を細める。それを見た雫はエミヤに何か言いたげな視線を送っていたが、直ぐに諦めたように視線を前に戻した。
「だが深雪、負けたからには帰ったら反省会だ」
「はい、お兄様!」
本来反省会と聞いたら気落ちしそうなものだが、深雪の声はそれとは真逆で少し嬉しそうだった。
「……雫」
「なに?」
エミヤに名前を呼ばれ、雫は体を捻り顔を覗かせる。
「頑張ったな」
雫は頬が綻ぶのを抑えきれなかった。不意打ちに近かったがエミヤにその気が無い事は分かっている。だから自分も素直に思ったことを言おう。
「ありがとう、士郎さん」
いとも簡単に壊れそうで、けれども百合のように穢れを知らない美しいその頬笑みがエミヤの中で彼女と重なる。
「あと達也さんに謝らないといけない事がある」
思考が中断されエミヤ、そして会話をしていた兄妹も雫に視線を向ける。雫が達也に差し出したのは先程試合で使った二機のCAD。
「さっきの深雪との試合で壊れたみたい」
ばつが悪いような表情の雫に「そんな事か」と達也。
「気にしなくていい。雫はCADのスペック以上の実力を出したんだ。壊れるのは無理もない。それに悪いのは雫の実力を把握していなかった俺だ」
達也の一声に雫は安堵した表情を見せる。エミヤ達に再び和やかな雰囲気が戻っていった。
この時エミヤは気づいていなかった。――自身の身に起こっている小さな異変に。
皆様、お久しぶりです。ききゅうです。
先ずは謝罪を。前話から期間が随分と開き、また報告連絡が遅くなった事をお詫び致します。申し訳ございませんでした。
次に謝辞を。高評価を頂きました永遠になれない刹那様、ガウリイ様、蒼月夜様、仁ノ二乗様、ザキノ海軍中佐様、Mark・Rain様、抹茶ワースト様、Sui.regia様、donponishi様、冬布様、巌窟王様、BQ3様、アルカミレス様、無知無学様、カスタネット様、全裸セスタスマン様、B_himura様、さな様、いずみずみずみ様、紅いきつね様、えいちび様、やまないし様、ポンポコ兄貴様、kaiki様、有馬さん様、みみっちーはうす様、青が欠けたキキ様、真紅の稲妻様、FALPAS様、血霧熾苑様、阿呆毛様、мiуa様、ルピナス様、ハミルカル様、空前絶後様、Sohya4869様、コンビニ=ブラック様、エテールネ様、ゼン・ノワール様、からあげ3号様、型破 優位様、EATY様、ぷにぷに餅様、黄昏るヒト様、みきすけ様、もけもけ〜様、アルシル様、ddhk様、MA@Kinoko様、弓瑠斗様、glasses様、CARA様、ゴマ麦茶様、Dark Killer Queen様、レグルスアウルム様、xxxSUZAKU様、XxtoshixX様、ケイショー様、ホリョ様、小米様、ゼオン様、棚ぼた様、ちはやしふう様、アロンアルファZ様、真碧様、UBW00様、鳥、、、様、ミカヅキ@Fate好き様、山原わたる様、七の名様、shio(city)様、餅大福様、九羅魔様、緋勇様、イルイル様、ゴレム様、にわかヲタクもどき(仮)の半非日常様、A.K様、サンテスト様、櫻木 晴様、デジール様、また感想と激励のの言葉を送っていただきました皆様、九校戦Vをお待ち頂きました読者の皆様、本当にありがとうございます!これからも頑張っていきます!
さて今回はエミヤ君より雫に焦点を当てた話となりました。エミヤモテモテルートも良いかなと思ってたりするんですが……。雫さんに刺されそうなので辞めておきます。
これからも魔法科高校の贋作者を宜しくお願いします!
次回の更新は10月22日頃を予定しています。