まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report2-4 [人を守る炎]

[Report2-4 人を守る炎]

 

ガブは約束を破り、コラッタ集団を襲いかからせた。

スゥ達二人は逃げ出すが、ファルナはガブとのバトルでかなり疲れが来ているのか

思うように走ることが出来ない。

 

ファルナ「ス、スゥ…ごめん、しんどい…!」

 

スゥ「くっ…、それはそうだよな…

  あっ!そうだ戻れっ、ファルナ!」

 

ファルナ「!」

 

スゥは昨日から全く使っていなかったモンスターボールの事を思い出してポケットから取り出した。

ファルナの輪郭が赤い光になり、ボールの中に吸い込まれる。

 

スゥ「なるほど、便利なボールだな。ちょっとボールの中で我慢しててね、ファルナ。」

 

子分達「逃がすかーっ!!」

 

スゥ「うわッ!」

 

スゥは一人のコラッタのたいあたりを受けて転んでしまった。

 

ファルナ「スゥ!」

 

ファルナがボールの中から叫ぶ。

 

カジ「おい人間、昨日はよくもやってくれたなっ!今日はにいちゃんまで!

   お前らも同じ目に遭えよっ!」

 

他の子分達が次々に追いつき、スゥを取り囲んだ。

 

スゥ「…」

 

「ねえ、人間さん。あんたあの子がいないと全然弱いんだねーっ!」

「きゃはは~弱い弱いっ!」

 

スゥ「つうっ!」

 

ファルナ「!!」

 

倒れているスゥにコラッタ達が寄ってたかって襲ってくる。

スゥはファルナの入ったボールを庇うように地に伏せてコラッタ達に蹴られていた。

背負っている荷物で自分の体も守ろうとしているが、コラッタの数が多すぎで防ぎきれない。

 

「昨日から俺らの縄張り荒らし回りやがって!こいつ!」

 

スゥ「うぐっ!」

 

ファルナ「っ!!スゥ!私を出して!私が戦うから!!」

 

「だ、そうだよ。どうするんだー?人間!」

「疲れてるその女の子を戦わせちゃう?しょうがないよねー。人間って弱いし!」

 

スゥ「ぐあっ!」

 

ファルナ「お願い!スゥ、私を出してよ! ねぇ、スゥ!」

 

スゥ「ゲホッ

  …無理だよ。

  こんな時にお前を出せるわけ無いだろ!

  ボールの中なら安全だから…。絶対に守ってやるからな!」

 

ファルナ「大丈夫だよ!こんな奴ら倒してやるから!!

   このままスゥがやられてるの見たくないよ!!」

 

「ふんっ。カッコつけてんじゃねーよ!何も出来ないくせに!」

 

スゥ「…っう…」

 

一回一回の攻撃は耐えられる程度だったが、

流石に積み重なって限界が来ていた。

スゥの声が徐々に小さくなっていく。

 

ファルナ「ねぇ…スゥ…グスッ…

   みんなお願い、もうやめてよ…!」

 

スゥ「…

  おい、お前ら…、昨日ポッポの女の子を襲った覚えはあるか…?」

 

ファルナ「グスッ…スゥ?」

 

カジ「ああーん?何だいきなり。

 

  …そういや昨日の朝だったかなぁ?俺達の縄張りの中でちょろちょろと鬱陶しいポッポが一人でいたなー。

  あいつ、僕たちのモモンの実を勝手に食べようとしてたからさー、やっつけて追っ返してやったよ。」

   

ファルナ「…!!ツムジちゃん、こいつらに!」

 

スゥ「…カジ、お前達がやったんだな…!」

 

カジ「その後にさ、お前らが来てボクにひどい事してくれたんだよね。

   だからお前らが今こうなってるのも自業自得…ギャんッ!!」

 

スゥは立ち上がりざま力任せにカジを殴り倒した。

人間にやられるとは思っていなかったカジには相当なショックだったようだ。

アザだらけでよろける体を何とか支えながらカジを怒鳴るスゥ。

 

スゥ「やっぱりお前らか!!

  あのポッポはな、そのケガのせいで凄く弱ってたんだっ!

  木の実ならこの辺りにはたくさん有るだろ!

  あんな小さい子にまで襲い掛かって、勝手に縄張りだとか言って独り占めしてるだけじゃないか!」

 

カジ「ひ、ひいっ!

  な…なんだよ人間!そんな事、お前には関係ないだろ!?

  ボク達が縄張りを作るのなんか、強い者の勝手だ!

  立ち上がるな!倒れてろよーっ!!」

 

スゥ「うわっ!」

 

カジは泣きべそをかきながら全力でスゥに体当たりで攻撃した。

支えるのがやっとの脚で攻撃に耐えられず倒れるスゥ。

彼が手から離さないボールの中で、ファルナはじっと怒りを燃やし続けていた。

決心したように、力強い口調で、もう一度彼女はスゥに言う。

 

ファルナ「この人達っ…許せないっ!!

   スゥ、お願い!私を出して!

   私が、絶対にこのコラッタ達からスゥを守るから!!」

 

…その瞬間、ぼぅっ!…とファルナは自分の体が熱くなるのを感じた。

動けない体のスゥにも、手の中のボールから温かさが伝わってきた。

 

ファルナ「!?

   熱いのは…私の体…?」

 

スゥ「ファルナ、どうしたんだ…?

  ボールが暖かいけど…」

 

カジ「何ごちゃごちゃ話してるんだよ!」

 

スゥ「ぐッ…っ!」

 

ファルナ「信じて!」

 

スゥ「…わかった!行くよ!」

  どけっ、お前らっ!!」

 

スゥは残っている僅かな力でコラッタ達を払い除け、囲まれていた中から抜け出した。

 

「う、うわわっ!」

「こいつっ!」

「逃がさねーぞっ!」

 

スゥ「っはあ、はぁ…

  いけっ!ファルナ!」

 

スゥはボールを上にかざし、ファルナを出した。

その小さな体で堂々と、凛として佇む彼女。

心から嬉しそうな声で、一言だけスゥに言った。

 

ファルナ「ありがとう、スゥ!」

 

カジ「はははっ!やっと出した!結局そいつに頼るんだね、人間!

  …って、あれっ?」

 

「この人数が相手で勝てると思ってるの~?あーあ、その子がカワイソ~。

 …ん?何あれ?」

 

スゥ「!!…ファルナ、その髪!

  燃えてる…のか?」

 

その場の全員が、ファルナの赤く輝く髪に目が行った。

ファルナの長い後ろ髪に沿って炎がたぎり、髪先でゆらめいている。

 

ファルナ「スゥ、見て!これが私の炎だよ!」

 

ファルナが炎を帯びた髪に手を沿わせると、手のひらに炎の塊が握られた。

 

カジ「な、何だよそれ!?

  お前、そんなの昨日なかっただろ!?」

 

「な、なんかヤバいんじゃないの・・・?」

 

ファルナ「みんな!

   スゥと、ツムジちゃんに酷い事した分、まとめて返してあげる!!」

 

スゥ「そうか、ボールが暖かかったのはコレなんだ。

  ファルナ!…えーと…」

 

スゥは急いで図鑑の【ヒトカゲ】のページを開いた。

そこに記録されている新しい技、【火の粉】。

 

スゥ「炎の技だ!

  いけっ、ファルナ!火の粉だ!!」

 

ファルナ「やあっ!!」

 

ファルナは手に持った炎の球をコラッタ達に向かって投げつけた。

炎の球が飛び散り、技の名前の通り「火の粉」となってコラッタ達に降り注ぐ。

 

「うわっ!!」

「あちっ!あちちっ!!」

「ひいっ!逃げろっ!!」  

 

カジ「お、おいお前らっ!?」

 

スゥ「火の粉!」

 

カジ「…へっ?」

 

ファルナ「もう一つ!!いけーっ!」

 

ボオッ!と音を立てて今度はカジにだけ集中して火の粉が襲いかかる。

 

カジ「!!あちぃっ!あつつっ!!

   ひぃっ!くそっ!覚えてろよーっ!!」

 

カジ達は火が着いたままぴょんぴょん飛び跳ねて逃げ帰っていった。

 

ファルナ「な、何とかみんな…追い払えた…」

 

ファルナは急にその場に倒れてしまった。

炎を纏っていた髪は輝きを失い、元の姿に戻っていた。

スゥは倒れそうな体を引きずり、ファルナの身を心配する。

 

スゥ「ファルナ!」

 

ファルナ「え、えへへっ…大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ。

   スゥ、どうだった?すごかったでしょ?」

 

スゥ「すごく強かったよ、おかげで助かった!

  …どうして突然火が使えるようになったんだ?昨日も火を怖がってたのに。」

 

ファルナ「スゥのおかげだよ!」

 

スゥ「え、そうなの?」

 

ファルナ「昨日、スゥが教えてくれたでしょ。"人を守る火もある"って!

   コラッタ達がスゥを襲っている時、スゥを守らなきゃ!って…

   そう思った途端に『炎』が出たの。」

 

スゥ「ファルナ、ありがとう。

  炎が使えるようになってよかったね!おめでとう。」

 

ファルナがあれ程怖いと言っていた炎を、自分を守る為に使ってくれた事がスゥは嬉しかった。

 

ファルナ「うん!私を信じてくれてありがとうね、スゥ。

   私がきっと炎を使えるようになるって信じてくれて!」

 

スゥ「ん?

  …ん、まあね。」

 

スゥは照れているのかソッポを向きながら短い言葉で返した。

 

ファルナ「えへへ♪」

 


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