魔法科高校の贋作者   作:ききゅう

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入学編
入学編I


<<1>>

 

 2095年、4月。桜が花を咲かせるその季節は、別の世界であっても日本人に門出をもたらすようだ。目の前では真新しい制服を身に纏った多くの人達が、国立魔法大学付属第一高校の正門を潜っている。皆同じような表情を浮かべているが、この学校において彼らは全員が対等であるというわけではない。

 

 この学校では入試の成績が優秀者だった生徒を一科生、それ以外の生徒を二科生と呼んでいるのだが、成績以外の違いは魔法実技においての教職員の有無。それだけである。しかし御丁寧にも二科生の制服では無印であるところに、一科生では八枚花弁があしらわれているという風に制服で一科生か二科生か判別できるようにしてあるのだ。視覚的に見分けがつくおかげかは知らないが、一科生は二科生を雑草(ウィード)、補欠と呼んで見下している。そういう人間の嫌な所も変わらないらしい。

 

 まもなく入学式が始まるとアナウンスが流れる。少し考えすぎたようだ。白髪の男は入学式の会場に向かって歩き始める。彼の制服には八枚花弁があしらわれていた。

 

○○○○○

 

 講堂に入ったのが時間ギリギリだったせいなのか、殆どの席が埋まっていた。それでも前半分に一科生、後ろ半分に二科生という具合に別れていることから、既に一科生と二科生との間に少なからず間隙があると分かる。もし自分が二科生の横に座れば不快に思われたり、気を使わせてしまうかもしれない。そう考え、一科生が集まっている前方へと向かう。

 だが如何せんこの姿だ。浅黒い肌に、白い髪。注目が集まるのも当然といえば当然だった。居心地の悪い視線を受けながら、適当に見つけた空席に腰を落ち着かせる。

 

「……もしかしてハーフ?」

 

 横からかけられた声は、自分に向けられたものだろう。この時代において海外からの入学というのはほとんど無いそうだ。そのことを考慮して聞いたのだろうが、初対面の相手に第一声がそれはあんまりだろう。

 

「……いや、正真正銘純血の日本人だ」

 

 そう答え、横を見る。大人びた顔をした、黒髪の少女。どうやら彼女が質問の主らしい。そして今度は彼女を挟んだ、もう1つ奥の席から声がした。

 

「雫! 初対面の人に失礼じゃない! ……いきなり失礼な事を聞いてごめんなさい」

 

 茶色がかった髪の気の弱そうな顔をした女生徒は横の少女をそう(たしな)め、こちらに謝罪してきた。

 

「気にすることはない。聞きたくなる彼女の気持ちも分からなくもないからな」

「本当にすみません。……私、光井ほのかって言います。この子は……」

「北山雫」

「……衛宮士郎だ」

 

 会話の流れでそう名乗らざるを得なかったが、かつての自身の名前を語るのは少々違和感がある。そんなことを思っていたが、いざ式が始まると違和感も消えていった。

 

○○○○○

 

 入学式が終わり、IDカードの交付が始まる。どうやらカードで自身のクラスを確認するようだ。クラス発表の紙を廊下に貼り出すという行事は、とうの昔に過去の物となっているらしい。自分の手元にもカードが回ってくる。

 

「士郎さんは何組だった?」

「A組だ」

「それじゃあ私たちと一緒」

 

 そんな会話を雫と交わしていたが、ほのかは心此処に非ずというような感じで落ち着きがない。

 

「光井は何を気にしているんだ?」

「……きっと深雪さんの事」

 

 そう言われエミヤはあぁ、と声を漏らす。新入生代表の答辞を行った女生徒のことだ。新入生首席。おまけに結構な美少女ときた。大方、彼女のカリスマ性に心惹かれたのだろう。だが綺麗な薔薇には棘があるということを忘れてはならない。彼にはかつての経験(赤い悪魔)と、彼女について知っている事がある。

 

「私はもう帰るが、君達はどうする?」

「……もう少しほのかに付き合うつもり。時間もあるし」

「そうか。では、また明日」

 

 そう言い残し、エミヤは帰路に就いた。

 

 

 

 

「二度目の学生生活を経験した気分はどうかね?」

 

 エミヤが自宅に帰りついたタイミングを見計らったかのように、秘匿回線を用いて九島烈は電話をかけてきた。余程の急事だろうと思って出てみたのだが、そうでも無いらしい。

 

「二度目も何も私の知っている物とはだいぶ違うのだから、当然新鮮さはあるさ」

「そうか。ならば当分の間、君を飽きさせることは無いだろう」

 

 電話越しに九島は笑みを浮かべる。しかし、これがわざわざ秘匿回線を用いるほどの本題というわけでもなかろう。

 

「それで本題は何だ」

「君はもう四葉の人間を見たかね?」

「妹の方はな。長男の方は未だだ。それがどうかしたのか?」

 

 四葉の人間の動向に注意してほしいという話は既に聞かされている。

 

「少し気になることがあってな……」

「見たといっても答辞の時だけだ。話せるようなことは何もない」

「……そうか。ではまた日を改めて聞くとしよう」

 

 通話はそこで終わり。既に画面に九島は映ってはいない。それにも関わらずエミヤは、少しの間何かを考えるかのように画面の前で立ち尽くしていた。

 

○○○○○

 

 入学式の翌日。1-Aの教室に入ると少なからず好奇の視線を感じたが、多くの生徒はそれどころではないらしい。新たな学友と交流を深めるのに必死なのであろう。そんなことを考えながら、自分の席に座る。右から2列目の先頭。そこが彼の席だ。話す相手も特にいないので受講登録をしようと端末を立ち上げると、後ろから肩を叩かれる。

 

「士郎さん、おはよう」

 

 振り返ると雫と、光井。そして初対面のはずの司波深雪が立っていた。

 

「……おはよう。君と会話するのはこれが初めてだな、司波さん。衛宮士郎だ」

「初めまして、衛宮くん。もうご存知かもしれませんが、司波深雪です。呼びにくいのなら、司波で構いませんよ?」

 

 そう言って微笑を浮かべるこの少女を注意深く観察するが、これと言って怪しい点はない。

 

「そうか。では遠慮なく司波と呼ばせてもらおう。……それで何か用かね?」

 

 司波との簡単な挨拶を終え、雫にそう尋ねる。

 

「深雪さんを紹介しようと思って。……それに皆、士郎さんと話したがってる」

 

 意外だった。辺りを見回せば、多くの人と目が合う。この見てくれだ。怖がられているものだとばかり思っていたのだが、そうでもないらしい。エミヤは短く息を吐き、近くにいた生徒にこう語りかけた。

 

「先に言っておくが、私はハーフではないぞ?」

 

 その一言は多くの生徒に驚きをもたらした。彼がクラスに馴染むのに、そう時間は掛からなかった。

 

 

<<2>>

 

 上級生の授業風景を見学し終えた後、エミヤは雫達のグループと別れ他のクラスメイトと食事をしていた。趣味や得意魔法を聞かれ、その返答1つ1つに彼らは驚いてくれた。

 

「あっ、司波さんたちだ!」

 

 誰かがそう言ったことで食堂に入ってきた司波達に自然と注目が集まる。彼等は何か二科生と会話をしているようだが、雰囲気が穏やかではない。耳をすませると、どうやら司波と食事を取りたがっているA組の生徒が、二科生は彼女と相席するのに相応しくないなどと侮辱しているようだ。

しかしエミヤが気にしているのはその事ではない。司波が相席しようとした相手である。司波がお兄様と呼んだあの青年こそが司波達也だろう。そろそろ誰かが手を出しそうだというタイミングで、その彼が席を離れる。3人ほど彼の後を追うが、深雪は彼とは逆の方向に進む。その表情は暗かった。

 

○○○○○

 

 放課後、窓のレールに埃が溜まっていることに気づいたエミヤは教室内の掃除に力を注いでいた。校内にもHARが設置されてはいるが、やはり細かい所の掃除まではしてくれてないらしい。掃除を終え、ある種の達成感を得たエミヤが昇降口をでると、校門の近くで複数の男女が騒いでいる。よく見ると、昼間食事の時に言い争っていた一科生と二科生が睨みあっていた。

 

「全く、呆れる奴等だ」

 

 話を聞かずとも状況が分かってきた。兄と帰ろうとした司波をA組の連中が引き留めたのだろう。そして嫌がる司波を説得しようと、二科生に喧嘩を売るような発言をした。大体そんな所だろう。他人事のように考えながらその集団、より正しく言うのなら校門の方へと近づいていく。

 

「どれだけ優れているのか知りたいなら教えてやるぞ!」

 

 口論がヒートアップしてきた所で、森崎駿がそう口にした。その言葉に対して二科生の男子が、更に挑発するかのように応じる。

 

「だったら教えてやる!」

 

 遂に怒りを抑えきれなくなったのだろう。森崎が特化型CADの銃口を二科生に向けた所で、エミヤはもう無視できなくなった。非はA組の連中にあるにも関わらず、相手を二科生だと侮り手を出す。その姿は高校生というよりは我が儘な餓鬼と言うべきだ。ここからの距離ならほんの少し力をだしても魔法だと誤魔化せるだろう。森崎がCADの引き金を引いて魔法式を構築し始めたタイミングで、エミヤは仲裁に入った。

 

○○○○○

 

「少し落ち着いたらどうだ?」

 

 その白髪の男は突然現れた。森崎の右腕を捻り、彼のCADを取り上げた状態で。まるで瞬間移動をしたかのように気づいたらそこにいたのだ。達也の眼をもってしても、そう視えたのだ。森崎は捻られている右腕が痛むのか、歯を食いしばっている。

 

「彼らに理があるのは明確だろう。君らがまた日を改めるべきではないのかね?」

「……二科生の肩を持つのか?」

「肩を持つも何も、傍目から見れば君らは駄々を捏ねる子供のようだったが?」

「……」

 

 森崎が黙りこむと、男も手を離し森崎を解放する。

 

「知り合いが失礼したな。そこの君も得物を収めてくれないか?」

「は~い」

 

 そう言われたエリカもCADをおさめる。生徒会が騒ぎにかけつけたのは、そんな毒気が抜かれたタイミングだった。

 

○○○○○

 

 司波達也が生徒会の役員を言いくるめた後、森崎達は謝罪もせず噛ませ犬のような台詞を残してその場を去っていく。残ったA組のメンバーは深雪、光井、雫、エミヤの4人だけだった。光井と雫が達也達の前にでて謝罪を始める。収集がついたのなら、自分に出る幕はもうない。そう思いエミヤもその場を後にしようとするが。

 

「衛宮くんもありがとうございます!」

 

 突然光井からかけられたその言葉に背中がむず痒くなった。できれば一刻も早くその場を去りたい。しかし。

 

「よろしければ衛宮くんもご一緒しませんか?」

 

 追い討ちをかけるように深雪もそう提案してくる。雫も何も言いはしないが深雪と同じ事を考えているらしく、じっとエミヤを見つめている。遂に彼は断ることができなかった。

 

 

 帰り道、最初こそ微妙な雰囲気だったがCADの話で盛り上がるとそんな雰囲気も薄れていった。

 

「そういえば士郎くん、あのタイミングでよく止めに入ったよねー。最初から見てた一科生はだんまりを決め込んでたのに」

 

 千葉エリカがエミヤにそう声をかける。

 

「不祥事になった際に何故止めなかったと聞かれるのも面倒だからな」

 

 皮肉げにそう答える。きっと素直になれないんだろう。その場のほとんどの者がそう思った。だが達也は先程から気になっていることがあった。

 

「そういえば気づいたら森崎の背後に現れたけど、あれは何の魔法だ?自己加速術式ではないだろう?」

「……あぁ、あれは疑似瞬間移動とでも言うべきものだ。もっとも、加重・収束・収束・移動の四工程に加速を加えたものだから、理論さえ分かってしまえばあとは干渉力の問題だ」

 

 成程、と相槌を打つ。達也にはエミヤの言葉が嘘だと分かっている。想子も魔法式の発動も、達也には視えなかったのだ。それに達也は疑似瞬間移動の欠点を知っている。だからこそ、あの魔法が疑似瞬間魔法などではないとわかる。少なくとも自分の知りうる魔法に、疑似瞬間移動の速さを越える魔法は存在しない。達也はその未知の魔法の正体が知りたかった。あの速さを魔法以外で話を片付けることもできない。だがエミヤの返事からすると、これ以上は聞いても無駄なのだろう。話は近くのケーキ屋の話へと移り、駅に着いたところで解散となった。

 

 

 その夜。司波家ではエミヤの名前が話題に上がっていた。

 

「衛宮くんですか?お話しできるようなことは無いと思いますが……」

 

 達也の質問に、深雪は申し訳なさそうにそう答えた。奇しくもその会話は、昨日のエミヤと九島の会話と似通っている。だが深雪には何故達也が彼を気にかけているのかが分かっていなかった。

 

「彼の魔法が一切感知できなかった」

「そんなっ……!」

 

 彼女が驚いているのは達也の精霊の眼(エレメンタル・サイト)をもってしても分からなかったという事である。兄の能力の事は深雪もよく理解しているつもりだ。だからこそエミヤの異常さが理解できた。

 

「念のため、師匠に調べてもらうように頼んでおく」

 

 そこでエミヤの話は終わり、司波家にはいつもと変わらぬ時間が流れた。

 

 

○○○○○

 

 司波家が夕食の時間を迎えた頃、エミヤはIHヒーターの前で司波兄妹のことについて考えていた。特に達也について。

 

 おそらく彼だけはエミヤの説明を信じていない。だが魔法と疑うしかないはずだ。あれ程の速さは体術を極めたものであっても、単なる身体能力のみで出せるものではない。しかし今後は彼の前で魔法以外の力をだすのは控えた方が良いだろう。それにしても未だ九島が警戒するほどの力を司波兄妹は見せていない。なるべく彼らと行動した方が何かと都合が良い。エミヤの思考は、意外にも沸騰して泡を溢しはじめた鍋によって遮られてしまった。

 

 

<<3>>

 

 次の日。駅から学校へ向かっていると偶然にも達也達を見かけた。生徒会長と話をしているのだろうが、心なしか気まずい空気が流れているかのような雰囲気だ。声をかけずに通りすぎた方が無難だろう。そう思い彼らの横を通りすぎた、その時。

 

「1-Aの衛宮士郎君ですね?」

 

 最近は後ろから声をかけられる事に随分と慣れてしまった。そんなどうでもいい事を考えながら、振り返る。

 

「何か御用ですか?生徒会長殿?」

「先輩と呼んでもらって構いませんよ、衛宮くん」

 

 人当たりの良さそうな笑みを浮かべて、こちらに向かってくる。七草 真由美。第一高校の生徒会長であり、数字付き(ナンバーズ)・七草家の長女。そんな彼女が自分にいったい何の用だというのか。

 

「今日のお昼はどう過ごすおつもりですか?」

「特に用もない……ですが?」

 

 一応という表現は可笑しいが立場上、彼女は上級生である。敬語を使うべきだろう。

 

「じゃあ生徒会室に来てもらってもいいですか? 少しお話があります」

「……分かりました」

 

 何の話かは分からないが、忙しいわけでもない。断る理由もないだろう。エミヤから返事を聞いた七草はその場を後にする。そのすぐ後、達也達から昼に相談されるであろう内容を聞かされたエミヤは、ため息をつかずにはいられなかった。

 

 

 

 そして迎えた昼休み。達也と合流したのは良いが足が重い。それは達也も同じようで、エミヤには深雪が何故機嫌が良いのか理解できなかった。生徒会室の扉の前についた彼らを代表して深雪がドアホンを押す。スピーカーから歓迎の言葉が返されると、達也が戸を引き、深雪、エミヤ、達也の順番で部屋に入る。何故か入ってすぐ深雪が、エミヤが感心するほどのお辞儀を披露した後、ようやく指示された席に座る。

 

「お肉とお魚と精進、どれがいいですか?」

 

 真由美の問いかけに対し達也と深雪が精進を頼み、エミヤは弁当があるのでと断った。

 

 達也達の料理を待っている間、真由美が生徒会のメンバーと風紀委員長を簡単に紹介していく。副会長以外は全員がこの場に揃っているようだ。ダイニングサーバーから出てきた料理を書記の中条が並べ終え、会食が始まる。

 

「そのお弁当は渡辺先輩がお作りになったのですか?」

 

 そう深雪が話題を持ち出し、会話が生まれる。私が作るのは意外か?、とか、私たちも明日からお弁当にしましょうか、だとか。そして当然、弁当を持参しているエミヤにも話の矛先が向いた。

 

「そのお弁当は衛宮くんが作ったものか?」

 

 達也に弄られた気晴らしになのか、意地が悪そうな表情を浮かべて渡辺がエミヤに尋ねる。大方、恋人に作ってもらったと思っているのだろう。渡辺にとっては残念だがエミヤ自身が作ったものだ。渡辺お望みの展開にはならないだろうと思っていた。

 

「そうだ……そうですが?」

 

 しかしエミヤが敬語に抵抗があることに気づいたのか、渡辺は新しい玩具を見つけた子供のように目を輝かせる。

 

「上級生に向かってその口の聞き方は感心しないな。……さぁ話を続けたまえ、士郎くん」

「くっ……!」

 

 余程悔しかったのだろう。ほらほらーとにやけ顔で続きを促してくる渡辺に、エミヤは苦虫を噛み潰したような表情をしながら何度も言い直している。そんなエミヤを可哀想だと思ったのか、真由美が渡辺にストップをかける。

 

「もう止めなさい、摩利。衛宮くんが困ってるじゃないの」

 

 そう言いはしたが、渡辺とエミヤのやり取りを最も楽しんでいたのは彼女だ。そして渡辺はといえば、随分と機嫌がなおったのか清々しい表情をしていた。

 

「すまなかったな、士郎くん。少しからかいすぎた。……代わりにと言ってはなんだが、先輩とさえ呼んでくれれば無理して敬語を使う必要はないぞ」

「……ありがとうございます」

 

 エミヤのその言葉には、感謝の念などほとんど籠っていなかった。

 

「では本題に入りましょうか」

 

 話の内容はこうだ。新入生総代を務めた一年生には毎年生徒会の役員になってもらっている。そして今年は、深雪にその機会がきたというわけだ。だが深雪は兄である達也の方が相応しいと生徒会に推薦した。達也にとっても深雪のこの行動は予想外だったらしい。

 

 それに対し、会計の市原鈴音はそれは出来ないと答える。不文律ではなく規則だとも言った。市原はまだ話の続きがあるらしい。

 

「もし仮に司波さんが辞退しても、次席である衛宮くんにお願いすることになるだけです」

 

 何と言ってもこの男、次席なのである。ペーパーテストに不安は無かった。問題は実技だ。九島烈の言った高校生レベルの魔法と言うのは九校戦で決勝を競うほどのもので、この男はそうとは知らずに聞いていた高校生のレベルで実技試験を受けたのである。

 

 閑話休題。深雪は彼女の説明に納得したのか素直に謝罪し、生徒会の役員となることになった。話が終わったようなので、エミヤは教室に戻ろうと思い立ち上がったのだが。

 

「ちょっといいか?」

 

 風紀委員長である渡辺が手をあげる。

 

「生徒会選任枠のうち、風紀委員会の前年度卒業生の一枠はまだ埋まってない」

「それは今から衛宮くんに相談しようって決めてたじゃない」

 

 この委員長のもとで働くことになるなど御免だ。そう思っていたのだが、渡辺が質問という形で確認を重ねていくうちに彼女の言いたいことが理解できた。つまり二科生は生徒会の役員にはなれないが、風紀委員会の役員になることは出来るということだ。

 

「ナイスよ、摩利!」

「では私は辞退することにしよう。達也、しっかり頑張れよ」

 

 達也が風紀委員になる方向で話が進んでいく。最初は反論していた達也も今では雰囲気に流されている。

 

「そろそろ昼休みが終わるな。放課後、またここに来てくれ。士郎君もだぞ」

 

 何故辞退した自分までまた来なければならないのか。そんな事を考えながらエミヤは生徒会室を出た。

 

○○○○○

 

 放課後。深雪達が生徒会に入室してから少し遅れてエミヤが入ってきた。

 

「実力に劣る二科生(ウィード)では風紀委員の役目に耐えられません!」

 

 そう言っていた服部副会長はこちらに気づいたのか、エミヤの方へと歩みでる。

 

「それに今日の朝までは、風紀委員の補充には衛宮君を任命するという話だったではないですか!」

 

 どうやら服部はどうしても達也を風紀委員にしたくないらしい。だが服部の発言に対して直ぐに反論が出る。

 

「士郎君はすでに辞退している。それに実力にも色々あってな」

 

 そういって渡辺は達也の実力を服部に言い聞かせる。達也が起動式を読み取れること。それが未遂犯に対する抑止力になること。話を聞いた服部は、ひどく動揺しているようだ。それでも服部は達也が風紀委員となることを認めたくないらしい。

 

「待ってください!」

 

 今度は深雪が服部に反発し始める。実戦であれば達也は誰にも負けないというのだ。彼らが隠している事について知っていなければ、とんでもない身内贔屓だと思うのが普通だ。だからこそ服部は、目を曇らせてはいけないと教え諭したのだ。だがその言葉が深雪の神経を逆撫でしたのか彼女は更に捲し立てる。そんな深雪を手で制し、達也が服部の前に移動する。そして彼は誰も予想もしなかった方法で反撃に出る。

 

「俺と模擬戦をしてくれませんか」

 

 

○○○○○

 

 エミヤ達は生徒会室から移動して第3演習室に来ていた。彼らの目の前では、達也と服部が向かいあっている。渡辺が達也と言葉を交わし、こちらに戻ってくる。

 

「達也君は服部に勝てると思うか?」

 

 渡辺のその質問に対し生徒会の全員が、辛うじて善戦するかどうかと答えた。対して深雪とエミヤは達也が勝つと答えた。深雪はともかく、エミヤが勝つと答えた時には渡辺も驚きを隠せなかった。

 

「士郎君は何故達也君が勝つと思うんだい?」

「……あいつは勝てる勝負しかしないタイプの人間だ。負けると分かっていて勝負を吹っ掛けるほど愚かではないだろう」

 

 士郎の答えを聞いた渡辺は、達也と服部に模擬戦のルールを説明し始める。既にどちらも準備は整っているようだ。2人とも渡辺の合図を待っている。

 

「始め!」

 

 勝負は達也の勝利というかたちで直ぐに決着がついた。生徒会のメンバーは一瞬で服部が敗れるなど想像してもいなかったせいなのか唖然としている。

 

「待て」

 

 達也は呼び止めた渡辺の問いかけに対してしっかりと答え、彼女に続くように質問してきた生徒会の役員達にも丁寧に対応していく。特に達也のシルバー・ホーンという名の特化型CADにはエミヤも興味を引かれた。服部も意識を取り戻したのか、少しふらつきながら深雪に謝罪をする。

 

「士郎」

 

 何も言わずにその場を去ろうとしたエミヤに達也が声をかける。

 

「巻き込んで悪かったな」

「……気にすることはないだろう。私が断った事がそもそもの原因だ」

「お互い様というわけか」

 

 達也の視線を感じながら、エミヤは第3演習室をあとにした。

 

○○○○○

 

「これが大体のあらましだ」

 

 エミヤは九島に今日の事を話していた。

 

「聞いていた通り、確かにただの高校生の技量ではない。だがそれほどの脅威だとも思えん」

「今のところはな。だが四葉の魔法師がただの魔法師であるはずがなかろう」

 

 九島の話は尤もだ。

 

「今後も彼らには気を付けておこう」

「頼むぞ。……ところで君はブランシュという名の組織を知っているかね?」

「……あぁ、反魔法団体の事か」

 

 反魔法国際団体ブランシュ。彼らは魔法能力による社会差別の撤廃を掲げてはいるが、その行いはテロリストと何ら変わりはしない。日本で知名度が低いのは報道規制が敷かれているからである。

 

「知っているのなら話は早い。ブランシュのエガリテという下部組織が第一高校で何かを企んでいるようだ」

「……待て。何故そのことを知っている? まさかとは思うが、彼女に調べさせたのか?」

「彼女がたまたま知り得た情報を、教えてもらっただけだ。君が心配するようなことは何もない」

 

 九島はエミヤに親切にしてくれている。偽の戸籍を用意し、こうして住む所まで与えてくれた。だが何か企んでるのではないかと疑いたくなる行動が多々ある。今この瞬間もそうであった。

 

「……そうか。その件も気にかけておこう」

 

 彼らの会話はそこで終わった。いつもと唯一違う事といえば、エミヤが先に通話を切ったことだった。




先ずはお礼をさせて頂きます。6/1においてルーキー16位、日間(加点・透明)1位、日間(加点)42位に入りました。全て読んでくれている皆様のおかげです。ありがとうございます。高評価を頂いた陸奥 響様、pepemaruga様、気まぐれな星様、ビリヤード依存症と竜月様、einelaod様、氷霞様、なっとう様、感想をくれた皆様には励まされております。本当にありがとうございます!

お礼をさせて頂いたので次は謝罪を。あまりにありきたりな展開になってしまい大変申し訳ないです。途中まではエミヤ君をカウンセラーとして書いていたのですが、原作キャラとの絡みが少なくなってしまい無理矢理な感じが否めなかったので学生とすることにしました。

愚作だと自覚はありますが、これからも魔法科高校の贋作者をよろしくお願いします!

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