まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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未だ昏睡したままのファルナに、冷静さを欠いていたスゥ。
彼は襲われいている人間達を保護する作戦を提案するも、
その行動がかえって人間に危害を加えかねない、とノン、カスミに一蹴される。

アクアの嘆願もあり、スゥは今の騒動の対処を
ひとまずは全面的にノン達に任せ、自分はファルナの悪夢を取り除く事だけに専念した。

そんな状況の中、優に50人を超える錯乱したポケモン達が、容赦なくノン達を襲う。

アクアとスターミーの展開する防壁も、
慣れない『常時』『広範囲』展開により、精神力を大きく消耗し、長くは持たない。

ノンは、ジリ貧なこの戦況を打破すべく反撃に打って出る。



Report6-11[悪夢のダンスパーティー[3]]

「防壁が破られるのは時間の問題か…!

 こっちも攻勢に入るぞ、ボルカ!

 …それと、メルティ!!」

 

 

ノンは彼のポケモンであるボルカを名指す。

ボルカだけではない。

スゥの元で、ファルナを案じながら見ていたメルティを呼んだ。

 

まさか自分の名前を呼ばれるとは思っていなかった彼女は、

驚いて耳をピンと立て、ノンに答える。

 

 

「わ、私ですか!?」

 

「ああ!お前と、ボルカに頼みたい事がある。

 この状況を突破する『主戦力』になって欲しい。

 …頼む、俺達に力を貸してくれ!」

 

 

真剣な表情で頼むノンに、メルティはスゥ達を気にしながらも

迷っている時間は無いと判断し、頷く。

 

 

「わかりました!私に出来る事なら…!

 ボルカさんと一緒に、一体何をしたらいいんですか?」

 

 

その質問に、ノンはメルティとボルカを交互に見ながら答える。

 

 

「見ての通り、アクアとスターミーは防御で手一杯だ。

 恐らくこの防壁もそう長くは持たない。

 お前達には、攻撃してくるポケモン達を『気絶』させてほしい。

 相手の数が多くて危険なのは重々承知だが、すまない。

 しかし、お前達の2人なら…」

 

 

ノンの言わんとする事を理解したボルカ達は、声を揃える。

 

 

『貰い火…!』

 

 

2人の言葉に、ノンははっきりと頷く。

 

以前、ハナダシティのゴールデンボールブリッジで、

初めてボルカとメルティが戦った時の事を改めて語る。

 

彼らは互いに、炎を吸収して攻撃力を大幅にアップする『貰い火』の特性を持つ。

その戦闘力は、ノンとスゥの2人が見ても恐ろしく感じ、バトルを中断する程。

現にその戦闘の後、ボルカとメルティは自身の火力に耐えられず怪我をしてしまった。

 

自滅のリスクを承知で、その戦力が欲しい状況だとノンは2人に説明する。

彼の説明を聞いた2人は、顔を見合わせて戦闘態勢に入る。

 

 

「わかりました。やりましょう、ボルカさん!」

 

 

「応!!

 …あ、その…だな。

 メルティ殿、『お手』を…し、失礼する…!」

 

 

おずおずと、控え目に自分の手を差し出すボルカ。

彼の手を、メルティはすかさず掴む。

 

2人の手から生み出される炎。

それらが共鳴し合うように、髪や尻尾に纏う炎が青く変化した。

 

互いに炎を吸収し合い、『貰い火』が発現している。

それを確かめたノンは、ボルカ達に号令した。

 

 

「サポートは、ツムジとサイに任せる!

 …行け!!ボルカ、メルティ!!」

 

 

彼の号令とともに、青い炎を散らしながら爆けるように駆け出した。

 

アクア達の展開する防壁…その『安全圏』を抜けて

ボルカとメルティは操られたポケモン達がひしめく中に飛び込んだ。

 

 

「…っ、何て数!!

 …でも!!」

 

「…今の我々の敵ではない!!」

 

 

溢れ湧く力と闘争心。

本来は好戦的ではないメルティでさえ昂っている程だ。

 

四方八方から乱れ撃たれる打撃、斬撃、砲撃の隙間を縫うように

二つの青い弾丸が戦場を駆け抜け、瞬く間に5人、10人と地に伏せていく。

 

 

「…すごいな。ボルカ一人じゃ、こんな戦いは出来ない…

 『貰い火』で強くなってるのも有るが、

 それ以上にメルティとの呼吸が上手く合ってるのが効いてるんだ…」

 

 

ノンが一人、口元に手を当てながら呟く。

 

ボルカとメルティはまるで示し合わせたかのような呼吸の合い方だ。

ボルカの背後から斬りかかってくるポケモン。

それをメルティが瞬時に蹴り飛ばす。

 

数人に捕まり、身動きが取れなくなったメルティに

ボルカが『火の粉』の威嚇で隙を作り、逃す。

 

得意技、『火炎車』を互いにぶつけ合い、爆発的な加速で戦場中を跳び回る。

 

どの行動も、互いの状況や動きをよく見合ってサポートし合うもの。

これを猛烈なスピードの中、ボルカとメルティは各自で判断して動いているのだ。

 

 

「このコンビネーション…一度、バトルでやり合ってるからか?

 それとも、ペアでダンスの練習したから…?

 …

 っと、そんな事を考えている場合じゃないな!」

 

 

容赦のない攻撃を放ってくるポケモン達。

メルティ達は『貰い火』による闘争心に支えられ、

それらに怖気づかず立ち向かっている。

 

持ち前のスピードと、大幅に攻撃力が向上した炎を纏う2人だが、それでも相手の数は圧倒的。

数の暴力による、処理しきれない攻撃がメルティ達を襲う。

 

 

「サイ、メルティを『テレポート』で転送!!

 ツムジは『吹き飛ばし』でボルカを守れ!」

 

 

避けきれない攻撃に、身を固めて防御の姿勢を取っていたメルティ。

直撃を受けるかと思った瞬間、彼女は『テレポート』により攻撃の無い場所に移動させられた。

 

一方、ボルカの方も敵に囲まれていたのだが

ツムジの巻き起こす旋風により、突破口が開けられる。

 

 

ノンは素早いボルカ・メルティ達の動きを目で追いつつ、

彼らの危険を回避するため、サイとツムジに指示を出していた。

 

その姿を見ていたカスミは、苦笑いしながら呟く。

 

 

「…はあ、よくもまあ、あんな複数のポケモンに指示出来るものね。

 どの子の状況も、良く見えてる……

 スゥとは違うタイプだけど、やっぱりノンも凄いわ。

 …って言うより、トレーナー的に『正統派』に優秀なのはノンの方かしら。

 スゥの方は少し『変則的』だものね。」

 

 

ノンが今相手にしているのは、数十人という膨大な数の敵。

しかも、メルティ・ボルカ・サイ・ツムジの4人に同時に指示を出さなければならない状況。

 

そんな状況にもかかわらず、ノンはボルカ達が被弾しないよう、

敵の場所、安全地帯、サポートすべき技…

それらを判断しながら立ち回っている。

 

ジムリーダーであるカスミさえ、舌を巻いてしまう程に

ノンの広範囲における状況判断は優れていた。

 

 

そんな彼らの戦いぶりは、スフィアにとって意外だったのか

僅かに驚きの表情で戦場を見渡していた。

 

 

「…へぇ。凄いじゃないのボウヤ達…

 この数を相手にして、何とか戦えてるなんてねえ。

 『ステージ1』の兵隊には到底真似できない芸当よ。

 非力なガーディとポニータ如きで、大したものね。」

 

 

そう呟くものの、この期に及んでもまだスフィアの余裕は崩れない。

 

 

「……さあ、じゃあもう少し『難易度』を上げちゃおうかしら。

 これならどう?」

 

 

スフィアは催眠術で操っているポケモン達に向かって、指をパチンと鳴らす。

その途端、錯乱して技を繰り出す者たちの表情が、更に険しいものに変化した。

 

表情だけではない。

 

戦いには不慣れなはずのポケモン達が、

自身のキャパシティを明らかに超えたスピード、攻撃で襲ってくる。

 

先程までより一段と手強くなった攻撃。

 

応戦しているボルカとメルティの被弾が少しずつ増えていく。

 

 

「あっ、ぐっ…!!」

 

「こ、この者達…まるで『命を削って』いるような攻撃を…!!」

 

 

ボルカの言葉の通り、襲ってくるポケモン達は

自らの体を傷める事を顧みず、無理な体勢、威力、急転回など、高負荷な立ち回りをしている。

 

ノンもこの状況の変化に焦り出し、苦々しい表情を浮かべた。

 

 

「マジかよ…!!

 くそっ、これ以上長引くと皆も無事で済まない!

 早く気絶させてやらないと、自分達の技で大怪我を負ってしまう…!!」

 

 

操られたポケモン達の身を心配しつつも、

彼らの攻撃、スピードが激しくなった事で、メルティ達への指示で精一杯な状況。

 

いくら高速戦闘での状況判断に長けた彼でも、正確な指示が難しくなってきた。

 

加えて、メルティ達の被弾する頻度が上がってしまった事で、

彼女ら自身も疲労・ダメージの蓄積が見える。

『貰い火』による高揚…ドーピングの状態でさえ、明らかに動きが鈍くなっていた。

 

 

徐々に劣勢に追い込まれていくノン達を見ながら、スフィアは楽しげに笑う。

 

 

「ふふふ…

 ちょっとだけ難易度を上げてみたけど、もう音を上げちゃいそうね。

 …こんな有様じゃ、人間達を守るのも手薄になっちゃうわよ?」

 

 

そう言うと、彼女は一部のポケモン達を、

アクアとスターミーが展開する『防壁』への攻撃に向けさせる。

手一杯な状態のノンは、これを防ぐ手段が無い。

 

一段と威力の上がった攻撃の連打が、光の防壁を歪ませる。

 

 

「…………も、もう……………」

 

「……限界………です………!!」

 

 

これまで、流れ弾を防ぐために広範囲に防壁を展開し続けてきたアクア達だったが、

本格的に攻撃を受けることで、『殻に籠る』と『リフレクター』の複合バリアに亀裂が入る。

カスミは苦しそうな二人を励ますも、アクア達の精神力・体力は限界に来ていた。

 

そして…

 

 

パリンッ!!

 

 

…と、呆気なくガラスが割れるような音を立て、防壁は消滅してしまった。

 

自分達を守る壁が消えた事で、保護されていた人間達は再びパニックに陥る。

慌てふためき、逃げ場が無い事を分かっていながら逃げ惑う者。

恐怖のあまり、茫然自失している者。

これまでか…と覚悟し、肩を落として立ち尽くす者。

 

 

防壁が消えても尚、操られたポケモン達の攻撃は止まらない。

アクアとスターミーは体力の限界で床に伏せ、

主人であるノン、カスミを守り切れない事に、ただ悔やむばかりだった。

 

ボルカ、メルティ、そして2人をサポートしていたツムジ、サイも

自分達が相手取るポケモン達への対応で精一杯。

とてもではないが、人間達を守る余裕など無かった。

 

 

万事休す。

襲いかかるポケモン達の攻撃を防ぐ手段はもう無い。

 

そう誰もが思っていた時だった。

 

 

 

「ファルナ!!『火炎放射』!!

 ピコ、『電気ショック』!!」

 

 

 

全ての攻撃を飲み込む、猛烈な火炎。

そして突撃してくるポケモンを一瞬で行動不能にさせる、激しい電撃。

 

ノンとカスミ、そして他の者達も、その火炎と電撃が放たれた方向を見やる。

 

 

「スゥ!!

 アンタ、ファルナを起こせたのね!!」

 

「……全く、遅いぞ。

 待たせた分、しっかり働いて貰うからな!」

 

 

その先には、悪夢から目覚め、自身の脚で力強く立つファルナ。

そして、彼女の身を案じる必要が無くなり、攻撃に転じられたピコ。

 

アクア達の防壁が破られる一歩手前、ようやくファルナが目覚め、

スゥはファルナとピコに迎撃の指示を出していたのだ。

 

 

「ありがとう、ノン、カスミ。

 それに、みんな!」

 

 

スゥはメルティ達が戦い、そしてアクア達が防壁を張って

自分達を守ってくれていた状況を把握し、全員に感謝を告げる。

 

しかし、まだ長話できる程の余裕は無い。

 

人間達への攻撃は一旦弾き返したものの、依然としてメルティ達は

大勢のポケモン達を相手取り、苦戦している。

 

スゥは急いで、ファルナに次の指示を出す。

 

 

「ファルナ!!

 もう一発、火炎放射を…最大火力で!

 狙う先は、メルティとボルカだ!!」

 

 

「え、二人に…?

 ……あっ、そっか!!

 メルちゃん!ボルカさん!『受け取って』!!」

 

 

『味方』に火炎放射を振りまく。

そんな彼の指示に一瞬戸惑うファルナだったが、何を意図しているものか理解し、

指示の通りメルティ達に火炎放射を放った。

 

 

「あっ!

 ファルナちゃん……!やっと起きたんですね!」

 

「そ、それは良いのだが、何故彼女は我々を攻撃…

 いや……そうか!!」

 

 

ゴウゴウと燃え盛る、ファルナの最大火力がメルティ達に迫る。

彼女らも、その火炎放射の意図を理解した。

 

そして、避ける事なく直撃を受ける。

 

 

「っ!!」

 

「ぐおっ……これは…凄いな!!」

 

 

火炎放射に身を包まれた瞬間。

メルティとボルカが纏う青色の炎が、爆炎のように更に激しく燃える。

 

…ファルナの最大火力を『貰い火』によってすべて吸収し、

更に炎が強化された姿となった。

 

 

「ファルナ殿の火力、これ程とは!

 まるで炎の鎧を身に着けたような…」

 

「ええ、それに何だか、とても炎が馴染みます…

 あたたかい…!」

 

 

尽きかけていた精神力が、もう一度漲ってくるメルティ達。

 

先程まで劣勢だった彼女らは、再び戦場を駆け巡る。

蓄積したダメージ、疲労を物ともせず。

 

彼女らは、火力だけではなく『速度』も大幅に向上していた。

最早ノンの目でも、それらの姿を追う事が難しくなる程。

 

 

「こ、この威力とスピード…!!

 威力は『貰い火』の効果だが、なぜスピードまで…!?」

 

 

貰い火により強化されるのは、火炎の威力のみ。

闘争心の向上により、多少のスピードアップは得られるものの、

今のメルティ達のように、飛躍的に上がる事は考えられない。

 

ノンの疑問を拾うように、傍にいたレヴィンが言う。

彼女は、メルティ達の戦いぶりを見ながら、瞳を輝かせて興奮している。

 

 

「…あれは、『ニトロチャージ』ネ!!

 きっと、ファルの炎を溜め込んだ余力…

 それを『足元』で爆発させて加速してるんです!

 凄い凄い!!

 こんなハイスピードバトルを見せられちゃったら、

 ミーは、ミーは……ああ…!!」

 

 

頬を紅潮させながら、ハアハアと息を荒くして話すレヴィン。

この状況に似付かわしく無いような、艶っぽい仕草。

まるで情事に及ぶ時のような興奮の仕方だ。

 

彼女の異様な反応を訝しげに見るノンとカスミだったが、気に留めている場合ではない。

そうしている間にも、『ニトロチャージ』により加速したメルティとボルカは、

閃光のような速さで残りのポケモン達を片付けてしまった。

 

 

 

________________________________________

 

…そうして、騒乱のパーティー会場に一時の静寂が訪れる。

 

 

スゥもノンやカスミ達に合流し、皆で同じ方向を睨む。

 

 

その先には、相も変わらず悠然と、壊れたピアノに腰かけながら脚を組むスフィアが居た。

そんな彼女の姿を見て、スゥとノンは敵意を込めた言葉を投げる。

 

 

「…お前、よくも好き放題やってくれたな…!

 皆を催眠術で苦しめて…ファルナまで……!!」

 

「いつまで余裕ぶっているつもりだ?

 お前のご要望通り、踊ってやったんだけどな。

 もう終わってしまったぞ?

 …随分退屈なダンスパーティーも有ったものだな!!」

 

 

そう言うと同時に、スゥ達はスフィアに対して攻撃を指示する。

 

ファルナの『火炎放射』、ピコの『電気ショック』。

そしてアクアとスターミーの『バブル光線』、

ボルカの『火の粉』、メルティの『炎の渦』、ツムジの『竜巻』…

現状、戦えるポケモン達の最大火力を誇る攻撃が、一斉にスフィアに向けて放射された。

 

 

「ふふふ……

 そう焦らないの、ボウヤ達。

 『フィナーレ』は、これから。」

 

 

笑みを崩さず、スフィアは襲い掛かってくる砲撃に掌を向け、巨大な黒いオーラを形成した。

その様相はノンの記憶に新しく、カスミにとってはよく見慣れたもの。

『サイコキネシス』の仮想腕だ。

 

 

「だから、少しお静かに。

 …ねっ?」

 

 

そう静かに言葉を放ち、仮想腕で攻撃を一掴み。

まるで造作も無く、スターミー達の一斉攻撃を握り潰した。

 

 

平静を保ったままのスフィアとは対照的に、スゥ達は戦慄する。

戦闘で疲労しており、万全では無いとはいえ

ジムリーダーのポケモンであるスターミーと同等の力をもつ者達の全力砲撃なのだ。

その一つ一つの威力は、並大抵のものではない。

 

それらが束になっていたにも関わらず、たったの一掴みで消滅させられた。

 

あまりに自分達の常識からかけ離れた現象に、スターミーやアクア達も愕然とする。

 

 

「………嘘………!!」

 

「そ、そんな…!

 一体、何なんですか、今のは…!」

 

 

皆の絶句した姿を見て、スフィアは指を軽くひと舐めして微笑みながら言う。

 

 

「…ふふ…

 中々いい攻撃だったわよ?…だけど、まだまだね。

 もっともっと、美味しく実ってもらわなくちゃ。」

 

 

そう言って、彼女はチラリと外を見る。

砕け散った大きなガラス窓の跡。

 

そこから遠くに見えるのは、クチバシティの誇る港街の夜景。

無数の橙色ランプが並ぶ街並みだ。

そして、月明かりが照らす真っ暗な海。

 

ザァ…ザァ…と、静かに揺れるさざなみの音。

 

そんな美しい夜景に、しばし見惚れるスフィア。

微塵にも、スゥ達の事を脅威として捉えていない様子だ。

 

 

隙だらけの彼女だったが、スゥ達は全く手出し出来ずにいた。

ファルナ達の集中砲火をいとも容易くかき消したスフィア。

嫌でも格の違いを思い知らされるというものだ。

彼女に迂闊な攻撃を仕掛けるのは危険だと、誰もが思っていた。

 

 

「…ああ、綺麗ねえ。

 あの街灯りの一つ一つが、皆が生活してる証…。

 まるで『命』の輝きそのもの…

 …ねえ、そう思わないかしら?ボウヤ達。」

 

 

まるで緊張感の無い事を尋ねる彼女。

その態度に苛立ちを覚えながら、スゥが答える。

 

 

「ああ、そう思うよ。

 お前みたいな奴に邪魔されなければ、もっと綺麗だろうね。

 …一体、何が言いたいんだよ!」

 

 

我慢できず、声を荒げる彼を見てスフィアはクスリと笑いながら言う。

 

 

「ねえ…『命』が一番綺麗に輝くのって、どんな時だと思う?」

 

 

意味深な問いを投げるスフィア。

いつまでもこんな膠着状態のやり取りを続ける事に、皆が痺れを切らしてきた時だった。

 

 

 

バアン!!

 

 

 

と、パーティー会場入口である大扉が蹴破られ、

多数の軍服を着た人々が突入してきた。

彼らの腕には、大型のライフル銃が携えられている。

 

2メートル近くあるのではないかと思える程の、金髪の大男が先頭に立つ。

彫りの深い顔に、鋭いサングラスをかけたその男。表情が伺えない事も、迫力と不気味さを際立てる。

その後ろで控える者達も、同じように体格の良い男達。

 

 

先頭の大男は銃を構え、その場の全員に大声で告げる。

 

 

「フリーズ!!

 ユーたち、みんな動くんじゃねぇゼ…!

 少しでも変な動きを…」

 

 

「ハニー!!やっと会えたネー!!」

 

 

ノン達は、その男の言いかけた通り一切の動作を止めた。

暴れたことは事実だが、これには深い事情が…と弁明する猶予は貰えないだろう。

何故なら、大男の構える銃口がこちらを向いているからだ。

下手に身振り手振り動けば、一体何をされるか分からない。

 

皆、状況が理解出来ておらず困惑している。

…そんな中、ただ一人、レヴィンだけが素っ頓狂な黄色い声を発する。

 

 

銃を構えた大男は、眉間に深いシワを寄せて彼女の方を見る。

 

その途端、彼は口をあんぐりと開けて思わずサングラスを外して言った。

 

 

「ホワッツ!?

 …れ、レヴィン…?

 ホワイ!?

 ………あのヤロー共…あれだけ頼んだのに、役に立たない奴らネ…!」

 

 

唐突に困惑し出した大男の隙を突くように、

レヴィンは彼の元に駆け寄る。

そんな彼女を、カスミは真っ青な表情で制止しようとするも…

 

 

「ちょ、ちょっとダメだってレヴィン!!

 アイツの言う通り、じっとしてなさい!本当に撃たれちゃうわよ!!

 …だってあれ、『平気で人を殺します』って顔してるもの!

 レヴィンってば!!」

 

 

そう必死に訴えかけるカスミの声を聞かず、レヴィンはその大男に

駆け寄る勢いのまま抱き着いていた。

 

スゥ達は肝を冷やしながら、どうか彼女をその銃で撃たないよう、

ただただ願って見守るしか出来なかった。

 


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