まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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いよいよハナダのジム戦も終盤です。
ベルノの活躍で、戦闘が可能となったフィールド。
これからスゥは全力で頭を回転させます。
彼が何を起こすのか、予想も含めてお楽しみ頂ければと思います。


Report5-14 [突破口]

ベルノの健闘に触発され、いつにも増して戦意の高いメルティ。

彼女の『炎の髪』と『炎の尻尾』がパチパチと音を立て、

激しく燃え盛っている。

 

そんな彼女に、スゥは一言注意を促す。

 

 

「・・・メルティ、今回は『火炎車』は使えない。

 他の技で戦うんだ。」

 

 

「ええ、分かってます。

 ・・・スゥくん、私からも一言伝えておきます。」

 

彼女は、スゥの意図をしている事は分かっていた。

準備動作のために、足に炎を灯す『火炎車』。

 

そんな状態で氷の床を駆け回れば、

威力が下がるのは当然だが、

溶けた氷がメルティの足を滑らせてしまう。

 

それを理解した上で、彼女は笑顔でスゥに宣言する。

 

 

「・・・私の火力、今までより少しだけ信用して下さい!

 スゥくん達に出会った頃よりも、きっと役に立てると思います!」

 

 

メルティはそう言って、炎を纏った前髪をかき上げる。

 

ゴゥッ!!と、彼女の掌に火炎が纏う。

これまでの『小さな火球』ではない。

 

メルティが腕に炎を纏う姿は、ファルナが『火炎放射』を放つ時の

予備動作によく似ていた。

 

「メルティ、お前・・・

 ・・・そうだよな!

 出会ってから沢山戦ってきたんだ。

 分かった、頼りにするよ!」

 

メルティ自身、これまで悩んできた火力不足。

しかしそれも今となっては昔の話。

 

『火炎車』や『貰い火』、そしてファルナが炎で戦う姿・・・

これまでの戦いで、彼女は徐々に炎の扱い方が分かってきていた。

 

 

着実に経験を積んできたメルティ。

その証拠に、スゥが彼女に向けた図鑑には『新しい技』が示されている。

スゥはその火力に期待し、戦いに繰り出す。

 

 

メルティはスゥの返事に、嬉しそうに一言返す。

 

 

「・・・ふふっ、ありがとうございます!

 さあ、行きましょう!!」

 

 

メルティの戦闘態勢を見たカスミは

対抗するためスターミーに指示を出す。

 

 

 

「炎タイプ・・・こっちが有利だけど、油断はしないわ!

 炎ポケモン相手ならコレよ!

 スターミー、『バブル光線』!!」

 

「・・・・・あわあわ・・・あつまれ・・・!!」

 

 

 

スターミーが両手を大きく広げると、それに合わせるように

彼女の金の装飾が『五芒星』を描くように大きく展開する。

 

そして、スターミーの周囲に大量の水泡が形成された。

 

彼女はメルティに狙いを定めると、

大量の水泡は、密集してグググッ・・・と、

ゴム玉のように形を歪める。

 

「・・・・・いけっ・・・・!!」

 

彼女がそう言った瞬間、

密集した水泡はバネが弾けるような速さで

メルティに向かって飛んでいく。

 

 

 

「来るぞ!!」

 

 

「・・・はあっ!!」

 

 

メルティはバブル光線を得意のジャンプで躱した。

 

外れた水泡は『氷の床』に着弾した瞬間・・・

 

 

ゴオオオォォン!!!

 

 

と、爆音を立てて激しく氷を破壊した。

 

 

『スターミー、ついに出した!!

 得意技、『バブル光線』!!

 虹色の泡が織りなす美しさとは裏腹、当たればタダでは済まない!!

 泡の弾ける衝撃は、もはや爆弾!!

 ポニータ、高く跳んで回避したが・・・!!』

 

 

スゥとメルティは、『バブル光線』の威力に背筋がゾッとする。

実況の通り、当たれば一撃で倒されてしまうだろう。

 

そして、高く跳んだメルティを「待ってました」とばかりに

スターミーは追い打つ。

 

 

「・・・・はい、おかわり・・・・!!」

 

 

スターミーが生み出していた水泡はまだ残っていた。

メルティが回避する事を前提に、全ての泡は撃たず

あえて残していたのだ。

 

空中で回避不能なメルティに『バブル光線』が放たれた。

 

その時。

 

 

「メルティ!」

 

「はい!!」

 

 

スゥはメルティに指示する。

それは、図鑑に表示された『新しい技』・・・

 

 

「『炎の渦』!!」

 

 

「まとめて吹き飛ばします!!

 いけーっ!!」

 

メルティは腕に纏った炎を、スターミーに向けて打ち出した。

螺旋を描いて拡散する炎。

 

広範囲に襲ってくるスターミーの『バブル光線』を

『炎の渦』がすべて薙ぎ払う。

 

 

「あ、アンタ達そんな事したら・・・!!」

 

 

カスミが焦って叫んだ瞬間・・・

 

 

ゴオオオォォン!!!

 

 

フィールド中の空気をビリビリ震わせ、『バブル光線』が爆発した。

 

 

「・・・・・・っ!!・・・・」

 

「きゃあっ!!」

 

 

至近距離の爆発に、たまらず吹き飛ぶ二人。

 

 

『ポニータ、炎の渦で反撃ィーっ!!

 そしてバブル光線が大爆発!!

 両者、氷の床に勢いよく叩きつけられた!!

これは流石のスターミーもたまらずダウン!

 起き上がるのはどっちだー!?』

 

 

「メルティ!!大丈夫か!?」

 

「くっ、あの子・・・自爆覚悟で・・・!

 それに、バブル光線に押し負けずに相殺したなんて・・・

 スターミー、お願い!立ち上がって!!」

 

 

爆風で地に叩きつけられたパートナーを心配するスゥとカスミ。

 

メルティもスターミーも、互いにグッタリとして中々体が動かない。

 

「・・・・ぃ、い・・・た・・・・!!」

 

「ま・・・負け・・・・・・ませんっ!!」

 

 

『おおーっと!!

 先に立ち上がったのは、何とポニータ!!

 コイキングの健闘を無駄にしまいと、歯をくいしばって立ち上がった!!』

 

 

メルティは肩で息をしながら、何とか立ち上がる。

しかし、自慢の足腰は既に力が入らず、

足取りがおぼつかない。

 

 

そんな様子の彼女を見たカスミは、チャンスだと思い

スターミーに指示する。

 

「スターミー、『自己再生』!!

 相手はフラフラよ、回復する時間があるわ!」

 

「・・・・・んっ・・・!!」

 

 

再び、白い光を発しながら徐々に回復していくスターミー。

彼女はよろつきながらも、立ち上がれる程度にすぐさま回復していた。

 

 

「くそ、まだ倒れないのか・・・!

 何とか『自己再生』を止めないと・・・!!」

 

 

 

スゥは急いで思考を巡らせる。

 

ファルナかピコに交代している余裕は無い。

その間にも完全回復されてしまう。

かと言って、メルティは今すぐ技を発動出来るような体力ではない。

 

・・・手詰まりだ。

 

また、与えたダメージが振り出しに戻ってしまう・・・!

と、ただスターミーが回復する姿を見ている事しか出来ない状況に

スゥは歯を食いしばっていた。

 

 

 

 

そんな時、メルティは自らを気付けするように叫ぶ。

 

「っく・・・ベルノくんは・・・ギリギリまで・・・

 力を出し尽くしました・・・

 ・・・私も負けていられません!!」

 

一刻の猶予も無い状況。

メルティは、体に残った最後の力を振り絞り

姿勢を低くし、脚に力を込める。

 

 

「め、メルティ!?」

 

「メルちゃん!?」

 

 

明らかに無理をして体を動かそうとしているメルティ。

スゥとファルナは嫌な予感がして彼女の名を叫ぶ。

 

 

そんな彼に、メルティは背を向けたまま叫んだ。

 

 

「スゥくん!!

 もしダメだったら・・・後はお願いします!!」

 

 

そして、脚のバネを解放する。

 

 

「『突進』!!」

 

 

「・・・・・っ、また、じゃまして・・・・!!」

 

 

メルティが出しうる最高速度の体当たり。

ピコの電撃よりも遥かに速い。

 

そんな攻撃を、今のスターミーには回避出来る程の体力は残っていない。

彼女は向かってくるメルティに憎らし気に目をやる。

 

そして・・・

 

 

ゴオオオン!!

 

 

 

『ポ・・・ポニータ、素晴らしい!!

 まだこれ程の力が残っていた!!

 刺し違え覚悟の『突進』をスターミーにお見舞いしたぞーッ!!

 これはスターミー、流石に耐えられないか・・・!?』

 

 

再び激しく吹き飛ばされる二人。

 

 

「ぁ・・・・ぅ・・・・」

 

 

最後の力を出し切ったメルティは

弾き飛ばされた反動に対して受け身を取る事もできず、

完全に体力が尽きてしまった。

 

 

「・・・メルティ、ギリギリまでありがとう・・・

 だけど、これで・・・!!」

 

 

ダメージを負っていた所に、メルティの強烈な『突進』の直撃。

流石のスターミーも再び立ち上がる事は出来ないだろう。

スゥとファルナがそう思っていた時・・・

 

 

 

キィィィィン・・・・

 

 

 

 

と、何処からか甲高い音が聞こえる。

 

 

「ふぅ・・・

 『リフレクター』が間に合ったみたいね・・・危なかったわ。」

 

 

額の汗を拭いながら、カスミは溜め息交じりに言った。

そんな彼女に呼応するように、もう一つの言葉が。

 

 

「・・・・・ぅん、あぶな・・・かった・・・・!」

 

 

メルティの『突進』を受け、

弾き飛ばされたはずのスターミーが

しっかりした足取りで立ち上がる。

 

 

『スターミー、耐えたーッ!!

 まだ持っていた隠し玉、『リフレクター』で耐えた!!

 ジムリーダーの最終兵器の名は伊達じゃない!!』

 

 

スターミーの姿をゾッとした表情で見るスゥとファルナ。

 

 

「嘘だろ・・・!?」

 

「あの光・・・アクアちゃんと同じ・・・!?」

 

 

二人が見たのは、『リフレクター』を自身の周囲に展開していたスターミーの姿。

メルティの突進が直撃する寸前、とっさにスターミーはそれを展開し

何とか持ち堪えたのだ。

 

 

スゥは急いで気絶しているメルティをボールに戻し、

ファルナに交代させるが、時すでに遅し。

 

スターミーは『自己再生』で完全回復していた。

 

 

「・・・・ふぅ・・・・、ふっかつ・・・・!」

 

 

『ちょ・・・挑戦者、気絶したポニータから

 リザードに交代!!

 しかし、スターミーに回復する猶予を与えてしまったーっ!!

 無慈悲ッ!!またしても『振り出し』に戻されてしまった!!』

 

________________________________________

 

 

「・・・さて、またイチからね。

 ようやく出てきたわね、昨日の彼女さん。

 リザード本来の恰好だと、随分イメージが変わるわね。」

 

体勢を立て直して余裕が出来たカスミは、

フィールドに出てきたファルナを見て言う。

 

「昨日はどうも、カスミさん。

 色々お話したいけど・・・まずはバッジを貰ってからにするね。」

 

戦意を高めたファルナが、挑発的に返す。

 

バトル前にカスミがスゥの体をジロジロ見ていた事も理由の一つだが

それ以上に、ベルノとメルティの健闘が彼女の闘志を燃え上がらせていた。

 

「あはは!

 それは無理ね。そろそろ諦めたら・・・?

 と言いたい所だけど、まだやる気満々って顔ね。アンタたち。」

 

 

カスミがそう言いながら向けた視線の先。

そこには、まだ何か策を練っている、真剣な表情のスゥがいた。

 

 

(・・・一撃・・・本当に一撃で沈めなきゃ、あのスターミーは倒せない・・・

 ピコの至近距離での『電気ショック』でも一撃じゃなかった・・・

 でも、ファルナでダメージを与えても、ピコに交代する時には回復される。

 『ダメージの持ち越し』は出来ない・・・

 ・・・何か・・・何か、ピコに一押し、威力を高める方法があれば・・・!!)

 

 

 

そう思考を巡らせている時、ふとスゥの目の前に映ったもの。

 

 

シュウゥゥ・・・・と、

静かな音を立てて発生する白いモヤ。

 

 

それはメルティが放った『炎の渦』の余韻。

上空を包む熱気に向かい、氷の床から発せられる『水蒸気』だった。

 

 

 

(水蒸気・・・・?

 そうだ、アレなら・・・・!!

 後は、カスミに気取られないかどうか・・・

 本当に、最後のチャンスだ!!)

 

 

 

スゥの見つけた『突破口』。

それが成功するか否かは、ポケモンの力だけではなく

彼の立ち回りによる。

 

・・・彼の手元に残るは『ファルナ』と『ピコ』の二人。

勝つためには、一切の失敗は許されない。

スゥはこれからの一言一句に神経を尖らせて、ファルナを戦わせる。


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