まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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~ 第2章 トキワシティ編 [萌芽] ~
Report2-1 [野生のポケモン]


[Report2-1 野生のポケモン]

 

スゥ 「さて、これからトキワシティに行こう。」

 

ファルナ「トキワシティってここからどれくらいかかるの?」

 

スゥ 「そうだな、地図の道通りなら40kmくらいだから、歩いて10時間くらいかな?

   休みながらで行けば、着くのは多分明日になると思う。」

 

ファルナ「そんなに遠いんだ。マサラタウンってもしかしてすっごい田舎なの?」

 

スゥ 「もしかしなくても、ポケモンセンターさえ無いんだからど田舎だよ。

   しかも、トキワまでの道は野生のポケモンも出てきて危ない場所らしいし、なかなか外から人は来ないね。

   俺やノンのような子供はみんな町の外へ行きたがるんだけどね。

   大人達にばれちゃったら、ものすごく叱られるんだ。」

 

ファルナ「へぇー。スゥは叱られたことあるの?」

 

スゥ「一度ノンと一緒にマサラの外遊びに行ってみようよ、って誘って町から抜け出そうとしたことが有ってね。

  博士に見つかっちゃって、あの時はものすごく怒られたよ。

  それ以来ノンを誘っても、あいつ真面目だから「オヤジの許可がないとダメだろ」って断られるようになった。」

 

ファルナ「じゃあ、スゥはマサラタウンの外には行ったことが無いの?」

 

スゥ「うん。だから突然旅に出てくれと博士に言われて、本当にびっくりしたよ。」

 

スゥ達はしばらく道なりに歩いて行き、程なくして草原に出た。

その一帯はほとんど整備がされていないのか、道らしい道もなく背の高い草が茂る。

人間の姿も見えず、ただ風で葉がざわざわ擦れる音だけが心地よく鳴っている。

彼らが気分良く歩いていた時、突然ひときわ大きなガサッという音が響いた。

 

?「おい、人間っ!」

 

スゥ「!?

  な、何だ!?」

 

?「こっから先はボク達『コラッタ』の縄張りだ!

  これ以上ここをウロウロしてたら痛い目に遭わせるぞ!

  帰れ!帰れ!」

 

深くなっている茂みから野生のポケモンがスゥ達の前に出てきた。

コラッタと名乗るそのポケモンはファルナより若干背丈が高く、気が強そうな言葉遣いをしている。

 

スゥ「コラッタ・・・?あ!野生のポケモンか!?

  すごい、初めてだ!」

 

?「な、何ジロジロ見てるんだよ!ボクが言った事聞いてないのか!」

 

スゥ「うーん、そう言われてもここで引き返す訳にはいかないんだよね。

  通してくれないかな、僕?」

 

?「あーん?ダメに決まってるじゃん。

  ボクの機嫌がいい間に早く帰った方がいいんじゃないかなー?」

 

スゥ「(んー、なんかこの子供・・・いかにも悪ガキって感じだな。)」

 

ファルナ「スゥ、どうする?無視して思いっきり走りぬけちゃう?

   それとも・・・」

 

スゥ「どうせこれからもこういう事だらけだろ?一々逃げ回っていられないよ!

  コラッタ、悪いけど倒してでもこの先に進ませてもらうよ!」

 

ファルナ「わかった!まかせてね、スゥ!」

 

話がまとまった所で、ファルナは利き手の右の爪を構え腰を落とした。

 

コラッタ「なんだよ!やる気か?この人間。

   せっかく見逃してやろうと思ってたのにバカだな!

   よりによって、このボクとやるの?この辺じゃぁボクが2番目に強いんだけどなー。

   あーあ、いいのかなー。」

 

ファルナ「ねえ、2番目だって!

   …大丈夫かな?」

 

スゥ「うーん。強いぞ!と自己主張する割には2番目って、案外控えめな性格の子だね。

  …あんまり強くなさそうだけど。」

 

コラッタ「あーっ!!こ、この人間っ!よくもボクをブジョクしたなっ!?

   もう怒った!!」

 

そのコラッタはスゥめがけ、勢いよく「たいあたり」を繰り出してきた。

 

ファルナ「スゥを攻撃しちゃだめ!」

 

ファルナがスゥをかばい、コラッタの体当たりを受ける。

転ぶほどの威力はなく、足を踏ん張って耐えた。

 

ファルナ「いたっ!」

 

スゥ「ファルナ!」

 

ファルナ「だいじょうぶ!アクアちゃんのたいあたりよりは痛くないから!

   コラッタ…えーと、名前は知らないけど、君の相手は私!」

 

コラッタ「ふんだ。だってお前女だろ?弱そうじゃん。

   ボクより背ちっちゃいし、つまんないよ!」

 

スゥ「ファルナ、[ひっかく]!」

 

ファルナ「やあっ!!」

 

ファルナは、彼女を見た目で舐めてかかってケラケラ笑うコラッタに

得意の攻撃をお見舞いした。

お腹に攻撃を受けてバランスを崩し、お尻から落ちたコラッタ。

 

コラッタ「ぐえっ!!」

 

ファルナ「どう?女の子だから弱い?」

 

コラッタ「くぅぅっ…怒ったぞ!

   やあーっ!!」

 

コラッタは意外な強さの攻撃で倒れてしまったことに腹が立ち、

今度は彼女にたいあたりを繰り出す。

その動作をスゥは見逃さなかった。

 

スゥ「よし、[なきごえ]!」

 

ファルナ「がうっ!がううぅっ!!」

 

コラッタ「わっ!!な、なん・・・」

 

コラッタは突然の大声に驚き、ファルナに向かって一直線だった足の力を緩めてしまった。

 

スゥ「そこだ![ひっかく]!」

 

ファルナ「やっ!」

 

コラッタ「ぎゃうっ!」

 

二回目の攻撃を受けたコラッタ。

最初の啖呵はどこへやら。体力が尽きてしまった。

 

スゥ「ファルナ、よくやった!」

 

ファルナ「えへへっ。スゥも昨日より指示が上手になったねっ」

 

スゥ「そ、そうかな?ありがとな!

  それよりも、ダメージは大丈夫か?」

 

ファルナ「うん。まだまだ平気だよー。」

 

スゥ「…あのコラッタすこし可哀想だったかな?ごめんね、僕。

  きずぐすり塗ってあげるからじっとしてて。」

 

コラッタ「…」

 

コラッタ「ふんっ!!」

 

スゥ「いたっ!」

 

ガブ!と。

スゥは倒れているコラッタを治療しようとしたが、手を噛み付かれた。

 

コラッタ「うう…、くそっ、にいちゃん達に言いつけてやっつけてやるからな!覚えてろよお前らー!

   バーカバーカ!うわぁぁぁーん!」

 

コラッタは泣きべそをかきながら逃げていった。

捨て台詞か、あるいは本当に実行するつもりなのか不穏な言葉を残して。

 

スゥ「いたた…

  「にいちゃん達」…?

  なんかイヤな予感がするな。ファルナ、あまり長居しないほうがいいかもしれない。

  もしかしたら大勢で仕返ししにやって来るかも。」

 

ファルナ「う、うん。さすがにたくさん相手じゃ私も勝てる自信がないよ…。」

 

スゥ達は先程のコラッタの言葉を気に掛け、早足で道を行くことにした。

日が高く昇る頃にはトキワシティまでの道のりの三分目くらい進んでいた。

 

スゥ「…ふー、結構進んだかな。

  ちょっと疲れたから休もうか。ほら、そこに休めそうな木陰があるし。」

 

ファルナ「うん。お腹も空いたー!」

 

スゥ「それじゃあそろそろお弁当を食べよっか!」

 

ファルナ「はーい!」

 

一悶着が過ぎ、彼らのお腹の虫が鳴り始めた。

真上から降り注ぐ太陽の光を遮る大きな木の下で座り込み、

早朝に母が持たせてくれた風呂敷を開いて食事を始めた。

 

…またしても、草むらの影から彼らをじっと見る影が一つ。

 

?「あっ、食べ物…食べ物のにおいがする…

に、人間だ…!

  うう、せっかく食べ物が見つかったと思ったのに…」

 

ひっそりと陰から覗く誰か。

食べ物に飢えているのか、じっと彼らが広げる弁当を見ていたが、

スゥを見るなり怖気付いてその場を去ろうとしたが

その時ガサッ、と音を立ててしまった。

耳の良いファルナがその物音に気づく。

 

ファルナ「!!

   スゥ、気をつけて!誰かいる!」

 

スゥ「げ、まさかコラッタか!?」

 

?「(・・・! 気付かれちゃった・・・!)」

 

茂みの隙間からスゥ達を見ていた人影は、ファルナに気付かれてしまった事で覚悟を決めて出てきた。

その姿は人間で言えば、腕にあたる場所に大きな翼を纏っていた。

そして翼を大きく広げてスゥ達を威嚇した。

 

?「に、人間!その食べ物を置いてどこか遠くに行けっ!」

 

スゥ「ま、またどっか行けって…。

  あ、腕に羽が生えてる!?この子はコラッタじゃないのか?」

 

?「聞こえっ…ないのっ!?今なら見逃し…っ、…」

 

ファルナ「スゥ、この子ケガしてるよ!弱ってるみたい。小さい子供なのにどうしたんだろ…」

 

二人はそのポケモンが羽に傷を負っていることに気付いた。

懸命に羽を広げして大きく見せようとしているが

とても人を襲える力は持っていないように見える、幼い子供だった。

 

スゥ「!本当だ!

  ねえ君。大丈夫か?ケガだらけじゃないか!」

 

?「う、うるさいっ!そんな事、どうだっていいから食べ物を…置いて…」

 

スゥ「食べてもいいよ。分けてあげるから。

  一緒に食べればいいだろ?

  その前にケガの治療をしないといけないけど。」

 

?「…え?」

 

スゥ「弱ってるのに無理するな。

  何があったのか知らないけど、治療も何もせずに追っ払えないよ。」

 

ファルナ「お腹もすいてるんでしょ?」

 

?「あうぅ…」

 

スゥは応急手当てセットでその弱ったポケモンを治療してやった。

深い傷では無いが、体中に滲むアザと擦り傷の跡が痛々しい。

 

?「あっ…痛っ!」

 

ファルナ「たくさんケガしてる…。かわいそう。」

 

スゥ「ちょっと我慢してて。

  傷薬を塗って、あとはガーゼを貼って…と。

  はい、終わったよ。よく我慢したね。」

 

?「あ、えと…」

 

スゥ「さあ、少し楽になっただろ?

  それじゃあ、みんなで昼ごはん食べよ。」

 

?「…」

 

そのポケモンは決死の覚悟で力を込めたのに、

すっかり気が抜ける程の優しい扱いを受けて戸惑っていた。

 

スゥ「君、ポケモンだよね。

  何ていうポケモンなの?」

 

?「あ…うん。

  わたしは『ポッポ』のツムジ。

  あの、手当てとご飯ありがとう。それと、襲おうとしてごめんなさい。」

 

スゥ「結局襲ってこなかったんだから、もう気にしないで。

  俺はスゥ。こっちの子がファルナ。よろしく、ツムジ。」

 

ファルナ「よろしくね、ツムジちゃん!」

 

ツムジ「うん…!よろしくね、スゥお兄ちゃん、ファルナお姉ちゃん。」

 

ファルナ「えへへ、お姉ちゃんかー。

   私の方が大きいもんね。」

 

スゥ「その腕って翼みたいだけど、もしかしてそれで空を飛べるの?」

 

ツムジ「うん。今はケガをしててうまく飛べないんだけどね。」

 

ファルナ「どうしてそんなケガしてたの?

   全身に負ってて、女の子なのにかわいそう…」

 

ツムジ「…コラッタの群れに襲われたの。縄張りを荒らすなー!って…。」

 

ファルナ「ねぇスゥ。コラッタってみんな乱暴なのかな。こんな小さい子まで襲うなんて…。」

 

スゥ「さっきのコラッタも縄張りってうるさかったな…

  そういうポケモンなんだろうね。

  それにしても酷い事するな…。」

 

ツムジ「群れからはぐれちゃってみんなを探してたの。

   だけどなかなかみんなが見つからなくって…。

   お腹が空いて実がなる木を見つけたんだけど、コラッタ達の縄張りだったみたい。

   こんな事ならお父さんの言う事聞いておけばよかった…。」

 

スゥ「お父さん?」

 

ツムジ「うん。お父さんはこの辺りのポッポ達のリーダーなの。」

 

ファルナ「へえー、ツムジちゃんのお父さんって偉い人なんだ!」

 

ツムジ「お兄ちゃん達わたしを治療してくれたし、ご飯もくれた優しい人。

   人間は怖いから近づくな、ってお父さんに言われてたけど、スゥお兄ちゃんみたいな人間もいるんだね。」

 

スゥ「そんなに言われるとなんだか照れるね。」

 

念のために家から持ってきた傷薬が早くも役に立って良かったと思うスゥ。

ツムジは傷の痛みも楽になり、食べ物も食べられた事で見る見る顔色が良くなった。

 

ツムジ「ごちそうさまでした。

   本当にありがとう、ご飯食べたらすごく元気になったよ!」

 

スゥ「どういたしまして。確かにもう大丈夫そうだね。

  それにしても、ツムジの仲間が見つからないのは心配だな。」

 

ツムジ「多分、お父さんが探してくれてると思うからすぐに会えると思うよ。

   それじゃあ、私はまた群れを探しにいくね。

   ばいばい!スゥお兄ちゃん、ファルナお姉ちゃん!」

 

スゥ「ん。今度は襲われないように気をつけろよ!」

 

ファルナ「ばいばーい!ツムジちゃん!」

 

ツムジは腕の翼を大きく広げ、風に乗って飛んでいった。

 

ファルナ「わー、本当に飛んでる!いいなあ~!」

 

スゥ「自由に空を飛べると気持ちいいんだろうなー。

  人間は自力では飛べないから羨ましいね。」

 

ファルナ「私も空飛んでみたいなー。楽しいだろうね、スゥ。」

 

スゥ「ファルナはポケモンなんだから、ひょっとしたら飛べるようになるかもしれないよ?」

 

ファルナ「ええーっ、だってツムジちゃんみたいな翼を持ってないから無理だよ。」

 

スゥ「…大人になったら腕に翼が出てくるかも。」

 

ファルナ「えぅ…なんだか怖いこと言われた気がする。

   うーん…じゃあ、もし飛べるようになったら、スゥを乗せて飛んであげるね!」

 

スゥ「あはは。楽しみにしてるよ。」

 


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