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日が再び東から顔を出し大会七日目となった。新人戦四日目の今日からは花形競技であるモノリス・コードとミラージ・バットの新人戦が始まる。そのミラージ・バットは始まったその日に決勝戦まで終わってしまうのだが。
新人戦ミラージ・バットに出場するのは光井と里見スバルの二人。そのエンジニアが担当した選手が負けなしの達也である辺り、本選出場どころかこのまま不敗神話を創り上げてしまうかもしれない。モノリス・コードも三高という強敵はいるがチームにはそれなりの実力を持った森崎がいる。上手く対処していけば良い所まで行くだろう。
そんな事を思いながらエミヤは雫と二人でミラージ・バットの会場に向かっていた。時計が示す時刻は朝の七時半。ミラージ・バットは他の競技よりも一時間早い午前八時から第一試合が始まる。雫の話によれば光井は六時半に部屋を出て行ったそうだ。
「雫、眠くないか?」
「大丈夫。昨日はぐっすり眠れたから」
エミヤは昨日の疲れが残っているのではないかと気を使ったのだが余計な心配だったようだ。一方雫としては今日からまたエミヤと一緒に観戦できる事が少し嬉しかった。中学生の頃の自分であれば単純な女だと思っているだろうが、好きな人が横に居ればという話は強ち嘘でもないらしい。
「士郎さんは朝に強そうだよね」
「普段からの習慣のせいか、何時も同じ時間に起きてしまうからな。苦労はないさ」
会話をしながら二人は会場の入口を抜け最前列の席に座る。突然雫の胸ポケットで何かが振動する。震源の携帯端末をみると深雪からもうすぐ合流するとの連絡が来ていた。
「深雪、もうすぐ来るって」
「そうか」
恐らくは達也の付き添いだろう。控え室から客席へ向かうだけなら五分と掛からない筈だ。雫とモノリスコードの試合の順位予想をしているとあっという間に五分が経ち、深雪が姿を現す。
「おはよう、深雪」
「おはよう、雫。衛宮くんもおはようございます」
「おはよう司波」
この挨拶の流れも今や定型文に乗っ取ったモノとなった。エミヤと雫は九校戦では新人戦を除いて殆ど一緒に行動しているし、学校での席順も二人は前後。何時もと違う事があるとすれば光井がいない事なのだが、彼女は今ステージで最終確認をしている。一つの会場に集まるという点からすれば、やはり何時も通りなのかもしれない。
埋まり始めた客席が間もなく競技が始まることを知らせる。そろそろ彼女達も来ていいはずなのだが。エミヤがそう思っていると
「ゴメン! 遅くなった!」
肩で息をしながらエリカ達はエミヤ達の横に腰を下ろす。美月は苦しそうに脇腹を抑え、幹比古は呼吸を整えようと深呼吸をしていた。
「皆、走ってきたの?」
深雪が尋ねると呼吸が落ち着いてきたエリカが首で答える。エリカにしろ幹比古にしろ、走らなければならなくなる程時間に余裕を持たない質ではない。
「何かあった?」
雫の疑問に一番通路側の席で誰かが顔を背けたのをエミヤは見逃さなかった。
「レオ、何か知ってるのか?」
薄々気づいていたがエミヤは態とらしく口にしてみせる。言葉を投げられ、振り返ったレオは居心地の悪そうな表情をしていた。
「いやー、ちょっと――」
「ちょっとどころか起こしに行っても中々起きなかったじゃない、このバカ!」
言い逃れようとしたレオをエリカは目を吊り上げ睨みつけ、思いっきり足を踏みつける。ソールで踏んでいたのでヒールよりは増しのはずだが、レオが痛そうに足を擦っているのをみると余程エリカの力が強かったのだろう。
「何すんだ、このアマ!」
「それはこっちの台詞よ! アンタの所為で御飯は食べれなかったし、走らないといけなくなるし! 朝からもう散々よ!」
エリカの言う事は尤もなのだが、レオは引き下がらずに「でもよ」と口にする。それがエリカの気に触れたのか、彼女は再び足を上げ。
「でも、じゃないっ!」
そして今度はヒールでレオの足を踏む。レオは痛みのあまりに
○ ○ ○
光井とスバルは他の追随を許さないスコアで予選を通過した。エミヤと雫、深雪はエリカ達と別れ一高の本部テントに戻っている。
今から行われるのはモノリス・コードの第二試合。フィールドが近ければ観戦にも行けたのだが、一高の対戦フィールドは会場が最も遠い市街地。わざわざ会場に足を運ぶよりもモニター越しで見た方が色々と都合が良いという三人の総意で、一高の天幕を訪れたという次第である。
「森崎くん達は大丈夫でしょうか?」
「チームは成績上位者から集められているからな。心配ないだろう」
クラスメイトであるエミヤは森崎の成績を知っている。先月行われた学期末試験では十位に入っていており、彼の友人達は森崎を祝っていたが当の本人が悔しげに下唇を噛んでいた姿が印象的だった。
「……成績上位者なら士郎さんもでしょ?」
雫が思った事は当然と言える。「何故次席の士郎さんが出ていないの」といったニュアンスを含んでいる事は明らかなのだが、エミヤは何も答えずモニターに視線を固定している。普段しっかりとした受け答えをする分、何も語らないのが却って怪しい。
「士郎くんは断ったのよ、モノリス・コードのメンバー入り」
優しく澄んだ声の持ち主は雫の横に座る。仕事が一段落ついたのか、このまま真由美もモノリス・コードを観戦するようだ。真由美は態とらしく頬に片手を当て如何にも困ったような仕草をしてみせる。
「最初は士郎くんが選ばれてたの。それを誰かさんが余計な事するから……」
「聞こえてるぞ、真由美」
テントの奥から渡辺が出てくる。渡辺の怪我も大分良くなったようで完治したと本人は言い張っているが、達也からは未だ医者のゴーサインが出てないとエミヤ達は聞いていた。彼女はエミヤの背後に座ると、背中合わせにエミヤへと体重を預ける。
「あたしも士郎くんに脅されたんだ。俺をメンバーから外さないと……ってね」
「まぁ怖い!」
真由美と渡辺は即席にも関わらず息ぴったりの茶番劇を披露する。思えばこの二人が揃う時は風紀委員会の勧誘にせよ、エガリテによる放送室占拠の時にせよ大抵陸でもない事が起きる。悪者に仕立てられたエミヤは白けた目を二人に向けるが真由美達がそれを気にする筈もない。
「……モノリス・コードは気が進まなくてね。辞退したんだ」
渡辺達の茶番に付き合わずエミヤは深雪と雫の二人に自分の口から辞退した旨を伝える。エミヤが視線をモニターへと戻すとその横で桐原が腕を組んで面白そうに、服部は哀れむように此方を見ていた。これ以上見世物にされるのはエミヤの望むところではない。
「そういえば達也はどうしたんだ?」
「夜の決勝戦に向けて、少しお休みになるそうです」
やや強引に話題を逸らしたエミヤに追撃は無い。雫が何処か消化しきれていない表情をしていたのは見間違いだろう。
競技開始時刻となりスピーカーからサイレンが鳴る。その直後、森崎達のスタート地点である廃ビルが崩壊を始めた。予想さえしていなかった展開に一高のテントにも緊張が走る。たった今まで森崎達を映していたライブカメラも機能していない。
モニターの映像が切り替わり、崩壊したビルに救助隊が乗り込むシーンが映し出される。
「皆、とりあえず落ち着いて。リンちゃん、運営委員会から何か連絡は?」
「映像の通り、一高のスタート地点として設定されていた廃ビルが崩壊したようです。三人とも救助されましたが重症。今から裾野基地の病院に緊急搬送すると」
冷静な行動をとる真由美と市原に周囲の生徒も氷解したように動き出す。渡辺も詳しい状況を把握する為に運営委員会の本部へと向かうようだ。
「範蔵くん、私は病院に行くので少しの間此処は任せます」
服部は彼女の言葉に頷くと周囲の生徒達の指揮を執る。一通りの指示を終えた真由美はエミヤを正面に見据えた。どうもエミヤに頼みたい事があるらしい。
「士郎くん、一緒に来てくれないかしら。森崎くん達の目が覚めた時に、誰か知り合いが居た方が良いと思うの」
「分かった」
「……私も行きます」
横で立ち上がったエミヤに一息遅れて雫が名乗りを上げる。真由美は雫を一瞥するだけに止まり、天幕の外へと足早に身を進める。雫も彼女に続こうと足を出口に向けたが、振り返り深雪へと顔を向ける。
「深雪はどうするの?」
「……私はここでお兄様を待つわ」
「確かにその方が良いだろう」
深雪の答酬を聞いた雫達は今度こそ出口へと歩を運ぶ。チラリと振り返った時に見えた深雪の表情が、稍冷たく感じたのは多分雫の勘違いだろう。
森崎達の手術が終わったのはそれから二時間後の昼時の事だ。半世紀前の医療技術であれば二時間では済まなかっただろう。担当医師から簡単に説明を受けた真由美は、森崎達の介抱をエミヤ達に頼み本部テントに帰っている。
その彼女からエミヤの端末にメッセージが届く。状況の整理がついたのだろう。テキストを開いたエミヤは雫を傍に呼び寄せ、彼女にも文面を見せる。
「ビル崩壊の原因は破城槌……? 破城槌は屋内使用が禁止されているはず」
「おまけに開始直後に使用されている事を考えれば、試合前から森崎達の位置を知っていたのだろう」
「でも四高の関係者全員がCADに破城槌は入れていないと主張してるって……」
四高の主張が真実であるなら、誰が魔法式を展開したのかという話になってしまう。CADの補助無しで破城槌を発動した可能性もあるが、そんな事ができるなら元から最下位になどなっていない。
「士郎さん、これって渡辺先輩の時と――」
「あぁ、似ているな」
バトル・ボードの決勝で渡辺が重症を負うことになった事故。原因は七高の選手の危険走行と処理されたが、七高の選手も四高の関係者と同様の発言をしていた。偶然と考えるのは軽忽だ。
「これって運営委員が関与しているんじゃない?」
「恐らくな。だが吹聴するのは控えた方が良い。証拠がない以上、疑心暗鬼や混乱を招くだけだからな」
それに犯人に逃げられでもすれば、今年は良くとも来年以降また同じような事が起きないとも限らない。それにエミヤの考えが正しければ、今回の事件は単なる工作員ではなく魔法師によるものだ。反撃もあり得る相手に生徒が迂闊に手は出す事態は避けた方が良い。
「うっ……。こ、こは……?」
病室にエミヤと雫以外の掠れた声が響く。森崎が目を覚ましたようだ。顔の半分を包帯で覆われ左目には眼帯をしている。右目だけで現状を把握しようと首を左右に捻ろうとするが激痛が森崎を襲った。
「会場近くの病院だ」
エミヤはベッド脇のリモコンで僅かにリクライニングを起こす。森崎は焦点が合っていなかったのか目を細めては開いていたが、雫とエミヤの姿を認識すると直ぐに瞼を下ろした。
「何があったかは覚えてる?」
「……瓦礫の下敷きになった、としか」
意識ははっきりしている。北山の問いにも答えられているし、
「事故当時の話を聞きたいんだが、想子は直前まで感じられなかったという事で合っているか」
「あぁ、感知した時にはもう遅かった」
「他には何か気づかなかった? 試合開始前に四高選手が策敵したとか」
「いや、なにも……」
森崎は沈んでいく夕日が眩しいのか目を眇める。聞きたい事はあるが、彼にも色々と考える時間が必要だろう。エミヤと雫は森崎に別れを告げ、音を立てず病室の戸を閉めた。
真由美と森崎の話を鑑みるに、破城槌は座標があらかじめ指定されていたと考えられる。何者かが四高選手のCADに座標指定を終えた待機状態の破城槌を入れ、四高選手が想子を送ると発動し一高選手をリタイアに追い込む。これが今回の
容易に工作員が判明するとは思っていないが、このまま蒲魚ぶるつもりもエミヤには無い。エミヤは携帯端末を出し、連絡帳からある人物にメールを送った。
○ ○ ○
人命に関わる事故があったというのに、大会委員会はモノリス・コードを中止にはしなかった。委員会は選手による暴走と四高に責任転嫁しているが、入念な検査をしていれば未然に防げたという鋭い意見には未だ回答をしていない。ただ他校にとっては他人事でしかないようで、ミラージ・バットの決勝戦が近づくと後の対応を克人に任せる形となった。
時刻は十九時を過ぎている。朝にも目にした衣装がより鮮やかに見えるのは目が疲れているせいなのか、将又照明のせいなのか。競技とはあまり関係のない事を考えていたエミヤは、ブレイクタイムのブザーでステージで跳躍していた友人へと意識を戻される。
光井もスバルも汗は流しているが、他校の選手ほど疲れてはいない。これは他の選手の持久力が無いわけではなく二人が異常なのだ。光井たちの実力もあるのだろうが、サポートが達也という所が強く影響しているのだろう。
「光井、圧勝だな」
レオは退屈なのか、それとも疲れが溜まっているのか欠伸交じりにそう漏らす。今回で二回目になるブレイクタイムだが既に半数が棄権し、残っているのは一高と三高の選手の四人。点差も残るラストピリオドでフルスコアでなければ逆転は無い。現時点で優勝校は確定しているが、多くの生徒が宿舎に帰らないのはステージで戦った選手達に敬意を表してだろう。
「どうしたんだ、雫?」
雫が光井に慈愛の眼差しを向けている事に気づき、エミヤは不思議そうに尋ねる。
「ほのか、楽しそうだなって」
二人の視線の先にいる光井の表情は確かに楽しそうで、そして嬉しそうだ。その横で達也が時々相槌を打ち、少し困ったような笑顔で彼女に何か話をしている。エミヤも薄々勘付いていたのだが、そういった事情なのだろう。
「……光井のエンジニアが達也で良かったな」
エミヤが肘掛けに右手を乗せると雫の目がそれを捉え、その上に自身の左手を添えようとする。雫の中で導き出された答えは、”エミヤが自分の気持ちに気づかないのなら気づかせれば良い”だ。過度な接触は精神的に難しいが、手を繋いだり思わせ振りな行動を続ければ例え朴念人であろうと何時か気づくだろう。
だが雫にとっては空気を読めていないタイミングで、エミヤの携帯端末が短い振動を繰り返す。彼女の行動が数秒早ければ重ねることのできた右手には、携帯端末が握られていた。雫は何事もなかったようにスッと手を引っ込める。
エミヤはディスプレイに表示された二件の新着メールを開く。一つは予定通りのもので響子からで内容も急を要するものではない。そしてもう片方は克人からだった。
「悪いが会頭に呼び出された。試合が終わっても戻らなければ、皆とホテルに帰っておいてくれ」
「……モノリス・コードの件?」
「おそらくな」
本文を見たエミヤは席から立ち階段を上る。エミヤは最終ピリオド開始のブザーを背に出口へと姿を消した。
一高の作戦本部は天幕とは別に宿舎の十二階の会議室に設置されている。メッセージの内容が間違っていなければ克人はそこで待っているはずだ。扉の前に立ったエミヤは強めにドアをノックする。
「入れ」
「失礼……します」
言葉の合間に少し時間があったのは中にいた人物が克人一人だけではなかったからだ。五十里や服部、桐原が窓際に立ち奥中央に克人が座っている。男子しかいないのは真由美達がミラージ・バットの決勝に行っているからだろう。
「まぁ座れ。服部達も遠慮するな」
克人の一声にエミヤ達もそれぞれ着席する。克人と対面する形になったのはエミヤが無意識に下座を選んだせいだ。
「服部達には少し話したが、一高は新人戦モノリス・コードを棄権しない。選手を交代して出場する」
「選手の交代は――」
「それは例外的に認められた。……衛宮、いい加減腹を括れ」
克人はエミヤがしらばっくれていると思ったのか途中で遮り、遠回しに言いたい事を伝える。エミヤもその意味を正しく理解していた。最初の選考の時にはエミヤが選ばれていたのだから、自分が代わりに選ばれるのは妥当だと彼自身も半ば諦めている。
「……了解した。それで他のメンバーは?」
「一人は考えている。お前にはその説得を頼みたい」
「その一人とは?」
克人が話をすれば誰でも首を振りそうなものだが、エミヤは断りそうな人物に一人覚えがあった。エミヤが友人であるといっても彼の説得は容易ではない。それどころか理屈を並べて断るだろう。
「司波だ」
克人の口から出た名前は、エミヤの予期した通りのモノだった。
それから十五分後、達也を連れ立って真由美が会議室に顔を見せた。その十五分の間に渡辺や生徒会役員は顔を揃えていた。中央の長机を囲むように立っている上級生やエミヤを回視しながら、達也は室内に足を踏み入れる。
室内には勝ち続けているにも関わらず緊張感が漂っている。ただ涼しそうな顔をしている同級生はそういった事には無頓着のようで、達也のアイコンタクトに彼は両肩をあげ、左の口端を鮮少上に曲げた。
「達也くん、今日はお疲れさまでした。選手達が存分に実力を発揮できたのは、達也くんのサポートがあってこそです」
「ありがとうございます」
浅く頭を下げた達也に、真由美は中々本題を投げかけない。彼女が本題に入らないのは、達也にこれ以上負担を掛けても良いのかと彼女自身の中で躊躇いが有るからに他ならない。そんな彼女の心中を忖度したのかは定かではないが、代わりに克人が話を切り出した。
「疲れている時に悪いが、お前に頼みがある」
「……何でしょうか?」
頼みという単語で何となく自分が呼び出された理由に見当がついてきた。自分の見込みが間違っていなければ、エミヤがこの場にいる事にも納得がいく。
「司波、お前には森崎達の代わりに新人戦に出てもらいたい」
「……選手が負傷しても交代は禁止されているはずですが?」
「大会委員会との協議の結果、特例として認められた」
克人も達也も顔色を変えない。ただ無機質に言葉を交わすだけ。おかげで空気が先程よりも重くなったように感じる。
「何故、自分が抜擢されたのでしょうか? この場にいる衛宮を考慮しなくとも、一年には未だ選手がいるはずですが」
「試合に勝てる人選をしただけだ。不満か?」
克人の刺々しい言葉に五十里や中条の顔が氷漬けにされたかの如く固まる。真由美もこうなる事を予期していたようで、克人に視線をぶつけていた。
「不満も何も自分は選手ではなくエンジニアです。他に選手がいるのに二科生の自分が選ばれるのは、一科生にとって不愉快な話だと思いますが」
達也の言う通り、彼が試合に出れば一科生から其れなりの反発が起きる事は目に見えている。しかしこのままでは一科生よりも先に、達也と克人の間に確執が生まれそうだ。期せずして克人自身、こうなる事を分かった上でエミヤを説得役として置いたのかもしれない。
「どちらかというと彼等は達也が断ったという事の方が不愉快だろうな」
「……どういう意味だ?」
エミヤの言葉に素朴な疑問を抱いたのか達也の口調が柔らかくなる。
「簡単なことだ。生徒会長達が頭を下げて頼んだが司波達也は断ったという話と、二科生の司波達也が負傷した選手の代わりにモノリス・コードで優勝したという話。一科生が憤慨するのは前者だろう?」
「……それは脅しか?」
「そんな仰々しいモノではない。後者にしろ元々一科が二科生の事を
エミヤの言葉に服部は下を向き、渡辺は呆れたように笑みを浮かべる。だが出場しても達也には何の益もない。
「勿論良いこともある。優勝すれば君に向けられた蔑視も嫉妬に変わり、妹の気も大分落ち着くだろう」
確かに入学してから達也は深雪に何度も肝を冷やされた。それに深雪の精神的健康面からも今の状況が続くのは、ストレスが溜まり悪影響だ。その回数が減ると言うのは達也にとって悪くない提案だ。
「正直に言えば私以外の選手は疲労が溜まっていて、競技に出るのは身体的に厳しいらしい」
「……俺には最初から一つしか選択肢が無かったということか」
達也は態とらしく息を吐き出し、白旗を揚げる。
「分かりました。できる限りの力を尽くします」
達也の了解を得て、会議室を支配していた緊張感が一気に和らぐ。中条と五十里は特に顕著で二人とも胸を撫で下ろしていた。
「それで、あと一人は誰ですか?」
達也の声で再び克人へと視線が集中する。真由美達も知らないようで克人の言葉を待っている。
「衛宮、司波。お前達二人で決めろ」
「……私より達也の方が詳しいだろう。任せたぞ」
エミヤが先手を打ったことにより達也に判断が委ねられる。第三者から見ればエミヤが達也に面倒事を押し付けているようにしか見えなかったが、達也はこれ幸いと口を開く。
「本当に自分が決めて宜しいんですね?」
「あぁ。頼んだ以上、我々もある程度譲歩せねばならんだろう」
克人の返事に達也は僅かに頬を上げた。
「ではE組の吉田幹比古を」
「えっ……? チームメンバーからじゃないの?」
「構わん。説得は必要か?」
真由美を制し、克人は達也達に協力的な姿勢を見せる。達也は首を横に振り、エミヤの方へと体を向ける。
「その必要はないでしょう。仮に自分の説得に応じなくとも、士郎が居ますから」
「……そうだな。士郎くんがいれば問題ないだろう」
達也に続き渡辺も底意地の悪い笑みをエミヤに向ける。エミヤとしては何処か納得いかなかったが、克人達の表情から満場一致という雰囲気を感じると口から出てきたのは溜め息だけだった。
先ずは謝辞を。UAが30万を突破、お気に入り登録者数が6千人を越えました。嬉しさのあまり明日あたり因果逆転の槍に刺されに行きそうです。読者の皆様、本当にありがとうございます!
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さて漸く九校戦も終わりが近づいて参りました。読者の皆様におかれましては「エミヤ無双まだかコラァ!」といった感じと存じますが、作者も「早く九校戦終われコラァ!」といった感じですので少々お時間を頂戴頂きたく。
これからも魔法科高校の贋作者を宜しくお願い致します!
次回は一週間後の10月29日頃を予定しております。