まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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ハナダシティジムの大関門、スターミーの登場です。
トリッキーかつ強力な技を複数持つ彼女。
ゲームでもご存知の通り、かなりの強敵です。
どうやってスゥ達が立ち向かうのか、お楽しみください。


Report5-12 [凶星・スターミー]

「私を出した・・・ってことは・・・

マスター・・・ピンチ?」

 

感情が薄い、抑揚の無い声で『スターミー』が宙を漂いながらカスミに問う。

その問いに、カスミは優しい口調で答える。

 

「心配してくれてありがとう、スターミー。

 ピンチなんかじゃないわ。相手は少しホネのある奴って程度よ。

 貴女なら大丈夫、いつもみたいに軽く捻ってやりなさい!」

「・・・わかった・・・まかせて・・・」

 

そんなやり取りを聞いていたスゥとピコ。

彼らがスターミーと呼ばれるそのポケモンを見た印象は、

『小柄な少女』といった程度。

しかし、スゥにはえも言われぬ威圧感を覚える。

 

「あれがスターミー・・・

 本気になった相手に戦わせるポケモンって言ってたけど・・・」

 

「んに・・・ちっちゃいし、あんまり強そうじゃないよ?

 スゥにぃ、あの子を倒せばボク達の勝ちだよ!

 アズマオウみたいに一撃で倒しちゃおう!」

 

ピコ自身も、このジム戦のキーが自分である事を理解している。

自分が活躍してスゥに褒めて貰いたく、息巻いていた。

 

 

『ジムリーダー、2体目のポケモンは何とスターミー!!

 出てしまった、スターミー!

 今日のジムリーダーはマジモードだーッ!!

 なかなか彼女の出番をお目にかかることは出来ないぞ!

 今日の観客諸君はとてもラッキーだ!!』

 

アナウンスの声に続き、カスミは早速指示を出す。

 

「スターミー、『サイコキネシス』!!」

 

「・・・わかった・・・」

スターミーが指示を聞き届けた瞬間、彼女の周囲にモワッ!!と

巨大な紫色のオーラが漂い始めた。

そのオーラから一本、まるで「手」のような形の触手が発生し

ピコに掴みかかる。

 

「な、何これ!?」

「ピコ、『電光石火』!!」

 

本能的に危険を感じ取ったピコは、その手から逃れようと

他の足場へ飛び乗った。

「よし、いいぞピコ!避けられる!」

スゥにとっても得体の知れない技、『サイコキネシス』。

彼もまた、伸びてくる紫の腕に危険を感じていた。

 

そんな彼らの予測は正しかった事を、次の瞬間確かめることになる。

『スターミー、速攻のサイコキネシス!!

 しかしやはり素早いピカチュウ!簡単には捕らえられまいと

 ヒラリとかわし・・・おおっと!!』

 

スターミーの紫の触手はまるで実体が有るかのように

ピコが最初に乗っていた足場をガッシリと掴み・・・

 

「スターミー!!

そのまま足場をぶん投げちゃって!!

あのピカチュウを追い詰めなさい!」

 

その言葉が発せられた瞬間、スターミーは自身の手を軽く振る。

すると、彼女が発する紫のオーラの腕は、ブンッ!!と、

持っていた足場をピコに向かって鋭く投げつけた。

「足場を投げた!?

 ピコ、避けてくれ!!」

 

「んにっ!言われなくても避けるよ!」

 

ガゴーン!!と、強烈な音を立てて粉々になる二つの足場。

その威力を見てスゥは戦慄する。

 

「あんなにあっさりと足場を粉々に・・・

 見た目はあんな華奢な体なのに!」

『スターミー、強力な念力で足場をぶち壊した!!

 そして再び、逃げたピカチュウを追う!!!』

 

ただでさえアズマオウの滝登りのせいでマトモに乗れる足場が少なくなっている。

更にピコを追ってくる触手を、彼は再び別の足場目掛けて『電光石火』でかわす。

 

「くっ、スゥにぃ!

さっきみたいに空中で電撃撃たせてよ!」

焦りながらピコはスゥに叫ぶ。

「ダメだ、あの手に捕まったら洒落にならない!

 チャンスを探すから、頑張って避けてくれ!」

 

スゥはスターミーの繰り出すサイコキネシスの威力が、

アズマオウの滝登りとは比較にならない事を理解していた。

先のように、あえて技を受けて空中から電撃を繰り出す余裕は無く

一撃でピコがダウンさせられると判断し、避け続ける事を選択した。

 

逃げに徹するスゥとピコに、カスミは攻撃を畳み掛ける。

 

「ほらほら、さっきまでの威勢はどうしたの!?

こっちは遠慮なくどんどんいくわよ!!」

「・・・そこ・・・次は・・・そこっ・・・!」

バコン!バコン!!と、次々に足場を投げては完全に破壊するスターミー。

その表情は相変わらずの無感情。彼女は淡々とした軽作業のように遂行している。

『これは一方的!!

 スターミー、無慈悲にピカチュウの足場を奪い去っていく!

 アズマオウが砕いたなけなしの小さな足場まで、綺麗に片付いていくぞー!!』

 

そして、ついに最後に残った小さな1つの足場まで手が伸びてくる。

 

「足場・・・次の足場・・・

 な、無い!!スゥにぃ!!」

 

次の逃げ場が無い事に気がついたピコは、スゥに叫ぶ。

スゥは、これが唯一のチャンスだと思い、ピコに指示する。

 

「ピコ!真上に跳べ!!」

 

「んにっ!!」

彼の指示の通り、足場から垂直に跳び上がるピコ。

またもピコを捉え損ねた紫のオーラは、『最後の足場』を掴んだ。

そして、今度はその足場をピコに向かって投げつける。

「・・・これで、おしまい・・・!」

高速でピコ目掛けて放たれる足場。

彼は空中にいるため、避ける手段が無い。

 

足場がピコに衝突する寸手。

その瞬間、スゥは再び叫ぶ。

「まだだ!!

チャンスだ、ピコ!!

そのブロックを蹴って、高く跳べ!!

お前なら出来る!!」

「分かった!!」

『おーっと、逃げ場を無くしたピカチュウ、高く跳んだ!!

しかし、容赦無く足場が飛んでく・・・

・・・おおーっ!?』

ピコはスターミーが投げ飛ばした足場に意識を集中し、空中で体勢を整える。

その足場が彼に着弾する瞬間・・・

ガシッ!!と、思いっきりピコはそれを蹴りつけた。

 

『跳んだァーーーっ!!

 ピカチュウ、投げつけられた足場の勢いを利用して

 高く、高く跳んだーー!!』

 

その光景を見ていたカスミ。

この一撃で決着が着くと思っていた彼女は、ピコの行動に焦りを隠せない様子。

 

「くっ、また上手いこと空中に行って・・・!!

 まずいわ、スターミー!電撃が来るわよ!!

 水中に潜っ・・・」

 

カスミの言葉に被せるようにスゥは叫ぶ。

 

「もう遅い!!

 ピコ、『電気ショック』だ!!」

 

 

「んにぃーーーーっ!!」

 

 

 

バチバチバチッ!!と、強烈な電撃をスターミーに浴びせるピコ。

 

「・・・ぁ・・・痛・・・い・・・!!」

 

「スターミー!!」

 

スターミーは水中に逃げる間もなく、ピコの電撃の直撃を受けた。

空中でしばらく煙を上げ、天井をボーッと見たままの彼女。

そして・・・力尽きたように水中に落下していった。

 

『またまた強烈ーーッ!!

 ピカチュウ、渾身の電撃がスターミーに直撃!!

 スターミー、たまらずダウンか!

 挑戦者、見事反則にならないように電撃を放った!!』

足場を失ったピコも、そのまま宙からプールへとボチャン、と落ちた。

ピコは水で重たい体で、何とかプールサイドに泳いでいき掴まっていた。

決まった・・・と、スゥは胸を撫で下ろす。

そんな彼に、カスミは苛ついた口調で話しかけた。

「ほんっと、憎々しいくらいやるわね・・・

アタシ達の行動が読まれてるようで腹が立ってくるわ。」

「何度も同じ攻撃をしてくるんだ。次の行動も読めるよ。

 確かに、ピコが耐えられるかはちょっと賭けだったけど・・・

 『小さな足場』だったからね。

 威力も低くて、何とか蹴り返せたよ。」

 

「成程ねぇ・・・それを見越して、あえて小さい足場だけ残してたのかしら。

 それとも偶然かしら・・・?

 ま、そんな事はどうでもいいわ。」

 

ふぅ、とカスミは腰に手を当てながら呟く。

その様子に、スゥとピコは疑問を持ちながら言う。

 

「ねぇ、お姉ちゃん!

ボク達の勝ちだよ?『試合終了ー!』とか無いの・・・?」

 

「た、確かにまだアナウンスが無い・・・」

 

 

 

「・・・何言ってるの?アンタ達。

 まだ決着はついてないのに。

 ・・・ねぇ、スターミー?」

 

 

 

「・・・そう・・・まだ・・・なの。」

 

 

 

ゆっくりとスターミーが水中から顔を出して再び宙を漂う。

 

しかし、ピコの電撃でかなりのダメージを負っており、

腕で自身を痛そうにかばいながらフラフラと飛んでいる。

 

そんなスターミーの姿を見て、スゥは驚いた表情で呟く。

 

 

「弱点属性なのに、ピコの電気ショックに耐えたのか・・・!」

 

「んに・・・っ!

 だけど、もうフラフラだ!

 スゥにぃ、もう一回電気ショックを撃たせて!

 それで倒せそうだよ!」

 

 

ピコの言葉に、カスミは笑いながら言った。

 

 

 

 

「あははっ!!惜しかったわね。

 ・・・でも、もう終わりよ。

 スターミー、『自己再生』!!」

 

 

「ん・・・」

 

 

 

カスミが指示した『自己再生』。

その指示を聞いたスターミーは目を閉じ、瞑想する。

 

彼女が腰に纏う金色の装飾が、反時計回りに回転すると

キィィィン・・・、と高周波の音を立てながら

彼女の身体が白い光を発し始めた。

 

 

「んにっ!?体が光ってる・・・?

 な、何してるの!?」

 

プールの淵に掴まりながら、ピコはスターミーの様子を見ていた。

 

「自己・・・『再生』・・・?

 ・・・まさか!?」

 

スゥは技の名前から、嫌な予感がした。

彼の予感が当たっていた事を示すように、

スターミーの傷が見る見るうちに消えていく。

 

彼女の回復を止めようにも、ピコはプールに漬かっている。

電気ショックを放つ訳にもいかず、かと言ってスターミーの浮かぶ高さは

蹴る足場の無い『電光石火』で届くようなものでは無かった。

 

 

・・・唖然とした表情で、スゥとピコは

スターミーが回復する姿を見ている事しか出来なかった。

 

 

 

「・・・ふぅ。

 ・・・げんき、いっぱい・・・!」

 

 

 

『スターミー、何と全回復!!

 挑戦者、深手を負わせたものの、振り出しに戻ってしまったーッ!!』

 

「う、ウソ・・・!?

 せっかく倒しかけてたのに・・・!!」

 

「あ、はは・・・そんなの、アリかよ・・・」

 

スゥは体から力が抜けていくのを感じながら、

最早笑うことしか出来ない様子。

 

「ふふふ、どう?

 一生懸命考えて与えた攻撃とダメージが、『無かったこと』になる気持ちは?

 『絶望』、ちょっとは感じたかしら?」

 

 

一言一句、カスミが言う通りの事を感じているスゥ。

『一度きりのチャンス』だと思って放ったピコの攻撃。

それが完全に無に帰してしまったため、彼は次の手を考える気力が湧いてこなかった。

 

 

「・・・どう、する?

 ・・・まだ・・・つづける・・・?」

 

 

悠然と宙を漂いながら、首を傾げて問いかけてくるスターミー。

その言葉が重くスゥとピコにのしかかってくる。

 

 

 

______________________________

 

観客席でスゥ達の戦いを見守っていたノン。

流石にこの期に及ぶと、彼も心穏やかには居られなかった。

 

「・・・チッ、デタラメなポケモンだな・・・

 まだ一番得意だろう水技も使ってないってのに・・・!」

 

「主、スゥ殿のポケモンでまともに戦えそうなのは・・・」

 

脇からボルカがノンに問いかける。

彼自身が炎属性だからよく分かるのであろう、

足場の無い、水中で戦わざるを得ない状況が絶望的であることを。

 

それを踏まえた上で、何か手段が無いのか?

と、含みを持たせて尋ねていた。

 

 

「・・・もう残っていないな。

 コイキングのベルノでは、水中で動けても

 あのスターミーには太刀打ち出来ない。」

 

「そう・・・か。無念だ・・・」

 

ボルカは目を瞑りながら呟く。

 

「ピコくん、あんなに頑張ったのに・・・」

 

「スゥさんも流石に呆然としてますね・・・」

 

アクアとツムジも、打つ手無しの状況に残念そうな表情。

 

「・・・まあ、確かによく頑張ったな。

 今夜は何かメシでも奢ってやるか。

 スターミーの戦法も少しは見れた事だしな。」

 

そんな敗北ムードの中、サイはじっとガラス越しのスゥを見ていた。

 

「・・・フォゥ・・・」

 

___________________________________

 

 

 

スゥは最悪のコンディションになったフィールドを見て思う。

 

(もう、足場も無い・・・。

 さすがに今度は、ピコを空中に飛ばせるようなスキは貰えないだろうな・・・

 それに水中じゃピコどころか、ファルナもメルティも・・・

 ・・・と、なると後は・・・)

 

 

彼は腕のホルダーに装着しているボールを一つ取り出して、じっと見つめる。

そう、『ベルノ』が格納されているボールである。

 

 

「ベルノ・・・」

 

 

スゥは小さく、ボールを見ながら呟いた。

 

 

すると、素っ頓狂な程の明るく、大きな声がボールの中から響く。

 

 

「おっ?なんじゃ家来よ!!

 いよいよ我の出番か!?

 随分苦戦しておるようじゃからな。

 ついに我の力に頼ろうというのじゃな!!

 何といっても我は『最強』じゃからな!!わははははは!!」

 

 

「ベルノ・・・お前・・・!」

 

 

ぽかん・・・と、スゥは呆気に取られた。

相変わらずの尊大なベルノの態度。

彼はこの状況に、全く物怖じしていない。

 

相手との力量差が分かっていないからなのか、又は余程自信があるのか・・・

恐らく前者だろうが、ベルノの明るさがこの場ではスゥに元気を与えていた。

 

彼はベルノに笑顔を向けて尋ねる。

 

 

 

「ベルノ、相手は本当に強いよ。

 一緒に戦ってくれるか?」

 

 

「ふむ、やぶさかではないぞ!!」

 

 

 

威勢の良い返事。

それを聞き、スゥはカスミに高らかに伝える。

 

「カスミ!

 こっちはまだ、諦めていない!!」

 

その言葉に、彼女は不適な笑みを浮かべて返す。

 

「あら、そう?

 それじゃあ遠慮なく・・・」

 

そう言って、カスミはピコへの攻撃の指示を出そうとするが・・・

 

 

「戻れ、ピコ!!」

 

「んにっ!?」

 

 

それよりも先に、スゥはピコを引っ込めた。

突然戻された事に驚くピコ。

 

「スゥにぃ、何で!?

 諦めちゃったの!?」

 

「諦めてなんか無いよ。

 スターミーに決定打を与えられるのはお前だけだ。

 何とかもう一度、ベルノとそのチャンスを作る!!」

 

「スゥにぃ・・・

 だけど、ベルノは・・・!」

 

攻撃手段なんか無い。

フィールドに出たところで、戦う事は出来ない。

そうピコは言いたかったのだろうが、

ベルノが彼の言葉に被せて伝える。

 

「なんじゃ家来よ!

 お主の出番が無くなる心配をしておるのか?

 まあそれも仕方ない、我が軽くあのスターミーを捻るんじゃからな!!

 諦めるのじゃ!

 わははははは!!」

 

「んにぃ・・・そ、そうじゃなくてさあ・・・」

 

ダメだ、分かってない・・・と、ピコはボールの中で

耳をペタンと寝かせて呟いた。

 

そんな彼の気持ちをスッキリさせてやるよう、

スゥはピコに伝える。

 

「ピコ。言いたい事は分かってる。

 だけど、ベルノがこんなに力になってくれようとしてるんだ。

 それを無視して負けを認めるなんて、俺には出来ない!!」

 

スゥの真剣な目を見て、ピコはスゥが投げやりになったのでは無いと納得した。

そして、ピコはベルノに伝える。

 

「スゥにぃ・・・分かった!

 ベルノ!頑張ってーーっ!!」

 

「無論じゃ!

 我の優雅な戦法、とくと見ておれ!!」

 

意気揚々と答えるベルノ。

そして、アナウンスが催促するように放送をかける。

 

 

『挑戦者、ピカチュウを引っ込めた!!

 さすがに足場無しでは、打つ手無しとの判断か!?

 次はどのポケモンを繰り出すのかーッ!?』

 

 

 

「次は・・・この子だ!

 いけっ、ベルノ!!」

 

 

スゥはモンスターボールを水面に向け、光を放つ。

水中で光が像を結び、ベルノの姿が現れた。

 

そして彼は水面から高く跳ね上がり、自身を鼓舞する。

 

 

「ほおーっ!!

 我、参上じゃ!!

 覚悟せい、スターミー!!」

 

 

『お、おおーっと挑戦者!?

 まさかのまさかだ!

 ジムリーダーのスターミーを相手に、『コイキング』を繰り出したァーっ!!

 しかしこれは・・・

 ・・・いや、分からない!!

 この挑戦者は何をしてくるか分からないぞーッ!!

 何か考え有ってのコイキングか!?』

 

 

 

水面から跳ねて、誇らしげに身を反らすベルノを見たカスミは驚愕した。

 

「ちょっ・・・アンタ、それマジで言ってるの・・・!?」

 

相手は全快コンディションのスターミー。

手持ち4体を残したままだが、スゥにとって限りなく敗北に近い現況。

ついに彼はベルノの力に頼る事となった。

 

「・・・ああ、大マジだよ!

 やってやろう、ベルノ!!」

 

「うむ、我に任せておけ!!」

 


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