まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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ハナダシティ編、最終話です。
日常パート・バトルパートと色々詰め込んだ章でしたが、
ここでひと段落となります。

※2019/2/19 一部修正
 致命的な間違いをしていました。
 ハナダから一番近いジムのある町は『ヤマブキ』なので、修正しました。
 過去の思い込みで書いてはダメですね…気を付けます。



Report5-16 [目指すもの]

Report5-16 [目指すもの]

 

悪夢のような強さのスターミーに

チームの総力を挙げてスゥ達は勝利した。

 

しかし、その被害は甚大。

 

スゥのポケモン達は、ピコ以外が全員戦闘不能。

特にベルノは冷凍ビームで氷漬けにされ、酷いダメージを負っていた。

 

一方、カスミのスターミーも『雷雲』から放たれた

強烈な雷撃により、深い気絶状態に陥っていた。

 

___________________________________

 

 

そして、場所はポケモンセンター。

スゥとカスミのポケモン達の治療が完了した所だった。

 

 

ボールから出てきたスターミーは、腕をぐるぐると回して

体のコンディションを確認している。

 

しばらくして一息、「うん」と頷く。

どうやら問題は無い様子。

 

そしてスゥ達の方を見ながら、腕を組んで

悔しげな表情で口を開いた。

 

「……正直、初心者に負けるなんて思ってなかった……

…ちょっと、ショック……」

 

彼女の言葉を耳聡く聞いたベルノが、持ち前の騒がしさで気を良くして喋る。

 

「ぬわははははは!!!

恐れ入ったか、我は最強なのじゃ!!」

 

…氷漬けにされた事実は何処へやら。

ベルノは袖をブンブンと振り回しながら、誇らしげにスターミーに宣う。

 

当然ながら、そんなベルノの態度に苛つきを示すスターミー。

 

「………わたしにカチコチにされた人が……何か言った……?

…………もういっかい、……なってみる……?」

 

語気を強めに、脅しをかけるようにベルノに言うが、当の本人は…

 

「ん?カチコチとは何のことじゃ。

 さっぱりわからん。」

 

「………は?」

 

ベルノの反応に、スターミーは『?マーク』を頭上に浮かべる。

話が通じていない事に混乱しているスターミーに対し、

ベルノは構わず続ける。

 

「わはははは!!

 お主も中々のものだったが、まだまだじゃの。

 まあ、相手が悪かったと思って

 気を落とすでない!精進せい!

 わははははは!!!」

 

「な……な……なななな……!!」

 

スターミーはワナワナと、華奢な体を震わせながら言葉が出なかった。

二人の会話を聞いていた、その場の全員に戦慄が走る。

 

「スゥ…アンタん所のベルノ、大丈夫…?

もう一回治療受けた方がいいんじゃない…?」

 

「これはマズいな…記憶喪失か…!?

 言ってる事が滅茶苦茶だ。

スターミーの攻撃の後遺症が残ってる可能性が…」

 

カスミとノンは、本気でベルノの頭を心配していた。

 

そんな中、スゥは頭の後ろを掻きながら

呆れたように二人に答える。

 

「い、いや。大丈夫だよ。

これがいつものベルノだから。あはははは…」

 

「うわぁ…ベルノ君、あれだけ酷い目に会ったのに

 相変わらずいつも通りだよ…」

 

「ええ…私ならトラウマになってるかもしれないのに…」

 

「んにぃ…ベルノってある意味、ホントに最強なんじゃ…」

 

スゥ達は、改めてベルノの

『都合の悪い事は忘れる』習性に驚くばかりであった。

まさかこれ程とは…と。

 

その傍、苛立ちで震えていたスターミーはベルノを睨みつけ、構える。

 

 

「ふふ……ふふふ……そう…、覚えてないんだ…

じゃあ、今度は忘れられないようにしてあげる。

……もういっかい氷漬けになれーーー!!」

 

 

スターミーが金の装飾から『冷凍ビーム』を放とうとした直前。

カスミはボールの中にスターミーを戻した。

 

「こーら、スターミー。

ポケモンセンターの中で暴れないの。

悔しい気持ちは分かるけどね。」

 

「……ぅぅ……マスター……だってコイツがー!!」

 

ボールの中で喚くスターミー。

アズマオウは普段通り上品に、美しい錦色の袖を口元に当てながら呟く。

 

「うふふ、珍しい事もあるもんやねぇ。

あまり喋らんスターミーがこんなに大騒ぎするなんてなぁ。」

 

彼女の言葉を受け、カスミは腕を組みながら一つ溜め息。

そして、スゥやノン達に聞こえるように口を開く。

 

「そりゃそうよ。

まさか『コイキング』にペースを乱された挙句、

それがアタシ達の負けた原因になったなんて…

スターミーにしてみれば、かなりの屈辱だったと思うわ。

 アタシだって、かなり悔しいわよ。」

 

そして彼女は改めてスゥに向き直り、まっすぐ彼の目を見て伝える。

 

 

「なーんて。

 色々恨み言も有るけれど……

 本当にお見事だったわ、スゥ。

これが『ブルーバッジ』。アタシに勝った証明よ。

受け取りなさい。」

 

 

カスミの掌の上には、透き通った水玉のように艶々した

水色のバッジがあった。

 

スゥはそれを受け取り、天井の照明に透かすように高くかざした。

 

「これが『ブルーバッジ』…!!

 二つ目のバッジだ!」

 

「うわぁ…凄く綺麗!」

 

「宝石みたいですねぇ…」

 

「んにぃ…ちょっと美味しそう…」

 

「ほー、なかなか良い仕事をしとる品じゃの。

我の美しさには敵わぬが!

わははははは!!」

 

 

スゥがバッジを受け取ったのを確かめたカスミ。

そして彼女はブルーバッジに視線を集めているスゥ達に言葉をかける。

 

 

「さてさて、これでアンタは二つ目のジムバッジを手に入れたわ。

 おめでとう、完全に初心者卒業よ。」

 

『初心者卒業』。

カスミのその言葉に、スゥは問いかける。

 

「卒業…って、嬉しいけど…

 これまでと何かが変わるのか?」

 

彼の質問に、カスミは組んでいた腕を解いて説明する。

 

「大きく変わるわ。

 まずは『周りの目』が変わるって事かしらね。

 そのジムバッジを目に付く所に付けておきなさい。

 …どんどん強いトレーナーが挑戦してくるようになるから。」

 

「こ、このバッジを見せてるだけで…!?」

 

スゥは掌に置いたブルーバッジとグレーバッジを交互に見ながら、頭に疑問符を浮かべる。

 

カスミの言葉の意図を理解したノンが呟く。

 

 

「…なるほど、『モノサシ』になる訳か、そのバッジは…」

 

 

ノンの推測が正しい事を示すように、カスミは続ける。

 

「その通り。

 スゥ、考えてごらんなさい。

 格下の相手と戦ったって、トレーナーのスキルアップにならずに

 ただムダな時間を費やすだけでしょ?

 効率よく、自分と同じくらい強いトレーナーと戦うには

 どうしたら良いか。

 

 …そこでモノを言うのがそのバッジってわけ。

 2つのバッジを付けてるアンタを見れば、『そこそこの腕利き』だって分かって

 いい練習相手として挑戦を受けるでしょうね。」

 

 

「な、なるほど…!」

 

 

「あとは、フレンドリーショップで2つのバッジを見せれば、

 これまでよりも強力なモンスターボールが買えるようになるわ。」

 

そう言ってカスミは自前の『青いボール』を二人に見せた。

スターミーが格納されているボールである。

 

「『スーパーボール』。

 モンスターボールよりも頑丈な、

 ポケモンをもっと捕まえやすく出来るボールよ。

 新しく買える物はそれだけじゃないわ。

 普通の『傷薬』ではなくて、もっと回復効果が強い『いい傷薬』も買えるようになるの。」

 

スゥはカスミのスーパーボールを興味深そうに覗き込んでいる。

今まで見た事のない、青を基調としたカラーリングのボールである。

 

「スーパーボールって言うんだ、それ…

 てっきりカスミが自分で勝手に色を塗ったのかと思ってた。」

 

彼の言葉に、カスミはガクッと肩を落として答える。

 

「そ、そんなワケないでしょ!!

 大体、モンスターボールを勝手に弄るのは違法よ。

 ポケモントレーナーが使えるボールは、

 『シルフカンパニー製』の純正品だけ。

 違反したらトレーナーライセンスを剥奪されるだけじゃなくて

 警察に捕まっちゃうわよ。

 …ちゃんと覚えておきなさい。

 いくらアンタ達が強くなっても、ルールは守らなきゃ

 酷い目に遭うんだからね?」

 

先が思いやられる…と、カスミは呆れた表情で

スゥに忠告した。

 

その忠告に、スゥは『例の件』を思い出し、

真剣な表情で話を切り出す。

 

「勝手にモンスターボールを弄れない…か。

 それは一応知ってるよ。

 さすがに色を塗るのもダメだとは知らなかったけど。

 …

 …なあ、カスミ。『大事な話』があるんだ。」

 

その時、ノンはスゥの肩を掴んで話を止めさせた。

 

「ちょっと待て、スゥ。

 それなら…場所を変えよう。」

 

スゥが話そうとする内容を察し、

ノンは他の人間に聞かれない場所に行くよう提案した。

 

そんな意味有り気な二人に対し、

何を勘違いしたのかカスミは頬を赤くして問いかける。

 

「ちょ、ちょっと何々?急に改まっちゃって。

 大事な話?

 …ははーん、分かった!

 まったく困っちゃうわね~、

 また男達をアタシの魅力の虜にしちゃったみたい。

 ふふ、ふふふふ!」

 

 

そんな彼女に、スゥとノンは…

 

 

『そういう話では無いから安心してくれ。』

 

 

…と、あっさり断言して早々に場所を移すことにした。

 

「な、何よー!!

 アンタ達、ちょっとアタシに冷たいんじゃないの!?

 こんな美女が親切に色々教えてあげてるってのにー!

 …って、もう行ってるし!

 待ちなさいってーー!!」

__________________________________________

 

所変わり、ポケモンセンターのミーティングルーム。

ここに来るまでに、カスミは一先ずシャワーを浴びたいと駄々をこねていた。

重要な話をするつもりだったスゥとノンは、難色を示すも

ファルナやメルティ、そしてスターミー達女性陣の強い要望もあり、

スゥ達は渋々承諾した。

 

まあシャワーくらいなら、大して時間はかからないだろう…

と思ったスゥ達の予想は大外れ。

 

女性陣の身支度の時間を甘く見積もってしまい、

皆が一堂に集まる頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。

 

 

「ふー、今日は一日疲れたわー!」

 

「やれやれ、さっさと用件を済ませるつもりだったんだが…」

 

 

湯上りで上機嫌なカスミとは対照的に、

溜め息をつきながら不満気にノンが呟く。

 

「ま、まあまあノンさん。

 皆でお風呂に入れて楽しかったですし、

 いいじゃないですか!」

 

そう言ってアクアがノンをなだめる。

実際に楽しかったのだろう。

女性陣の中、ファルナだけがクラクラと目を回しているが、

その様子を見るに、お風呂での話題が何であったかは想像に難くない。

 

「ああ、いいんだアクア。

 何だかんだ、俺達も『シャワー』を浴びてスッキリ…

 …

 …ん?『お風呂』…?」

 

「あっ!

 ……えーっと……」

 

アクアはそっと視線をノンから逸らす。

 

「あちゃー、アクアちゃん、ダメじゃない。

 うっかり喋っちゃ。」

 

悪びれない様子でカスミがアクアを突っつく。

アクアの発言で、彼女らが遅かった理由が発覚してしまった。

 

スゥとノンは最早ツッコミを入れる気力は残っていない様子。

スゥはカスミ達のペースに合わせると、

いつまで経っても本題に入れないと思い、やや強引に話を戻す。

 

「ま、まあ…また野宿し出したら

 中々お風呂に入れないし、いいんじゃないかな?

 …で、『大事な話』なんだけど…」

 

そう言いながら、スゥは鞄の中から白いボール、

『アップデーター』を取り出す。

 

 

 

途端、そのボールを見たカスミの目が鋭くなる。

 

 

 

「…アンタ、それ…何の道具よ?

 似たような物、アタシ知ってるんだけど…」

 

彼女の表情が険しくなった理由。

それは、スゥの出したボールが、

ロケット団がポケモンを支配するために使用する

黒いモンスターボール、『M-プロト』に似ていたからだった。

 

スゥは彼女の視線に怯むことなく、落ち着いて答える。

 

「『M-プロト』を知ってるんだ。

 それなら話が早くて助かるよ。

 …このボールは、『アップデーター』って言うんだ。

 俺とノンが、この街のマサキさんから渡された物。」

 

「アップデーター…?それに、マサキって…『あの』マサキ!?

 流石、オーキド博士と繋がってるだけはあるわね。

 すごい人脈。

 …で、そのアップデーターってのは何なの?」

 

カスミの問いに、スゥとノンの二人が交互に説明する。

 

『アップデーター』とは、『M-プロト』による

モンスターボールへの不正な干渉、

つまりトレーナーのポケモンの乗っ取りを防ぐプログラムを書き込む装置だと。

 

さらに、この装置を使う相手は、

スゥ達が信頼を置ける人物のみとするよう

マサキから言われていること。

 

そして、それを広く口外しない理由。

それは『M-プロト』を製造しているのが、

他でもない、『シルフカンパニー』かもしれないと

マサキが疑っているからだ、という事。

 

つまり、『ロケット団』と『シルフカンパニー』が

繋がっている可能性があるという事。

 

 

重大な情報を、二人から真剣に聞いていたカスミ。

ノンが場所を改めさせた理由を納得する。

 

そして、頭を整理するため暫し沈黙した後、彼女は口を開く。

 

 

「はぁ…そりゃまたキナ臭い話ね…

 …

 …アンタ達、ロケット団に深入りしちゃダメよ。

 きっとタケシからも散々言われたんだろうけど。

 ロケット団の連中は本当に『何でもする』し、『出来る』力も持っているわ。

 

 仮にマサキが疑ってるように

 奴らが『シルフカンパニー』みたいな大企業と

 繋がってたとしても、アタシはそれほど不思議に思わない。

 

 それくらい巨大で厄介な組織なのよ、ロケット団は。

 私たちジムリーダーのレベルでも手を焼くくらい…ね。

 

 …もう一度言うわ。

 深入りしちゃダメ。冗談抜きに、いつか命を落とすわよ。」

 

重く、ゆっくりと、カスミはスゥ達を諭すように告げる。

スゥとノンは、その言葉をしっかり受け止めていた。

 

「ああ。俺もわざわざ危険な目に遭いにいくようなマネはしないさ。

 …だが、遭遇した時に身を守るためには強くならなきゃいけない。

 そうじゃなきゃ、『ポケモン図鑑完成』の旅なんて続けられないからな。」

 

ノンがそう答える。

その言葉に続けて、スゥも答える。

 

「それに、目の前で辛い目に遭っている人を見過ごしたくないよ。

 …せめて、手の届く距離の人達くらいは守りたい。」

 

そんな二人の言葉を聞いて、カスミは再び溜め息を吐く。

 

「はぁ…そういうのを『深入り』って言うのよ。

 事のヤバさがピンと来てないようね。

 …

 …」

 

しばし間を置き、カスミは意を決したように

スゥとノンの二人に告げる。

 

 

 

「…ロケット団のヤバさを分かりやすく言うとね、

 中級レベルの連中はアタシのスターミーくらい強力なポケモンを扱うわ。」

 

 

 

『なっ…!!』

 

 

 

 

その言葉に、スゥとノン、そして

彼らのポケモン達全員が戦慄した。

 

スゥはスターミーを4人がかりでやっと倒すことができた。

同じくノンも、これから彼女に苦戦を強いられることだろう。

 

そんなレベルの相手が、『中級連中』として一括りにされている。

 

カスミの言った一言の重さが、全員にのしかかっていた。

 

彼女は、スゥ達がようやく自分の言葉の重さを理解した事をしっかり見届けた。

…そして、険しい表情から一転。

 

年相応の可愛らしく、悪戯な笑みで一喝する。

 

 

「だから!!

 アンタ達は目指しなさい!

 バッジを8つ、全て集めた先にある

 ポケモンリーグの『チャンピオン』を!!」

 

 

彼女の一喝に、スゥとノンは目を大きくした。

 

「…カスミ…?」

 

「…どういう事だ…?」

 

二人の反応に、カスミは人差し指を突き付け

歯を見せながら言う。

 

「『ポケモン図鑑を完成させたい』?『困った人を助けたい』?

 どれも結構な事よ!

 それならカンタンな話。

 圧倒的な『センス』・『知識』、そして『度胸』を持ちなさい。

 そうしたら、どんな火の粉も払いのけられる。

 そして、どんな人達でも助けることが出来る!

 …

 アンタ達の旅の目標は、初めっから決まってたのよ。

 オーキド博士からポケモン図鑑完成の旅を任された瞬間から

 『チャンピオンになる』って目標が!」

 

 

カスミの言葉をしかと噛みしめるスゥとノン。

いつの間にか固く握りしめていた拳を見つめ、

自分に言い聞かせるように呟く。

 

 

 

「…ポケモンリーグの…!」

 

「…チャンピオン、か…!!」

 

 

 

そんな二人を囲むのは、彼らのポケモン達。

皆が互いのパートナーに、強い意志が篭った視線を向けている。

 

言葉に出さずとも、スゥとノンには彼らの気持ちが伝わってきた。

 

 

「わはははは!!

 なんじゃ、そんな事か!

 チャンピオン…即ち『王』!

 それは正に、我のことではないか!!」

 

 

…はずなのだが、びょんびょんと飛び跳ねながら

得意気に主張するベルノ。

 

その瞬間、コオォォォッ!!という音と共に、白い閃光が走った。

 

そしてカチコチに氷漬けになったコイキングが一丁上がり。

 

「……マスターが、大事な話してるんだから……

 …空気、読むの……」

 

頬を膨らませ、不機嫌なスターミーが氷漬けのベルノに向かって説教していた。

当然、氷漬けになった彼の耳に届くはずが無かったが。

 

「こーら、スターミー。」

 

「………むぅ。」

 

むくれるスターミーを膝に抱えて、彼女の頭を撫でて諫めるカスミ。

その傍ら、やや呆れ顔でファルナとメルティが

ベルノの氷を溶かして救出していた。

 

 

「…はっ!!我はどこじゃ!?ここは誰じゃ!?」

 

「逆だ、逆。」

 

 

意識を取り戻したベルノにすかさず突っ込むノン。

そんな一連の様子を苦笑しながら見ていたスゥ。

彼は気を取り直し、笑顔でベルノの頭を撫でながら言う。

 

「…ベルノ、ありがとう。

 確かにお前のお陰で、今回は助かったよ。

 これからも頼りにしてるよ!」

 

「んにっ!ボクも見直したよ、ベルノ!」

 

「ほんと!ベルノくんが頑張ってくれたから…」

 

「私たちも戦えたんですもの!」

 

スゥの言葉に続けて、ピコ達もベルノの健闘を称えた。

鼻高々と、胸を張りすぎて後ろに倒れそうな程のベルノ。

 

そんな彼らを見て、スターミーは一言だけ

ベルノに称賛の言葉を呟く。

 

 

「………ま、少しは認めてあげてもいいけど。」

 

 

そうしている内に、カスミ達が注文していた料理が運ばれてきた。

『お近づきの印』と『祝勝会』という名目で、カスミとノンが特別豪華な

料理を注文していた。

 

話がまとまった所で、スゥとノンは早々にアップデーターでカスミのポケモン達を保護。

それが終わると、一斉にポケモン達はご馳走に手を伸ばす。

ハナダシティに到着し、スゥとノンが再会した時よりも

たくさんの料理、そしてたくさんのメンバー。

 

 

――――――…それぞれが思い思いに宴を楽しみ、騒がしく夜が更けていく。

 

___________________________________

 

 

ゴールデンボールブリッジの上。

空高く昇った月が、夜でも橋を金色に輝かせる。

 

ひんやりとした穏やかな風が、眼下の運河の水面を

柔らかく揺らしていた。

 

緩やかに波打つ水面が、月明りを反射してキラキラと輝く。

…そんな静かな夜。

 

「…綺麗な街だなあ…

 ……いよいよ明日でお別れか。」

 

そう独り言つスゥ。

ニビシティでもそうだったが、こんな晴れの夜にひっそりと

街の景観を眺める事が、彼にとっての旅の楽しみになりつつあった。

 

「…な~に一人で黄昏てんだよ。」

 

「痛っ!」

 

そう言ってスゥの背中を小突くノン。

 

「な、何だお前か…」

 

「何だとは何だ。可愛い彼女じゃなくて残念だったか?」

 

ノンは腕を組みながら、肩で軽く笑ってからかう。

 

「別にそんなんじゃないよ!」

 

頭の後ろを掻きながら、頬を赤くしてそっぽを向いてスゥは答えた。

 

「ははは、図星だな。

 そういや、アクアも随分嬉しそうにしていた。

 案外、アイツはそういう話が好きみたいだ。

 …そういえば…」

 

「ん?そういえば…何だ?」

 

意味有り気な物言いで言葉を止めるノン。

 

「…おっと、『その本人』に怒られるな。

 ま、今は忘れておいてくれ。

 『その本人』に度胸があれば、また面白いものが見れるかもしれないぜ。」

 

「…おいおい、まさか…」

 

スゥはノンの物言いに、何となく察しを付けた。

ノンの方も特に否定はせず、肩で笑いながら勿体づける。

 

「くくく、あまり詮索してやるな。

 そうだな、次の街でもし会えたら…何か起こるかもな。」

 

「何だよそれ。

 次の街って…『ヤマブキシティ』の事か?」

 

「そうだ。

 この近くの街で、ジムがあるのはそこくらいだからな。」

 

「だけど…大丈夫か?

 アイツのスターミー、かなり強かったよ。

 こっちはピコが居たから何とか勝てたけど…」

 

「はは、問題じゃないさ。

 『弱点』を持ってなければ勝てない…

 なんて言ってたら『チャンピオン』なんて夢のまた夢だ。

 さっさと倒して、俺も次に進む。」

 

「うぐ…相変わらずの自信家だな…

 カスミが聞いてたら怒られるよ?

 一回怒り出すと、ほんとに手が付けられない奴だから。」

 

「おっと、確かにそれは怖いな!」

 

『ははははは!!』

 

と、夜の橋で笑い合う二人。

 

…に合わせるように、もう一つの笑い声。

 

「ほほほほほほほ‥‥!!」

 

それが聞こえた瞬間、スゥとノンは硬直する。

 

恐る恐る、笑い声が聞こえる方向に、ちらりと目をやると

目を三角に尖らせた『手を付けられない奴』が佇んでいた。

 

「うぉっ!?」

 

「で、出たああああ!!」

 

「上等じゃないの、アンタ達…!

 このアタシが直々にボコボコにしてやるんだから~~!!」

 

 

 

   「"ハナダ"は流れる川の色。移ろい、澄みゆく水の色。」

 

    尊大な態度の異色な仲間、ベルノを迎え入れたスゥ達。

    悩みの種となる事もあったが、カスミとの戦いの中で

          彼から「折れない心」を学び、

   チームの総力を挙げてジムバトルを攻略することができた。

 

 いよいよ初心者を卒業し、トレーナーとしての頭角を現し始めたスゥ。

   マサキからアップデーターを託された事も、それを証明する。

 

     そして、彼にとっての旅の目標も明確になった。

 

    それは、ポケモンリーグの『チャンピオン』となる事。

   ロケット団の脅威から身を守り、ポケモン図鑑完成の旅を

           続けるための必須条件。

   

  目標と覚悟を新たに、スゥは次の街『クチバシティ』へと向かう。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「そ、そうだ話せば分かる…!」

 

「…はあ、まったく…

 それじゃあ、『条件』を飲んでくれたら

 今の暴言、許してあげてもいいわよ?」

 

「…え?」

 

「…『条件』…?」

 

「それはねぇ…

 …とりあえずは、アタシと『クチバシティ』に一緒に行く事よ!」

 

「クチバシティ、って…」

 

「ヤマブキシティの更に南じゃないか。

 何故わざわざ…」

 

「いいから!

 別にジムの順番なんて無いんだから、気にしないの!!」

 

カスミが提示する『条件』。

ハナダのおてんば人魚は何かクチバシティに

『お目当て』が有りそうな様子だが…

それはまた、次のお話。

 

~ まっしろレポートとふたつの炎 ~

 

 第5章 ハナダシティ編[始動] 終

 


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