まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

65 / 72
クチバシティ編、第4話です。そろそろ本章の話が本格始動してきます。
詰め込んで読みにくくならないよう、話の区切りに気をつけて投稿しようと思います。


Report6-4 [豪華客船-サントアンヌ号]

クチバジムを下見しようと、気合上々でジムに向かったスゥ達だったが、

ジムの近くでは暴走族達が一人の女性を取り囲んでいた。

 

その女性は「レヴィン」と名乗る、異国の言語を交えた独特な喋り方の

見目麗しい『金髪碧眼の美人』。

 

彼女は運良く(…?)その場に合流した

カスミ、スターミー、そしてノンの活躍(…?)により救出された。

 

合流した彼らが向かうは、『サントアンヌ号』。

スゥがクチバシティに来た初日に、

チケットを持っていないため乗船を拒否された巨大な豪華客船である。

 

カスミは『ジムリーダー』という、社会的に大きな信用のある身分。

そんな彼女は、スゥ達の欲するチケットを手に入れていたようだ。

 

いつもカスミに対して反抗的なスゥも、今回ばかりは船に誘ってくれたカスミに

大いに感謝せざるを得ない。

 

 

そうして彼らは胸の高鳴りを止めぬまま、

再びサントアンヌ号の停泊する桟橋に来ていた。

 

 

_______________________________________

 

サントアンヌ号に乗船して

第一にスゥ達が案内されたのは『エントランスホール』。

 

そこは、鏡面のごとく艶々に磨かれた象牙(アイボリー)色の『大理石で出来た壁』、

そして床は、これまた金額など想像も出来ない程に上等な『真紅のカーペット』が一面に敷かれていた。

勿論それだけではない。

天井には目も眩むほどのプリズムの輝きを見せる『シャンデリア』、

更には一流の職人が作ったのであろう、複雑で細やかな彫刻が施された木製の家材…。

 

とにかく、目に映るもの全てがド級の高級品。

ありとあらゆる物がキラキラと輝いて見える、広大な一室だった。

 

船だけに限った話ではないが、『エントランスホール』とういう場所は

言わばその施設や設備の『顔』である。

 

豪華客船として世界に名を馳せるサントアンヌ号の内装は、

その名に恥じぬレベルの物で仕立てられていた。

 

 

「うわあ~~~!凄い凄い!!

 すっごいよスゥ!!」

 

「『綺麗』だけじゃ言い表せないです!

 まるで別世界みたい…!」

 

「うひゃー…床も壁も天井も、ぜーんぶピカピカだ!

ねえベルノ。『これこそ、我が城にふさわしいのじゃ!』

 …な~んて、思ってるんじゃないの?」

 

「ぬぬぬ…!!

 も、勿論なのじゃ!その通りなのじゃ!

 しかしこれは本当に凄すぎ…

 …

 …いや、決して我は『あまりの美しさに圧倒されている』

 ワケでは無いぞ!

 勘違いするのではない、家来共!!」

 

 

スゥのポケモン達は、思い思いに興奮した様子で言葉を放つ。

彼らは元々は『野生』のポケモンなので、

これ程までに造形に富んだ人工物を見るのは初めてだった。

 

エントランスホールの圧巻ぶりに舌を巻くのは当然の反応である。

 

舌を巻いているのは彼らだけではない。

「まさかここまで凄いとは…」と、スゥやノン、カスミ、

そしてレヴィンも目を見開いている。

 

 

「カスミ、本当にありがとう!

 こんな経験、なかなか出来ないよ!」

 

一度は断られたサントアンヌ号への乗船。

カスミのお陰で得ることができた貴重な体験に、

スゥは心の底から彼女に感謝する。

 

日頃は冷静なノンも、これだけの圧倒的な光景には

気分の高揚が隠しきれない。

 

 

「これはお前が来たがるのもよく分かるな。

 俺からも感謝する。

 こればかりは、お前と来なければ見られない物だからな。」

 

 

そんな彼らの反応に、カスミは上機嫌に語る。

 

 

「ふふーん!随分素直じゃないのアンタ達!

 ようやくアタシの偉大さが分かってきたって所かしら?

 さてさて、ここでクイズよ!

 アタシがここに来た『一番のお目当て』は一体何でしょうか?

 当ててごらんなさい!」

 

 

カスミは人差し指を振りながらスゥ達に宣う。

勿体ぶった言い方だが、既に船内の凄さに度肝を抜かれている彼らは、

カスミが意図するものが、さぞや面白い物なのだろう期待を込めて、真剣に考えている。

 

真っ先に手を上げたのはレヴィン。

身なりの通り、やはりこういう豪華な場所の楽しみ方を分かっているのだろうか。

自信有り気に胸を張って答える。

 

 

「ミーは分かりましたヨ!

 カスミさん、ズヴァリ『コンサート』ですネ?

 夜のゴージャスなパーティーホールで、ジャズやクラシックの

 オーケストラを聴きながらアルコールを嗜む…

 クルーザーで過ごす最高のイベントと言えば、これしか無いデス!」

 

 

レヴィンの答えに、スゥやノン達は驚き…というよりも、最早『敬意』を持った目で彼女を見る。

自分達では考えてもなかなか出てこない『お嬢様』的な回答に、

育ちの違いを感じてしまう彼らだった。

 

そんな中、カスミが正解か不正解かを伝える前に、スターミーが小声で呟く。

 

 

「‥‥‥‥‥‥マスターがそんなオシャレな曲‥‥‥

 ‥‥‥‥‥‥聞いてるの、見た事な‥‥‥‥‥‥」

 

 

…と、スターミーが言い切る前にカスミが大声で割り込む。

 

 

「あーーっとレヴィンちゃん!

 惜しい、惜しいわね!

 いやー、ジャズやクラシックでしょ?

 アタシよく聞くのよ!良いわよね、オーケストラ!

 もちろんそれも楽しみなのよ?

 でも、それは『一番』じゃないかな~って…

 …あは、アハハ…!」

 

 

「Oh~…違いましたか~…

 ミステイク!」

 

 

冷や汗をタラタラと流しながら、たどたどしく『不正解』と伝えるカスミに対し、

答えを外して、肩を落とすレヴィン。

 

カスミは、まさかそんな高尚な答えが返ってくるとは思ってもみなかった様子。

スターミーが言いかけた通り、カスミは一度もマトモにオーケストラなど聞いた事は無いのだ。

幸いにも、彼女が大見栄を張っていることは誰にもバレていないようだが。

 

 

次はピコが元気に手を上げて答える。

 

 

「はい!はい!

 ボクの答えも聞いて!

 …答えは、『鬼ごっこ』でしょ!

 こんなに広い場所なんだから、思いっきり走れるよ!」

 

 

「あ~、ピコちゃん。それも違うわねー。

 ツムジちゃん達と遊んでもいいけど、走り回っちゃダメよ?

 船の物を壊したら、弁償代はトレーナー持ちだからね。

 そうなったらスゥとノンの旅はここでオシマイよん♪」

 

 

もちろんピコの回答は不正解。

カスミの最後の脅しに、スゥとノンは身震いをしながら

子供面子には、くれぐれも暴れないように言いつける。

 

そんな中、腕を組んでウンウンと呻っていたファルナが

突然閃いたように、カスミに答える。

 

 

「お目当て、お目当て…

 うーん…

 …あっ、分かった!

 『ご飯』だ!

 こんなに綺麗な船なんだもん、きっとご飯も凄く美味しいはずだよ!

 カスミさん、どう?正解でしょ!」

 

 

パアッと笑顔でファルナがカスミに指を突き付けて答える。

自身満々なドヤ顔のファルナに、カスミは思わず吹き出し、

堰を切ったようにお腹を抱えて笑っている。

 

 

「ぷっ!

 あはははは!!

 ははは、ひぃ、く、苦しい…!」

 

 

そんなカスミの反応に、ファルナは顔を赤くして抗議する。

 

 

「えぅ!?

 な、なんで笑うのー!

 私そんなに変な事言った!?」

 

 

彼女の言葉に、

カスミはさすがに笑い過ぎた事を謝りながら答える。

…まだいくらか笑いを残したままだが。

 

 

「は、はは…ごめんねファル!

 た、確かに料理もバツグンに美味しいでしょうけども…

 いかにも『食いしん坊』のアンタらしい答えで面白くって、つい…

 …

 ぷふっ!!

 いいわ、アンタの答えに免じて、もう答えを教えてあげる!」

 

 

そんなカスミの反応に、ファルナは恥ずかしいやら腹が立つやらで

頬を膨らませて唸りながら睨む。

 

そして、ふと周りを見渡してみる。

 

何と、笑っているのはカスミだけではない。

その場の全員が笑いを堪えきれない様子。

 

滅多な事では笑わないノンとアクアや、スターミー。

笑いすぎては可哀想だと思うも、

ハナダシティの晩餐でのファルナの食べっぷりを思い出して笑ってしまうメルティ、ツムジ、ボルカ、

その他諸々。

 

その例に漏れずスゥも口元に手を当て、肩を震わせている。

 

…とりあえずファルナは手近なところで、スゥの脇腹を肘で突き刺しておいた。

 

 

「ふんっ!」

 

「うぐっ!?」

 

 

ゴスッ!と鈍い音を鳴らせ、その場で崩れ落ちるスゥを脇目に

ファルナは腕を組みながら、作り物の笑顔でカスミに改めて問う。

 

 

「…で、カスミさん。答えは?」

 

 

問われたカスミは、座り込んで悶絶しているスゥをチラリと見て

苦笑交じりに答えることにした。

 

 

「はぁ、アンタも案外苦労してんのね…

 ま、そんな事はどうでもいいわ!

 アタシが楽しみにしてるのはね、『ダンスパーティ』よ!」

 

 

『ダンスパーティ』。

その言葉を聞きなれないポケモン達は、皆キョトンとした表情で

互いの顔を見合って首を傾げる。

 

カスミは、そんなポケモン達の反応を予想していたかのように説明を続ける。

 

 

「ダンスパーティっていうのはね、

 簡単に言えば『お金持ちやお偉いさん同士のダンス会』なのよ。

 『ドレス』を着て男女で踊るの!

 アタシ、一度やってみたかったのよー!」

 

 

気分良さげに、うっとりとカスミは語る。

そんな彼女の上機嫌な表情に、女性陣は興味津々な様子。

 

 

「その『ダンスパーティ』って、そんなに楽しいものなんですか?」

 

 

初めて聞くその言葉に、アクアはノンを見上げながら尋ねる。

 

 

「どうだろうな、俺も参加した事は無いから分からん。

 ただ、服装にとても気を遣う、面倒な物のイメージがあるな…

 カスミが言ってたように、女は『ドレス』が必要だ。

 男の方は『スーツ』とかを適当に着ておけばいいから簡単なんだが。」

 

 

「そう、それも気になるんです!

 ノンさん、『ドレス』ってどんな服なんですか…?」

 

 

どちらかと言えば引っ込み思案なタイプのアクアが

珍しく目を輝かせて質問してくるのを見て、ノンは何とか答えてやろうとする。

 

 

「なんだアクア。随分気になってるみたいだな。

 『ドレス』ってのは…

 うーむ…言葉での説明は難しいな。

 とにかく煌びやかで、高い服だ。普段着ではなく、こういう豪華な場所で着る物で…

 …うん、こんな説明では分かる訳が無いな。

 カスミ!」

 

 

『ドレス』とはどんな服なのか?

それを説明するのは、確かに口頭では難しい。

周りのお金持ちらしい人々を見渡してみても、さすがにドレスを着ている者は見当たらない。

ノンは何か思い当たる事がある様子でカスミを呼ぶ。

 

 

「お前、ダンスパーティーが目的なら『ドレス』を持ってきたんだろ?

 折角だから、アクア達に見せてやってくれないか。」

 

 

そう聞かれたカスミは、頬を掻きながら苦笑交じりに答える。

 

 

「あははー…お生憎様、アタシは自前のドレス持ってないのよ。

 ほら、世の中には『レンタル』ってのがあるじゃない?

 サントアンヌ号の中でもドレスを借りられるみたいなの。

 下手にドレスを自前で買うより、こういう所で借りた方が

 安上がりだし、モノも良いのよ!

 …ってか大体、ジムリーダーの財力程度で一々ドレスなんか買ってられないっての!

 買おうと思ったら、ホントに目が飛び出るくらいの値段するんだから。

 しかも保管は大変だし、デザインだって流行もあるから一生モノって訳にも行かないし…

 ノン、アンタが言ったようにダンスパーティって、

 男の方は『スーツ』着とけばとりあえず格好は付くけど、女性は大変なのよ?

 お化粧だって、ヘタすれば1時間くらいかかるんだから!」

 

 

相変わらず語り出すと、マシンガンの如く言葉が飛び出るカスミ。

それにしても、ダンスパーティが楽しみだと言っていた割には

随分と『コスト』や『面倒』な部分にスポットを当てて語る彼女。

 

アクア達がドレスの実物を見られないのを残念に思う中、

ノンは湧いてきた疑問をカスミに投げかける。

 

 

「わ、分かった分かった。

 女性は大変なんだな。

 …しかし、それなら何故わざわざ面倒に思ってるパーティを楽しみにしてる?

 とても『ドレスを着る事』や『ダンスを踊る事』を楽しみにしている感じではないが…」

 

 

ノンの質問に、カスミは前髪をかき上げ

唐突に真剣なトーンで答える。

 

 

「ふっ…流石じゃない。

 良くぞ『真の目的』がある事を見抜いたわね…!」

 

 

「真の目的…だと?」

 

 

カスミが意図する、ダンスパーティに参加する『真の目的』。

一体それが何なのか、ノン達が固唾を呑んで彼女の言葉を待っている。

 

暫しの沈黙の後、カスミはゆっくりと口を開く。

 

 

「アタシの目的…それはね…

 …

 …『金持ちのイイ男』を捕まえる事よっ!!」

 

 

人差し指を突き付けながら、そうハッキリと答えたカスミ。

答えが出たにも関わらず、皆の沈黙は続く。

 

心の中では「何だそんな事か…」と思うも、

カスミの本気な表情を見てると、誰も口に出来ずにいた。

 

そんな何とも言い難い空気に耐えきれず、ノンが固い表情で一言だけ放つ。

 

 

「…そうか。

 まあ、その、頑張れよ。」

 

 

「何よ、その淡泊な反応は!

 アンタ達も、何で黙ったままなのよ!」

 

 

ノン達のつれない反応に、カスミは納得いかない様子でキーキーと騒ぐ。

 

そんな中、ファルナの肘突きのダメージからようやく回復したスゥがフォローする。

 

 

「い、痛たた…

 そういやカスミ、フラれたばかりだもんな。

 ダンスパーティーって『お金持ちの男女でダンスする』と言ってたよね。

 多分『お見合い』みたいな面も有るんじゃないか?」

 

 

「そうそう、そーなのよ!

 ノン達ったら、まるでアタシだけが不純な動機で

 パーティに出ようとしてるんじゃないかって思ってるのよ!

 イイ男を狙うなんて、そんなの不純でも何でもないわ!

 だって、そもそもダンスパーティって、会場の『お目当ての異性』を誘うのが目的なんだから!

 さっすが、彼女持ちはその辺が鋭いわね~。

 …どっかのインテリ朴念仁メガネとは大違いだわ!」

 

 

スゥのフォローに気を良くしたカスミが、自分の正当性を声高に主張する。

彼を誉める一方、つれない反応を示したノンには鬱憤を晴らすように毒づく。

 

対するノンの方はというと、別段その悪口に怒るつもりは無いが、

こうも直球に『朴念仁』と呼ばれると、多少思う所があるようだ。

 

 

「イ、インテリ朴念仁メガネと来たか…」

 

 

ノンの言われ様に、ファルナはアクアの様子が気になった。

何せ、ファルナも以前カスミにスゥを『女顔』と小馬鹿にされた時

腹を立てた覚えが有ったからだ。

恋人ではなくとも、自分の主人を悪く言われて、アクアも良い気はしないだろうと

ファルナは想像していた。

 

「アクアちゃん、怒ってないの?

 ノンの事あんなに言われて。」

 

 

アクアは、心配そうに自分の顔を覗いてくるファルナに

微笑みながら淡々と答える。

 

 

「いいえ、良いんですよファルナちゃん。

 ノンさん自身もあまり気にしてなさそうですし。

 …

 …それに、朴念仁なのは本当なんですから。

 ふふっ…」

 

 

…最後の一言だけ、明らかに目が笑っていないアクア。

その意味有り気な表情が向けられているのは、どうもカスミに対してでは無さそうだ。

 

 

「えぅ!?

 あ、アクアちゃん…

 何だか初めて見る表情してるんだけど…?」

 

 

旅に出てから数週間。

少し見ない間に、そんな表情が出来るようになった幼馴染に対し、

ファルナは新鮮さと、若干の怖さを感じた。

 

アクアが意味深な表情をしている事をつゆ知らぬノン。

彼は「やれやれ」と言いたげに髪を掻きながらカスミに言う。

 

 

「…ま、そういう話ならカスミ。

 お前はこれからお目当てのパーティの準備があるんだろ?

 暫くは俺達とは別行動になるな。」

 

 

ノンの言葉に、カスミは頭に疑問符を大量に湧かせて答える。

 

 

「ん?何言ってるのアンタ。」

 

「…え?」

 

 

何かおかしい事を言っただろうか?と思いながら

ノンは虚を突かれたような表情で固まる。

 

そんな彼と、スゥ。

そしてレヴィン、ポケモン全員。

彼らを見渡しながらカスミはさも『初めから決まっていた事』のように言い放つ。

 

 

「何、他人事だと思ってんの!

 一体何のために皆を誘ってあげたと思ってるのよ。

 トーゼン、アンタ達も出るのよ!『ダンスパーティ』に!!」

 

 

『ええええっ!!?』

 

カスミの言う通り、全くの他人事だと思っていたスゥ達。

一人、レヴィンはダンスパーティに物怖じせず、彼女だけは嬉しそうな表情。

おそらく、そのような場面にも慣れているのであろう。

 

しかしスゥ達は違う。

何せダンスの作法はおろか、ドレスやスーツなど着た事も無い者がほとんど。

ファルナやアクア達女性陣も、嬉しさ半分・怖さ半分でパニックになっていた。

 




レヴィンの言葉遣いが段々クセになってきました(小声)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。