魔法科高校の贋作者   作:ききゅう

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九校戦編Ⅲ

<1>

 

 九校戦初日。朝食を済ませ、雫達と合流したエミヤは一校の選手集合場所に来ていた。既に殆どの生徒が集まっており、当然と言うべきかそこには司波兄妹の姿もあった。

 

「おはよう、士郎。雫とほのかも」

「おはようございます!」

 

 達也の挨拶に弾んだ声で返事をしたのは光井だ。朝から達也と顔を合わせる事が余程嬉しいのか、光井はその目に達也を映す事で必死のようだ。だからずっと微笑み続けている深雪に気付かなかったのも、ある意味仕方無い事かもしれない。 

 

「ほのか、深雪にも挨拶しないと」 

 

 光井の言動をそう注意する雫は、妹を叱る姉のようにも見える。取り繕うように謝っている光井の様子が可笑しかったのか、深雪だけでなく達也までもが顔を綻ばせている。

 

「もう良いわよ、ほのか。それより、もうすぐ開会式が始まるわよ」

「開会式といっても、各校の校歌が流れるだけなんだがね」

 

 達也達に向かって歩いて来た渡辺が口を挟む。全員が揃っているか確認しているのだろう。彼女はこの後バトル・ボードの予選を控えている。

 

「おはようございます、渡辺先輩」

「おはよう。士郎くんも挨拶ぐらい……士郎くん?」

 

 渡辺の言葉に漸くエミヤが口を開く。

 

「……あぁ、すまなかった。それで、何か用かね?」

「用と言っても只の点呼なんだが……。いつもの君らしくないぞ、大丈夫か?」

「少し考え込んでいただけだ。気にすることはない」

「それなら良いんだが……」

 

 そう言って渡辺は場を後にする。今日から始まる九校戦で無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)がどう動くのか、エミヤはその事ばかり考えていた。また昨日襲撃されたのは一校だけらしい。それが偶々なのかは明瞭ではないが、一校が標的の一つにされているのは確かだ。

 

「士郎さん、本当に大丈夫?」

 

 雫も心配してか、エミヤの制服の裾を引っ張りながら尋ねてくる。

 

「あぁ、本当に何でもない。気にするな」

 

 これ以上気を使われるのはエミヤの思う所ではない。それに何かあれば軍が動くし、少なくとも警戒さえしていれば良いだろう。

 間も無く入場が始まる。多くの生徒が緊張に顔を強張らせているなか、雫は隣にいるエミヤが気になって仕方なかった。

 

 ○ ○ ○

 

 渡辺の言った通り開会式は校歌のみで終わり、いよいよ競技が始まった。初日のプログラムは真由美の出場するスピード・シューティング予選と本選、渡辺の出場するバトル・ボードの予選がある。勿論服部や他の一校選手も出場するが、エミヤに二人以外の観戦に行く気は無い。第一試合に真由美の予選があったが、クレーを一つとして撃ち損う事無く終わった。決勝リーグに駒を進めたと見て良いだろう。

 

 エミヤ達は渡辺が出場するバトル・ボードの会場にいる。雫の右隣にはエミヤ、達也を挟んで光井と深雪でエリカ達がその後ろという座席順になったが、それが意図した結果なのかは分からない。

 

「にしても、凄い人数だよなぁ」

「それだけ九校戦が注目されていると言う事だろう。この場に限って言えば、他にも理由はあるだろうがな」

 

 レオの呟きにエミヤは目を瞑りながら答える。斜め後ろで渡辺に向けて甲高い声をあげている女子達に、達也達も納得という様な顔をしている。その内一人は直ぐにムスっとした表情をしていたが。

 

「七草先輩もそうでしたが、渡辺先輩も熱狂的なファンが多いみたいですね」

 

 だが美月に反論しないあたり、魔法師もしくは剣士としての渡辺の実力を少なからず認めているのだろう。

 

On your mark(位置について)

 

 その合図に選手がスタートの姿勢を取る。間も無く鳴った空砲と同時に、渡辺のサーフボードが水飛沫を上げた。

 

 ○ ○ ○

 

 エミヤ達がバトル・ボードの予選を観戦している裏で、その男女は向かい合って座っていた。二人は祖父と孫の関係だが、そこに家族の会話など無かった。

 

「もう一度言ってくれ」

 

 この老人に限って聞こえないと言うことはあり得ない。だからこそ響子は同じ言葉を、同じ口調で繰り返したのだ。

 

「士郎くんとの連絡は暫く控えて頂けませんか?」

 

 響子は冗談ではなく極真面目にそう言ったのだ。それにも関わらず笑みを浮かべる九島烈に、響子は若干の怒りを覚えた。

 

「……何か可笑しな事でも?」

「響子もまた随分と彼を気にかけているのだな」

 

 烈はティーカップに手にし、話を続ける。

 

「一応理由を聞いておこうか」

「四葉が動いています。彼が九島家と関係があると知られては不味いのでは?」

 

 説明する響子に対して、烈は退屈そうにカップを口に近づける。

 

「何も困りはせんよ。何時までも隠せるものでもあるまい。それに知られたから九島家が滅ぶという話でもなかろう」

「ですが十師族でもない少年に九島が支援をしていると知れたら……」

「それこそ孤児と言うことで話がつくではないか」

 

 烈は紅茶で喉を潤し話を続ける。

 

「響子、何故彼を気にかける?」

 

 烈の問いに響子は中々口を開かない。響子の質問は冷静に考えてみれば直ぐに分かる。響子がエミヤを守ろうとしていると烈に思わせるには十分な材料だった。

 

「士郎くんは只の高校生です。達也くんのように後ろ盾があるわけではありません」

「そうだとすると余計に我々が彼の助けになるべきではないかね?」

 

 黙り込む響子に、烈が手に持っていたカップをおろす。

 

「……だがまぁ様子を見るのもいいかもしれんな」

 

 烈の一言に響子の表情が一変する。

 

「四ヶ月様子を見るとしよう。その間の情報伝達は響子に任せる」

「……分かりました」

 

 短い期間だが、エミヤを烈から遠ざけるという目的は果たせそうだ。この場を立ち去ろうと腰を上げた響子を烈が引き留める。

 

「覚えておきなさい。()()はいつか彼の助けが必要となる」

 

 大袈裟過ぎる発言を冗談と受け取り、響子は今度こそ席を離れる。魔法師として、祖父として言った烈の言葉の意味を、この時の響子が理解できるはずもなかった。

 

 ○ ○ ○

 

 バトル・ボードは四校のとった自爆戦術をモノともせず、渡辺の圧勝で終わった。達也とレオは競技よりも渡辺の使用した硬化魔法に興味をそそられたようだ。達也と別れ昼食を済ませたエミヤ達は、スピード・シューティングの会場を訪れていた。

 

「幹比古、大丈夫か?」

 

 エミヤの一言で幹比古に視線が集中する。誰が見ても大丈夫かと心配するような顔を浮かべている。

 

「ちょっと熱気にやられてね。気にしないでくれ」

 

 抑揚のない声で言われても納得する者などいないだろう。それどころか、その言葉は何とか休ませようと美月を躍起にさせた。

 

「体調が悪い時はちゃんと休まないとダメですよ!」

 

 美月が幹比古にぐっと近づいて説得し始める。幹比古の体調さえ良ければエリカが茶々を入れそうな距離だが、この時ばかりは誰も余計な事を言わなかった。

 

「ミキ、観念しなさい。それにあんたが倒れたら、それこそ皆に迷惑がかかるじゃない」

 

 それが留目となったのか、ようやく幹比古は白旗を上げた。

 

「部屋まで送ろう」

「……ありがとう」

 

 エリカの言葉が効いているのか先程までの渋りが嘘のように、幹比古はあっさり答えた。

 

「幹比古を部屋まで送ってくる」

 

 エミヤは深雪達にそう伝え、幹比古と共に会場を後にする。

 

「七草先輩の試合を見なくて良かったのかい?」

「予選で一度見ているからな、別に構わんさ」

 

 道中、尋ねてきた幹比古に何でもないようにエミヤは答える。実際エミヤは何とも思っていないのだが、幹比古は気に病んでいるらしい。

 

「気にすることはない。それより君は自身の心配をしたまえ」

「……そうだね」

 

 会話が途絶える。二人はホテルのロビーに入り、幹比古の部屋があるフロアまでエレベーターで昇る。

 

「聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」

「何だ?」

 

 別れを告げようとしたエミヤより先に幹比古が口を開く。

 

「士郎は強さって何だと思う?」

 

 突然の質問にエミヤは目を細める。

 

「……随分と急な質問だな」

「詳しくは話せないけど、昨晩達也に言われたんだ。僕の強さの基準は間違っているって」

 

 はっきり言われたわけでは無いが幹比古はそう解釈していた。何故自分に尋ねるかは、この際エミヤにはどうでも良い事だった。

 

「私にも分からんさ。……だが力だけが強さとは思わん」

 

 エミヤは幹比古に背を向け歩き始める。幹比古はそれ以上何も尋ねる事が出来なかった。

 

 ○ ○ ○

 

 エミヤが雫達の元に戻ってきた時には、決勝が始まろうとしていた。

 

「お疲れさま。遅かったね」

「会場に入るのに少し手間取ってな」

 

 エミヤは雫の隣の席に座る。雫の話によるとエミヤ達が去った後、入れ替わるように達也が来たらしい。

 

「幹比古は?」

「ホテルに着いた頃には大分落ち着いていた。少し休めば大丈夫だろう」

 

 体調の事かは分からないが、達也も幹比古を気に掛けていたらしい。会場が静まり返りカウントが始まる。シグナルが赤から青に変わると同時に複数のクレーが射出された。真由美はスピードと精密射撃で相手を圧倒している。準決勝からは対戦型という事もあり早撃ちの要素が強くなっている。差が広がっていく事に焦りを感じてか、相手のミスが目立つようになってきている。真由美の優勢は誰の目から見ても明らかだった。

 

「そういえば士郎もスピード・シューティングに出るんだっけか?」

 

 レオにエミヤは肯定を返す。

 

「魔法は何を使うつもりなんだ?」

「マナー違反だぞ、レオ」

 

 レオの問いを達也が制す。達也の言う通り、九校戦ではチームメンバー以外が作戦を尋ねるのはマナー違反だ。

 

「そうだな、手品程度には驚かす事ができるだろう」

「そりゃあ楽しみだ」

 

 真由美のスコアが百となり、試合終了のブザーが鳴る。九校戦初日。一校は予定通り、男女スピード・シューティング本選を制したのである。

 

 ○ ○ ○

 

 九校戦二日目。今は真由美のクラウド・ボール決勝が行われているが、エミヤは二日後の新人戦に向けて自身の競技用CADを調整していた。横でカップル、いや婚約者達がいるという状況で。別に乳繰り合っているわけではなく、アイス・ピラーズ・ブレイクの作戦を立ているらしい。

 

「もし優勝したらケーキバイキングに連れてって!」

「考えておくよ」

 

 本気で考えているのかは怪しいところだが、一回戦では直ぐに決着を着けたらしく実力は確かなようだ。

 

「ごめんね、衛宮君。本当は担当員の僕の仕事なのに」

「構わんさ。調整と言ってもCADの最適化だけだからな。こういう事はなるべく本人がした方が良いだろう」

 

 謝罪してくる五十里(いそり)の背中から抱きつくように顔を見せたのは花音だ。

 

「それにしてもCADの調整までできるなんて。……苦手な事とか無いんじゃない?」

 

 無いわけがない。エミヤが敬語を使おうとするとぎこちない会話になる。渡辺との会話を重ねて段々と改善されてはいるが、逆に気持ち悪いと評された。

 

「花音はもうちょっとCADについて詳しくならないとね」

「私は啓が調整してくれるから良いんだもーん」

 

 この婚約者達は何かにつけて戯れないと気がすまないのだろうか。エミヤは頭を痛めつつ、時間を確認する。

 

「あと三十分で試合が始まるぞ。そろそろ移動した方が良いだろう」

「それじゃあ行こうか。衛宮君も来ない?」

 

 断っても良いのだが、CADの調整は終わっているし用事が有るわけでもない。五十里の誘いに応じ、エミヤは二人と共に部屋を後にした。

 

 ○ ○ ○

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクのスタッフ席で最後の打合わせをしている花音達の傍ら、会場を見回していたエミヤはやって来た達也、深雪、雫に逸早く気づいた。

 

「調子はどうだ?」

 

 達也達も気づいていたようで、目の前を通り過ぎるというような事はなかった。

 

「口で説明するよりかは、実際に自分の目で見て貰った方が良いと思ってな。士郎こそどうなんだ?」

「まずまずだな。先程までCADを調整していた所だ」

 

 エミヤは肩をすくめるが、学年次席という実力を鑑みれば準備は整っているのだろうと達也は思った。

 

「衛宮君。僕らもモニタールームに行こう」

 

 五十里がエミヤ達にそう声をかけたのは、ちょうど花音がステージに上がった時だった。

 

 モニタールームには誰もいなかった。四人は入って正面にある窓際に立ち、フィールドを見下ろす。沈黙を破ったのは達也だった。

 

「千代田先輩の一回戦は最短試合だったと聞きましたが」

 

 エミヤと同じように達也も花音の初戦は見ていないようだ。五十里は苦笑しながら言葉を返した。

 

「花音の性格が良くも悪くも表れた試合だったね」

 

 あははっと口にしそうな表情のまま、五十里は達也からステージの花音に視線を移す。

 

「でも、それも花音の魅力なんだよね」

「……始まるみたいですよ」

 

 反応に困ったエミヤ達を救うかのように、試合開始を告げるブザー音が会場に響きわたる。地鳴りが起き、相手選手の氷柱が崩壊する。

 

「あれは地雷原ですか?」

「そうだよ。花音は真下から上下方向の爆発的振動を与える事によって、氷柱を崩しているんだ」

 

 深雪の質問に間髪入れることなく五十里が答える。残りの氷柱が五本となったところで防御に専念していた相手も、攻撃を優先し始める。普通であれば防御に手を回すのだが、花音の陣営にある氷柱はあっけなく倒される。

 

「……成程。この場において、彼女は『攻撃は最大の防御』という言葉の体現者というわけだな」

 

 エミヤに五十里は首を縦に振った。相手の最後の氷柱が音を立てながら倒壊する。達也達と同様、エミヤもこの二人を「お似合い」と評価したのだった。

 

 ○ ○ ○

 

 一旦作戦本部に戻ったエミヤ達を出迎えたのは、重苦しい雰囲気だった。

 

「……どうしたんですか?」

 

 達也が市原に尋ねる。

 

「男子クラウド・ボールの結果が予想外だったので、今後の見通しを立て直しているんです」

 

 何時もと変わらぬ声音で市原は、二年生スタッフから受け取った端末を見ている。

 

「少ないとはいえ、新人戦のポイントも優勝に関わってきますからね。皆さんの活躍、期待していますよ」

 

 市原は話を締め括り他のスタッフの元へと去っていく。花音が女子アイス・ピラーズ・ブレイクの優勝を決めたのは、それから三時間後の事だった。

 

 ○ ○ ○

 

「おかえりー」

 

 部屋に戻った雫を笑顔で迎えたのは光井だ。真由美のクラウド・ボールの試合を見終えたあと、一足先に帰っていたのだ。

 

「千代田先輩の試合はどうだった?」

「凄かったよ」

 

 その言葉の後には「花音の極端な攻撃優先のスタイルが」という続きがあるのだが、光井がこれを遮る。

 

「達也さんもいたんでしょ?」

「……いたよ」

 

 雫は溜め息をつきたくなった。最近の光井は達也ばかり気にしている。昨日の夜も「どうしてバトル・ボードの担当も達也さんじゃないんだろう」という話を延々と聞かされたばかりだ。

 

「そんなに気になるなら、今から達也さんの部屋に行けば良い」

 

 そういうこともあり少々棘のある言い方をする。

 

「そんな事したら、達也さんの迷惑になるかもしれないじゃない!」

 

 光井がこう返すことは、何となくではあるが予想できていた。雫がうんざりしていると、扉が三回ほどノックされる。雫がドアを開けると、そこには深雪とエリカ達がいた。

 

「今から達也くんの部屋に行くんだけど、一緒にどう?」

 

 雫にとって丁度良い話だった。本人に会えば、光井も少しは落ち着いてくれるだろう。

 

「行くわ!」

 

 雫の言葉を奪った形で光井が即答する。とうとう雫は溜め息を堪えきれなくなった。

 

「あとは衛宮くんだけね」

 

 深雪がそう口にし、雫達はエミヤがいるであろう部屋へ向かう。女子と男子のフロアは然程離れておらず、エレベーターを使ったので目的の部屋まではあっという間だった。

 代表して雫がドアをノックする。ドアから顔を覗かせたのはエミヤではなく、森崎だった。

 

「……何故お前らみたいな二科生が、ここに居るんだ?」

 

 森崎は親の仇でも見るようにエリカ達を睨む。雫の目には森崎が四月から全く成長していないように映った。

 

「森崎さん、衛宮君はいらっしゃいませんか?」

 

 君ではなく、さんと言う他人行儀な深雪の口調に森崎が辟易ろぐ。森崎は深雪の機嫌を損なったと思っているのだろう。

 

「衛宮は部屋の変更があって、この部屋には居ないよ」

「何号室かは御存知無いですか?」

「ごめん、僕も知らないんだ」

 

 森崎に礼を言い、深雪達は達也の部屋に向かう。

 

「部屋の変更ってあるもんなんだな」

 

 レオがそう呟く。よく考えると可笑しいのだ。何故部屋の変更がエミヤだけなのか。ほとんど全員が不思議に思っていた。本人に聞けば分かる事なのだが、エミヤはこの場にいない。

 

「達也に聞けば、何か知ってるかもしれない」

 

 幹比古の言葉に全員が頷く。この話を聞いた時、達也が一層エミヤに不信の念を抱いた事に深雪以外は誰も気づけなかった。

 

 ○ ○ ○

 

 九校戦三日目。第二試合に渡辺のバトルボードのレースがあるため、エミヤ達は少し早めに席をとっていた。

 

「そういえば士郎さん、部屋が変わったみたいだけど」

 

 雫は隣にいるエミヤに尋ねる。昨日達也にも聞いてみたのだが、結局分からなかったのだ。

 

「あたしも気になる。何でなの?」

 

 前の席のエリカも身を乗り出して、エミヤに視線を注いでいる。否、エリカだけではなく幹比古達もエミヤを見ていた。動揺することなく、エミヤは予め用意していた言葉を返す。

 

「ホテルに着いた時、受付にCADのプログラムを弄れる部屋が空いてないか尋ねてな」

「それで部屋が偶々空いていたってことか。……でも競技用CADなら一校の作業車でも良いんじゃないかい?」

 

 どうやら雫達も幹比古と同様に考えているらしい。

 

「いや競技用ではなく個人のCADだ。それも少々特殊でね」

 

 エミヤの返答に納得した様子を見せる。第二試合の選手がコースに姿を現した。選手達はサーフボードの上で構えを取り、スタートを待つ。深雪の隣の席が埋まったのはブザー音が鳴る直前だった。

 

「すまん、遅くなった」

 

 達也が席に座ると、それに合わせたかのように選手がスタートを切る。

 

「接戦」

 

 雫の言う通り、渡辺の後ろにはくっつく様に七校の選手がいる。急カーブへと差し掛かったタイミングで、その距離も縮んだ。渡辺が減速したのだ。だが七校選手は減速せず、フェンスに激突しそうな勢いだ。様子が変だ。渡辺もそれに気づいたのか、彼女を庇うように魔法を発動する。後は七校の選手が渡辺の腕に収まれば、それで終わりだった。だが突如沈み込んだ水面に足をとられたのか、渡辺の体勢が大きく崩れる。七校の選手が渡辺に突っ込み、フェンスに衝突する。渡辺は意識を失っているのか、ピクリとも動かない。

 

「行ってくる」

 

 達也は渡辺の元へと走っていく。多くの人が渡辺と七校の選手を見つめるなか、エミヤは水面にじっと目を凝らしていた。

 

 ○ ○ ○

 

 渡辺の病室から出た達也を迎えたのはエミヤだった。

 

「彼女の容態はどうだ?」

「肋骨が折れてはいるが、命に別状はない」

「そうか」

 

 エミヤの表情に変化はない。

 

「気づいたか?」

「……士郎も気づいていたんだな」

「あぁ。あの時の水面の動きは、あまりに不自然だったからな」

 

 事故の直前までバランスが崩れるほどの波は起きていなかった。そこから導き出される事は一つ。

 

「人工的なものだろうな」

 

 問題は誰がしたのかという事である。裏で手を引いている者達については大体の見当がついているが、誰が実行したのか分からなければ対処もできない。

 

「何か分かったら連絡してくれ。私は七校の関係者に話を聞いてくる」

 

 エミヤは達也にそう告げ、病院を後にした。

 

 日が沈み自室に戻ったエミヤはベッドに腰掛け、七校の選手の話を纏めていた。七校の選手は減速魔法を発動したつもりが、実際に発動したのは加速魔法だったと言っていた。試合の後、CADをチェックしたがソフトウェアに問題は無かったとも。エミヤには心当たりがあるが、事後である今確かめる術が無い。

 

 エミヤはベッドに横になり片腕で視界を塞ぐ。闇はすぐそこまで来ていた。

 




先ずは謝罪を。この度は投稿が大幅に遅れて、申し訳ございませんでした。またお待たせしたにも関わらず、今回はエミヤ以外の人物に焦点を当ててばかりで、退屈に感じられた方もいらっしゃるのではないかと思います。誠に申し訳ございません。

次に感謝を。糞駄文量産機(産廃)様、忠邦(^◇^)様、rica様、410様、ミル(*^-^*)様、アウェイン様、もっさんⅡ様、セラ部長様、千歳飴なさはになゆなぬひや様、イベリコ豚29様、奈月様、a092476601様、イリヤ可愛い様、迫真一様、まりも7007様、はたて様、立花・無道様、@ほるひす様、ハミルカル様、ルーカス様、刹那零様、thoma様、太陽は出ているか?様、MA@Kinoko様、八号様、真碧様、zodiac12様、氷霞様、鳥、、、様、リルガルシュ様、nowshika様、ゼロインフィニティ様、赤身様、いたまえず様、サビキ様、塩肉様、唐揚げ が 大爆発様、特製プリン様、小野瀬芳乃様、黒猫のクロ様、クレラップ様、me-00様、赤原矢一様、爆弾人間15号様、コットンライフ様、d'Abruzzo様、Wbook様、びだるさすーん様、kopo306様、村雨紫苑様、弥未耶様、猫のシッポ様、キーアン様、うっかり属性様、frohe様、nearl様、ピザお様、ketsu様、アリサ様、佐波アギトV2様、ゴレム様、痴漢者トーマス様、神皇帝様、レグルスアウルム様、Sushiman91様、本中毒様、かたゆぅ様、めざ氷様、リオンハルト様、海の民の一番槍 みなと様、紅薔薇の夜様、OIGAMI様、高評価ありがとうございます。また感想を送ってくださった方、誤字報告をして頂きました方、読者の皆様にも大変励まされております。本当にありがとうございます。

さて次回からは新人戦が始まります。ようやくエミヤが少しだけ活躍します。作者も「やっと」といった感じですので、読者の皆様は余計にそう感じられる事と思います。

これからも魔法科高校の贋作者をよろしくお願いいたします。

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