まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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衣装選びのため、既に参加者達が集まりつつあるパーティー会場に来たスゥ達。
そこでポケモン大好きクラブの会長、その妻ギャロップの『サラ』と再び顔を合わせる。

暫し談笑するうちに、夕日は水平線に沈みつつあった。
そんな時、会場の中央にあるピアノから音が響く。
奏者は…ロケット団員の『スフィア』だった。
彼女が演奏を始めると、会場のポケモン達が苦しみだし、次々と『昏倒』していく。
その中にはサラとファルナの姿も…


Report6-8[悪夢を振り払え!]

Report6-8[悪夢を振り払え!]

 

 

「………ん……ここ……は………?」

 

 

サラは目を擦りながら、周囲を見渡す。

 

白い壁と床、白いカーテン、ベッド、そして小さな窓の静かな部屋。

その部屋に、『ピッ…ピッ…』と、鋭く高い電子音が周期的に響く。

 

彼女は、自分が小さな丸椅子に座っている事に気付く。

 

 

「病院……の、ようですね……

 さっきまでサントアンヌ号に居たはずなのに…」

 

 

そうサラが呟くと、彼女の目の前にある白いベッドに異変が起きた。

ベッドの上に、モヤモヤと煙が立ちこむ。

 

その煙は程無くして人の姿を成した。

 

 

「………!!あ、あなた……!?」

 

 

その姿とは、他でもない。

彼女の夫である、会長だ。

 

彼の腕には、注射針が刺さっており、それは頭上の点滴剤のパックにつながっている。

 

落ち着いた呼吸ではあるものの、弱弱しい。

普段の饒舌は、とてもではないが今の彼には出来そうにもない。

 

そんな姿を見て、サラは口元を両手で覆う。

 

 

「そん……な………!

 起きて、あなた……あなた………!」

 

 

ユサユサと、サラはベッドで眠る人物に手をかけて揺らす。

決して、強く刺激しないように。

壊れ物を扱うように、静かに。

 

 

呼びかけなくては、そのまま鼓動を閉ざしてしまいそうな恐怖に駆られた。

何故、今、目の前に衰弱し切った主人が居るのか…?

そんな、本来は当然の疑問が湧く事もなく、サラは必死に呼びかける。

 

 

「嫌です、あなた…!

 『まだまだ、世界中を一緒に旅しよう』…って…

 …言ってくれたじゃないですか……!!」

 

 

その老人の手を握り締めながら、サラは震える声で言う。

…ふと一瞬、握り返されたような感覚。

 

サラはその感覚を見逃さず、すかさず主人の方に顔を近づけた。

 

会長の目が僅かに開き、天を仰いだまま視線をサラに向けて

掠れた声で話す。

 

 

「………すまん……のぅ………

 ………サラ…………」

 

 

「っ………!

 …………いい……ん、ですよ………っ!

 …………そんな事より、早く元気になって下さい……!

 また、いつものように、ペラペラと長話をして

 いい歳しながら、まるで子供のように………

 ………はしゃいで、見せて下さい…………!!」

 

 

懸命に笑顔を保とうと努めるサラ。

しかし、その努力は虚しく、彼女の頬を涙が絶え間なく流れる。

 

そんな彼女の涙を、老人は震える手でそっと拭った。

 

 

「…………綺麗、じゃのう………

 …………『ワシが若い頃』から、変わらず、のう………」

 

「…………ごめん、なさい……。『一緒に、歳を取れなくて』………!!」

 

 

…絞り出すようにサラが謝ると、会長の姿が霞み始める。

みるみるうちに実体を持たぬ『霧』となり、

そのまま、空気に溶けるように消えて行った。

 

 

「…………あ、ああ…………!」

 

 

虚空に手を伸ばし、霧を掴もうとするサラ。

完全に消えてしまった主人の姿を掴めるはずもなく、その手に残る物は何も無かった。

 

 

ベッドに伏せ、咽び泣く彼女に、『黒い霧』が忍び寄る。

その霧は再び人の姿を成す。

 

それは彼女の主人の姿ではなかった。

『スフィア』の姿へと変貌したそれは、嘆くスフィアを見下ろす。

 

 

「………成程ねぇ……貴方の『不安』は、コレなのね……?」

 

 

スフィアは椅子で肩を丸めるサラに、優しく手を置く。

まるでサラとは長い友人かのような、馴れ馴れしい口調で語り出した。

 

 

「『種族違い』の愛が起こした悲劇…よね。

 貴方達、二人とも子供の頃からの付き合いだったのに、

 あのご老人だけ、どんどん老いていって……。」

 

 

サラは隣に立つスフィアに疑問を持つことなく、

俯いたままぽつりと話す。

 

 

「……『寿命』が、違いますから……。私たちと、人間とは………

 …………覚悟は、していたつもり……でした……。」

 

 

「つもり、ねぇ…?

 実際、『その時』が来るのは、やっぱり怖いかしら…?」

 

 

「…そんなの、当たり前です。

 愛する人が居なくなるのが、平気な人なんていません。」

 

 

サラの返事に、スフィアは瞳を赤く光らせ、

彼女の顔を覗き込みながら尋ねる。

 

 

「そうよねぇ。辛いわよねぇ……

 貴方がこんな辛い想いをしているのに、『許せない』わよね……?

 『他の浮かれている若い奴等』……が。」

 

 

「それは………」

 

 

悪意の籠った言葉。

サラは、スフィアの瞳に一瞬、意識を吸い込まれそうな感覚に陥った。

 

…しかし、程無くして、彼女の目は再び光を取り戻す。

 

 

「……っ!そんな事、ありませんわ!!

 確かに、『若く、未来のある方々』を羨ましくは思います……

 けど、私は私で、あの人に会えて、一緒になって……幸せでした!!

 そんな幸せを、他の方もこれから一杯に感じて欲しい。

 そう願う事こそあれど……決して、『呪い』などしません!!」

 

 

ひと際力強く、スフィアの言葉の全てを否定するサラ。

 

彼女の言葉を聞き、スフィアは眉間に皺をよせ舌打ちした。

 

 

「チッ……!

 多数干渉だと、『催眠術』の効きが悪いわねぇ…

 ま、年齢の行った方の精神は大抵扱い辛いですから、こんなものかしら…」

 

 

そう呟いたスフィアは、仕方ないか…と、大した執着を持たぬ表情を作り

『黒い霧』となり虚空へと消えようとする。

 

彼女は去り際、サラに向けて吐き捨てるように告げる。

 

 

「貴方の言葉、どこまで本音かは分かりませんが…

 ……精々、離別の恐怖に苛まれながら『善人ぶって』いればよろしいわ。

 残念ですが『ワタクシのお仕事』は失敗ですので、これにて失礼させて頂きますわ……

 後は、『他のワタクシ』が上手くやってくれる事でしょう……」

 

 

「……催眠術……って、あなた…!一体何をしたいのですか!

 こんな、酷い『悪夢』を見せて……!」

 

 

サラの質問に答える素振りを一切見せず、スフィアは霧散した。

彼女が去った瞬間、サラの目の前が眩くまっ白に輝き

意識の主導権が彼女本人へと戻ってくる。

 

 

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「……ここは…どこ…?

 …………真っ暗………」

 

暗闇の中、意識を取り戻した。

…先程までは、確かパーティー会場にいたはず。

 

それが、一体どうして自分はこんな場所に?

 

重たく、うまく動かない手足でもがきながら、

ファルナはその場に立ち上がった。

 

 

「確か、スフィアさんの音楽を聴いてたら

 頭が痛くなって、それで……」

 

 

何も見えない空間で、まずは自分の今の状況を整理しようとする。

だが、『頭痛の後』の記憶が何もない。

 

 

「……『夢』……かな……?これって。

 …………嫌だなあ………」

 

 

そうファルナは一人呟く。

 

『今、自分が夢を見ていると自覚する夢』は、誰しも時々見ることがあるだろう。

それは大抵の場合、自らの意思で現実に戻るのは困難であり、いつの間にか覚める。

 

……得てしてこの類の夢は『悪い夢』であり、一刻も早く覚醒したいと願うものだ。

 

 

彼女は今まさに、自分がそういう状況にいるのだと推測した。

 

 

「……何も見えないし、聞こえない……

 寂しい夢………

 ………」

 

 

そう呟くも、誰にも聞かれる事は無い言葉。

こんな空間で、いつ覚めるやも分からぬ夢を、独りぼっちで漂うことに

ファルナは既に挫けそうになっていた。

 

ふと、会いたい者の名をぽつりと零す。

 

 

 

「………スゥ………」

 

 

 

 

その瞬間、ファルナが思いがけない事が起こった。

…虚空に呼びかけた名前、その者が目の前に現れたのだ。

 

 

「はぁ、はぁ…!

 ファルナ!探したよ!

 これからパーティーが始まるってのに、こんな所で何やってたんだ?」

 

「えぅっ!?スゥ!?

 な、何でここに………って、この場所は…!?」

 

 

タキシードで着飾った姿のスゥ。

それだけではない。

ファルナの眼前には、先程まで真っ暗闇だったはずの空間が変化し、

燦燦と煌めくサントアンヌ号のダンスパーティ会場が現れた。

 

会場ではスゥだけでなく、他の者達も皆、思い思いの衣装に身を包んで

踊りに耽っている。

 

 

スゥは息を切らしながら、状況を把握出来ていないファルナの手を取った。

まるで本当に、今の今まで彼女を探し回っていたかのように。

 

 

この空間と状況の変化に、ファルナは飲み込まれるように順応していく。

まるで『始めからそうだった』ように認識させられる。

 

 

「スゥ…!凄いね!みんなすっごく綺麗だよ…!

 それに……」

 

 

ファルナはスゥの今の姿をじっと見て、惚けていた。

顔を火照らせたまま言葉が出てこない。

 

そんな彼女自身も、いつの間にか漆黒のドレスを身に纏っている。

スゥは、言葉が出ないファルナに向けて賛辞を贈る。

 

 

「ファルナ、綺麗だよ。とても。」

 

「え、えへへ……!ありが…」

 

 

惚けながらも、スゥの素直な称賛に感謝を述べようとしたファルナだったが……

 

 

 

 

「……キミなら、きっといいパートナーが見つかるだろうね。」

 

 

 

 

……耳を疑うようなセリフが、スゥの口からファルナに向けて発された。

先程までとは異なる意味で、ファルナは言葉が出てこなくなった。

 

 

「……え…?す、スゥ……?今、何て……?」

 

 

…震える声で絞り出した言葉。

自分の聞き間違いであってほしい…。そう強く願い、彼女はスゥの目を恐る恐る見る。

 

が、彼女への返事は残酷なものだった。

 

 

「…ん?聞こえなかった?

 ファルナも良い相手を探すんだよ。もうパーティーは始まってるんだから。

 ……俺は、『XXXXXX』と約束してるから、もう行くね。

 それじゃあ、お互い楽しもうな!」

 

 

いつもと変わらぬ笑顔で、スゥはファルナに手を振って答えた。

 

さも当然と言わんばかりの自然な物言いに、ファルナは呆然とする。

 

動悸が激しく、呼吸が整わない。

 

スゥを引き留める言葉が出てこない。

 

叫びたい程、言いたい言葉は有るというのに。

 

 

 

『嘘。』

 

『誰と?』

 

『何故、私じゃないの?』

 

 

 

「………何で!?一緒に練習したのに!

 イヤだよ、他の人の所に行かないでよ………!!」

 

 

目を赤く腫らしながら、ファルナはスゥの袖を掴む。

そんな彼女に、スゥは感情の抜けたような、無機質な表情で淡々と答える。

 

 

「何でかって…?

 それは……まあ、『気付いてしまった』からね。」

 

 

「……き、『気付いた』…って…?」

 

 

「改めて思うとさ。

 『ツルハ』や『カスミ』みたいに、『理知的』な話が出来ると、やっぱり良いなあ、楽しいなあ……って。

 ファルナ。キミは可愛いと思うよ。

 ……けどね、『それだけ』なんだ。

 前から思ってたけど、頭良くないよね?

 おまけに食いしん坊だし、流石にちょっとね……

 悪いんだけど、そろそろ離して貰えるかな?」

 

 

「…………!!

 そ……んな………」

 

 

信じられないような数々の台詞が、スゥの声色で突き刺さってくる。

ショックのあまり身動きが取れなくなる。

 

そんなファルナの姿を気にも止めず、スゥは再び彼女から離れ……

……そして、煙のように姿を歪ませ、消えていった。

 

 

 

「………あらあら、お嬢さん、可哀想に……」

 

 

 

霧散したスゥの姿が、再び人の姿を形作る。

それは彼の姿ではなかった。

 

黒い煙は、『スフィア』の姿となり

呆然としたファルナの背中を包み込み、彼女に耳打ちした。

 

 

「綺麗な顔して、酷い男ねぇ…?

 悔しいわよね……?あんなに悪し様に言われて……

 ふふふ……」

 

 

虚ろな目をしたファルナは、スフィアの言葉をすんなりと受け入れる。

スフィアはまるで彼女を慰めるかのように、優しく語り掛けた。

 

ファルナは拳を握りしめながら、肩を震わせて答える。

 

 

「……悔しいよ……!

 でも、知ってたよ……。私が『気付かない振り』してただけ……

 スゥは優しいから、『好き』って言っても、イヤな顔もしなくて

 我慢して付き合ってくれてるんだ……って。」

 

 

「……あらあら……

 でも、それって一番残酷じゃない?

 不満が有るなら、初めから断っておくのが『優しさ』じゃないかしら…?

 現に、貴方は今、彼の『中途半端な』優しさのせいで

 余計に深く傷ついているわ。」

 

 

……正論だ、とファルナは思う。

しかし、それでも……と、彼女は絞り出すように答える。

 

 

「分かってる……!けど、それでも嬉しかった…

 いいよ、ほんの少しだけ『良い夢』が見れたから……」

 

 

思考を放棄し、生気の無い瞳でファルナは空を仰ぐ。

 

その表情を見たスフィアは満足そうに口元を歪ませ、彼女の肩を抱いて囁く。

 

 

「そう…『良い夢』…ねぇ。

 ……もし、『良い夢』の続きを見たければ、

 『とっておきの方法』を教えてあげるわよ?」

 

 

「……とっておきの、方法……?」

 

 

ファルナはぼんやりとスフィアに視線を移す。

 

スフィアは口元から鋭い牙を覗かせながら、瞳を真紅に輝かせた。

 

その表情は、これまでの妖艶な女性のものではない。

『悪意』を煮しめたような、醜く暗い、悪魔のような形相。

 

 

 

「簡単な事よ?

 ……貴方の恋を邪魔する者は全て『殺し』てしまいなさいな。」

 

 

 

暴力的な言葉の中でも、最悪の物。

度を越した冗談ではなく、真の意味でこの言葉を聞く者は、そうそう居ないだろう。

 

スフィアは、ファルナに頭を整理させる時間を与えず続ける。

 

 

「他の邪魔な女共を!

 その炎で、焼き尽くしなさい!!

 貴方の愛しの彼の手足も、その鋭い爪で引き裂いて!

 『貴方に逆らったらどうなるか』思い知らせなさい!

 『貴方無しでは生きていけない身体』にしておやりなさい!!」

 

 

その表情に似付かわしいまでの、悪辣で残虐な言葉。

普通ならば、聞くだけで気分が悪くなるような台詞。

 

…なのだが、今のファルナは正気を失っている。

 

彼女は、ゆらりと力無く立ち上がり、虚ろな表情で呟いた。

 

 

「私の、『この炎』で、焼き尽くせば………

 ……そうしたら、私だけを見てくれるのかな……?」

 

 

髪に灯す炎が、血の色のように暗く、重たい紅に燃え盛る。

そんなファルナの姿を、スフィアは満足そうに、恍惚の表情で見ていた。

 

 

「ああ………良いですねぇ……

 『不安』に全て身を任せたその姿、とても『美しい』わ…!

 あはははは!!!!」

 

 

…そうスフィアが高笑いする中、ファルナの瞳が僅かに光を灯す。

 

 

「『この炎』……で……?

 あれ……?

 でも、私、確か………『炎が怖く』て………

 だって、炎は、人を傷つけるから……………」

 

 

彼女の様子の変化に、スフィアは高笑いを止めて眉をひそめた。

 

そして、ファルナは自問自答を繰り返す。

 

 

「………何で私、炎が使えるんだっけ………?

 『もう二度と見たくない』って思ってたはずなのに………」

 

 

彼女の中で、微かに残る幼い頃の記憶が呼び起こされる。

 

 

燃え盛る炎の中、逃げ惑う同族達。

 

我が身を顧みず、自分を逃がしてくれた両親。

 

彼らもまた、炎に飲み込まれていく………

 

 

彼女がまだ『ファルナ』と呼ばれる前の記憶だ。

 

 

それが炎へのトラウマを植え付けられた原因。

 

その記憶がかつて、炎ポケモンである彼女から炎を奪っていた。

 

それが、何故今、髪に炎を灯している…?

 

 

 

「……そうだった………

 ……

 ……『私に炎を取り戻してくれた』のは……………!!」

 

 

 

炎は人を傷つける。確かに怖いものだ。

 

しかし、『炎が無ければ人は生きていけない』。

 

『人を守る炎』だって有るはずだ。

 

 

旅を始めて間もない時に聞かされ、自分の考え方を変え、救ってくれた言葉。

 

炎ポケモンとしてのプライドを、取り戻してくれた言葉。

 

 

…ファルナの正気が戻ってくる。

それを示すように、彼女の瞳、そして髪に灯す炎が鮮やかに燦然と輝いている。

決して、一瞬だけ呈してしまったドス黒い血のような色ではない。

 

彼女は、ひと際大きな声を出して、自分の意識を取り戻す。

 

 

 

「……違う!!

 私の炎は、人を傷つける炎なんかじゃない!!」

 

「何……ですって………!?」

 

 

 

完全に意識の主導権を取り戻したファルナ。

 

一度は『破壊衝動』に染める事が出来たかと思っていたスフィアは

驚きの色を隠せない。

 

 

「何故…!?確かに『催眠術』は成功していた…!

 多数干渉とはいえ…こんな小娘に『解除』されるなど……!」

 

 

言葉の通り、彼女はファルナの事を舐めてかかっていた。

この程度の小娘なら、簡単に手玉に取れるだろう…と。

 

そんなスフィアの言葉を聞き、ファルナは怒りを露わにして睨みながら叫ぶ。

 

 

「スフィアさん…!

 私の夢の中で、スゥに変な事を言わせないで!!

 あの人は、あんな酷い言葉……ゼッタイに言わない!!」

 

 

怒声を上げて弾みがついたファルナは、

そのままのテンションで叫び続けた。

 

 

「夢の中ならいっそ、思いっきり言わせて貰うよ!!

 いい!?

 『私の不安』…見ての通りだよ!

 私、スゥが他の女の人にデレデレしてるのは嫌なの!ほんの少しでもね!

 私を一番好きでいてくれなきゃ嫌!

 人間さんみたいに賢くないのも、すっごく気にしてた!

 …けど、もう気にしない!

 スゥは『私の事が大好き』って言ってくれた!

 私もスゥの事が大好きだから、その言葉を信じる!!

 あなたが思うような、簡単に壊せる信頼じゃないよ!!

 ……あの人のためなら私、何だってしてあげられるんだから!!」

 

 

カスミ顔負けのマシンガントーク。

肺の中の酸素を使い切ったファルナは、真っ赤な顔でゼェゼェと肩で息をしている。

 

少し呼吸が落ち着いてきた所で、彼女は再びスフィアを睨んで

最後の一言を放つ。

 

 

「だから、私を『操ろう』としても絶対に無駄だから!分かった!?」

 

 

夢の中だからと。誰も聞いていないから、と。

完璧に開き直って自身の『不安』、『欲望』を全て吐き出したファルナ。

 

すっかり緊張が解けてしまった空気の中、スフィアは困惑した顔で呟く。

 

 

「………わ、ワタクシは一体何を聞かされてるのかしら……?」

 

 

少しの間を置くと、スフィアの中で何かが吹っ切れたように、

彼女は笑顔で話す。

 

 

「……はぁ。

 催眠術は『極端なおバカさん』にも効きが悪いのが難点ねぇ……

 まあ、この夢の中では見逃してあげますわ。

 ……外の世界ですぐにお会いしましょうね。

 早く起きなきゃ、貴方の大切な人……大変な事になっちゃうかも……?

 ふふふ……」 

 

 

不穏な言葉を残し、スフィアは黒い煙となり消えて行った。

決して聞き捨てならない言葉。

 

早く目が覚めろと、強く自分に念じるファルナ。

一体、眠っている間に『現実の世界』では何が起きているのか……

スゥ達は無事なのか……

 

焦る気持ちの中、彼女の眼前が白く輝きながら『悪夢』から解放されていく-------


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