まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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前話に引き続き、スターミー戦です。
コイキング『ベルノ』の奮闘、是非応援して見てやって下さい。


Report5-13 [道を開け!]

「アンタ・・・

『コイキング』ってどんなポケモンか分かって出してる?

 アタシね、水ポケモンが大好きなの。

 もちろんコイキングもよ。

 ・・・イジメみたいな事、させないで欲しいんだけど。」

 

カスミは腕を組みながら、イライラとした口調でスゥに言う。

スゥは、彼女が言いたい事は理解していた。

 

有利属性のピコでさえ苦戦したスターミー。

そんな相手に、『ひたすら弱い』コイキングがまともに戦える訳が無い。

 

いくら弱いとは言え、コイキングもまた彼女が好む『水ポケモン』。

いたぶるような戦いをしたくないと思うのは当然だろう。

 

 

・・・しかし、全てを分かっている上でスゥはカスミに言う。

 

 

「ベルノはいつも言ってるんだ。

 『我は最強だ!!』ってね。

 それなら、その可能性を信じてみないといけない・・・と思う。」

 

 

「この子が、自分でそんな事を・・・!?」

 

 

スゥの言葉に、カスミは驚きを隠せない様子だった。

・・・そして、何かを悟ったように微かに笑みを浮かべる。

 

「ふふ、面白いわね。

 いつか聞いた『あの人』の言葉みたい・・・」

 

そう一言呟く。

そして彼女は組んでた腕を解き、スターミーに指示を出す。

 

 

「それじゃあ、言ったからには見せて貰おうかしら!?

 『最強』ってヤツを!!

 スターミー!『スピードスター』!!」

 

 

指示を聞いたスターミーは、身に纏う金の装飾をひと撫でする。

キン…と、冷たい金属音を立てた装飾から

スターミーを取り囲むように『金色の星』が生まれた。

 

「・・・いけっ・・・」

 

スターミーは水中のベルノに指を向けた。

その瞬間、彼女を取り囲んでいた星達が音も立てず、超高速で放たれる。

 

スゥはベルノに逃げるよう指示を出そうとするが、

彼が声を発するよりも早く、スピードスターがベルノに着弾しかけていた。

アナウンスも実況する暇が無い、一瞬の出来事だった。

 

「ふんっ!!」

 

しかし、ベルノにスピードスターが届く寸手・・・

信じられないような速さで、彼は水中を駆け回った。

 

 

『は、速いーッ!!

 スターミーの放つスピードスターもさることながら、

 コイキング、とんでもない速さで星から逃げる!!』

 

「ベルノ!!

 凄いぞ、水中ならそんなに速く泳げるのか!!」

 

 

スゥも知らなかった、ベルノの潜在能力。

しかし驚いている暇は無い。

 

一旦避けた星達は、キュッと鋭角に軌道を変えて

ベルノを追い回す。

 

「ほぉっ、我と競走か!!

 面白いではないか、ついて来られるか!?」

 

水中を目で追うのが難しい程の速度で駆け回るベルノと星達。

スピードスターを制御しているスターミーは渋い表情を浮かべる。

 

「・・・っ、はやい・・・!」

 

『逃げる逃げる!!

 コイキング、猛烈なスピードで逃げ続けるーッ!!』

 

驚いていたのはスゥだけではない。

アナウンスまで意外だったというような実況を繰り広げる。

 

対して、カスミは冷静に今の状況を分析していた。

 

「・・・そりゃ実況さんも知らないでしょうね。

 まさかジム戦にコイキングを出してくる挑戦者なんて、これまで一人も居なかったんだから。

 少しだけ厄介ね・・・『すいすい』は。」

 

彼女が呟いた『すいすい』。

コイキングの持つ特性である。

 

水ポケモンが水中で素早く泳げるのは、大体共通の事ではあるが

こと『すいすい』を有するポケモンに関しては、水中での移動速度は尋常でなく速い。

 

アズマオウも同様、この特性を持っていたが

コイキングの方が小柄である為か、彼女よりも速さでは一段上であった。

 

尚、今のスゥには、図鑑でベルノの発動している特性を

見ている余裕は無いため、知る由は無い。

 

 

「これなら戦える!!

 ベルノ!『はねる』んだ!!」

 

 

スゥはベルノの速さを活かし、スターミーに反撃する手段を思いついた。

彼の指示を聞いたベルノは、そのスピードを活かして大きく跳ねる。

 

 

「ほぉーーっ!!」

 

パシャッ!!と軽い音を立て、ベルノは水中からロケットのように飛び出た。

 

 

『コイキング、高く高く跳んだー!!

 アズマオウよりも高い!!

 もう少しで天井に届いてしまう程だ!!』

 

 

「・・・っ・・・じっとしててよ・・・!!」

 

 

スターミーは急に跳び上がったベルノに対して

忙しそうにスピードスターを向ける。

 

宙に舞ったベルノにスピードスターが追い付く。

ようやく着弾するかと思ったその時。

 

「ほいっ!!」

 

ベルノは大きく身を捩って、星達をかわした。

 

「ぬははは!!

 その程度では我は捉えられん!」

 

「・・・・・・イラッ・・・・・!!」

 

小馬鹿にしたようなベルノの動きに、

中々スピードスターを当てられないスターミーは苛つきはじめる。

 

『避ける避ける!!

 スターミー、コイキングに攻撃を当てられないーっ!!

 必中と名高いスピードスターを、まさかコイキングが避けている!!』

 

「いいぞベルノ!

 次は・・・スターミーを飛び越せ!!」

 

スゥの出した指示。

それを聞いたカスミは、彼の意図に気付いた。

 

「アイツ・・・まさか!!

 スターミー、スピードスターは中止よ!

 止めなさい!!」

 

「・・・・・ヤダ・・・・!!」

 

ベルノの速さと態度にイライラしているスターミーは

カスミの指示を聞かず、ムキになってスピードスターを操作している。

 

「なっ・・・!」

 

指示を拒否される事など、滅多に無い事なのだろう。

カスミはスターミーの返事に硬直してしまった。

 

そうしている内にも、ベルノはスゥの指示通り、

スターミーに向かって跳ね上がった。

 

『またまた跳ねる、コイキング!!

 向かう先はスターミー!!

 挑戦者、いよいよ反撃に出るのか!?』

 

宙に漂うスターミーに、目と鼻の先まで接近するベルノ。

彼女の上を跨ぐ瞬間、ベルノは再び挑発じみた言葉を放つ。

 

「わははははは!!

 無駄じゃ無駄じゃ!

 いい加減諦めるが良い!」

 

「・・・クッ・・・!!こ、この・・・・!!」

 

更に苛立ちを増すスターミー。

頭に血が上り、最早何としてでもベルノを捉える事しか頭に無かった。

 

・・・だから彼女は気が付かなかった。

ベルノのすぐ後ろを追尾していた、『自身のスピードスター』に。

 

「・・・・・・あっ、しまっ・・・!!」

 

ガシガシガシッ!!と、スターミーの体をスピードスターの連撃が襲う。

一方ベルノは、悠々とスターミーの上を飛び越して再び水中に潜っていった。

 

 

『おおーっと!!?

 スターミー、自らのスピードスターが直撃!!

 コイキング見事!!スターミーを攪乱して一撃お見舞いした!!

 これ程戦えるポケモンだとは、私も知らなかったーッ!!』

 

 

「ベルノ!!凄いぞ!」

 

「ぬはははは!!当然じゃ!

 『我は最強』じゃからな!!」

 

水中での戦いぶりに、スゥは心底ベルノに対する評価が変わっていた。

上機嫌に水面をパシャパシャ跳ねるベルノ。

 

カスミは手を額に当て、浮かない顔で呟いていた。

 

「っちゃ~・・・だから言ったのに・・・!!

 スターミー、大丈夫!?」

 

彼女は宙で呆けているスターミーを心配して声をかけた。

しかし、スターミーからの返事は無い。

 

「・・・・・・・・」

 

「す、スターミー・・・?

 とりあえず気絶はしてなさそうね。

 『自己再生』で回復しなさい!!」

 

「・・・・・・・・・・・・

 ・・・・うん・・・。」

 

カスミがそう指示すると、一応聞いていたのか

スターミーは再び『自己再生』の準備動作に入る。

 

そして、彼女の体が発光しかけた時・・・

 

 

「させるかーっ!!

 ベルノ、『はねる』!!」

 

「食らえィっ!!我が美技!!」

 

 

二度も同じ手は食らうまいと、スゥはベルノに攻撃を指示した。

地上では何の意味もない『はねる』も、今のベルノの跳び上がる速さなら

それなりの攻撃手段となる。

 

ベチッ!!と、少し軽い音を立てて

ベルノとスターミーが衝突した。

 

やはり正規の攻撃手段では無い『はねる』。

いくら速くぶつかろうが、大した攻撃にはなっていなかった。

 

しかし、今はそれで充分だった。

 

 

「・・・・っ、気が・・・散る・・・・!!」

 

 

ペチペチペチと、何度も『はねる』で連撃を加えるベルノ。

ダメージは少ないが、スターミーは『自己再生』に必要な集中力を削がれ、回復出来ずにいた。

 

『コイキング、怒涛の連撃ー!!

 ・・・だが、あまりスターミーは堪えていない様子!!

 しかししかし!!

 何度も飛びかかるコイキングに、スターミーは回復する暇が無いーッ!!』

 

 

「・・・ちょっとマズいわね・・・。」

 

 

カスミはスターミーの様子を見ながら、

額に汗を流して言った。

 

それはスターミーのダウンの心配などではない。

彼女の心配は別にある。

 

 

ペチッペチッ!と、まだベルノは休まず攻撃を加える。

スゥは、このまま回復の暇を与えず連撃を加えればいずれスターミーの体力が・・・

と、考えていた矢先。

 

 

「・・・・・このっ・・・

 ・・・・・いい・・・かげんに・・・!!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・してーーーーっ!!!!!」

 

 

「ぬぅっ!?」

 

 

突然のスターミーの叫び。

彼女は、いよいよベルノへの怒りが限界に達していた。

 

ピコの時とは比較にならない大きさの『サイコキネシス』のオーラを放ち、

飛びかかってくるベルノを水面へと弾き飛ばした。

 

「ベルノ!!」

 

凄い勢いで水面に叩きつけられたベルノを心配するスゥ。

ベルノは衝撃で少し目を回していたが

すぐに気が付き、再び泳ぎ出そうとする。

 

・・・そんな彼に、スターミーは無言で容赦の無い攻撃を繰り出す。

サイコキネシスのオーラは、大きな一本の腕のような形に変貌。

 

 

「な、何だあれ・・・!?」

 

 

目を丸くしてスゥはスターミーの放つオーラを見る。

その紫の腕は、プールの半分を覆う程の『巨大な拳』となり

ベルノのいる水中へと振り下ろされた。

 

 

「・・・・わるい子には・・・げんこつ・・・・!!」

 

 

ザバァンッ!!!と、プールの全ての淵から

激しく水が漏れだす程の水柱が上がる。

プールサイドに立つスゥとカスミも、その激しい水しぶきを受けていた。

 

『す・・・スターミー・・・恐ろしい攻撃を放った!!

 我慢の限界とばかりに強烈なサイコキネシス!!

 これは流石にコイキング、無事では済まないか・・・!?』

 

「くっ・・・ベルノは・・・?

 ベルノ!!大丈夫か!?」

 

大きく波打つプールの中に、ベルノの姿を探すスゥ。

少し波が収まってきた頃、ようやく彼を見つける事ができた。

 

「ぬ・・・ぅ・・・!!」

 

ぐったりとした様子のベルノ。

サイコキネシスによる水面からの強い衝撃により

気絶寸前のダメージを負っていた。

 

「っ・・・もう限界か・・・!

 ベルノ、よく頑張った!戻ってくれ!!」

 

そう言ってスゥはモンスターボールの光をベルノに放つ。

しかし・・・

 

「・・・ならん!!」

 

ベルノは傷ついた体を動かし、その光をかわす。

 

「っ、ダメだ!お前はもう戦えない!

 ベルノ、今だけは言う事を聞いてくれ!」

 

先までの見る影も無い、ヨロヨロとした遅い動きのベルノ。

誰の目から見ても、彼は限界であった。

 

「ぬはははは・・・!

 家来ごときの心配に及ばん!

 何故なら・・・『我は最強』だからじゃーーーっ!!」

 

啖呵を切って、ベルノは力を振り絞り

スターミーに向かって跳ね上がった。

 

「やめろ、ベルノ!!」

 

スゥの制止を無視するベルノ。

しかし、最早彼女の高さに届く程の勢いは無い。

スターミーは跳び上がったベルノに向かって冷たい目を向ける。

 

「・・・・・まだ、うごける・・・?

 ・・・・じゃあ、落ちて・・・・!!」

 

彼女はサイコキネシスで形成した『巨大な拳』を開き、

今度はプール全体を覆い尽くす程の『巨大な掌』を形成。

 

そして、飛びかかるベルノに容赦無く振り下ろした。

 

「ガボッ・・・!!」

 

再び勢いよく水面に叩きつけられるベルノ。

 

 

「・・・・・今度は・・・跳んで・・・・!」

 

 

そして、今度は『巨大な拳』の追撃。

その拳はプールの中心に大きな水柱を立てて、水中のベルノごと吹き飛ばした。

 

成す術なく弄ばれるベルノ。

スゥは必死に彼をボールに戻そうとするが、激しい水しぶきがそれを邪魔する。

 

「くそっ、もう止めろ!!

 もういいだろ!!」

 

スゥの叫びも空しく、スターミーは自らの判断で

すかさず追撃する。

 

 

 

「・・・・・・ふふ、これで・・・とどめ・・・・!!

 『冷凍ビーム』!!」

 

 

 

スターミーの掌に白い光が集まり、放つ。

ゴオオオォォッ!!と、激しい冷気を周囲に発散しながら

一筋の光線が、一瞬で『フィールドの全て』を凍結させた。

 

 

『こ・・・これは・・・惨い・・・!!

 スターミー、冷凍ビームで・・・コイキングを・・・いや、

 水柱も、プールの水までも、全てを氷漬けにしてしまったーっ!!』

 

 

全てが凍り付いたバトル場。

そびえ立った氷柱の中に、ベルノは氷漬けとなっていた。

 

 

「・・・心が痛むわね。

 仕方無いわ。中途半端にスターミーを怒らせたアンタ達が悪いのよ。」

 

 

苦虫を噛み潰すような顔で、カスミはスゥに言う。

 

彼はその言葉に何も返さず、ベルノのいる氷柱に向かってボールの光を当てる。

しかし、やはり氷柱に光が反射してベルノを戻す事が出来ない。

 

ギリッ・・・と、ボールが潰れんばかりの力で握り締めるスゥ。

 

彼はファルナの入ったボールを手に取り、

氷漬けとなったフィールドに彼女を出した。

 

そして、彼女に伝える。

 

 

「・・・・ファルナ。

 一刻も早くベルノを氷から出してやってくれ。

 そして早く・・・温めて・・・あげて、くれ・・・」

 

 

唇を震わせながら、絞り出すように。

 

ファルナは何も言わず頷き、氷柱に向かって『火炎放射』を放った。

 

氷柱は一瞬で蒸発し、彼女は落下してきたベルノを受け止めて呟く。

 

「・・・・ベルノくん、頑張ったね・・・。」

 

スゥの元に戻り、ファルナは彼に言われた通り

自身の体温を上昇させ、ベルノを抱きかかえていた。

 

 

そんな中、スターミーは悠々と自己再生により

ベルノから受けたダメージを全て回復していた。

 

「・・・・ふぅ。ちょっと、スッキリ・・・・」

 

カスミは、いい加減スゥも思い知っただろうと、

彼に言う。

 

「よく頑張ったわね、そのコイキング。

 アタシでもちょっとビックリよ。

 ・・・でも、分かった?『埋められない実力差』ってのが。

 あれだけ頑張っても、また『ムダ』に終わっちゃったのよ。」

 

諭すような口調のカスミに、スゥは鋭い目をして言い放つ。

 

「・・・無駄なもんか・・・!」

 

「・・・何ですって?」

 

「・・・ベルノは・・・道を作ってくれた!!

 これで戦えるようになったんだ!!」

 

彼はそう叫び、メルティを『氷のフィールド』に繰り出した。

 

場に出たメルティも、カスミを真っ直ぐに見据えて言う。

 

「ええ!!

 プールじゃあどうしようも無かったけど・・・

 この氷の足場なら戦えます!!

 ベルノくんが作ってくれた『道』、ぜったい無駄にしません!!」

 

 

『挑戦者、3体目のポケモンを繰り出した!!

 悪魔のような強さのスターミーに、心折られず果敢に挑む!!

 しかし弱点属性のポニータ、今度は一体どうやって戦うのかーッ!!』

 

 

「へえ、それでアンタの仲間4人全員ね・・・

 みんないい目付きね。

 ・・・いいわ、とことんやろうじゃないの!!

 楽しくなってきたわ!」

 

 

ベルノのもたらした、『氷の道』。

そして彼のどこまでも強気な姿勢。

それがスゥ達の心を折らずに支えていた。

 

今のメルティとファルナに、『苦手属性だから』という物怖じは全く無い。

一撃必殺を狙えるピコに繋ぐため、二人の闘志も燃え上がっていた。

 


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