まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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ハナダシティジム戦、最終話です。
前話で見出したスゥの突破口。
タイトルの通り、チームの総力が結集した形で発揮されます。

ポケモン同士だけではなく、トレーナー同士の駆け引きが必要な作戦。
皆さんの予測は当たっていますでしょうか?
是非お楽しみください。


Report5-15 [チームの力]

氷の床から、上空の熱気に立ち上る水蒸気。

 

それをスゥは『突破口』と見る。

しかし、それは小さな突破口。

彼の考える作戦を成功させるには、

スゥの一言一句・一挙一動にミスは許されない。

 

 

それを肝に銘じ、スゥは意を決してカスミを挑発する。

 

 

「カスミ!」

 

突然呼びかけられた彼女は、少し驚いた顔でスゥに返事をした。

 

「な、何よ?」

 

スゥは不敵な笑みを浮かべて、一言放つ。

 

「・・・ファルナの火力、得意属性だからって舐めたら痛い目を見るからな!」

 

「スゥ・・・?

 ・・・うん、まかせて!!」

 

彼の言葉を証明するように、ファルナは髪に灯す炎を大きく燃え上がらせて

カスミとスターミーを威嚇する。

 

 

そんな二人を見たカスミは、頭の後ろをポリポリと掻きながら言う。

 

 

「はぁ・・・彼氏バカ・・・って訳じゃなさそうね。

 さっきのメルティって子も中々の火力だったし。

 ・・・いいわ。

 彼女さんには悪いけど、一撃で沈めるわよ。

 もうアンタ達に変な反撃されるの、疲れるし!」

 

 

スゥの挑発に乗ったカスミ。

しかし、ただ単純に挑発に乗った訳ではない。

 

これまで、スゥの出方を伺いながら放った『スピードスター』や『サイコキネシス』が

尽く逆手に取られ、ダメージを受けてきた。

 

それならば、次は小細工の入る余地が無い、強力な一撃で仕留める。

・・・それが彼女の至った考えであった。

 

 

「スターミー!!

 あなたの全力、見せてあげなさい!!」

 

「・・・・・わかった・・・・ちゃーじ・・・!!」

 

 

カスミの指示を受け、スターミーは体の前に『金の装飾』を大きく展開する。

それはギュルギュルと激しく回転し、その中心に

渦を巻く水球が生成されていく。

 

加えて、スターミーの周囲には無数の水泡が漂う。

それは『バブル光線』の準備動作。

 

 

「スゥ、私はどうしたらいい!?」

 

 

ファルナはスターミーの不穏な様子を見てスゥに叫ぶ。

彼は、既に答えが決まっていたように即答する。

 

 

「こっちも『最大火力』だ、ファルナ!!

 スターミーを迎え撃つんだ!!」

 

「オッケー!!」

 

 

単純明快なその指示。

とにかく全力の炎を撃つ。

ファルナは長い髪に手を滑らせ、腕に炎を纏う。

 

拳に燃えたぎる炎を灯しながら、彼女は姿勢を低く構えた。

 

 

 

両者、全力の一撃を放つ。

 

 

 

「スターミー!!

 『水鉄砲』プラス、『バブル光線』!!」

 

「ファルナ!!

 『火炎放射』!!」

 

 

 

ブシャアアアアアアッ!!

ゴオオオオォォォォッ!!

 

と、フィールド中どころか、ガラス越しの観客席まで轟く

猛烈な音を立てて二人の技が炸裂する。

 

 

そして、激突する。

 

 

ジュワアアアアアアアッ!!!!

 

 

『これは強烈ーっ!!

 スターミー、ただでさえ強力な『水鉄砲』に

 さらに『バブル光線』を組み合わせた超砲撃ーーッ!!

 しかししかし!!

 苦手な水も何のその!!

 挑戦者のリザード、猛烈な『火炎放射』で応戦!!

 信じられない、何と拮抗しているーーーーっ!!』

 

 

声を裏返しながら、興奮が最高潮といった様子で実況が響く。

しかし、その実況を上塗りするほどの『砲撃』の衝突による

水蒸気が発生する轟音。

 

水蒸気の白いモヤを、ファルナの火炎放射が赤々と照らす。

 

 

スゥとカスミが戦うフィールドは、『赤色の濃霧』に包まれた。

 

 

「・・・・・っ、しんじ、られない・・・・!!

 ほのお・・・・なのに・・・・!!」

 

「何て火力なの・・・!

 さすが、とっておきの子って所ね・・・」

 

 

今スターミーが放っている、水鉄砲とバブル光線の合わせ技。

それは彼女にとって、言い訳の余地が無い『全力』。

 

それが拮抗している。

しかも、得意な属性であるはずの『火炎放射』に対して。

 

少なからずショックを受けるカスミとスターミー。

 

 

しかしファルナの方も、全く余裕は無い。

 

額から汗を流し、脚を踏ん張りながら、

必死に押し負けないように『火炎放射』を放ち続ける。

 

 

「っ・・・くぅっ・・・!!

 これ・・・アクアちゃんより強い・・・・かもっ!!」

 

 

「頑張れファルナ!!

 ・・・・もう少しだ!!」

 

「もう少し?何言ってんの!

 スターミー、まだまだ行けるわね!!」

 

 

 

激流と火炎の轟音、そして激しく発生する水蒸気の音。

それらにかき消されないように、スゥとカスミは互いのパートナーを励ます。

 

 

 

「うっ・・・くっ・・・!!

 まだ・・・威力が落ちないの・・・!?」

 

苦しげに火炎放射を放ち続けるファルナ。

精神力がそろそろ尽きかけている。

 

対するスターミーは、まだ少し余裕がある様子。

 

「・・・・・ちょっと、火が弱くなった・・・・?

 ・・・・・じゃあ、いくよ・・・・・!!」

 

火炎放射の手応えが薄くなってきたのを感じるスターミー。

そして、彼女は残る力を一気に開放する。

 

 

『強烈、強烈、強烈ーーーっ!!

 火炎放射と水鉄砲、さらにバブル光線の爆音!!

 実況席までビリビリと空気が震えているーーっ!!

 両者、威力が落ちず・・・・

 ・・・おおーーーっと!?』

 

 

「うっ・・・くっ・・・!!

 だ、ダメ・・・!!押し・・・負ける・・・!!」

 

徐々にファルナの火炎放射の勢いが弱まっていく。

それとは逆に、スパートをかけるスターミーの『水鉄砲』と『バブル光線』の威力が増す。

 

やはり、撃ち合いでは有利属性で余裕のあるスターミーに分があった。

 

そして膠着状態は一瞬で崩れ去る。

 

 

ブシャアアアアッ!!

 

 

「きゃあああっ!!!」

 

 

水鉄砲の水圧と、バブル光線の破裂する衝撃がファルナを襲う。

 

精神力を使い果たし、強力な水属性の技の直撃を受けたファルナは、

カスミの宣言通り『一撃』でダウンさせられてしまった。

 

 

『決まったァァーーーーッ!!

 拮抗していたスターミーとリザードだったが!!

 やはり属性相性を覆すことは難しかった!!

 リザード、強力なダブル攻撃を受けて戦闘不能ーーーっ!!』

 

 

 

氷の床にグッタリと倒れているファルナを、

スゥはボールで一旦、彼の傍に戻した。

 

「ファルナ・・・よく頑張ったな。」

 

スゥが彼女を労うも、ファルナは力無い表情でスゥを見ながら話す。

 

「っ・・・ごめんね、スゥ・・・

 ベルノくんと・・・メルちゃんの分まで・・・・頑張れなかった・・・

 ぅっ・・・グズッ・・・ダメ・・・だったよ・・・!

 何も役に立てなかった・・・!!」

 

言葉の途中から、限界まで頑張った二人への申し訳なさで

涙が溢れるファルナ。

 

泣き顔を見られたくないという様子で、

彼女は腕で顔を隠す。

 

 

「・・・いや、違う。ファルナ。」

 

 

スゥはファルナの頭を撫でてやりながら、落ち着いた声で言う。

 

「・・・えぅ・・・?」

 

その言葉に疑問を持つファルナ。

スゥは彼女に、少し心苦しさが混じった笑顔で伝える。

 

 

「・・・痛い思いをさせてごめん。

 俺、『こんな作戦』しか思いつかなかったんだ。

 だけど・・・みんなの頑張りを無駄になんてしない!!」

 

 

「・・・スゥ・・・

 まだ、勝てるかもしれないの・・・?

 私、みんなの役に立てたの・・・?」

 

 

顔を覆っていた腕を払い、ファルナは涙交じりに彼の顔を見る。

そして、スゥはピコが入ったボールを手に取り言う。

 

「ああ。

 『みんな』の頑張りを無駄にしないって言っただろ?

 ・・・信じて、見ていてくれ!」

 

「スゥ・・・うん!

 お願い、私たちを勝たせて!」

 

 

「任せろ!

 ・・・最後だ、頑張ってくれ!ピコ!!」

 

 

彼はそう言うと、ファルナをボールに戻してピコを繰り出す。

 

「・・・ん、にぃ・・・!

 が、頑張る・・・!!」

 

 

普段の、ボールから飛び出た瞬間の元気が見られないピコ。

序盤で蓄積したダメージと疲労が抜けず、足をふらつかせていた。

 

・・・しかし、ピコの元気が無い原因はそれだけではなかった。

 

 

『挑戦者、ついに残り一人!!

 引っ込めたピカチュウを、再びフィールドに繰り出したーっ!!

 しかしアズマオウとスターミー戦で疲労が見える!

 いよいよ後が無くなってしまった!!』

 

 

「はぁ、はぁ・・・長かったわね。

 さすがにこっちも疲れてきたわ。

 それに・・・」

 

フィールドに出てきたピコを見て、カスミは息絶え絶えに言う。

彼女の元気が奪われている理由。

それは、ピコと同じ理由だった。

 

その『原因』を吐き出すように、彼女は言葉を続ける。

 

 

「アッツイのよーー!!

 さっきから『蒸し風呂』みたい!!

 これじゃあトレーナーの方が意識飛んじゃうわよ!」

 

 

・・・そう、強烈な水撃と火炎放射により発生した

膨大な量の『高温蒸気』。

それによって、密閉されたバトル場は

まるでミストサウナのような蒸し暑さとなっていた。

 

 

同じくピコとスターミーも暑さで意識が朦朧としている。

 

 

「んにぃ・・・暑いぃ・・・」

 

「・・・・・・クラクラ・・・する・・・・!」

 

 

そんな中、スゥは意識を何とか保ちながらカスミに尋ねる。

 

「っく・・・カスミ・・・

 これは、『故意にトレーナーに危害を加える』事には・・・ならないよな?」

 

彼の問いに、カスミは蒸し暑さでイライラしながら強く答える。

 

「・・・はぁ?

 ・・・・えー、そうね!別に反則じゃないわよ!

 ってか何よ急に。

 ・・・まさかアンタ、コレを狙ってたって訳じゃないでしょうね・・・?」

 

 

「・・・

 ・・・

 ・・・・・ん?何のこと?」

 

 

 

ここで、『故意』を認めてはならない。

たとえ、そうだとしても。

 

スゥはカスミが鎌をかけてきた事を理解し、

あえてわざとらしく、トボけた顔で聞き返していた。

 

その言動が彼女の癇に障り、更に追及される。

 

 

「ムカっ!

 アンタねえ・・・!

 そういう事・・・。偶然装って、この状況を作ったって訳?

 『トレーナー同士の我慢比べ』にして、

 アタシがギブアップするのを狙ってるんでしょ!」

 

 

カスミはそう推測した。

スゥの狙いは『スターミーを倒す』事ではなく、

『トレーナーがギブアップする環境を作る』事で決着を付けようとしているのだと。

 

 

カスミの言葉を聞いたスゥは、口元を上げて

誰にも聞こえないような声で呟く。

 

 

 

「・・・・よし、『気付いて』いない・・・・

 あとは、『アレ』さえ出させれば・・・・!」

 

 

 

そして、彼は両手を広げて

白々しく答える。

 

 

「何言ってるんだ。偶然だよ、偶然!

 もしかしてカスミ・・・もうギブアップか?

 『トレーナーも、体を鍛えてこそ一流』って言ってたのに?」

 

 

その言葉に、ついにカスミの堪忍袋の緒が切れた。

 

 

「ああああああっ!!ムカつくわねー!!

もういい加減アンタの目論見なんかお見通しよ!

 いいわ、認めるつもりが無いようね。

 ・・・関係無いわ。

 その作戦、全部『ムダ』にしてあげる!!」

 

 

そして、カスミはスターミーに指示する。

 

 

「スターミー!!早いとこ周りを『冷凍ビーム』で冷やしてちょうだい!!

 さっさと最後のピカチュウを倒してシャワーでも浴びるわよ!!」

 

 

「・・・・・ぁ、その手があった・・・・」

 

 

カスミの指示を受け、スターミーは朦朧としながら

『冷凍ビーム』を周囲に放つ。

 

蒸し風呂状態だったフィールドに、涼しさが戻ってきた。

 

 

「ふ~っ・・・涼しい・・・!

 アンタも大概疲れてきてるわね?

 スターミーの『冷凍ビーム』の事、すっかり忘れてたでしょ!」

 

 

これで意識を失う心配は無くなった

・・・と、カスミが一息ついた矢先。

 

 

 

ゴロ・・・・ゴロゴロ・・・・・!!

 

 

 

・・・何か上空から重たい音が轟く。

 

そんな中、スゥは密かに拳を握りしめていた。

 

 

 

「・・・・忘れるもんか・・・・!!

 『ソレ』を待ってたんだ・・・・!!」

 

 

 

彼のポケモン達も、フィールドに起こった変化に驚いていた。

 

「スゥにぃ、あれって・・・!!」

 

「・・・ふふ、やっぱり凄いです。スゥくん・・・!」

 

「スゥ・・・そっか、これが・・・!!」

 

 

そして、彼らとは対照的に

真っ青な顔のカスミ。

 

 

「ぁ・・・あああああ!!?

 アンタ・・・アンタってヤツは・・・・!!!」

 

 

彼女が見たもの。

 

それは、充満した水蒸気が『冷凍ビーム』の冷気で急激に冷やされた結果

フィールド中の水蒸気が一気に凝集して出来上がったモノ。

 

 

 

・・・フィールド上空を覆い尽くす、

重く、ドス黒い『雷雲』であった。

 

 

 

スゥは、この時を待ってたというようにピコに指示する。

この期に及べば、ピコにも既に答えは分かっていた。

 

 

「スゥにぃ!!!」

 

「ピコ!!

 あの『雷雲』は・・・みんなの・・・

 『チーム全員の力』だ!!

 いけーっ!!『電気ショック』!!!」

 

 

「んにぃぃぃぃーーーー!!」

 

 

 

バリバリバリッ!!と、ピコは『雷雲』目がけて

全力で電気ショックを放った。

 

そして。

 

 

 

ビシャアアアアアン!!!!

 

 

 

 

と、目の眩む閃光と、耳をつんざく雷鳴。

凝集された雲に蓄積された電気が、ピコの電気ショックに強く刺激され

『雷』を落とした。

 

その行き先は雷雲から最も近い、宙を浮く『スターミー』。

 

これまでフィールド中に溜め込んできたエネルギーが

全て、電撃となってスターミーに降り注いだ。

 

 

「きゃああああああっ!!!」

 

 

強烈な電流が、一瞬でスターミーの体を駆け巡った。

 

近距離からのピコの電気ショックより、遥かに強力な電撃。

・・・紛れもなく、それは『一撃必殺』の威力であった。

 

 

 

『な・・・な、な、何とォォォォっ!!!

 挑戦者、まさか、こんな手段が・・・!!

 これまでの攻撃の応酬が全て詰まった『雷雲』!!

 

 ピカチュウの電撃の力を受けて、カミナリが炸裂ーーー!!

 スターミー、戦闘不能ーーーーッ!!

 勝者、マサラタウンのスゥ!

 見事、全ての力を出し切ってあのスターミーを撃破したーーっ!!』

 

 

その瞬間、観客席からは男たちの歓声や嘆きの声が轟く。

一部の熱心なカスミのファンは、素直に彼女の負けを認められない様子だった。

 

悲喜こもごもの雄叫びが鳴り止まない観客席。

 

 

 

その騒がしい声も、今のカスミには届いていない。

 

彼女は唇を噛みしめ、気絶しているスターミーを抱きかかえながら

少しの間沈黙していた。

 

 

 

彼女が少し視線を上げた先には、

勝利に喜ぶピコを抱きしめ、頭をクシャクシャと撫でている

笑顔のスゥ。

 

 

そんな彼らの姿を見て、カスミは

強張らせていた表情を解き、立ち上がる。

 

 

「アンタ・・・いえ、スゥ。

 こっちに来なさい。」

 

「・・・ああ。」

 

 

カスミが呼ぶ声に、静かに答えるスゥ。

彼はカスミの目の前まで行き、彼女の話を待っていた。

 

 

「スゥ、お見事よ。

 正直・・・驚いてるわ。

 『バッジ一個』しか持っていないようなトレーナーに、

 私のスターミーが倒されてしまうなんて。」

 

 

バトル前の飄々とした口調は消え、

カスミはスゥの実力を認めて真剣に語る。

 

 

「本来なら、あなたみたいな初級のトレーナーには

 スターミーの相手なんてさせないんだけど・・・」

 

 

そう言いかけた時、スゥは驚いた顔で即時に反応した。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 

 それじゃあ、何でそんな強いポケモンを・・・」

 

 

今度は彼の疑問を遮るように、カスミが言う。

 

 

「それはアンタ達が昨日アタシを怒らせたからよ!!

 ・・・ま、まあ・・・

 アタシの方も、ちょっと大人げ無かったって反省してるけど・・・。

 そんな事はどうでも良くて!

 聞きたい事があるから、教えなさい。」

 

 

「そ、そんな事って・・・」

 

 

カスミがスターミーを繰り出したのは、

完全にスゥとファルナへの私怨によるものだった。

 

そんな事のために、自身のポケモン達がボロボロにされた事に対して

文句を言いたいスゥだったが、

彼の言葉を許さないようにカスミは続ける。

 

 

「いいから、答えなさい!!

 ・・・あなた、一体いつから『あの作戦』を考えてたの・・・?

 あんな雷雲を作り出すなんて。

 もしかして、最初からアタシは踊らされてたの・・・?

 ・・・あの蒸し風呂の事は反則になんてしないから、

 正直に答えて。」

 

 

本当に見当がつかない、といった様子でカスミは尋ねる。

スゥは彼女の真剣な表情に、一旦は怒りを鎮めて

真面目に答えることにした。

 

 

「・・・メルティが倒された後だよ。

 最初から、あんな作戦が思いつくはずが無いだろ。

 

 メルティが『炎の渦』を使った後の熱気で、

 フィールドの氷から水蒸気が上がってるのが見えたんだ。」

 

 

「・・・成程、それがキッカケだったのね。

 それからは、アタシはまんまとあなたの口車に

 乗せられちゃったってワケ・・・。

 『水鉄砲』や『冷凍ビーム』を出す事まで、全部誘導されてたのね。」

 

 

スゥの答えから、全てを納得したカスミ。

 

彼の勝利は、偶然ではなく必然だったのだと理解した。

 

それは、ただ単純にピコの電撃に頼っていたのではない。

 

手持ちのポケモンの総力で戦った。

そして、ポケモン同士だけではない。

 

トレーナー同士の駆け引きまで、全て織り交ぜて『全力で』

もぎ取った勝利だったのだと。

 

 

そして、穏やかな表情で続ける。

 

 

「・・・今回の『一番の功労者』はまだ起きないの?」

 

 

そう問いかけるカスミ。

その意味が分かっているスゥは、一つのモンスターボールを

手に取りながら答えた。

 

 

「ああ・・・。早くポケモンセンターに行かないと。

 『ベルノ』・・・、こいつが仲間に居てくれて本当に良かった。」

 

 

『一番の功労者』。それは紛れもなくベルノの事だった。

スゥが絶望しかけた時も、いつも通りの底抜けの明るさで居た事。

そしてスターミーを暴走させ、フィールドを氷漬けにさせた事。

 

それらが無ければ、とうの昔にバトルの決着はついていた。

 

スゥの降参、という形で。

 

 

「そうね。

 色々話したい事は有るけど、

 まずはみんなを治療してあげなきゃ。

 ・・・ほら、早く行くわよ!!」

 

 

そう言ってカスミはスゥの腕を掴み、引き回す。

突然の行動に、スゥは頭の中を疑問符で一杯にしながら尋ねる。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!!

 バッジは?

 勝ったんだから貰えるんだろ?」

 

 

「あー、そんなのは後後!!

 ほら、さっさと来なさい!!」

 

 

彼の当然の質問を、軽く受け流してカスミは再び歩みを進める。

・・・『更衣室』に向かって。

 

 

「待て待て待てー!!」

 

「何よ、早くポケモン達を治しに行くんでしょ?」

 

「いや、そうだけど

 お前が行こうとしてるのって・・・」

 

 

スゥは叫んでカスミを止めた。

このままでは『女性用』の更衣室に連れて行かれてしまう。

 

そんな彼の心配に、ようやく気が付いたカスミ。

しまった、と言いたげな表情でスゥの腕を離す。

 

 

「あー、忘れてた!!

 ・・・アンタ、男だった。

 紛らわしいのよ、女の子みたいな顔なんだもの!!」

 

 

とんでもない言いがかり。

スゥは泣きたくなる気持ちを抑え、無言で

自分が行くべき更衣室に向かおうとする。

 

 

「はあ・・・

 ・・・って、熱い熱い!!」

 

 

そんな彼の気持ちも知らず、火傷しそうな熱と呻り声を発する

『一つのボール』。

 

 

「う”~~~~・・・・!!」

 

 

当然、ファルナの入っているボールから発せられていた。

 

 

「ファルナ、何を怒ってるんだ!!」

 

「だって、さっきからカスミさんとベタベタしてるじゃない!」

 

「断じてしてない!」

 

「してる!

 私だって・・・

 ・・・・じゃなくて!!

 も~~~~~!!」

 

 

カスミに腕を掴まれていた事に、彼女に対してではなく

スゥに怒りを向けるファルナ。

 

そんな無茶な・・・と思いながら、スゥは何とか弁解しようと

言葉を選んでいる最中・・・

 

 

「あら、また彼女さん怒ってるの?

 大丈夫よ、アタシは『男らしい人』が好みだから!

 女顔の人には興味無いわ。」

 

 

と、また余計な事を言うカスミ。

 

スゥは最早どうでもいい、という表情で

彼女の言葉に便乗する。

 

 

「ほら、アイツもああ言ってるし、だいじょう・・・

 って熱い熱い熱い!!」

 

「う”~~~!

 スゥをバカにされたら、それはそれでイヤ!!」

 

「だからって熱くなるなーー!!

 本当に火傷するって!」

 

「だって~~~!!

 うううう・・・・がううう!!」

 

 

強敵・スターミーを倒し、

ハナダシティのジムリーダー『カスミ』に勝利したスゥ。

 

しかし、その喜びに浸る間を与えないカスミ。

 

スゥはこれ以上、ファルナとカスミが居合わせる空間に

居たくない気持ちで一杯だったが、

二人共それを許してくれない空気のまま、

急ぎ足でポケモンセンターへと向かって行った。

 

 


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